⑨-47-236
⑨-47-236
僕等8人は先行して奥地を目指していた。
騎士達7人が後ろから付いてくる。
ティア「何で後ろに居るのよ」
マヌイ「出発してしばらくは横に広がって歩いていたのにねぇ」
サーヤ「索敵しながら進まないといけませんのに」
ケセラ「魔虫に1人殺されているから警戒しているのだろう」
バイヨ「だとしても騎士装備で後ろに下がるとはな」
エマ 「ヘタレね」
マヌイ「夜中にテントに忍び込もうとする奴らだからね」
ミキ 「そういえばマルコ」
「ん?」
ミキ 「あいつ等よく50万エナ出そうとしたわね」
マヌイ「実家が貴族だからじゃない?」
「いや、最初出すつもりは無かったはずだ」
『!?』
エマ 「えっ、でも」
「じじいが契約しようとしたろ」
ミキ 「そうね。若は黙ってろって言って」
「じじいと僕との契約になるはずだったんだ」
ミキ 「そうね」
「それだとブルバス家から金が出ない」
『!?』
ティア「えっ、どういう事?」
「じじいはブルバス家の血筋じゃない。だからブルバス家がじじいに金を出 す必要は無い」
エマ 「じゃぁ、あのじじいは最初っから払うつもりは無かったって事?」
「そうだ」
ミキ 「そっか!それで若の名を契約書に書かせたのね!」
ティア「そうか!あれでもブルバス家の1員だからブルバス家がお金を出さざるを 得ないって訳ね!」
「そうだ」
ティア「なんだあのじじい!交渉する気が有るからまだマシだと思ってたのに!」
ミキ 「小狡い分、性質が悪いわね!」
「あいつ等が後ろに下がった理由・・・」
『え?』
「あいつ等の目線はどこに行ってる?」
エマ 「目線?」
マヌイ「ん~」
「君等のお尻だよ」
『!?』
サーヤ「ブッ殺す!」
ティア「あいつ等!」
ケセラ「どうしてくれよう!」
エマ 「いざっていう時私達を盾にするつもりでそれまではお尻を眺めてようって の!?」
マヌイ「酷いね!」
ティア「覚えてなさいよ!」
エマ 「次は殺すって言ってあるしね!」
「おー、こわ」
奥地に行くほど平坦ではなくなっていく。
植生も晩冬ではあるが鬱蒼として森の中というより山の中みたいだ。
分け進んで昼頃、反応が有った。
僕等は止まって協議する。
「魔物の群れを感じた」
バイヨ「居たか。どうする?」
「勿論、討伐だ。ただ・・・」
ミキ 「ただ?」
「30匹以上居る」
『!?』
ティア「はぁ!?30匹!?」
エマ 「無理でしょ!?」
「う~ん」
ミキ 「やる気なの!?」
「鍵はティアだな」
ティア「あたし!?」
エマ 「《バインド》ね」
「あぁ」
マヌイ「4匹の動きを止められるもんね」
「そうだ」
ケセラ「しかし30匹だぞ!」
「あいつ等も使う」
バイヨ「あいつ等・・・騎士か」
「あぁ。左右に分かれて半分受け持つ」
マヌイ「半分か、そう都合よく行くかな?」
「全部こちらには来ない、それが重要だ」
ティア「そういや私達は止まってるのにあいつ等まだ後ろに居るわね」
エマ 「横に出ろっつーの」
ミキ 「あいつ等当てに出来るの?」
「あいつ等のアーマーを当てにする」
ミキ 「防御力・・・直ぐには死なないって事ね」
「あぁ。あいつ等に構ってる間に僕等の目の前の魔虫を殺していく」
ティア「今まで通りで行くの?」
「いや。今回はルーラ君を前に出す」
バイヨ「ルーラって、クロスボウだろ?」
「クロスボウとハンマーの両手持ちだ」
バイヨ「りょ、両手持ち!?ハンマーと?」
「先ずいつも通り4人で矢を斉射、これで1,2匹を殺す」
「「「「了解」」」」
「魔虫が向かって来たら先頭を《バインド》」
ティア「了解」
「動けない魔虫を僕、ルーラ、セラナ、バイヨで倒す」
「「「了解」」」
「その間射手は別のをターゲットしてくれ」
「「「了解」」」
「これで5,6匹殺せる。受け持ちの1/3だ」
ミキ 「上手く行けばね」
「それ以降は僕は下がって指揮する。ティアは順次、《バインド》を掛けて くれ」
ティア「分かったわ」
「射手は動けない魔虫を優先的に狙ってくれ」
「「「了解」」」
「セラナは防御に徹する」
ケセラ「あぁ」
「ルーラとバイヨはセラナの後ろから攻撃だ」
「「了解」」
バイヨ「マルコ」
「何だ?」
バイヨ「大丈夫か?手が震えてるぞ」
「武者震いだ、気にするな」
バイヨ「それならいいが」
