⑨-13-202
⑨-13-202
翌朝から観光を始めた。
「まぁ、先ずは中央広場だよなぁ」
「そうよね」
「気になるよー」
「はい」
「はっはっは。楽しみにしてくれ」
メインストリートを街の中央に進む。
すると家屋の屋根越しに何やら見える物が有る。
「何だ、家からじゃなくその奥のが見えてるのか」
「ここから見えてるって、凄いわね」
「早く行ってみようよー」
「そうだな」
足早に中央広場に向かう。
道の先は開けた広場になっていてかなりの空間が広がっていた。
開放感が半端ない。
そして南側を見ると・・・
「なっ、何だありゃー!?」
巨大な象が2体、向かい合って後ろ足で土台から立ち上がり鼻を伸ばしている。
その鼻を台にして人型の像が立っていた。
「建国王こと、イスカンダル1世だ」
「あれが・・・」
「おっきい・・・」
「はぁ・・・」
象は20mはあるだろう。
更にその上に立つ人物も合わせて30mは有るのではないか。
象には人が乗れるように鞍が取り付けられ、鞍の下に絨毯のような布も有る。
顔も装飾品が付けられて鮮やかに彩っていた。
人物像もそれに負けず劣らず装飾品を付けている。
「凱旋門だ」
『凱旋門!?』
「うむ。北部との戦争に勝利した記念に造った物だ」
「確かに下を人が通ってるわね」
「建国王は何か指さしてるね」
「差す先は・・・」
「王城か・・・」
指先を追っていくと巨大な建造物が見える。
開かれた空間を南北に縦断する広い道の北端には城がそびえていた。
「王城というよりも北部を指しているらしい」
「像は他の街でも見たな」
「あぁ。その通りだ。建国王を祀って建てられている」
「はぁー、それにしてもでっかいなぁー」
「はっはっは。知らずに見た方が楽しめると思ってね」
「えぇ、楽しめたわ」
「マヤ、近くまで行ってみようぜ」
「うん!」
凱旋門を下から見上げる。
『はぁ~』
周りも僕達と同じ様な反応の人達がいる。
「いや、それにしてもバランス良く立ってるな」
「なんでも、土魔法で仕上げていったとか」
「土魔法!ほぉ~」
「でも少し幻滅かな」
「む。建国王にか?」
「あぁ」
「何故だ」
「こんな物作るならもっと金かける所あるだろう、って」
「あぁ。建国王が建てたのではない。死後建てられたのだ」
「!やっぱりな!」
「いや、今まで疑ってたじゃん!」
「王城も見たいな」
「マヤ、残念だが一般にはある程度の距離までしか近づく事は許されていないのだ」
「そっか」
「まぁ、その距離まで行って見ようぜ。折角公都に来たんだしさ」
「うん!」
「はい!」
王城に向かい、ある程度の距離から城を見る。
城門が有り城壁も有る。
城壁の内側は城だけじゃなく色んな建物も有るようだ。
城壁は街壁と異なりそれ程の高さは無いので城も見えた。
年季の入った色で重厚な城だった。
俺や菊池君は前世でも同じようなのを見た事もあり反応はそれ程だったが、マヌイとサーヤ君は興味津々で見ていた。
中央広場は観光客だろう結構な人達が居た。
「城の前にこんな広場が有るなんて、ある意味危険じゃないのか?」
「建国王が整備したのさ」
「ほう」
「より身近に感じられるようにと」
「さっすが奴隷王」
「でもやっぱり護衛の兵達がいるね」
「それは仕方ないだろう。なんたって王城だからな」
「ふーん」
「いや、確かに自慢するだけはあるよ。他の2国の都には行ったこと無いけど」
「はっはっは。そうだろうな。私も騎士として来た時は度肝を抜かれた」
「マヤもマーラ君も、土産話が出来たな」
「うん!」
「はい!」
「さー、結構見て回ったから昼にもなったし食事にするか」
『さーんせーい!』
食事をしている時、ケセラは現在の境遇を忘れたかの様に楽しんでいた。
初めてではないとはいえ、凱旋門を見て心に少し余裕が出来たのだろう。
マヌイとサーヤ君と感想を言い合っている。
午後はあらかじめ宿員に聞いていた武器防具屋に向かった。
「マルコです」
「あぁ、聞いてるぜ。ゆっくりしていってくんな」
「ども」
「じゃぁ、マヤの弓とケセラの装備を下取りに出して新調しよう」
「私のも?」
「あぁ。良いのを選べよ」
「分かった!」
「ルーラ君の弓も良いのを選べよ」
「はい!」
「マリア君はどうする?」
「そうねー、特に不満は無いし、手に馴染んでるし、要らないわ」
「そうか」
3人は各々装備を選んでいる。
「プレートアーマーをどうするかなぁ」
「19人の?」
「ケセラのも合わせると20人分だね」
「売る訳にはいかないしね」
「あぁ」
「どうしたぃ?」
「え、あ、あぁ。要らない装備をどうしようかなって」
