⑨-21-210
⑨-21-210
野衾を全て収納袋に入れて馬車の中で揺られていた。
「村長は全部持って帰るって聞いてビックリしてたね」
「ある程度は捨てて行くと思ってたんだろうな」
「拾って村の物にすると。結構な値段だったしね」
「あぁ、毛皮が高く売れる」
御者席から返事があった。
「私達が馬車で行かなかったら・・・」
「全部村の物・・・ですね」
「・・・そうだ、な」
「君が気にする事は無いぞ、セラナ」
「・・・うむ」
「僕が村長でも同じ事をする。それが村の為ならな」
「・・・あぁ」
「自分達が払うのはなるべく安くしたい、自分達が受け取るのはなるべく高くしたい。そう思うのは自然な事だ」
「・・・あぁ」
「すまなかったな」
「な、何がだ!?」
「君の憧れの騎士を玉砕騎士って言って」
「・・・」
「君は人々を守るって誓ったんだったな」
「あぁ」
「誰でも守るのか?」
「?」
「悪人でも?」
「いや、それは」
「線引きは必要だろう」
「まぁ、な」
「より細かく線引きして行ったら・・・何処までを守るか決めてるのか?」
「・・・」
「戦場で迷ってたら守る前に死ぬぞ」
「・・・」
「僕は単純に考えてる」
「単純に?」
「あぁ。単純に生き残る事を第一にね」
「そうだな」
「憧れの騎士・・・」
「?」
「凄いと思うよ」
「え」
「その場で決断したんだろ?君等を死んでも守ると」
「・・・あぁ」
「迷わず自分の騎士道を貫いた訳だ。まぁ少しは迷ったかもしれないがね」
「・・・」
「要は結果だよ。口では偉そうな事言いながら行動が伴わない奴、普段は優柔不断でも最後には行動出来る奴」
「結果か」
「君は悩んで悩んで自分の騎士道を探せば良いんじゃないか?」
「自分の騎士道」
「今は君の騎士道の寄る辺たるものがソルスキアに有る事を祈ってるぜ」
「騎士道の寄る辺、か」
「都に帰ったら痔の薬を探そう」
「だから違うと言ってるだろう!」
「ブオオォォォ!」
都に近くなって野衾をラドニウスに移す。
僕等は降りてラドニウスと歩いている。
「よしよし、もう少し頑張ってねー」
「ブオオオォォォ」
「折角馬車を借りたのに歩いて行くのか」
「大量の野衾をギルドに納品したらどうなる?」
「うーん」
「噂になる?」
「そうだ、アヤ。そして?」
「うーん」
「ギルドが門衛に確かめるかもしれませんね」
「そうだ、ルーラ。そして?」
「でも野衾を大量に持ち込んだ形跡は無い」
「そうだ、ジーナ。そして?」
「じゃぁ、あの冒険者はどうやって持ち込んだか考える」
「はっ!そうか、収納袋の存在を知られる!」
「僕等は潜伏している。一応ね。目立つのは避けたい」
「なるほど!」
「野衾で目立つじゃん」
「お金は必要だよ」
「そうね」
「この子は指立ちじゃないよね」
「そうだな、馬じゃなく象みたいな関節だし足の形も似てる、爪も複数あるしな」
「足は短いね」
「その分身体が大きいから歩幅もあって見た目ほど遅くは感じないね」
「草だけでこんなに大きくなるのは不思議だよね」
「骨格を見てみたいな。解体してみたい」
「ブオオォォォ!」
「痛てて」
「だから駄目だってば!」
「馬に噛まれてた理由が分かったわ」
夕方門限ギリギリで街に着いた。
門衛が驚きながらも検査を終え、門を潜る。
そのままウリク商会へ向かう。
オランドさんが対応に出て来た。
「おぉ!マルコさん!御無事でしたか!」
「えぇ、何とか。荷物はどうします?」
「倉庫の方へ行って貰えますか」
「分かりました」
「御一緒します」
オランドさんと倉庫区のウリク商会の倉庫へ入る。
「33匹ですか!凄いですね!」
「死にそうな目に遭いましたよ、大変でした」
「でしょうなぁ」
『・・・』
