⑨-49-238
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「マルコ!」
駆け出した先はカマキリ。
奴も俺を照準にしたようだ。
危険なのはあの両手の鎌だ。
しかしその折り畳んだ長さ以上には伸びないだろう。
走り込んで射程に入った瞬間斜め前に飛ぶ。
ヘルメットに何かかすったようだ。
走りながら右手のマチェーテを斬り上げると首が飛んで行った。
カマキリの真後ろに居た甲虫は急に止まったカマキリにぶつかり体勢を崩す。
そこに走り込んで口にマチェーテを刺し込む。
更に左横から甲虫が突進してきた。
刺し込んだマチェーテを抜く間もない。
俺は甲虫の突進先に、地面に水平になるよう仰向けにジャンプする。
自然、突っ込んでくる甲虫の頭部に足の裏から着地する体勢となる。
膝、関節はサスペンションだ。
甲虫の突進の力を、膝を折り吸収していく。
更に両手も着いて蛙のような姿勢となる。
両手両足で接触面積を増やし受ける力を分散、
関節の衝撃力吸収で更に受ける力を減少、
徐々に関節を折り畳むようにしていけば接触時間が増え更に受ける力が減少。
結果、俺を吹っ飛ばすだけの力は有るがダメージを負わせる程では無いまでに力を減少させた。
吹っ飛んだ先に居る蜘蛛が糸を射出するが、糸は俺の下を飛んで俺を吹っ飛ばした甲虫に命中する。
吹っ飛んだ先の木に身体を捻ってさっきと同じ要領で着地ならぬ着木、甲虫から吹っ飛ばされて受けた力は無くなった。
木を蹴って飛んで解体ナイフを取り出し蜘蛛の頭上に着地、
そのまま解体ナイフを頭に刺す。
前を見ると蜘蛛の糸で動きを制限されてる甲虫。
さっきマチェーテを刺した甲虫まで走って口からマチェーテを抜き取る。
まだ蜘蛛の糸に藻掻いている甲虫まで走って背中に飛び乗る。
首にマチェーテを刺し込む。
そこに背後からの魔力反応を感じ慌てて飛び退く。
地面を転がりながら体勢を立て直す。
見上げると俺が居た甲虫の背中にバッタが乗っていた。
そのバッタの頭部に次々と矢が刺さる。
甲虫の背中から落ちるバッタ。
俺は刺さったままだったマチェーテを動かし甲虫の頭部を落とす。
ついでにバッタの頭部も斬り落とした。
頭を上げて辺りを見回すと魔力反応が薄い物ばかりだ。
完全に死んではおらず虫の息らしい。
大きな魔力反応も遠ざかって行く物だけだった。
「とりあえず・・・終わったかな」
ケセラ「大丈夫か!?マルコ!」
「あぁ!終わったようだ!もう大丈夫だ!」
ミキ 「マルコ!」
みんなが駆け寄って来る。
ミキ 「大丈夫!?」
「あぁ。この通りだ」
ケセラ「吹っ飛んで行ったぞ!?」
「狙い通りだ」
バイヨ「吹っ飛んだのが!?」
「止むを得ずだったが」
マヌイ「木に跳ね返って蜘蛛を殺してたもんねぇ」
ケセラ「5匹を倒すって言った時はどうなるかと思ったが」
「4匹だったな」
ティア「それでもよ!」
「まだ動いてる奴はトドメを刺して証明部位と魔石を回収するんだ」
ミキ 「あの虫達が帰って来ないかしら」
「大丈夫だ。奥に向かって行ってる」
パーティに分かれて回収をしていた。
「うーむ」
「どうしたの?」
「上位種かぁ」
「そうね」
「またって感じだよね」
「本当ね」
「しかしあの毒ガスは厄介だな。ただでさえ外殻は剣を弾いていたというのに」
「どうする?」
「ここで手を引くっていうのも有りだと思うが」
「調査を打ち切るって事?」
「あぁ。あの上位種が群れを率いているんだろう。本来単独行動の多い魔虫達だ。あいつが原因で間違いないだろう」
「でもなんで帰って行ったんでしょうか」
「僕の故郷でもヤスデはいたんだが、そいつは自分のガスで自分も死んでしまうんだ」
「自分のガスで?」
「あぁ。付近に漂ってるガスを嫌がったんだろう。それにスキルだったら結構な魔力を使ったのかもしれない」
「なるほどね」
「でも。ここで帰ったら村の人達が・・・」
「そうだな」
「心苦しいけど私達が死んじゃぁ元も子もないわ」
「肉壁も居なくなった事だしな」
「あいつ等!勝手に離脱しよって!」
「あの子達にも相談しないといけないわよ」
「マヌイはどうしたい」
「私は・・・続けたい」
「サーヤ君は」
「私はお2人・・・戻るべきだと思います」
「ケセラは」
「私はどちらでも構わない。君等の護衛だ、それを全うするまでだ」
「菊池君は」
「戻った方が良いでしょうね。数も厄介だけど上位種も居るとなると」
「マヌイ」
「・・・うん」
「上位種を倒せる算段は有るのか?」
「・・・全力を出せば」
「いや、だから最初から全力を出してくれ!」
「全力を出して倒せたとして、その後の事は考えてるのか?」