「よし。じゃぁあいつ等を呼ぶか」
俺は騎士達を手招きする。
騎士達がやって来るが例の3人は離れた位置で待っている。
若 「何だ」
「鑑賞時間は終わりだ」
若 「鑑賞時間?」
ティア「お尻を見る時間は終わったって言ってんのよ」
若 「ななな何を言ってる!?貴様等の尻など見ていない!」
エマ 「じゃぁ何で横に出ないのよ」
若 「あああアーマーが重くて遅いのだ!」
ティア「私達が止まったらあんた達も止まってたけど?」
若 「ははは背後の索敵をしていたのだ!」
エマ 「後ろなんて見てなかったけど?」
若 「おおおお前達が気付かなかっただけだ!」
「じゃぁここから索敵出来るか?」
若 「何がだ!」
「この先に魔虫がいるんだが」
若 「な、何!?」
ティア「あら、分からないの?後ろの索敵をしていたのに?」
若 「ぬぐぐぐ・・・煩い!索敵なぞ我らの仕事ではない!」
エマ 「だったら前に出なさいよ」
若 「喧しい!索敵なぞ貴様等で十分なのだ!」
「分かった。じゃぁお前らは右側、僕等は左側を受け持つ。お前らの突撃を 合図に戦闘開始だ」
若 「な・・・何?」
「索敵は任された。突撃は任せた。行くぞ」
若 「ままま待て!」
「なんだ、急げ。状況が変わったらどうする」
若 「ななな何故我らが突撃せねばならん!」
「索敵出来ないんだろ。それぐらいしか出番が無いだろ」
若 「ききき貴様等が先に突撃すれば良かろう!」
「なんでプレートメイルより先に軽装備が突撃するんだよ、アホか」
若 「アホだと!」
「それにうちは半分が弓手だぞ。お前ん所は全員アーマー持ちだろうが」
若 「うぬぬぬ」
「どうしても女の尻を見続けたいんなら無理にとは言わんが」
若 「むがぁぁぁ」
じじい「若!」
若 「爺!」
じじい「正論です!こいつ等より後ろで戦ったとあっては騎士の名折れです。お家 の名にも響きましょうぞ!」
「索敵出来ねぇんなら調査依頼なんか受けるなよ全く・・・」
若 「くくくクソ!」
じじい「我らが右翼だな?」
「そうだじじい。逃げるなよ」
じじい「誰が逃げるか!」
「女の尻を見てた野郎が偉そうにすんなよ」
じいい「うむぅ!」
「行くぞ」
しばらく進むと上り坂になり更の進むと下り坂になった。
「おい!魔虫は何処に居るのだ!?」
「やかましい。索敵出来ねぇ奴は黙ってろ」
「き、きっさま!?」
「よし。ここで待ち伏せる。虫にとっては上り坂、僕等には狙撃位置だ」
『了解』
「騎士と盾役は前に出てくれ」
「「「了解」」」
「僕が釣って来る」
『了解』
「お前が?大丈夫なのか?失敗するのではないか?」
「よし、お前も来い」
「ななな何?」
「失敗しないよう、お前がやれ。お前に任せる」
「ななな何で私がやらねばならん」
「文句言うなら自分でやれ」
「別に文句では・・・ない!」
「じゃぁ、黙ってろ」
「むぐぅ!」
「行ってくる」
「気を付けて」
「あぁ」
途中《罠》を張り《隠蔽》しつつ魔虫の下に向かう。
「何をしてるのだ?マルコは」
「罠を仕掛けてるのよ」
「罠?」
「えぇ。足止め用ね」
「なるほどな」
《隠蔽》しつつ藪間から虫の群れを覗く。
凄い怖い。
大きい虫って生理的にも画的にも怖い。
ゾンビの方がマシだ。
まだ人間の方が親近感が有る。
虫には無機質なものしか感じない。
そんな虫の群れに襲われるとか・・・はぁー、やるか。
「やーい!お前等本調子じゃないんだってな!バグってんじゃぁねーよ!」
ドドドドドドドッ
ひいいぃぃぃ!
怖い!怖過ぎる!
怒ってるように見えない。
叫び声をあげるでもない。
ただ、食う。
ただそれだけの機械的な行動。
もうやだ、虫嫌い。
ガサッ
サーヤ、ケセラ、バイヨ達が待つ前方の藪からカズヒコが飛び出してきた。
そのまま彼女達の下に走って来る。
ケセラ「見えた!マルコだ!」
バイヨ「魔虫は見えないな」
サーヤ「ご無事でしたか」
若 「失敗したのではないのか?」
バイヨ「じゃぁあんたが行きなよ」
若 「私はリーダーだ。部隊の指揮をせねばならん」
バイヨ「指揮は爺さんにやってもらった方が良いんじゃないか?」
若 「何だと!」
ザザザザザザッ
次々に藪から魔虫が飛び出してきた。
ケセラ「流石に壮観だな」
若 「ここここんなに居るなんて聞いてないぞ!」
ティア「半分はあんたらのだからね!」
若 「じじじ爺!」




