⑨-29-218
⑨-29-218
俺は4人に手を振る。
4人が走って来た。
「無事!?」
「カズ兄ぃ大丈夫!?」
「お怪我は!?」
「大丈夫か!?」
「あぁ、怪我は無い」
『ほっ』
「いや、強かったな」
「強いなんてもんじゃないわよ!木を薙ぎ倒してたじゃない!」
「いきなりビックリしたよ!」
「カズヒコさんが飛び出して来た時はもう・・・」
「一応ポーション飲んでおこうかな」
「えぇ、そうしましょう。今出しますね!」
「凄いおっきいねぇ!」
「ホントね」
「軽トラじゃなくハイエースだったな」
「しかし良く1人で・・・」
「ふぅ。じゃぁ解体するか。流石にこのままでは収納袋に入らんしな」
『えっ』
「これ・・・解体するの?」
「当然だろう。上位種だぞ」
「そ、そうよね・・・」
「先ずはバリスタを片付けよう。僕とマヌイでやろう」
「あっ、あの、私が」
「《解体》持ちと力が強い奴で解体した方が良いだろう」
「・・・はい」
「よし、取り掛かろう」
『了解』
僕とマヌイでバリスタを片付けた後にカルドンの解体を手伝った。
細かくする必要は無い。
収納袋に入りさえすれば良いのだから。
結構時間を掛けて解体し、休息をとる。
「ふぅ。疲れたんでこれからは僕は気配だけ探るから後はよろしくね」
「分かったわ」
「任せて」
「休んで下さい」
「盾は任せろ」
北西の奥に進み4匹を狩って今日は仕事を終えた。
村で受け取るもんを受け取る。
心なしか、村人達は焦っているように見受けられる。
野営地で夕食を摂っていた。
その間にカルドンを木につるして血抜きをしている。
「カルドンかぁ、幾らになるかなぁ」
「高いよ!あんなにおっきいんだもん!」
「討伐報酬が無いのが辛いわね」
「ホントですね」
「村人が報告してれば良かったのに!」
「そしたら依頼を受けたか?」
「うーん」
「だろー?」
「お肉、何人分になるのかしらね」
「美味しいのかなぁ」
「肉かぁ・・・」
「どうしたの?」
「干し肉、燻製・・・燻製器、作ってみるか」
「自家製燻製肉?お店で売ってる物より美味しく出来たらいいけど。そうじゃなかったらわざわざ作る必要は無いんじゃない?」
「試行錯誤は必要だろう」
「そうねぇ。まぁ、納得出来るまでやってみたら?」
「うーん。考えておくよ」
「美味しいのが出来たら良いね」
「あぁ。そうだ、マヌイとサーヤ君」
「うん?」
「はい」
「このカルドンをウリク商会に渡す条件として2人の《皮革》と《縫製》の修業機会をもらおう」
「「えっ」」
「良いわね。カズヒコも鍛冶師を紹介してもらったんだし」
「いいの?」
「あぁ。冒険者辞めても食っていけるようにな」
「ありがと」
「カズヒコさん」
「そうだ。ケセラもどうだ?何か習得したい生産スキルないのか?」
「え、わ、私か!?」
「そうだ」
「わ、私は、別にいいぞ」
「遠慮はするなよ?」
「い、いや・・・」
「エルフは魔力の扱いが長けていてポーション作りに有利とか聞いていますわ」
「そうなのか!?」
「え、あ、ま、まぁ・・・な」
「じゃぁ・・・ポーション作りに必要なスキルって何?」
「待ってねー・・・えーっと、《薬学》だって」
「よし、じゃぁ《薬学》も頼もう」
「いや、私は今回何もしていない!資格は無い」
「はぁ~、ま~たメンド臭い事言ってるよこの娘は」
「ケセラ。チームで狩ったのよ。パーティで狩ったの。分かる?」
「う・・・」
「そんな事言ったら僕はケセラを助ける時1人も殺してないぞ」
「う」
「野衾の時も1匹も殺してないぞ。でも気にしてない!」
「あんた達は両極端なのよ」
「繋がりを感じる時だよ」
「そうですよ」
「・・・う、うむ。そうだな。言葉に甘えよう」
「孤児だったから甘え方が分からないんじゃないかぁ?」
「うぅ」
「こーらっ!そんな事言わないの」
「騎士なんて何時怪我が元で引退するか分からないんだ。手に職・・・手にスキル持っとけ」
「・・・あぁ、そうだな。老後の事も考えないとな」
「おっ、軽口が言えるようになったじゃないか」
「ホントね」
「ソルスキアだったら別れてもまた会えるね」
「ふふふ、そうね」
「マヌイとサーヤ君で《皮革》と《縫製》だろ、店開けるな。ケセラ、服買いに来いよ」
「ははは、そうさせてもらおう」
「普通よりも布の面積がいるな、主にむ「おすっ!」ねぁぁ!」
食後の茶を飲んでいた。
「カズヒコ」
「ん、何だ?」
「私は謝らなければならない」
「何をだ、まさか風呂を覗いてたのか。それくらいなら構わんぞ、魅力が僕の最大の武器だからな」
