⑨-15-204
⑨-15-204
翌日。
朝食を摂ろうと下に降りると宿員から言伝を受け取った。
《鍛冶》《土魔法》持ちの都合がついたので1度商会へ来て欲しいとの事。
食事後商会へ赴く。
「マルコさん、ようこそ」
「オランドさん、厄介をかけまして」
「いえいえ。どうぞ此方へ」
部屋に通される。
「人が見つかったので早速お知らせ致しました」
「ありがとうございます」
「どうされますか」
「依頼します」
「分かりました。私共は仲介という立場でして、依頼主はマルコさんという事になります。依頼料の方も」
「勿論僕達が支払います」
「承知しました。では早速御案内致しましょう」
「よろしく」
オランドさんに案内されて職人区画にやって来た。
ある工房に入る。
「こちらが工房主のッナッキャールトさんです」
「よう」
「んな・・・」
「ッナッキャールト。カルトでいいぞ」
俺よりも大きなドワーフだ。
「カルトさん。今日はよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそな」
「お二方、私はこれで」
「おうよ」
「オランドさん、お世話になりました」
「それで。技を盗みてぇってのはあんたかい」
「はい。冒険者家業が辛くなってきまして」
「ハーレムパーティじゃねぇか、羨ましいねぇ」
「維持するにも金が掛かるんですよ」
「はっはっは。なるほど。単なるガキじゃねぇってか。場数踏んでるね」
「作っていただけますか」
「図面は持ってるのかい?」
「えぇ。これです」
「ふーむ。これは何だ?」
「食事用の竈です」
「ふーん。窯を作るって聞いてたが」
「いきなり作るより先ず簡単な物からと思いまして」
「ふふん。先ずは腕前を見ようってか」
「いきなり大金を掛けるような冒険はしたくないんですよ」
「冒険者のくせにかい?はーはっはっは」
「どうでしょう」
「気に入った。いいぜ。作ってやる」
「おぉ!ありがとうございます」
「直ぐ作るかい?」
「あ、もう1つお願いが」
「何だ?」
「造った物を他人に喋ったりしないという契約を交わしていただけませんか」
「ほほー。用心深いね」
「それで今まで生き長らえてきました」
「なるほどねぇ。分かるぜ。あんたや女達の装備。上着を着てるが中は金掛かってるね。体型が表れてるって事はオーダーメイドだ。武器も普通見ねぇしろもんだ」
『・・・』
「さっきの安い挑発も”受け流し”てたな。良いだろう。契約を交わそう」
「ありがとうございます」
「ただ魔導ペンとインクを借りる為にギルドへ行かねぇと・・・ん?」
「この通り用意していますのでご心配なく」
「へっ。ホントに冒険者かよ」
造った物の口外を禁止する契約を、昨日買った魔導具のペンとインクを早速使って交わす。
「よし!じゃぁ早速作るか。見ていくんだろ?」
「お願い出来ますか」
「そういう紹介だったからな。遠慮すんな」
「ありがとうございます」
「物は小さくて簡単だが変な形してるな」
「えぇ。なので契約なんですよ」
「ほー」
カルトは耐火煉瓦を積み重ねて形を作る。
そして、
「《イマジネートアース》!」
形作られた物が成形されていく。
「ほぉー!凄いですねぇ!」
「そうかい」
「土から作ることは出来ないんですか」
「莫大な魔力と時間が必要だな」
「ほほー」
「成形してるようだが煉瓦それぞれの結び付きを強めた結果、均されていく訳だ」
「なるほど。同じ事を金属では出来ます?」
「そこに《鍛冶》が必要って訳よ」
「なるほど!」
「では同じ物を金属で作れますか?」
「あぁ。耐火でって事だな?」
「その通りです。持って帰れるように極力薄くしたいのですが」
「まぁ、その辺のさじ加減は任せて貰おうか」
「お任せします」
「よっしゃ」
今度は金属で同じ構造の物を作った。
先程よりは時間も魔力も必要だったのだろう、汗ばんでいるようだ。
「どうかな」
「図面通りですね。流石です」
「はっはっは。口も上手いね」
「持って帰って使ってみます。都合が良ければまた作っていただきたいのですが」
「あぁ、俺も面白かったからな。明日の午前中なら空いてるぜ」
「分かりました。では今日の分の支払いを」
「あぁ。材料代、授業料込みで5000エナってところか」
「分かりました。ではこれで・・・またよろしくお願いします」
「あぁ、確かに。またな」
2つの竈を工房から5人で運んで外に出て人気の無い所で収納袋に入れた。
「なぁに、これ」
「ロケットストーブだ」
「ロケットストーブ?凄そうな名前ね」
「ストーブなんだ。変な形してたね」
「街外で試してみるか」
「ケセラさんの装備が有りませんわ」
「おっと、そうだったな」
「宿の庭を貸してもらえば?」
「そうしよう」
宿員に交渉し裏庭を貸してもらえることになった。
ロケットストーブを用意する。
「へー、確かにストーブね」
「結構火力が凄くない?」
「少ない燃料で高い温度が出るんだ」
「へー」
「確かに今までのより暖かいですね」
「調理にも使えるな、これは」
「実験は成功って所かしら?」
「あぁ。よーし、部屋に帰って図面を書かないと」
「あー、まだ作るんだっけ」
「あぁ。そうだ、ケセラ」
「うん?」
「すまないが明日の午前中はカルトの所に行くから装備を取りに行けない」
「あぁ、気にしないでくれ。午後で構わない」
「すまんね」
まだ昼くらいだった為、食事後5人全員部屋に集まっている。
俺は図面を引いていた、
菊池君は楽器の練習を、
マヌイとケセラは本を読み、
サーヤ君は防寒マスクを作っていた。
「セラナ姉ぇ。これなんて読むの?」
「うん、《ほうこう(咆哮)》だな」
「これがほうこうか」
「アヤは本が好きだな」
「うん。今まであんまり読んだこと無かったから」
「そうか。確かにこれだけの高価な本は軍でも揃えていないぞ」
「そうなの?」
「あぁ。私の所属している隊では無かったな」
「出来ました!」
「おっ、出来たか」
「はい!」
「ジーナ姉ぇの防寒マスクだね」
「えぇ、うれしいわ。ありがとね、ルーラ」
「はい!次はアヤのね」
「・・・うん」
「どうした」
「・・・私もバックパック作んないとって」
「焦らなくて良いんだぞ」
「うん。分かってるんだけどね。急いちゃって・・・」
「何でもやろうとしなくていいんだ。このパーティだってそうだろ」
「え」
「セラナが入る前は3人射手で僕が盾役だった。バランスが悪かっただろ」
「うん」
「セラナが盾役をやってくれて狼の時はうまくいっただろ」
「そうだったね」
「みんなそれぞれ役割が有るんだ。1人で何でもしなくていいんだ。少しずつやっていけばいい」
「うん」
「字を覚えるのは大事な事だ。行商をやっていくんだからな」
「うん」
「好きな人が出来たらラブレターの1つも書けないだろ」
「ブフー!もう!マル兄ぃ!」
「しかしマルコはホントに22才か、もっと上に感じるが」
「ホントだぞ。冒険者になってまだ1年半くらいだし」
「・・・は?」
「ん?」
「冒険者になって1年半?」
「あぁ。ジーナ君もな」
「一緒になったのよ」
「1年半でどうやって20人の騎士を倒したり大金を稼げるんだ!?」
「うーん。まぁ、それは私達4人で頑張ってきた成果だけど。この人が異常なのは確かね」
「うん。異常だね」
「異常ですわ」
「ぐすん」




