⑨-06-195
⑨-06-195
「じゃぁ、どうだろうか」
「うん?」
「僕達の護衛依頼を頼みたい」
「護衛依頼?」
「あぁ」
「しかし君達は19人を相手に戦っている。護衛など必要無いだろう」
「報酬は君の衣食住の代金を持とう」
「あっ」
「装備も、プレートメイルは着られないだろうからこちらで準備しよう」
「そ、そうだった」
「僕等は冒険者だ。道中の依頼の報酬は勿論分割して君にも払う」
「い、いや。その報酬は受け取れない。君達で分けてくれ」
「なら、この提案は無しだ」
「えっ」
「金周りは自分で何とかしてくれ」
「あ、うぅ」
「僕等の依頼は僕等の依頼、ギルドの依頼はギルドの依頼。報酬は別だ」
「わ、分かった。そうしてくれ」
「じゃ、そゆ事で」
「あ、ありがとう」
「ルンバキアで財産は無かったの?」
「あぁ。殆ど装備や孤児院に寄付していたからめぼしい物はない」
「じゃぁ。飯も食い終わったし。区切りを付けるか」
「区切り?」
「名誉回復だよ」
「あっ、あぁ・・・」
「どうする?嫌なら僕が処分するが」
「・・・いや、自分の事だ。私がする」
「そうか。こっちだ」
近くに転がっている隊長を見下ろす。
「ブルブル震えてるわね」
「一応他の連中から剥ぎ取った服とかを被せておいたけど」
「たす・・・けて・・・」
「1人の女を19人で襲う連中に憐憫の情など湧かんな」
「そうだね」
「そうですわ」
「どうする?目の前にして無理そうなら僕がやっておくが」
「・・・いや」
スラッ
剣を抜いた。
「この男と共に公国との繋がりも断ち切る」
「ま、待って・・・たす・・・」
柄を逆手に両手で持ち頭上に掲げるように少し静止した後、
ズン
男の胸に突き刺した。
「後は僕が処理しておく。君は休んでおけ」
「・・・いや、しかし」
「明日出発する。休んでおけ」
「・・・分かった。感謝する」
「気にするな」
ケセラは焚火に帰って行った。
「大丈夫そうだな」
「そうね」
「騎士だから強いね」
「関係無いさ。騎士でもこいつ等みたいにケダモノに成り下がる奴もいる」
「本人次第ね」
「マヌイは成長してる、あなたも強いのよ」
「サーヤ姉ぇ」
「サーヤ君。遺体を収納袋に」
「はい」
「どうするの?」
「明日出発する時にまとめて捨てて行く。魔物が処理してくれるだろう」
「死体も見つからず、装備も見つからず、謎のままって訳ね」
「あぁ。死体から服を全部剥ぎ取るの手伝ってくれ。服は焚火に入れちまおう」
「護衛はよろしかったんですか」
「信用出来そうだとは思うが」
「私もそう思うよ」
「話した限り、大丈夫そうかな」
「共に旅をするのなら収納袋は・・・」
「そうだな。折りを見て話そう」
その夜、隣のテントからはすすり泣く音が聞こえていた。
俺は寝る前のいつもの《魔力検知》《魔力操作》の訓練を終えて眠りについた。
光が・・・広がっていた。
不思議と眩しくはない。
光の中から陰が広がっていき、やがて人の形になる。
陰は俺を覗き込んでいるようだ。
どうやら俺は横になってるらしい。
「~~~~~・・・」
歌が・・・聞こえる。
歌が・・・どこかで聞いたような・・・
どこか・・・安心するような・・・
懐かしい・・・感じが・・・
「先輩!」
「はっ」
俺は目を覚ました。
朝なのだろう、陽光がテント越しに辺りに影を作っている。
パシッ
菊池君に頬を両手で挟まれた。
「大丈夫そうね」
「カズ兄ぃ」
「カズヒコ様」
「大丈夫だ。少し寝過ごしたな」
「ホントに大丈夫?」
「あぁ。ホントに大丈夫だ」
「「「じとー」」」
「大丈夫だ」
「・・・まぁ。《隠蔽》は使ってないようだし」
「もう隠しちゃ駄目だよ!」
「そうですよ!」
「はっはっは。子供に心配されるとはな」
