⑨-32-221
⑨-32-221
その後の動きは早かった。
朝に宿に連絡が有り、調査隊が昼には出発するという。
「昼に出ても村に着くのは3日後じゃないか?2日後の夜に村に着くつもりなのかな?」
「いや。先ずは駿馬で先行して本隊はその後だろう」
「なるほど。証拠隠滅を阻止する訳か」
「だろうな。我々は本隊だろう」
ケセラの予想通り僕達は本隊の馬車に乗って村を目指した。
道中は収納袋が使えない。
非常に不便な旅となった。
スティーゲンも付いて来ている。
ギルドの責任者として随行しているらしい。
あの受付嬢もだ。何でだ?
出発して3日後の午前中には村に着いた。
村は物々しい雰囲気に包まれていた。
各所に衛兵が立ち、村人達の行動を制限している。
厩舎には既に駿馬だろう馬が繋がれていた。
床下を視る。
(どう?)
(大丈夫。そのままだ)
(良かった)
本隊から調査官が出て来て指示を出す。
村の広場に集められた村人達は村長を先頭に調査官と話している。
「お前達には冒険者殺害の容疑が掛かっている」
『・・・』
「ぼっ、冒険者殺害!?」
「そんなおっそろしい事出来る訳ねぇ!」
『そうだそうだ』
「何かの間違いじゃないんですか?お役人様」
「それを調べに来たのだ。協力するなら良し。しないとあれば・・・」
「もっ、勿論協力しますとも!なぁ!?」
『あ、あぁ』
「しかし、どうしてその様な事に?」
「訴えが有ったからだ」
「訴え?」
「あの者達からのな」
調査官が僕達を指さす。
「ウッソだろ!?」
「私達を前面に出す!?」
「スティーゲンさん!?」
「う、う~ん」
「あの野郎!あの時の冒険者だ!」
「あいつ!」
「ふざけやがって!」
村人達は激高している。
「あの調査官は・・・どうなんです?スティーゲンさん」
「ノーコメントだ」
「証人保護法は無いの?」
「仕方ない、行くぞ」
「行くのか?」
「隠れてるのも癪だ。行くぞ」
「ほら、スティーゲンさんも行きますよ」
「う、う~ん」
僕達は調査官、村人達の前に出た。
「こんな冒険者の言う事を信じるんですかい!?」
「国民じゃなく冒険者を信じるってーのかよっ!」
「ワシらはちゃんと税金を納めてるのにこんなろくでなし共の方を信じるったぁーな!」
村人の集団の後方には赤ん坊を抱えた女の姿も有る。
「この者達は猪の上位種、カルドンを討伐したのだ。ある程度信用出来る」
『なっ!?』
「カッ、カルドンを!?」
「ば、馬鹿な!?」
「あのでっかいヤツを!?」
「馬鹿っ!しー!」
「スティーゲンさん?」
「どんどん自分から手札を切っていってますが」
「う・・・すまない」
「無能な働き者か・・・」
「えっ?」
「大丈夫かな、これ」
「上位種が居たのに知らせなかったのか!?」
「い、いえ!知らなかったのでございますよ!なぁ!?」
「そ、そうだ。そんなモンが北西の森に居るなんて知らなかった!」
『そうだそうだ!』
「カルドンの存在を知らせに帰って来た冒険者を殺して持ち物を奪っていたというのは!?」
「しっ、知らねぇ!」
「銛で殺してなんていねぇ!」
『そうだそうだ!』
「では家探しをしても構わんな!」
『・・・』
「もっ、勿論で御座いますとも、お役人様」
「よーし!手分けして探せ!」
『はっ!』
「スティーゲンさん?」
「・・・振らないでくれ」
兵士が家探しをしている中、僕達は厩舎近くでお茶を飲んでいた。
時折村人がやって来ては僕達を見るとサッと居なくなるのだった。
「茶が美味いのぉ」
「村人からしたら鬱陶しい事この上ないわね」
「どうなるんだろ」
「あの調査官に見つけられるとは思えませんね」
「茶番は早々に終わらせて早く帰った方が良いのではないか?」
「そうだよなぁ。ただ君達を襲おうとしたケジメをつける為にも舞台を整えてやらんと」
「舞台?」
「あっ!マルコさん!ここに居たんですね!」
「受付嬢さん。どうされました?」
「調査官がお呼びです」
「どうしたのかしら」
「見つからないんだろう」
『はぁ~』
受付嬢に案内され調査官の所に向かう。
「どういう事だね。見つからんぞ!」