「ち、違う!」
「何だ?」
「勘違いしていたのだ」
「あぁ、君が痔じゃないって知ってる事をか。分かってるよ」
「違ーう!」
「違う・・・やっぱり」
「そうじゃない!野衾の件だ!」
「野衾?何かあったっけ?」
「君は言った。村の為に死ぬ必要は無い。村よりパーティメンバーが大切だと」
「あぁ、言ったな。その通りだ」
「そしてこうも言った、要は結果だと。行動が伴うか伴わないかだと」
「言ったな」
「私は最初、自分さえ良ければいいと解釈していた」
「それで間違っていない」
「・・・今回カルドンを狩る前に言った、他の冒険者に犠牲が出ないようにと」
「言ったっけ?」
「言った。もし本当に自分だけが良ければいいのなら、依頼の報酬だけを目当てにしていたはずだ。君の索敵力ならそれが出来る。パーティを危険に晒すはずがない」
「狩れる自信は有ったよ」
「そうだ。他のパーティメンバーを危険に晒させず、自分だけが危険を冒して」
「スキル2個しかない俺には囮くらいしか出来ないのさ」
「要は結果だと、言ったな」
「・・・」
「今回、村人の為と思って何の疑いも無く依頼を遂行していたら死んでいただろう。少なくとも私がリーダーだったら全滅していただろう。
女は凌辱され殺されていただろう。
村人には秘密が有った。もしかしたら野衾の村もそうだったかも知れない。
私は人々を守ると誓った。しかし、正直あの村人は守る気にはならない。殺したいとさえ思っている。
私の憧れた騎士はそんな事すら思わず私達を助けたのだろう。自分が死を賭して助けるに値するのか考えもせず。
仲間の兵士に襲われた今の私にはそれは・・・出来ない。
村人を殺したいと思った私には出来ないんだ。
私の騎士道が・・・今までの人生は無意味だったのか」
『・・・』
「私は欠陥エルフなんだ」
「え?」
「欠陥品なのさ、私は」
「どういう事だ?」
「エルフは魔力の扱いに長けている」
「あぁ、そう聞いたよ」
「殆どのエルフは魔法が使えるんだ」
「そう・・・なの?」
「はい、聞いた事が有ります」
「しかし私には魔法は使えない。
魔法が使えない私は剣の腕を磨いた。コンプレックスを払拭する為に」
「そうだったのか」
「だからこそ騎士は私の誇り、私の人生そのものだった・・・それが・・・」
「・・・正直、俺にはお前を救う事は出来ない」
「カズヒコ!?」
「カズ兄ぃ!?」
「カズヒコさん!?」
「俺や俺達が何か言って安心させる事は出来ない。他人が言う言葉でその人間の根幹を変えられるのなら戦争なんか起きやしない」
「・・・」
「自分で悩んで答えを見つけるしかない、それしかない」
「・・・そうか」
「それは時間が掛かるんだ、お前も今回の依頼の前後で人間に対する見方が変わっただろう」
「あぁ」
「人間を、いや、自分を知るには時間が掛かる。お前の憧れの騎士はそれを知る前だったのかもしれない」
「・・・」
「知った後で尚、命を懸けて救ったのかもしれない。今となっては分からないが」
「・・・あぁ」
「今、答えを出す必要は無いんじゃないか?」
「しかし、これからどう生きて行けばいいのか・・・」
「そんな大袈裟なものが必要かね」
「え?」
「生きるのに、ただ生きていくのに大袈裟な理由が必要なのか?
無意味な人生っていうのはそれを言った人が持つ価値観で下したものだろ。
別の見方をすれば別の価値があるかもしれない。
俺は俺が正しいと思っているが同時に正しくないとも思っている」
「?」
「俺の正しさは俺のものだ。しかし他人から見れば正しくないと思われるのを知っている、それは俺が正しくないという事だろう」
「正義は不変では無いと?」
「正義か悪か、簡単に2分出来るんなら苦労はしないな。殺しは絶対に悪だというのなら、侵略してきた敵を殺すのも悪なのか」
「むむ、必要悪だろう」
「便利な言葉だな、そうやってどんどん言葉を飾っていくのが不変なのか。飾る必要が無いから不変なんじゃないのか」
「・・・」
「魔物にとっては冒険者は悪だな。自分の縄張りに入って来て仲間を殺していくんだから」
「そうだな。しかし見方によって変わらないものも有るのではないか?」
「それはこれからお前が見つけていけ。俺にとってはそうでないものがお前にはそうだという事もある」
「・・・うむ」
「お前はお前の騎士道を作ればいいんだ、権力者が自分に都合よく作った騎士道じゃなく、な」
「私の騎士道」
「憧れの騎士のような騎士道も有る、お前はお前の騎士道を往け」




