⑨-54-243
⑨-54-243
僕達は森を魔虫の小隊を探して歩いていた。
「・・・ふぅ」
「大丈夫?」
「おじさんには辛いよ」
「だから体は20代だって」
「心が追い付かない」
「左手は?」
「痛みが有る。しかし昨日程じゃぁない」
「治っていってるって事か」
「だと思う」
「回復魔法は痛みは無いのよね」
「あぁ。そうだったね」
「何でだろう?」
「何でだろう?流石専門魔法だから?」
「あるかもね」
「フリーエさんに会ったら聞いてみるか」
「ケセラが居るでしょ」
「そうだった」
「良い人だったけどね」
「マヌイなんだが」
「うん?」
「自分を責めているようだ」
「カズヒコの事で?」
「あぁ」
「うーん」
「フォローしてやってくれ」
「分かったわ」
「折角積極的になりかけてたのに、つまらん事で殻に籠らせたくない」
「虫相手だしね」
「つまらん冗談はよしてくれ」
「ウ・・・ソでしょ」
「さ、虫はどこだぁ~」
「あんたが振ったのに!」
「感有り!」
「ウソでしょ!?」
バイヨ「居たか。何匹だ?」
「4匹だ」
ミキ 「丁度良いわね」
ティア「そうね。失敗しても《バインド》で止められるわね」
「あぁ。じゃぁやるぞ」
『了解』
みんなには失敗した時の為の陣形を整えてもらって僕だけ前に出る。
「僕には決して近づかないでくれ。失敗したらそっちに走って戻るから」
バイヨ「分かった」
ケセラ「任せろ」
ティア「《バインド》の用意はしておくわ」
「頼んだ」
僕だけ突出した隊形で魔虫の下まで進んで行く。
近づいて行くとやがて魔虫も気付いたらしい、凄い勢いで走って来る。
「《殺菌》」
いつも通り《魔力感知》《魔力検知》《魔力操作》で相手の魔力を視ながら自分の手に魔力を集中している。
どうやら効いているようだ。
射程範囲に入った途端、動きが止まり痙攣しだした。
むぅ。
確かに頭に魔力が多いが、これが寄生菌のせいなのか魔虫の元々の魔力なのかは分からんな。
しかし主に頭部の魔力が乱れまくっているのはハッキリと分かる。
バイヨ「おぉ!効いているようだ!」
ティア「動きが止まったわね!」
エマ「上手くいったんじゃない!?」
バイヨ「どうする!?倒すか!?」
ミキ 「マルコ!どうするの!?」
「3匹倒してくれ!近づくなよ!」
ミキ 「分かったわ!3匹倒しましょう」
エマ 「分かった。弓ね」
ティア「一応の予備詠唱は維持しておくわね」
エマ 「お願い」
ミキ 「離れた位置から撃つのよ」
「「「了解」」」
ドスドスドスドスドスドス
4人が3匹に撃ち続けている。
頭部が針山の様になって次々と沈んでいく。
あっという間に残り1匹になった。
残りの1匹に魔力を集中していく。
しばらくすると魔力が消えていった。
「ふぅ・・・」
どうやら殺したようだ。
「終わったぞ!」
彼女らが駆けてくる。
「やったな!」
「倒せるとは!」
「いけるんじゃない!?」
「そう思うわ!」
「頭を開いてみよう」
『えぇ、またぁ?』
解体ナイフで頭を開いてキノコを解体する。
「有った!」
『何が!?』
「魔石だ」
「魔物だったか」
「でもマイタケより小さいわね」
「寄生菌だからだろう」
「でも何か損した気分なのは気のせい?」
「魔虫の身体はマイタケよりも大きいからな」
「でも虫1体から2つの魔石が取れるぞ」
「合計するとマイタケの魔石より高くなるから良いんじゃない?」
「そうね!」
「じゃぁ今までの魔虫の死体からも2つ取れたのね」
「そうだな」
「後でみんなで取りだしましょう」
「そうね!」
「ではこの作戦で行くのだな?」
「あぁ。ただ大ヤスデにはバリスタを出す」
「そうだな。確実にするにはそれが良いだろう」
「じゃぁ先日の足跡を辿って探すぞ」
『了解!』
結構時間を掛けて足跡を辿って行った所、
「むっ」
「居たか?」
「・・・あぁ」
「どうした」
「問題発生だ」
「どうした」
「先日の・・・倍は居る」
『!?』
「倍って・・・60匹!?」
「・・・あぁ。恐らく」
「倍・・・って」
「うーむ」
「無理だよぉ」
「アヤ・・・」
「マル兄ぃが無理する必要無いよぉ」
「アヤは手を引く、という意見だな?」
「うん」
「それは理由が有るのか?」
「理由?」
「単純に60匹は倒せないから無理なのか、漠然と怖いから言ってるだけなのか」
「・・・」
「前に言ったな、欲はコントロールだと」
「・・・うん」
「恐怖もまたコントロールだ」
「恐怖も?」
「勿論完全にコントロールは無理だ。だがある程度、諦めないというのはある程度恐怖をコントロールしないとただの蛮勇になってしまう」
「考え無しって事?」
「そうだ。リスクコントロールっていうのは勝負に出るか出ないかを考える事じゃぁない。勝負に出ている中での危険をコントロールする事だ」
「それは手を引く事も考えるって事?」
「勿論だ。勝負を降りるのもリスクコントロールの1つだ」
「じゃぁ」
「危険を全て避けて行く事は出来ない」
「・・・」
「上手く避けて行けても何時かは避けられない時が来る」
「それが今って事?」
「いや。危険を知らなければどう対処すれば良いのか分からないだろう?」
「・・・」
「回れ右をして全力で逃げる程なのか、攻撃を加えて危険度を減らせるのか」
「・・・うん」
「今、お前は逃げたいから逃げようとしているんじゃないのか」
「・・・」
「勿論、直感やその時の調子も有るだろうが、危険を知らずに逃げてばかりだと癖になるぞ」
「うん」
「危険を知る事、恐怖を知る事。それが自分を知る事にもなる。俺が教えることは出来ない、お前の中の事だからな」
「うん」
「俺に出来るのはリスクコントロールだ」
「分かった。今、私は少し混乱してて正常に判断出来ない。だから判断はマル兄ぃに任せる」
「他人に任せるのは危険だぞ」
「うん。マル兄ぃを信じてる。丸投げしてるって訳じゃないよ。マル兄ぃの判断が不幸な結果に終わったとしても文句は無いよ。今の私には無理なんだから」
「マル兄だからマル投げか。もうちょいだな、アヤ」
「もう!」
「みんなも、いいか?」
「家族だからね」
「はい」
「私は護衛だ。約束を全うする」
「バイヨ達はどうする?ここで引き上げても構わんぞ?」
「ふっ、冗談だろ。今のやり取りを見せといてそれは無いだろ」
「そうよ、卑怯だわ」
「ホントよ」
「まぁ、計算もあったな」
「怖い人」
「頼りにしてるって事さ」
「リスクコントロールってやつでしょ」
「安心してくれ。最悪の時は俺が囮になる。君等は全力で逃げろ。そん時はジーナ、そっちは任せた」
「分かったわ」
「バイヨ、そっちのパーティは任せたよ」
「任されよう」