「代金は精算して後日、証明部位と魔石と御一緒にという事で宜しいでしょうか?」
「えぇ、構いません」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
「それでバリスタの件で進展が有りまして」
「おぉ」
「30万エナで入手出来ます」
「買います」
「はっはっは。分かりました」
「今お支払いしましょうか」
「その分早く入手出来るでしょう」
「ルーラ君!早く!」
「はっはっは」
「それでは後はよろしくお願いします」
「承りました。後日また声を掛けますのでお待ち下さい」
「今日はエウベルトさんは」
「公都を離れておりまして」
「やり手ですからねぇ」
「えぇ」
「よろしくお伝えください」
「承知致しました」
「では」
厩舎にラドニウスを返却し保証金を返してもらう。
宿に帰って食事を摂った。
部屋に5人で寛ぐ。
「明日は休みにしよう。美味い物でも食べに行こう」
『さんせーい!』
みんな思い思いの事をしている。
「まほうふよ、魔法付与か」
「そうだな、アヤ」
「こっちの人は魔術士の事を魔導士って言うよね?」
「あぁ。北では魔導士だな。南では魔術士だ」
「魔法使いでも良いの?」
「あぁ、ジーナ。魔法使いは何処でも通じる。魔導魔術士はその土地の職業的なものだから気にする必要は無い」
「へー」
「出来ました!」
「おっ、出来たか」
「はい。アヤ、どうぞ」
「私に?ありがとー!」
「うふふ。次はセラナさんですね」
「え、わ、私にも!?」
「えぇ」
「冷え性だから良かったじゃないか」
「いや、冷え性なのはいいが何か含んでいないか?」
「アヤ、被ってみろよ」
「うん!」
「僕も被るか」
「何で?」
「ジーナ君も被ったら?」
「だから何で?」
「「暖かーい」」
目出し帽はこの世界には無いのだろう、マヌイはキャッキャしている。
「はぁ~、仕方ないわね」
3人で見せ合って笑っている。
「セラナにもホイッスルを作るか」
「ほいっする?」
「笛だよ。警告用の」
「へー」
「そうね。結構うまくなってきたし。1度全部作り直すのもありじゃない?」
「そうだな。より遠くを目指して、か」
「・・・」
「どうした?セラナ」
「頼みが有る」
「何だ?痔の事なら誰にも言わないから安心しろ」
「違ーう!」
「どうした」
「・・・ソルスキアに着くまで私をパーティに入れてくれないか」
『!』
「いや、勿論駄目なら仕方ないんだ、忘れてくれ」
「理由を聞いてもいいかしら」
「あぁ。知ってる通り私は孤児だった。軍隊に入ってもパーティは組む事は有っても特別な関係を感じる事は無かった。殆ど男だったし、私を見る目つきもあってな。だからパーティの繋がりというものを感じた事が無い」
「軍人同士の繋がりって無かったのかい?」
「あいつ等相手には無かったな」
「ふむ」
「君達と接するうちに繋がりというものはこういう物なのかと思うようになった。家族ではないらしいが、それに近い」
『・・・』
「あの騎士みたいになるには、人との繋がりを知らなくてはいけないんじゃないか、そう思うようになったんだ」
「繋がりなんて、そんな特別なものじゃないぜ。普通に付き合ってたら芽生えるもんだよ」
「その普通を知りたいんだ。私の騎士道の為に」
「ふむ、ジーナ?」
「特別じゃなく普通なんだから教えてあげれば良いじゃない」
「ふむ、アヤ?」
「別に今更って感じだし」
「ふむ、ルーラ?」
「護衛依頼もし易いでしょうしね」
「分かった。腕を出せ」
「・・・良いのか?」
「そうだな、改めて誓って貰おう。前の契約に加えて僕等の情報は他言しない事。勿論僕等も君の情報は他言しない」
「あぁ、分かった誓おう。君達の情報は他言しない」
「破ったら?」
「破ったら・・・こ、この身が「はい、ストーップ!」」
