⑨-08-197
⑨-08-197
ベルバキアに入って最初の街には寄らず2番目の街の近く迄まで来た。
「だ、大丈夫だろうか」
「殺した騎士達が昨日基地に戻る予定だったとしても、いきなり他国に捜索は出さないだろう。大丈夫だ」
「あ、あぁ」
「髪型似合ってるよ」
「そ、そうか」
「マリア君がやってくれたのかい?」
「そうよ。騎士には見えないでしょう」
「あぁ。町娘って感じだね」
「こんな装備をしてるのにか?」
「街外に出るんだ、そのくらいはするだろうよ」
「そ、そんなもんか」
「庶民の感覚は庶民に任せなさい」
「い、いや、私も庶民の出だが」
「夜は寒くないかな?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
「1人用テントですまないね」
「いや、当然の事だ。気にしないでくれ」
「詰めれば5人ギリギリ寝られるかな」
「いや、気にしないでくれ」
「君の胸を枕にすれば寝られ「くぅおら!」るっふぅ!」
「気にしないでね」
「う、うむ。しかしあの寝袋は暖かいな」
「マジックアイテムだからね」
「収納袋といい、その兜もマジックアイテムだろう?」
「えぇ」
「いやはや、まだ若いのに・・・」
「若くても出来る人はいるし、年をとっても無能な人はいるわ」
「そうだな」
「・・・ぐふっ、君の能力もこれからだよ」
「あ、ありがとう」
「人々を守る騎士になってね」
「ありがとう、マヤ」
「でも、街へは大丈夫でしょうか」
「装備は騎士の物は着用してないから大丈夫でしょ」
「身体検査って言っても手配書の顔か禁制品を調べるくらいだしねぇ」
「靴なんかも街で買った物だし上着は・・・マーラ君のでも入らなかったくらいだから、懸念が有るとすればそこか」
「何でそこなのよ!」
「いや、もし捜索する時に身体的特徴を言うのであればおっぱぶぅあ!」
「気にしないでね、ケセラ」
「う、うむ」
「ぐ、ぐふっ」
門衛と話をする。
辺境だからか、街に入る行列は殆ど無いに等しい。
ケセラは緊張した顔つきだった。
身体検査もそうだったのだろう。
しかし入団したばかりの初期装備のパーティメンバーという肩書で門衛は納得していたようだ。
無事に街に入れてホッとしている。
「ふうぅ・・・」
「ふふ。お疲れ様」
「あぁ、ありがとう」
「マコ兄ぃ、これからどうするの?」
「宿を探そう。その後にケセラの装備を買いに行く」
「「「りょうかーい」」」
残念ながら風呂を備えている宿は無かったので公衆浴場に近い宿を取った。
部屋でバックパックを収納袋に入れ、大きなバッグを空にして背負って街中に繰り出す。
武器防具屋に入って品を見る。
「とりあえずケセラが使いたい物を選んでくれ」
「いや、私は安いので十分だ」
「なに」
「な、何か気に障ったか」
「つまり僕等の命は安いと言いたいのか」
「いや!違う、すまない」
「じゃぁ、君が僕等を守るのに使える装備を選んでくれ」
「分かった、すまない。ありがとう」
「マコ兄ぃ、矢も補充しとくね」
「あぁ、頼むよ」
「うん。一緒に選んで」
「分かった」
俺はマヌイの方へ向かった。
「ごめんなさいね。あの人、気を使うのも気を使われるのも嫌な人なの」
「いや、私も考えが至らなかった」
「騎士に復帰するにしても、先ずは生き残らなければいけませんよ」
「そうだな」
「戦闘では敵は気を使ってくれませんから」
「あぁ」
ケセラはプレートメイル一式を選んでいた。
「うーん」
「どうしたの」
「着慣れた物が良いってのも分かるが」
「あぁ、そう思って選んだのだが」
「仮に捜索隊がこの街に来てこの店に来て君に似た人が何を買ったか聞いたとすると・・・」
「なるほど。着慣れた物を買ったと思われると」
「あぁ」
「では革鎧にしよう」
「それが良いだろうなぁ。プレートアーマーは公都に行って買おう」
「念には念を、ね」
「そうだね」
「盾は中盾か」
「あぁ。使い慣れてるのだが」
「騎士団特製じゃないし、良いんじゃないかな」
「えぇ。ありふれた物のようだしね」
「武器もそんな感じ?」
「うむ。扱いなれた片手剣の上質な物だ」
「うん、良いんじゃないかな」
「じゃぁ、買いましょうか」
「予備でもう1つ、防具を買うか」
「「「「もう1つ?」」」」
「店主さーん、ビキニアーマー有りますー?」
「コラァ!」
宿に帰る途中、冒険者ギルドに寄ろうと思ったが断念した。
少し臭かったのだ。
「臭いのは嫌ね」
「駄目だー」
「嫌ですわ」
「あの程度だと軍隊では許容範囲なのだが」
「僕等は冒険者だからね」
「うん?」
「臭いに敏感な魔物とかだと危ないだろ」