「・・・うん」
「恐らくそれは甘い考えなんじゃないのか?1番厳しいのはマヌイだぞ」
「・・・」
「どういう事だ?」
「しぃ」
「う、うむ」
「全力を出さずに済む方法がある」
「え?」
「バリスタだ」
『!?』
「なるほど!バリスタなら」
「でも外殻を貫通出来るかしら?」
「腹を狙う」
「腹?」
「予備動作なのか、ガスを出す前に首をもたげていた。その瞬間を狙う」
「危険ですわ」
「そうだ。危険だ」
「・・・」
「それにバリスタを使うって事は収納袋を彼女らに見られる」
「うーん。危険ね」
「信用出来そうではあるが」
「カズヒコさんの指示も聞いてくれますし」
「どうする、マヌイ」
「・・・私はカズ兄ぃやミキ姉ぇ、サーヤ姉ぇに助けてもらった。
だから・・・今度は私が誰かを助けてあげたい・・・手遅れになる前に」
「僕達に危険が有ってもか」
「・・・うん、ごめん」
「可愛い妹がそう言うなら一肌脱ぐのも吝かじゃぁないわね」
「家族ですし、ね」
「私は騎士だ。マヌイの気持ちは分かる」
「助けたいから助ける。考え方は分かるがそれだといつか死ぬぞ」
「・・・」
「そうならないように僕達がフォローするしかないな」
「カズ兄ぃ」
「お前の純粋さは僕と菊池君には無いものだからな、大切にしないと」
「ちょっと!?」
「・・・」
「しかし正直しんどいな」
「さっきも1人で5匹相手にしてたじゃん」
「4匹だよ」
「バリスタを使うとなると彼女らの協力が不可欠ですわ」
「信用するしかないわね」
「契約交わすか」
「バイヨ」
バイヨ「うん?何だ?マルコ」
「僕達は調査を継続する。君達はどうする?」
バイヨ「うーん。そうだな、どうする?」
ティア「調査って、原因はあの虫達じゃないの?」
エマ 「そうよね。この証明部位を持って帰れば良いんじゃない?」
「僕等はあの上位種が群れのリーダーだと思っている。あいつを倒す」
バイヨ「なるほど。まぁ確かに群れてる原因は分からないしな」
ティア「正直今持ってる情報だけでも十分だとは思うけど」
エマ 「物足りないって言っちゃぁ物足りないわね」
バイヨ「分かった。私達も続けよう」
「そうか。では契約書を交わさないか」
ティア「契約?何の?」
「お互いに秘密を他言しないという契約だ」
バイヨ「それは構わないが・・・罰則はどうするんだ?」
「うーん。もし喋ったら身体を好きにしても構わ「オラァ!」なっふぅ!」
3人娘「「「・・・」」」
ミキ 「金1000万エナを支払うってどう?」
3人娘「「「1000万!?」」」
ミキ 「喋らなきゃ良いだけだからね。額は関係無いのよ」
バイヨ「ま、まぁそうだが・・・」
ティア「私は良いわよ。闇魔法も黙ってるんでしょ?」
ミキ 「それは良いけど騎士に知られたんじゃないの?」
ティア「目の前の虫達に夢中で隣の様子なんか見てなかったわ」
ミキ 「そう。勿論喋らないわ」
バイヨ「では交わしても構わないな」
「「えぇ」」
僕達は契約を交わし契約書をお互いに持った。
「それじゃぁ僕達の秘密を見せよう」
バイヨ「早速かい?」
「上位種を倒すとっておきだ」
ティア「とっておき?」
「ルーラ君、バリスタを」
サーヤ「はい」
3人娘「「「バリスタ!?」」」
バイヨ「うおぉ何でそんな物がバッグから!?」
ティア「何かの土台!?」
エマ 「って、えぇ!?バリスタ!?」
「そうだ。このバリスタで上位種を狙う」
バイヨ「そうかバリスタで、って違うぞ!」
ティア「何でそんな物がバッグから出てくるのよ!」
エマ 「はっ!?もしかして収納袋!?」
「「!?」」
「その通りだ。僕等は収納袋を持っている」
バイヨ「そっ、その若さでか!?」
ティア「Dランクなのに!?」
エマ 「どうして!?」
「秘密だ」
3人娘「「「!?」」」
バイヨ「・・・ま、まぁそうか」
ティア「・・・そうよね」
エマ 「・・・そうだね」
ミキ 「1000万エナの価値があったでしょう?」
バイヨ「いや、おいそれと金で買えないからそれ以上の価値があるのだが」
ティア「そうよ。お金持ってても簡単に買えないわよ」
「君達を信用して・・・と理解してもらいたい」
バイヨ「・・・分かった」
エマ 「いいわ」
ティア「うん」
「それじゃぁ取り敢えず魔虫達の証明部位と魔石は預かろう。部位だけでも 結構なもんだろう?」
バイヨ「それは有難いな!」
ティア「そうね!」
エマ 「2mくらいの個体だからね!」
「ちなみにこいつ等売れるのか?」
バイヨ「あぁ。主に外殻だな」
エマ 「蜘蛛は糸なんかも高く売れるわね」
「よし!売れそうな物を剥いで持って帰るぞ!」
『おー!』




