⑨-58-247
⑨-58-247
その日は村で1泊した。
翌朝早く村を出てしばらく行くと。
「あれ!?あれ何だ!?」
「何かの荷物らしいけど!?」
「こっからだと分からないねぇ」
「行って見ます?」
「あぁ。行って見よう」
「僕達が乗ってた馬車の残骸か・・・」
「魔物に襲われたのかしら・・・」
「あちこちに散らばっているな」
「ふーむ」
「魔物が街道に出て来たのかしら?」
「ヘタレとはいえプレートメイルの4人よ。それが・・・」
「ここは曲がり角だな」
「マルコ?」
「そうね。カーブになってるわね」
「馬車を見てくれ。馬と馬車を繋ぐハーネスがなくなってるな」
「あぁ。そうだな」
「魔物に襲われて?」
「いや。馬車に血痕は無い。馬側の装身具にも無い」
「どういう事だ?魔物じゃないのか?」
「轍を見てくれ。恐らく曲がり切れずに横転したんだろう」
『!?』
「あの馬車は僕が改造して乗り心地を良くした」
「そうか!それで気を良くして速度を上げた!?」
「なるほど!しかし4人だった為に軽くて曲がる時に横転したと」
「ブレーキも無いしな」
「そうすると馬は」
「ハーネスが外れたか、外して装備を運ばせたか」
「どうする?」
「もし馬車に乗ってて吹っ飛ばされたら・・・あの方向かな」
「何か有るかもしれん。探してみるか」
「あぁ。そうしよう」
全員で手分けして付近の草むらを探してみる。
しばらく捜索していると、
ピィーッ
ホイッスルが鳴った方に駆け出す。
「マル兄ぃー!」
「どしたー!」
「こっち来てぇー!」
「分かったぁー!」
マヌイの所に集合した。
「うーむ」
「このプレートメイルは・・・あのなんちゃって騎士だな」
「そうね」
「3月だけどこの辺まだ寒いからな。魔幼虫はまだだろう」
「じゃぁ、魔犬か」
「猪か。どっちにしろ骨だけじゃなくまだ人間の形ね」
「カードと装備を回収しよう」
「分かりました」
「しかし収納袋まだ入るかね?」
「いえ。もう直ぐ・・・」
「だよねぇ。魔虫100匹以上居るしねぇ」
「良く入ったわね」
「解体してるとは言え、収納袋様様だな」
「バイヨ達は討伐後に納品するんだろ?」
「あぁ、そうだ」
「金になるのか?」
「いや。込みの料金だ」
「なるほど。じゃぁ虫は僕達に全部くれ」
「うん?」
「証明部位だけで手一杯だった。それで良いだろう?」
「確かに馬車も奪われた訳だしな。構わんよ」
「僕等が然るべき所に売却する。それを折半しよう」
「えっ!?いやしかし・・・」
「そうよ。売却してくれるのは助かるけど」
「そうね。あなた達の取り分を多くしてくれないと」
「僕等だけじゃ達成は出来なかった。2パーティで山分けだ」
「いやしかし」
「テントとか失くしたんだろ。受け取っておけ」
「うーん」
「よーし。契約書の契約料だ。持ってけドロボー」
「受け取っておきなさいよ。何言われるか分かんないわよ?」
「・・・すまんな」
「スタミナポーション返せよ」
「ふっ、分かった」
「ありがと」
「助かるわ」
「よーし。馬車の改造部品も回収して帰るぞ」
『おー!』
それから2日後の夕方、無事ムルキアに着いた。
ムルキアの街壁が見えた位から100匹以上の証明部位を収納袋から取りだしてみんなで手分けして担いでいる。
テントなんかの嵩張る物は収納袋に入れているとはいえ、かなり重い。
門衛が仰天していた。
「どうする?報告は明日にするか?今日はゆっくりして」
「宿まで持って行って更に明日宿から持って行くのはちょっと・・・な」
「そうだな。このままギルドに行くか」
「そうしよう」
全員でギルド本館へ入った。
「マッ、マルコさん!?バイヨさんも!?」
「た、只今戻りました」
「な、亡くなったと・・・」
「その事も含めて報告したいので・・・」
「わっ、分かりました!お部屋に案内します!」
「よろしくお願いします」