「なるほど!」
「タバコとかアルコールとか、わざわざ自分の存在を知らせてるようなものだがなぁ」
「冒険者は命を懸けてるからそういう物で紛らすんじゃない?」
「ストレス発散ね」
「ストレス発散で仕事の危険度を上げる必要は無いと思うがなぁ」
「本末転倒ですわ」
「ストレス発散は大事だけど、発散を理由にして甘えてるようにも思えるしね」
「そう言えば君達は酒もタバコもやらないな」
「僕とマリン君は元々嗜まないしね」
「えぇ」
「あたしもだよー」
「私もです」
「ケセラは別に僕等に合わせなくていいぞ」
「いや、私もエルフだからかヒト族のには興味がない」
「エルフのお酒やタバコも有るの?」
「あぁ。ただヒト族のみたいに悪酔いはしない物だ。タバコは無いな」
「先輩?」
「あぁ。酒は自然発酵に近い物なんだろう。タバコも虫除けや殺虫剤として効果が有るからエルフも吸わないんだろう」
「「「「殺虫剤!?」」」」
「僕の故郷では、元々虫除けで燻しててそのまま中毒になったのが始まりって話もあるね」
「そんなもの吸ってるの!?」
「赤ん坊が誤飲すると非常に危険だから、マヤも結婚したら気を付けるんだぞ」
「ブフー!」
宿に帰って4人部屋で5人で食事を摂る。
「1人の時間も必要と思って1人部屋にしたけど、構わなかったかい?」
「あぁ、そうだな。1人の時間が必要だろう。気に掛けて貰ってすまない」
「お風呂は無いけど広いから5人でも食事は出来るわね」
「持ち帰りだから作らなくて良いしね」
「そうね、ゆっくりしましょう」
「先ずは、今日はしっかり食べて、しっかり銭湯に入って、しっかり屁」
「しっかり寝ましょうねー」
「「はーい」」
「・・・ケセラ」
「うん?」
「これから向かう公都について聞かせてくれるかな」
「うーん、そうだな。ベルバキア公国公都ムルキア。奴隷王ことイスカンダル1世が建国したアレクサンドリアの王都だったが、建国前から歴代国の首都でもあった為、歴史は古い」
「アレクサンドリア・・・」
「そうだ。故にルンバキア公国、ベルバキア、ベオグランデはアレク3国とも言われる」
「歴史も有るってなると、人も多いんだろうねぇ」
「あぁ。私も1度しか行ったことは無いんだが多いと聞いている。ルンバキア公都よりも多いとね」
「行商みたいな事やってみる?」
「行商でも商人達と取引するなら商人ギルドに入らないといけないらしいぞ」
「まぁ、そうよね。信用無いもんねぇ」
「個人的に商人に売るのも駄目なのかい?」
「それは良いだろうが・・・余程信用されてないと、な」
「そうだよねぇ」
「都だと競争が激しそうですから信用を得るのも難しいかもしれませんわ」
「露店も無理かな」
「ギルドの証明無くば、しょっぴかれるだろうな」
「うーん」
「君達ほどの財力が有れば商人ギルドに入る事も可能なのではないかな?」
「今まで言ってなかったんだけどね」
「うん?」
「私達街毎に名前変えてるのよ」
「何!?」
「別に悪い事をしてきた訳じゃーないよー」
「悪い事をされることは有っても、ですね」
「男1人、女3人の旅だとね」
「なるほど」
「彼女達の実力は知ってるだろう?ある程度の依頼はこなせるんだが、それに目を付ける不届き者がいるんだよ」
「なるほど。そういう時にマコルはどうするんだ?」
「挑発するのさ」
「むむむ」
「あー、今偏見の目で見たよね」
「見てない」
「見た」
「見てない」
「見た」
「見てない」
「見てない」
「見た」
「見たんかい!」
「うぅっ!」
「それじゃぁ行商品買うのは止めるかぁ」
「公都周辺にいない魔物素材を冒険者ギルドに売るって手もあるな」
「あー、少し値段が上がるんだっけ」
「確かそんな事聞いたような・・・」
「でもどっちにしろ収納袋前提だよね。バレないかな」
「そうだな」
「そこはほら、1度に全部売るんじゃなくて日を変えて捌いていくって手もあるわ」
「そうですね」
「それでも近隣だと魔物分布も似たようなものだろうから結構離れた土地に持って行かないと利益は出ないだろうな」
「「「「うーん」」」」
「お金儲けは難しいねぇ」
「ホントね」
「依頼を熟せば良いではないか」
「えぇー。危険はやだなぁ」
「いや、今更?」
「まぁ、今はデータを取っていってるし、本格的な商業活動はもっと後だなぁ」
「データ?」
「各街の特産や魔物分布や魔物買取額、諸々ね」
「な、なんとまぁ・・・」
「世界を周るからねー」
「行商には必要な事ですわ」
「しかし観光という意味でもムルキアは注目だな」
「奴隷王の都だもんね」
「都っていうのも、あたし初めて」
「私もよ」
「僕もだな」
「そうね。楽しみね」