「はぁ・・・」
調査官の相手をしているスティーゲンさんが困り顔だ。
「カルドンを狩った冒険者の方を連れて参りました」
「おぉ、貴様等か!どういう事だ!証拠の品が見つからんぞ!」
「はぁ?」
「マ、マルコ君!」
「探しても見つからんと言っておるのだ!」
「はぁ」
「マ、マルコ君!」
「はぁ、では無い!わざわざ辺鄙な所まで来て手ぶらでは帰れんのだ!」
「それは私共のせいではありませんねぇ」
「マ、マルコ君!」
「何だと!?」
「探し方が悪いんじゃないんですか?」
「貴様!私が悪いと!?」
「違うので?」
「ぬぬぬ・・・」
「マルコ!ちょっと!」
「今までどこを探してたんです?」
「家屋だ!」
「・・・だけ?」
「だけ!?」
「沼とかは?」
「むぅ!」
「漁業の村なんでしょ」
「沼だ!沼を探せ!」
『はっ!』
兵士達は村と沼の縁を探し始めた。
「デコイじゃないの?」
「そうだよ」
「舞台ってやつ?」
「あぁ、村人達をご覧」
女性陣が村人を見る。
村人達は少し笑っている様な表情だ。
「余裕ね」
「上げるだけ上げて一気に落とす」
「悪趣味ぃ~」
「え~っと、菊池君は同率3位だったかな」
「上げるだけ上げましょっ!」
〈見つかりましたぁー!〉
「おっ、何か見つかったみたいだな」
「何だろ」
「漁業関連だろ」
「見に行きましょう」
「生活雑貨ですね!鍋やらコップやら旅の用品みたいですね」
「これは何かね、村長!?」
「は、はい。もう使わなくなった物です」
「何故沼に!?」
「家が狭いもんで村で纏めて街に売りに行こうかと思ってたんで」
「むぅ!」
(冒険者のだな)
(そうね)
(証拠にはならないね。名前が書いてある訳でもないし)
(そうね。ありふれた物ね)
「空振りではないか!」
(でも水縁に沈ませるもんかしら。沼の真ん中にブイに結んで沈めたりしなかったのかしらね)
(むしろ怪しいだろう。生活雑貨をそんな所に沈めるのは)
「お役人様。ワシらは善良な村人です。今まで長年税金も払って来ました。何故ワシらを差し置いて冒険者なんぞの肩入れをなされるので?」
「む・・・いや・・・その」
「ワシらは真面目に働いて来たんじゃー!」
『そうだそうだ!』
「何度も何度も依頼してやっと猪が居なくなったと思ったらこれだー!」
『そうだそうだ!』
「大体何でこいつ等がここに居るんだ!」
俺が沼に蹴落とした奴だ。
「あれ、お前は確かラドニウスのケツを掘ろうとした・・・」
そいつの周りがサーッと離れていく。
顔が真っ赤になって叫ぶ。
「ななな何を言ってやがんだ!てめぇ!」
「そうだったな、人の趣味に口出しすべきではなかった、すまん」
「ふふふふっざけんな!」
「村長。あれは冒険者のではないんですか?」
「ちちち違いますとも!何を言っておるか!」
「俺達が冒険者を殺して荷物を沼に隠したって言いてぇのか!」
「違うのか?」
「ちちち違うに決まってんだろ!」
「大体何でお前がここに居るんだ!」
「呼ばれたからな」
「うるせぇ!」
「何て答えりゃ良かったんだ」
「貴様!貴様の言う通り沼を探しても何も出てきはしなかったぞ!」
「てめぇが言ったのか!」
「こいつ!」
「どう落とし前つけてくれんだよ!」
『そうだそうだ!』
「どうって言われても・・・」
「どう責任取るんだって言ってんだよ!」
「何とか言いやがれ!」
「どう取ればいいんだ?」
「有り金全部寄越しやがれ!」
『そうだそうだ!』
「もし有ったら?」
「あん?」
「何を言ってやがんだ、てめぇ」
「もし証拠が見つかったらどう責任取るんだって聞いてるんですけど」
「どうって・・・」
「認めるか?」
「認める?」
「冒険者を殺した事を」
『・・・』
「殺してないなら証拠も無い。約束しても問題は無いだろう?」
「お。おう。そうだな」
「そうだよな」
『そうだそうだ!』
「ラドニウスを掘りたかったお前、どうするんだ?」
「てっ、てめぇ!いいぜ!認めてやる!殺したって認めてやるよ!その代わり無かった時は身ぐるみ剥いで女は奴隷だ!」
『いぇーい!』




