②-08-25
②-08-25
「それでしょげ返っていると」
「はい」
俺は部屋の隅・・・ではなくベッドの上で体育座りしていた。
装備やパッグなどの荷物を置いたら足の踏み場もないほど狭いのだ。
「っていうか2日で3つもスキル習得したことに驚きですけどね。そのうち1つはLv2にして」
「いや~、僕としてもまさかだよ」
「ふ~ん。それで、これからどうするんですか?」
「服が透けて見える魔眼スキルや、透明人間になるスキルで風呂場を覗くという夢は諦めました」
「そんな夢持ってたんかーい!・・・まぁそれは結果的に良かったんじゃないですかね」
「これからは《殺菌》で風呂屋をやろうかなと」
「諦めてねーし!」
「にしてもスキルって消せるんですね」
「ね。何百万って掛かるらしいけど」
「人生で1回だけか。ま~何百万払えるんならそのお金で引退してのんびり優雅な異世界生活で幸せをつかみますけどね」
「そーだよなー。冒険者になった意味は無くなるよなー」
「どーすんです?スキル」
「勿論Lvは上げていくよ!折角取ったんだしね」
「元気ですね。切替速いな」
「どうしようもない事に悩んでいても時間の無駄だよ。それより有意義に時間を使うべきだ」
「じゃぁ、今まで通りにハンティング?」
「Happy hunting」
南の森に来ていた。
またルーティーンを開始する。
勿論《魔力感知》はonにしてある。
「その前にちょっと実験をしたいんだよね」
「またですか?」
「えぇ、またです」
「今度は何です?」
「ゴブリンってさ、武器持ってるやつとかいるじゃん」
「あぁ、いますね。棍棒とかショートソードとか。剣は殺した冒険者とかから奪ってるらしいですね。以前持って帰って武器屋に売ったら店主さんが言ってましたよ。剣は安かったですけどね」
「攻撃を受ける練習をしようと思ってる」
「!」
「対人戦闘の練習にと思って」
「いつも対人戦を考えてますよね」
「1番怖いのは人間だよ」
「真理ですな」
「それに・・・守るって決めたからな」
「・・・えっ?」
「もうスキルも8個取っちまったし、俺は戦闘特化で行く。君は好きなように生きろ」
「えっ?ちょっと先輩?」
「ゴーブリーンやーい!」
「先輩!ちょっとー!」
いつも通り3匹のゴブリンが現れた。2匹は殺して最後の奴で練習をする。
命を懸けた練習だ。
相手は御誂え向き棍棒を右手に持ってる。
ゴブリンとは何度も対戦した。
直接戦うのは少なかったがそれでも動きは段々慣れてきていた。
それで今回の練習をしようと思ったのだ。
彼は棍棒を振りかぶる。
振りかぶるのが分かれば避けるのは簡単だった。
俺は右に飛び退き避ける。
振り下ろし後の薙ぎ払いをさせないためだ。
彼はまたこちらに向き直って振りかぶってくる。
今度は左に避ける。
一応薙ぎ払いを警戒するが振り下ろしたままで素振りはみせない。
人間だったらやってくるだろう・・・多分。
それを繰り返し彼は体力的に、俺は精神的に疲れたので止めを刺して少し休憩をした。
「どうですか?」
「うん。動きが見えるね」
「大丈夫ですか?」
「うん。これを繰り返して恐怖に慣れたいね」
「慣れます?」
「人間は適応に優れた動物なんだよ」
「無理はしないでくださいね」
「勿論だ。君は周りを警戒しておいてくれ」
「分かりました」
「プハッ。しかし水は荷物として重いね」
「ですねー。1日の戦闘でこれですから。旅になるとどうなる事やら」
「《頑健》さん頼みかな」
「《頑健》君ですか。私もそろそろLv上がらないかな」
「まぁ、まだこの世界に来て5か月経ってないんだから」
「そうなんですけどね」
その後また3匹のグループに出会ったので同じように練習した後魔犬や魔虫を狩っていった。
