⑨-24-213
⑨-24-213
それから俺は鍛冶の腕を上げる為、ウリク商会から原材料を買ってバリスタ用の鉄槍や鉄球を作っていた。
そんなある日の朝食中。
マヌイ「カズ兄ぃ」
「ん?」
マヌイ「そろそろ依頼を受けない?」
「そうか。そういえばしばらく受けてないな」
マヌイ「お金も大事だよ」
「そうだな。みんなは?」
ミキ 「賛成よ」
サーヤ「えぇ」
ケセラ「私もだ」
「よし!受けるか」
マヌイ「うん!」
朝食を終え、冒険者ギルドに向かった。
依頼掲示板を見る。
マヌイ「ラッシュ後だから良いのはないねぇ~」
サーヤ「そうねぇ」
ケセラ「別に選り好みしなくても良いんじゃないか?」
マヌイ「そうは言ってもやっぱり割の良いのを選んでしまうよ」
「マヌイはしっかり者だからな」
マヌイ「うん」
ケセラ「これなんかはどうだ?」
「どれどれ」
マヌイ「討伐依頼:猪退治。増えすぎた猪の駆除。20匹で20万エナ!?」
ミキ 「20匹でって所がポイントなのかな」
「いや、それでも猪で20万エナって・・・なぁ」
サーヤ「高過ぎますよねぇ」
ミキ 「何かありそうよね」
「猪って動物のじゃなく魔物の猪って事だよな?」
ケセラ「うむ。そうだろう。動物より大きいぞ」
「だろうなぁ。僕達も以前殺した事は有るが」
ミキ 「野衾が1匹1万だったわよね」
「野衾は空から急襲だったからなぁ。猪だろぅ?」
マヌイ「ラッシュ時間過ぎても依頼が残ってるっていうのもねぇ」
ケセラ「しかし本当だったら稼げるじゃないか」
「そうなんだけどねぇ」
ミキ 「受付嬢に聞いてみる?」
「そうしよう」
受付に行くとあの黒人の娘さんだ。
「こんにちは」
「こんにちは。今日はどういったご用で?」
「猪退治の依頼を見たんですけど・・・」
「あぁ、あれね」
「どうなんです?」
「ちょっとおかしいのよね」
「やっぱり?」
「ここ最近ずっと残ってるのよね」
「最近ずっと?」
「えぇ。最初は報酬も今より安かったんだけどそれでも相場よりずいぶん高かったの。それで何組かの冒険者が受けて向かったんだけど・・・」
「だけど?」
「帰って来ないのよ。誰1人」
『!?』
「誰も帰って来ない?」
「えぇ、誰も。失敗して恥ずかしくなって逃げたんじゃないかとか、色々噂が有るんだけどね」
「ふーん。20匹で、って事は?」
「そうなのよ。19匹でも駄目なの」
「でも仮に19匹しか居なかったら無理なんじゃないですか?」
「そうなのよ。でも言っても聞かないのよね、村の連中」
「強気ですね」
「村の方も、何度も依頼を出してるのに失敗続きでどうしてくれるんだ、って。それで国から援助が出て報酬が上がってるのよ」
「へー」
「で、受けてみる?」
「止めときます」
「だよねー」
僕達は他の依頼を受けた。
公都は人口が多い。
冒険者も多いので公都周辺は魔物が駆除されている。
公都は消費も多く周辺も比較的安全なので村が出来易い。
村からの依頼も公都に回って来るので冒険者の仕事も増える事になる。
数日間は依頼で公都と村を行ったり来たり、
魔犬やら猪やら大きいモグラの魔物までいた。
モグラだけあって視力はほぼ無いようだ。
モグラは土の中に居るので俺や菊池君の《魔力感知》で居場所が分かるから倒し易かったが、普通の者には時間が掛かる魔物らしくその分報酬も良かった。
雪が降る日も有った。
この辺りは積もるのは滅多に無いらしい。
西の山岳地帯、ベオグランデでは流石に積もるらしいが。
そうやって1週間が過ぎた頃、依頼掲示板を眺めている僕等に黒人の受付嬢が話しかけて来た。
「この前言ってた猪20匹討伐の件、覚えてる?」
「・・・あぁ。強気な村の」
「そうそう。あれ以来誰も受けないらしく報酬をちょっと変えたみたのよ」
「へー」
「興味無い?」
「無いです」
「つれないわねー」
「話だけでも聞いてみたらどうだ?」
「そうよ。話だけでも聞いてみなさいな」
「まぁ、セラナがそう言うんなら」
「討伐10匹まで1匹につき100エナ。11匹以降15匹まで1匹1000エナ。16匹以降20匹まで1匹4000エナ。20匹討伐達成報酬と合わせて20万エナになるわ」