「えー!」
「えー、じゃないわよ馬鹿!」
「あはは・・・」
「ほらっ!ちゃちゃっと登録しなさいよ!」
「はーい、登録」
ケセラ・カ 25才
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頑健Lv6、病気耐性Lv5、剣術Lv4、弓術Lv4、盾術Lv3、馬術Lv4
身体強化Lv3
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「《身体強化》だと!?」
「あ、あぁ。黙っててすまなかった」
「いや、謝る必要は無いよ。見ず知らずに話す方がおかしいんだ」
「《弓術》もあるのね」
「あぁ、エルフの特性スキルだ。盾役じゃない時は弓も扱える」
「固有スキルだね」
「しかし《頑健》さんも高いし《身体強化》もあるって事は、サーヤ君より力あるかもな」
「むむっ!」
「サーヤ?なるほど、私の2才上か」
「むむむっ!負けませんわ!」」
「《弓術》がLv5か。凄いな」
「負けませんよ!」
「私も見て良いよー」
「アヤ・・・は、マヌイ・・・か。2才下、と・・・!?風魔法!?」
「そうだよー」
「魔導士だったのか!」
「うん」
「今まで使わなかったのは・・・」
「魔術士って知られたら面倒ってのと、潜伏中だしね」
「そうか」
「でも、これからは依頼中は使って良いよね?」
「あぁ、大丈夫だ」
「楽になるわね」
「うん」
「そしてジーナは・・・キクチ・ミキ。なるほど黄色人種の一部族か」
「「!?」」
「この名前が分かるの?」
「あぁ、キクチが姓だろう?」
「えぇ!」
「たまに見るぞ。同じような名前は」
「そうなんだ」
「《弓術》に《掃除好き》?《クリーンアップ》って」
菊池君が僕を見る。
ウィンクしておく。
「えぇ。その通りよ」
「固有スキルか、なるほどやはり」
「さっ、明日は朝から観光だからもう寝るとするか」
「待ぁーてって」
「待ちなよカズ兄ぃ」
「そうですよ」
「カズ兄?カトウ・カズヒコ、なるほどカズ兄か。私より年下!?」
「驚く所か?」
「いや、うーん。まぁ?って、スキル2個!?はぁ!?」
「そうなるわよね」
「だよね」
「ですよね」
「どうした」
「いや、2個って!」
「あー!偏見ですぅ」
「な、え?」
「リーダーなのにスキル2個かよって今思ったろ」
「・・・思ってない」
「思った」
「思ってない」
「思った」
「思ってない」
「思ってない」
「思った」
「思ったんかーい!」
「うぅ!」
「まぁ、正面から戦わないっていうのは分かってもらえたかしら」
「そ、そうだな!はっきりとな!」
「異常って言ってた意味も分かったでしょ」
「そうだな!」
「ぷーい」
「しかし、よくこれで19人の騎士と戦おうとしたな」
「ふっ。そこは僕の魅力でだね」
「そろそろ寝るわよー」
「はーい。朝から観光だもんね」
「美味しい物食べましょう」
「うむ。依頼もこなしたしな」
「・・・ぐすっ」
スキル大全
《身体強化》
自己能力を大幅上昇させる。力は約1.5倍にもなる。
ただし制限時間が有り、Lv1で約30秒、Lv7では約1分の持続効果となる。
非常に有力なスキルだが但し、多量の魔力を1度に使う為、使用後は多大な疲労を伴う。
その所為でインターバルも有り連発は出来ない。
稀に持続時間が長い者が居るがどうやら魔力の扱いに長けた者の中にはそういう事も出来るらしい。
近接職には特に有用だが使い所を間違えれば使用後の疲労状態を狙われるので使い所の難しいスキルでもある。
幸せ家族計画にもこのスキルを使おうと考える者が居るがそれは女を分かっていない。
1分しか持たないよりも長時間持つ男の方がモテるのは頭を強化するまでも無く分かる事だ。




