⑨-57-246
⑨-57-246
僕達は全員で炎を見つめていた。
菌糸と菌糸の繭が紡ぎだす炎を。
「終わったかな・・・」
「周りには居ないだろうか」
「群れるのであればここに居ただろうしな」
「1匹も居なかったな」
「これで全部だった訳か」
「・・・帰るか」
「そうね」
「うん」
「はい」
「しかしもう直ぐ日が暮れるぞ」
「・・・ここで泊まるか」
『それは嫌ぁ~!』
女性陣の熱い反対によりコロニーから離れた位置で野営する。
燃やす前に仮死状態の魔虫達にトドメを刺し素材と魔石は回収していた。
ようやく終わった。
そんな気持ちだがコロニーの近くだからか、みんなまだ緊張が解けていないようだ。
食事で気持ちを高めるか。
「ちょ、何を鍋に入れようとしてるの?」
「あぁ。冬虫夏草を、って!ちょ、待てって!放せ!」
「絶対入れさせないわよ!」
「漢方薬だったんだぞ!」
「うるせぇ!アヤ!」
「入れさせないよ!」
「ちょ、美味いかもしれないだろ!マイタケを思い出せ!」
「マイタケは歴史が有るから食べられるのよ!これが食べられるか分かんないでしょ!」
「誰も食べた事のない物を食べられるんだぞ!」
「それで死にたくないって言ってんでしょ!ルーラ!」
「ちょ、ルーラ君はずるいってぇ!」
「これは駄目です!マルコさん!」
「魔力枷持ってきなさい!」
その様子をケセラとバイヨ達が見守っていた。
「賑やかだな」
「セレナ、いつもこんな調子?」
「いや、まぁ、そうだな」
「依頼が終わったって言うのにねぇ」
「終わったからこそ・・・か」
「まだよ。ムルキアに帰るまでが依頼よ」
「ティアはいつも固いねぇ」
「当たり前でしょ!折角ここまで来たんだから最後まで気を抜いちゃ駄目よ」
「それにしても・・・」
「うん?」
「アヤ・・・2属性持ちだったのね」
「・・・」
「それにいつも帽子被ってるでしょ」
「あぁ」
「あの子豚族ね」
「「えっ!」」
「獣人同士だからね。分かるのよ」
「豚族で2属性持ちか。そりゃ秘密の契約になるわね」
「そうだな」
「安心して。契約するまでも無く約束は守るわ」
「あぁ。安心してくれ」
「あぁ。頼む」
「固いと言えば・・・セラナ」
「うん?」
「軍に居たって?」
「あ、あぁ」
「何故抜けたか聞いても構わないかい?」
「・・・あぁ。信じられなくなってね」
「何を?」
「同僚がね」
「・・・」
「あなた綺麗だもんね」
「胸も大きいし」
「まぁ、な」
「エルフだしね。目立つ訳だ」
「それで冒険者を?」
「・・・あぁ。最初は不本意だったが」
「だったが?」
「今は・・・満足している」
「へぇ?」
「冒険者という職自体が胡散臭く思っていたのだが・・・」
「間違っちゃぁいないよ」
「そうね。あの騎士崩れを見ればね」
「スティーゲンさんも言ってたけど、碌でもない奴らが多いしね」
「そうだな。しかし・・・」
「メンバーに恵まれたって訳かい」
「あぁ」
「家族って言ってたけどホントの家族じゃぁないんだろ?」
「あぁ。みんな。全員1人身だって言ってた」
「・・・そう」
「冒険者は命を懸けているって言ってる者が多いが」
「あぁ」
「そうね」
「えぇ」
「言ってるだけで実際その場面に出くわしたらそいつらは果たして命を懸けるのだろうか」
「言ってる奴ぁ、先ず懸けないね」
「口だけね」
「最初に逃げるわよ」
「軍では秩序、規律が求められる」
「だろうねぇ」
「冒険者は・・・自由。良く言えばな。混沌混乱、玉石混交。だからこそ。軍では虐めやハブりが横行するが、そういった枠にハマらない者達だからこそ冒険者として人々の役に立っている」
「マルコにゃぁ軍は無理だね」
「無理ね」
「だね」
「でも」
「でも?」
「もし部隊を率いるってんなら、付いて行ってもいいさね」
「・・・そうね」
「そうね」
「金の為に冒険者をやっていると言っていた」
「マルコらしいね」
「軍ではそういった考えは軽蔑されていたよ」
「だろうね」
「しかしそう言った奴が、汚い人間だった」
「ふーん」
「結局は中身って事じゃないの?」
「そうだな」
「でも、分かんないじゃん?中身なんて」
「結果よ結果!口だけの奴なのか、結果を伴う奴なのか」
「ふふっ」
「なに?」
「いや、そういう事なら、あの騎士崩れは崩れでもなく冒険者でもないなと」
「よくCランクになれたわね」
「装備のお陰よ。討伐だけしてれば良かったんじゃない?」
「じじい位だったしね、剣振れてたの」
「ふふっ。結果か」
その晩、寝る前に4人用テントで5人で話し合っていた。
「そう言えばなんだけど」
「なに?」
「サーヤ君」
「は、はい」
「バリスタ2発目ってさぁ、誰が手伝ったの?」