「売ってくれれば少し色を付けるぜ」
「あ、いや、売れないんですよねぇ」
「・・・ははーん、そういう事か」
「え?」
「オランドさんから悪い奴じゃないって言われてるし、女4人連れだしな。いわく有りって訳だ」
「えぇ、まぁ・・・」
「そういう冒険者はタマにいるぜ。知られずに処理するんなら自分で窯作って溶かしてインゴッドにするとかな!がはははは!」
「窯を作る!?」
「ん?あぁ、ここは公都だからな。《鍛冶》《土魔法》持ちが居るから他の街に行って作るよりは早く出来るって・・・何だ本気にしてんのか?」
「結構本気です」
「・・・まぁ、隣のベオグランデから良質の鉱石や宝石が輸入されてるからそういった関係も盛んなんだよ。人は居るぜ」
「紹介してくれませんか」
「それはオランドさんに言った方が良いな。あの人を通して発注してたから」
「なるほど」
「発注する気?」
「あぁ」
「収支マイナスになるんじゃない?」
「多分な」
「メリットがあるって?」
「移動型の窯を作れないかと思って」
「移動型!?・・・収納袋で?」
「あぁ」
「確かに結構袋口広いけど窯は入らないんじゃない?」
「小型で」
「うーん」
「ママァ~買って買ってぇ~」
「誰がママだ、誰が!」
「他に鏃とか剣の柄とか、色々自給自足出来る可能性が有るぞ」
「・・・そうね。分かったわ、試してみましょ」
「ありがと~ママァ~」
「おっらぁ!」
マヌイとサーヤ君はもう品を決めたがケセラが商品を前にして悩んでいるようだ。
「どうした?」
「あ、い、いや」
「気に入ったのか」
「い、いや、別に」
「高いから気にしてるのか」
「・・・」
「おやっさん!高いほど性能は良いのか?」
「ウリク商会はボッたりしねぇよ。値段の高さが性能の高さだ」
「じゃぁ納得出来るのを買え、それが僕達の値段だ」
「・・・分かった。ありがとう」
「じゃぁ、これ下さい」
「あいよ!下取りと合わせて100万エナだね」
「ひゃ、100万エナ!?」
「ルーラ君、よろしく」
「はい」
「おう・・・一括か。流石だねぇ」
「分割も出来るんですか?」
「オランドさんの紹介だとそういうのも有るかと思ってたんだよ」
「なるほど」
「弓と防具を個人用に調整をして頂けるかしら?」
「あぁ、勿論だぜ。ただ姉ちゃん、胸がな・・・採寸しねぇと」
「手伝いましょ「おらっ」うぅぅぅ」
「はっはっは。俺のかあちゃんがいるから安心してくんな。ただ・・・やっぱり胸だけ面積が多くなるから胸だけ作り直しだな。少々時間掛かるぜ」
「どのくらい?」
「2日ほど」
「えぇ、構いませんわ」
「分かった」
その後、採寸を終え弓の調整をしてウリク商会へ向かう。
オランドさんを呼ぶ。
「あぁ、マルコさん。丁度良かった。狼の証明部位と魔石を御用意致しております」
「あぁ、ではついでに話を聞いていただきたい事が有りまして」
「分かりました。どうぞ此方へ」
応接室に案内される。
「先ずはこちらをお渡しします」
証明部位と魔石を受け取る。
「それと狼の買取金です。1匹3000エナ、11匹で3万3000エナです」
「これは相場通り?」
「いえ。多少色を付けさせて頂いております」
「相場通りでお願いします」
「いえいえ。こちらも1度お出しした手前、戻す事は出来ません。お受け取り下さい」
「・・・分かりました。エウベルトさんによろしくお伝えください」
「承知致しました」
「それでお話と言うのはバリスタの件でしょうか。そちらでしたらまだ・・・」
「いえ、別件で」
「はぁ」
「《鍛冶》《土魔法》持ちの職人を紹介してもらいたくて」
「ほほぉ。理由を伺っても?」
「えぇ。僕達は今は冒険者ですがいつ怪我を負って引退するかも分かりません」
「なるほど」
「その時の為に今から手に職を、手にスキルを持っていたくて」
「やり方を見る、と」
「えぇ。実際に作ってもらった物は冒険にも使う予定ですし」
「一石二鳥と、なるほど」
「いかがでしょう」
「分かりました。紹介致しましょう」
「ありがとうございます」
「ただ職人ギルドに依頼を出さねばなりませんので少々お時間を頂きます」
「ウリク商会に所属していないんですか」
「私共は中規模ですので、もっと大きな商会であれば」
「ほほー」
「独立して自分でやっていく職人も公都には多いのですよ」
「なるほど」
「独立しても経営の煩わしさが嫌で商会に所属する一流も居りますね」
「なるほど。元冒険者に多そうですね」
「はっはっは。そうですね。マルコさんもスキルを習得されたら是非私共への所属を考えてみて下さい」
「あ、はは・・・はい」
「「「ぷっ」」」