それを繰り返すこと数日。
ゴブリンの動きから先読みも出来るようになっていた。
「なるほど、重心の掛け方だな」
ゴブリンは小さいから分かりづらいが棍棒や剣などの重いもので攻撃する時は腕の動きよりも重心移動が先に来ているようだ。
それを察知することで先読み・・・どんな攻撃が来るか読めるようになっていた。
「しかしこいつら生殖器官が無いのな」
「ちょっと!セクハラですよ!」
「ただの生物学的好奇心だよ。オスでも、ましてやメスでもない。何にも付いてない」
「そ、そうですね。腰布とかしてませんから丸出しだったんで気にしてませんでしたけど、そもそも何にも出してなかったんですね」
「どうやって増えるんだろ?」
「そういえば・・・そうですね。ホントどうやって増えるんだろ」
「何かから産まれるのは確かなんだろうが・・・」
「単に発生するとか・・・?」
「魔力が濃い所からとか?魔法の世界だけに無いとは言えないなぁ」
「菊池君」
「はい」
「解体して子宮や精巣がないか確かめてみないか?」
「全力でお断りさせて頂きます」
「そ、そうか・・・仕方ない。俺がやるか」
「やるんかい!」
「いや、解体スキル持ってる君がやる方がキレイに捌けると思って」
「好きで取った訳じゃないですけどね」
「そういうのも人生よ。じゃぁ、ちょっと離れてな、警戒しといてくれ」
「あ、やりますよ、私」
「構わないよ。俺の好奇心だ」
「でもその好奇心で《魔力感知》っていう便利スキル取れたんだし」
「いいからいいから」
解体ナイフで腹を割いていく。
うぅ、胸とは全然違ってこれはまた・・・オエッ。
「胃や腸などの消化器官は人間とあまり変わらないっぽいな。ただ股間には何もない」
「オエェ、ホントですね」
口に布を当てて菊池君もがんばって覗いている。
「少なくとも急所蹴りは効きそうにないな」
「お腹の中こーなってんだぁ」
「よし、もういいだろう。離れよう」
「はい、よろこんでー!」
居酒屋の店員のような返事で足早に駆けていく。
少し無理をさせてしまったようだ。
臭いは精神的にくるからな。
今日はカバーに気をつけよう。
「あいつらは食料調達グループだと思うんだよね」
解体現場から結構離れて考えていた。
「3~4匹しかいませんもんね」
「あぁ。グループに分かれるってことは何処かに合流地点が有るわけだ」
「巣、ってことですか?」
「あぁ。移動しながら生活するにしても拠点はあるだろうし」
「付いていけたら見つかりそうですね」
「《魔力感知》のLv上げたら範囲広がらないかなぁ」
「そんな気はしますけどね」
「ちょっと魔力限界まで《魔力感知》onにしとこう」
「街中でもですか?」
「あぁ。毎日寝る前に《魔力検知》と《魔力操作》の練習もしてるんだがその時はoffってるからな」
「マメですねー」
「折角取ったんだ、限界まで上げてやる!」
「おめぇらまだランクアップしてねーじゃねーか!」
「「えへへへ・・・」」
「早くしろってんだっ!」
「「どもー!」」
素材を納品して宿に帰る。
今日の夕飯なんだろな。
「今日は鍋だよー」
日本のいわゆる鍋とは違う煮込み料理のようだ。
「うまいな」
「最近はもう塩っ気がないのも慣れましたしね」
「どうだ。なかなかだろう」
「えぇ秋も深まって丁度いい料理ですね」
「そうだろう。ただこれにマイタケが入りゃー絶品よ!」
「マイタケ?」
「おぉ!ただ高いんだよな。うまいし、毒が有るけど」
「毒?毒が有るのに食べられるんですか?」
「毒が有るのは毒袋だけだから、大丈夫だよ」
「毒袋って生き物みたいですね」
「何言ってんだ、モンスター、魔物だよ」
「ブフーっ!!」