「あ、私じゃないわ。虫撃ってた」
「あたしでもないよ。虫撃ってた」
「えっ!?マヌイも!?じゃぁ誰が・・・」
「あ、あの・・・」
「正直に言ってごらん。おじさん怒らないから」
「別に疚しい事なんてないわよ!ねぇ?」
「あ、は、はい。実は・・・」
『実は?』
「2発目を装填する前に《身体強化》を習得しまして・・・」
『な、なんだってー!?』
「装填前に?」
「は、はい」
「どうやって!?」
「あ、あの。ミキさんもマヌイも、ケセラは勿論無理で。私1人で何とかしなくちゃって思ったら・・・」
「習得出来たと」
「はい・・・」
「凄いじゃないかっ!」
「は、はい!」
「凄いわね!」
「サーヤ姉ぇ凄い!」
「凄いな!」
「えへへ・・・」
「普段の君の努力がイザという時に実った訳だ」
「そ、そんな」
「帰ったら祝杯だな。依頼も完遂したし」
「そうね!」
「うん!美味しい物食べようよ!」
「良いな!」
「こりゃ安心して負ぶってもらえるな」
『そこは気を付けようよ』
僕等は急いで村に戻った。
往きは慣れない土地でしかも正体不明の相手だったのでソロソロと進んでいたが、帰りは結構なペースで戻った。
やはり依頼が終わったので少し浮ついていたのも有ったのかもしれない。
それが村に着いて落胆の崖に突き落とされる。
「えぇ!?馬車を乗って行かれた!?」
「すいません・・・止めたんですが・・・」
「あの騎士崩れにですか!?」
「はい・・・」
「何て奴らだ!」
「ブッ殺す!」
「あいつ等は何て言ってたんですか!?」
「あ、あの・・・」
「構いません。遠慮せずに」
「は、はい。連れの奴らは虫達に食われたと・・・だからムルキアに報告の為に自分達が馬車を使うのだと。死んだ奴らの馬車なんだから構わないと」
「あんにゃろ!」
「くっそ!どうする!マルコ!」
「最寄りの街までは?」
「1日です」
「その街からムルキアまでは?」
「馬で3日です」
『歩きか・・・』
「仕方ないな。歩くか」
「だな・・・」
「あ、あの・・・」
「あ、あぁ。依頼は完了しました。恐らくもう大丈夫でしょう」
「ホ、ホントですか!?」
「えぇ。ルーラ君。一部を出してくれ」
「はい」
バッグから魔虫の証明部位を出す。
「おぉ!あの騎士様の言う事は本当だったのですね!」
「えぇ。ただあの騎士は虫達と戦っていた時に逃げたのですよ」
「何ですって!?」
「僕達が村の為に戦えと言ったら、あんな小さな村の為に命を懸けられるかと捨て台詞を吐いて僕達を置いて逃げ出したのです」
「な、何ですって!?」
「ご覧の通り、僕達は最初にお会いした時と同じ人数でしょう?」
「そ、そうですな」
「彼らは何人でした?」
「4人でした!最初は8人だったのに!」
「僕等は村の為に逃げずに戦った。だから人数も減らずにみんなで協力して依頼をこなしたのです。しかし彼らは敵に背を向けて逃げ出し・・・」
「追撃されて討たれた・・・何と騎士の風上にも置けない連中だ!」
「あ、彼らは騎士じゃ無いんですよ。3男らしいです」
「威を借る3男坊ですかっ!」
「ムルキアの飲み屋ではツケが溜まってどこもお断りだそうですよ」
「むぐぐ・・・」
「僕等はここに馬車で来ましたが彼らは・・・」
「歩きでしたね!」
「借りられないんですよ。金が無いから」
「それではあなた達を見捨ててあなた達の馬車に乗って帰ったと!」
「えぇ。僕達は村の為に森の奥へ向かって行った頃、彼らはムルキアに僕等の馬車で帰って行ったのですね」
「何たる腑抜けだ!」
「僕等は魔虫を駆除しました。その数100匹を超えます」
「なっ、何ですと!?」
「ルーラ君、魔石を」
「はい」
サーヤが収納袋が入ったバッグから魔石に入った袋を取りだす。
「おぉ!こっ、これほどの数の魔石を!」
「はい。全部魔虫です」
「ではもう?・・・」
「えぇ。恐らく大丈夫でしょう」
「おぉ!ありがとうございます!」
「ついでと言っては何ですが、これを・・・」
「これは?」
「森の中で行方不明の冒険者の装備を見付けたんですがその近くに落ちていた服と装身具です」
「あぁ!ではこれは私達の!?」
「恐らく村の方の遺品だと思われます」
「おぉ!何とお礼を言えばよいのか!」
「それでお願いが有るのですが」
「何でしょう。私らに出来る事ならばなんなりと」
「ムルキア冒険者ギルド長宛てに手紙を書いていただけませんか。馬車を勝手に乗って行ったのは騎士崩れだったと。依頼を放棄して帰ったと」
「御安い御用です!書きましょうとも!えぇ書きますよ!」
「よろしくお願いします」
「・・・私大丈夫かしら。私の居ない所で有る事無い事吹聴されるんじゃないかな」
『・・・』