「やっていく内に煽っていくスタイルですね」
「そういう事。何とかしろって煩いからギルドから提案したのよ」
「なるほどねー」
「期限は特に無しよ。どう、やってみない?」
「お断りします」
「何でよー」
「依頼主とトラブルになりそうだからです」
「うーん。この条件で1組向かったパーティがまだ帰って来てないのよね」
「1週間も経ってないんでしょ?継続中なのでは?」
「村からはいなくなったっていう報告があるのよ」
「へぇ」
「だから他のパーティに勧めてるんじゃない」
「あぁ、パーティ同士、依頼が被らないように」
「そう」
「マルコ」
「うん?」
「君も言っていたではないか。線引きは必要だと」
「あぁ」
「その線引きを見極めたい」
「わざわざトラブルになりそうな所に行かなくても」
「火中の栗を拾う気で行く。勿論君達は全力で守る」
「うーん」
「セラナの精神を見つける為にも良いんじゃない?」
「お金も入るしね」
「悩みを解決出来るなら、やる価値は有りますわ」
「・・・そうか、分かった。受けましょう」
「そう!じゃぁ、手続しましょう!」
「村は北西に2日行った沼沢地帯にあるわ。普段は漁業なんかを営んでるけど冬は森で狩りをして生計を立ててるの」
「なのに討伐依頼を?」
「魔物は別よ」
「そんなもんですか」
「えぇ」
「1匹ずつ狩るって事はその都度村長に確認を取るって事ですか?」
「えぇ、それで構わないわ。狩った猪は村に渡す約束よ」
「ふーん」
「その分の報酬よ」
「まぁ、ギルドで買い取るよりも高いのは確かですね、数をこなせば」
「証明部位と魔石は冒険者に渡すのも決まってるわ」
「馬車で行こうと思ってるのですが」
「大丈夫よ。村は冒険者や商人の馬車を預かるよう決まりが有るの。流通を円滑にする為にね。無料で預かってくれるわ。餌代は別よ」
「そうなんですね」
「村に預けたまま公都に帰ってくる場合は村長に預かってるっていう手紙なりを書いて貰って。後日馬車屋から取りに行って手数料を引かれた保証金が返って来るわ」
「漁業って事は船が有るんですか?」
「えぇ。沼だから小さいけどね。猪だから関係無いでしょ?」
「えぇ、まぁ」
「で、どうする」
「受けます」
馬車で公都を出て1日目の野営地に居た。
ラドニウスの保証金はDランクだと15万エナだった。
ガタガタガタ
「結構な揺れだから設置は難しいな!」
「土台を置けてもその上に射撃装置を載せるのが難しいですわ!」
「はいやー!」
御者席のケセラが叫ぶ。
野営地の周りを回りながらバリスタをラドニウス馬車に設置する練習だ。
しかし揺れが酷く思うようにいかない。
菊池君とマヌイは焚火の管理で乗っていない。
練習を終えて食事を摂った後、俺は鍛冶を始める。
女性陣は風呂だ。
「なーに作ってんだか」
「バリスタ用の武器は結構作ってたよね」
「えぇ」
「ケセラの騎士道、見つかると良いわね」
「・・・あぁ」
「もう2月下旬だけど噂は聞こえてこないね」
「そうね」
「もうしばらく公都に居ましょうか。大丈夫そうならそのまま南下してソルスキアに行けば良いし」
「それで良いと思うよ」
「はい」
「ありがとう」
「ケセラは気を使い過ぎよ」
「え?」
「そうだよ。繋がりを感じたいんなら気を使わない方が良いんじゃない?」
「そうですわね。家族同士、あまり気を使うものでも無いと思いますし、上流階級は別でしょうが」
「あの人もメンド臭いって言ってたでしょ」
「あ、あぁ、そうだったな」
「あの人も、私達も、堅苦しいのは苦手なのよ」
「だから冒険者やってるんだもんね」
「そうですよ」
「自分の思う通りに振舞ってよ。でもソルスキアに行って騎士団に入ったら苦労するか」
「あー、それはそうだね。あははは」
「切り替えられる程器用じゃなさそうですし」
「むむ・・・その通りだな」
「そこはあの人を見習っても良いかもね」
「いやぁ、それは・・・」
「どうでしょう・・・ねぇ」
寝静まった野営地に雪がぱらつき始める。




