⑨-55-244
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ギチギチギチ
ガチガチガチ
俺を見付けた魔虫たちが一瞬動きを止めたかと思うと猛ダッシュで走って来る。
全くの無表情、
全くの無感情、
完全な無機質。
ただ殺して食らう機械。
巨大な虫達はその外観もあってそう思わせるに十分だった。
その虫達は何故に栄養分が自らノコノコとやって来たのか考えない。
食い、生殖する。
ただそれだけの存在。
寄生菌に乗っ取られてもやる事は同じだった。
ギチ・・・
ガチ・・・
カズヒコは来た道を走って戻ったがある程度の所で止まる。
カズヒコに襲い掛かった虫達は《殺菌》の射程範囲に飛び込んで痙攣を始めた。
「掛かったぞ!」
「まだだ!攻撃はまだだ!」
「どんどん向かって来るわ!波のよう!」
前に居る虫達が痙攣して止まろうがお構いなく後続の虫達が雪崩れ込む。
《殺菌》の射程は5m。
しかし虫の全長は2m。
押し寄せる波が積もり積もって溢れそうになる。
新たな波が飛び込んで古い波を前へと押しやる。
「今だ!」
「合図だ!」
「撃て!」
シュシュシュシュッ
4人の射手から放たれた矢が虫の頭部に突き刺さる。
《殺菌》で弱っていた所にトドメを刺された者も居れば、
矢で弱っていた所に《殺菌》で死ぬ者も居た。
虫の脳より寄生菌の方が遥かに大きい。
つまり頭を狙えば寄生菌も死ぬ。
しかし虫の死体が射程範囲の前面を埋める程に増えていき、
後から来る虫の為にスペースを開ける必要性から《殺菌》したままカズヒコは後退を余儀なくされる。
それはカズヒコと彼女達との距離が縮まるという事であり、
必然的に虫達に彼女達の存在が知られる事でもあった。
虫達はカズヒコの脇を抜けて彼女達に向かおうとする。
しかし《殺菌》の半径5mはかなりの広さ。
カズヒコの両脇は虫達に埋められ、
必然的に溢れた虫達が彼女達に襲い掛かるが、
ビイイィィン
《隠蔽》された多数の《罠》が虫の脚を止める。
「うらぁ!」
「おう!」
ケセラとバイヨがそれぞれ左右に飛び出し虫の頭部に斬撃を叩き込む。
カズヒコの両脇を抜け出て行くのは《殺菌》の広範囲もあって僅かだ。
彼女達だけで対処可能な数であった。
「《マイティストライク》!」
バイヨの武技が甲虫の頭部を殻もろともブッた斬った。
「《エアロエッジ》!」
マヌイの魔法がカマキリの首を落とす。
「《ビーコンダーツ》!」
エマの矢が甲虫の頭部に突き刺さる。
「《チェイシングアロー》!」
続けて一度に3本を番えて放たれた矢は、
そのままでは刺さるはずのなかった軌道を急激に曲げて、
先程刺さった矢の周りに突き刺さっていった。
あらかじめカズヒコと話し合ったのは、
オーバーキルでもいいから兎に角数を減らす事。
それも《殺菌》の射程外から彼女達に近づく虫を。
バシュッ
虫の頭部が風魔法で飛んだ。
恐らくマヌイが放ったと思われただろう。
「くぅ!私にも武技が有れば・・・」
「セラナ!来てるよ!」
「任せろ!うらぁ!」
虫の突進をセラナ自身も突進して盾を相手の頭にぶつける。
キノコに脳に寄生されている魔虫は《盾術》も乗った衝撃に少しフラついた。
その隙に頭部に矢が刺さっていく。
更に動きが鈍った隙を突いてケセラがマチェーテでトドメを刺した。
「《バインド》!」
「せりゃぁ!」
「《ビーコンダーツ》!」
カズヒコの右側を抜ける虫はティアの《バインド》で足止めされ、
バイヨとエマの2人の攻撃で凌げていた。
カズヒコの左側を抜ける虫はケセラがターゲットを取り、
ミキ、マヌイの弓と魔法、
加えてサーヤの弓で凌げている。
そこに、
「ルーラ!来るぞぉ!」
「はい!」
ズガァァァン!
木を薙ぎ倒して大ヤスデが現れた。
サーヤが走ってバリスタまで戻ると照準を大ヤスデに合わせる。
大ヤスデは地面に沿ってうねるようにカズヒコに向かって行く。
大ヤスデを見ながらカズヒコは少し焦っていた。
早い。
もう少し出て来るのが遅ければ良かったんだが・・・
前面の大群がまだ虫の息だ。
なるべくなら大ヤスデが出てくる前に仕留めきりたかったが・・・
虫の壁で大ヤスデも見えん。
俺は視えるが、これだと奴は俺を見えんだろう。
どうする?
脇を抜けて来るのか、
壁を越えて来るのか。
どう来る?
ドドドオオォォ
予想外に前の壁を吹っ飛ばして大ヤスデが姿を現した。
「うっは!」
虫をぶつけられ後ろに転がる。
大ヤスデはその隙を食らおうと襲い掛かるが、
ギチギチギチッ
《殺菌》の範囲に入って苦しんだのか鎌首をもたげた。
その瞬間、
ドシュッ
鉄槍が腹面に突き刺さるが頭部ではなかった。
「くそっ!」
サーヤが吐き捨てる。
「慌てるな!」
「は、はい!」
「練習通りにやればいい!」
「はい!」
しかしバリスタの装填には2人必要だ。
しかしミキ、マヌイは左から来る虫達に忙殺されている。
「1人じゃ・・・1人じゃ・・・」
サーヤは焦って1人で装填用のハンドルを回そうとするが重くて回せない。
大ヤスデは頭部を着地しようとしたがかえって鉄槍が深る刺さる結果となった。
体液が周りに溢れる。
大ヤスデは再び鎌首をもたげようとする。
「させるか!」
俺は大ヤスデの下に走る。
《殺菌》の射程に入って藻掻きだす大ヤスデ。
しかし渾身でその長い体を振り体当たりをかまそうとするが危うく避ける事が出来た。
「カズヒコ様が・・・カズヒコ様がぁぁぁ・・・」
「もっと!もっと力をぉぉぉ・・・」
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《身体強化》を習得しますか?
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「!?・・・する!」
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《身体強化》を習得しました
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「《身体強化》!」
「ううぅぅぅうああぁぁぁ!」
カチカチカチカチカチカチッ
「マルコさん!いけます!」
「よし!」
俺は下がって《殺菌》の範囲から大ヤスデを外す。
途端大ヤスデは頭部を立てようとする。
最後っ屁をかまして逃げるつもりかもしれない。
そこへ、
ドシュッ
口には刺さらなかったが頭部に命中した鉄槍は、
確実に大ヤスデの動きを鈍らせた。
「ナイスだ!ルーラ!」
「はい!」
俺は再び大ヤスデを《殺菌》の射程内に入れた。