階段を上るすらりと伸びた黒い足が疲労感を癒し充足感を増やす。
「マスターを呼んで来るから待っててね!」
『はーい』
やがてスティーゲンが部屋に入って来る。
「生きていたのか、マルコ君!?」
「マルコさん!って、起きてー!」
『ふがっ』
「それじゃぁ報告を聞こうか」
「はい。結論から言いますと、原因は魔虫に寄生するキノコでした」
「キノコ!?」
「はい。キノコに寄生された魔虫は集団行動を取るようになり、一帯の動物を狩っていたようです」
「な、何!?魔虫が集団行動を!?」
「はい。それで冒険者等も行方不明になったものと思われます」
「しょ、証拠!?証拠は有るのかね!?」
「勿論です。その前に魔虫相手の僕の活躍を30分に纏めてお話ししましょう」
「それは結構だ」
「ルーラ君!お願い!」
「はい」
サーヤ君がテーブルに魔虫の頭を置いた。
「おぉ。これはただの魔虫だが」
「そうですね」
「頭を開きますね」
「「えぇ?・・・」」
パカッ
「なっ、何だこれは!?」
「えぇ!?虫ってこんなに脳が大きかったの!?」
「これが寄生キノコです」
「むぅ・・・確かに・・・」
「うえぇ・・・言われてみれば・・・」
「これが集団行動を!?」
「そうです」
「どのくらい居たのかね!?」
「凡そ100匹以上」
「「ひゃ、100匹以上!?」
「じゃ、じゃぁその荷物は・・・?」
「はい。証明部位です」
「な、何たる事だ」
「良ければ納品館まで運んでいただけませんかね。流石に疲れて・・・」
「む、分かった。君!」
「は、はい!」
黒人の受付嬢が出て行き数人の職員を連れて戻って来た。
「すいません。バッグは渡せませんので部位だけ持って行ってください」
「あぁ、構わんよ。君達、頼んだ」
『はい』
「あっ!そうだ」
「どうしたのかね」
「大ヤスデの部位も有るんで気を付けてくださいね」
『なっ、何だってー!?』
「上位種の大ヤスデも居たのかね!?」
「はい。大変でしたよ」
「そ、そうだろうな。ガスは大丈夫だったのかね?」
「えぇ。僕達は」
「僕達は?」
「とりあえず納品を・・・」
「む、分かった。頼んだよ」
『はい』
職員は証明部位だけ持って行ってくれた。
黒人受付嬢がスティーゲンの隣に腰を下ろす。
「ふぅ、とんだ事になった」
「は、はい」
「マルコ君、バイヨ君」
「「はい」」
「恐らく新種のキノコだ」
「新種」
「あぁ。これは人間には・・・」
「いえ。人間への寄生は無いと思われます」
「根拠は?」
「行方不明になった村民、冒険者。その者達は襲って来ていません。全て魔虫だけでした」
「なるほど」
「寄生キノコの巣らしきものが有り「何だと!?」そこに大きな繭が有りました」
「繭!?」
「その周りに仮死状態の魔虫を多数発見しました」
「ふーむ。その巣から魔虫に寄生していくと」
「恐らく」
「繭の役割は?」
「確証は有りませんが」
「構わん」
「コロニーを作る役割のキノコを産んでいたのだと思われます」
「な、何!?」
「巣がまだ有るって言うの!?」
「いや、繭の中のキノコはまだ育ちきっていないようでした」
「寄生するキノコとは別に巣を作るキノコだと・・・」
「確証は有りませんが」
「冬だから餌・・・栄養が足りていなかったか」
「その巣の周りに村民や冒険者の遺品が落ちていて回収してあります」
「何と!見せて貰えるかね!?」
「勿論です。その前に僕の大ヤス「結構だ」ルーラ君!出しちゃって!」
「はい」
テーブルにギルドカードを置いた。
「君!照会を!」
「は、はい!」
受付嬢が出て行き書類を持って帰って来た。
書類とカードを照会する。
「間違いありません!依頼を受けた冒険者です。これに載っていないのは最寄りの街で依頼を受けた冒険者でしょう」
「そうか。ではそれはまた今度照会しよう」
「はい」
「では人間はただの養分でしかなかった、という事だな?」
「恐らく」