「ブヒー!子供じゃないし!」
「違いますよ!」
「じゃぁ飯の準備を任せようかな」
「いいよ!」
「分かりました!」
「頼んだ。彼女は?」
「まだ寝てるみたいね」
「寝かせてやろう」
「えぇ・・・」
騎士達の服を焚火に入れる。
「結構煙が出るんだね」
「汗とかの水分があるからな」
その焚火とは別に食事用の焚火を作った。
食事の用意をしている内に片付けられる物は片付けておく。
「すまない。寝すぎてしまった」
「構わないよ。さぁ、飯にしよう」
「ありがとう」
「食べながら聞いてくれ」
「うん」
「今後の予定だが僕達はベルバキア公国公都に向かう。この辺は君の方が詳しいだろう。案内を頼みたい」
「分かった。任せてくれ」
「ルンバキア公国の騎士という事でベルバキア公国公都に行くのは支障が有るかな?」
「恐らく大丈夫だと思う。女エルフの騎士として知られてはいるが他国にまで顔を知られてる程ではない」
「それは街の商人でも大丈夫という事で良いかい?」
「あぁ。商人と接する役でもなかったから大丈夫だ」
「よし、じゃぁ予定通り公都に向かおう」
「分かった」
「馬なんだが・・・」
「あ、そうだな」
「開放しても大丈夫だろうか」
「うむ。人の居る所に帰るよう飼育されてる。近くの街に向かうだろう」
「そうか、良かった」
「売れないかな?」
「官馬の焼印があった。無理だな」
「そうだ。焼印のある馬を売ったら根掘り葉掘り聞かれるだろう」
「そっかー」
「でも馬具は良いかもな」
「馬具?」
「鞍とか鐙とか」
「全部取っちゃうと怪しいんじゃない?」
「じゃぁ、人数分と予備と、6匹から取ろう。それだと「そんなもんかな」と思うだろう」
「そうね、良いんじゃない」
「うむ。大丈夫だろう」
「馬の扱いは任せたよ」
「分かった」
食事を終えてケセラは馬の方へ向かった。
僕達はその間に片付けを終える。
ケセラが馬具を担いで戻って来た。
「むっ。結構大きなテントだと思ったがコンパクトに仕舞えるのだな」
「ケセラ」
「あぁ」
「僕達は君を信用した」
「む」
「しかし君がもし裏切った場合、僕等は君を許さない」
「・・・分かった」
「パーティメンバーを傷付ける様な事が有った場合、楽には死なせない」
「・・・部隊長の体を見れば納得だ」
「しかし約束を守るなら僕等も君を守るだろう」
「分かった。私も、君達を傷付ける事が有れば、この身がどうなっても構わない」
「・・・この身がどうなっても構わない?」
「?・・・う、うむ。そう言ったが」
「この身がどうなっても「オラァ!」」
「胸を見ながら言うんじゃない!胸を!」
「もう!マコ兄ぃったら」
「マコルさん!」
「あはは・・・」
「おほっ、では。そんな君を信用して僕等の秘密を見せる」
「秘密?」
「マーラ君。1人用テントを」
「はい」
「テント?」
収納袋から1人用テントを取りだす。
「なっ!その小さな袋からそのテントがっ!?」
「そうだ」
「はっ!そうか!収納袋か!」
「その通りだ」
「なるほど!4人用テントもその中に!」
「そういう事だ」
「道理で食事が豪華だと思ったんだ、荷物の割に」
「うちの子供達はグルメでね、はっはっは」
「子供じゃないー!」
「違います!」
「あはは。君も若いだろう」
「君の装備は収納袋に納めさせてもらう」
「む?」
「君の武器や防具は官製かい?」
「あぁ。ルンバキア公国の装・・・そうか」
「そうだ。街に入る時や国境警備騎士に誰何された時に困る」
「そうだな。しかしそれだと困ったな」
「日中は無理だが夜なら大丈夫だ」
「では夜番で着るようにしよう」
「そうしてくれ。新しいのは街で買う。それまで日中は護衛の仕事はしなくて良い」
「すまない。そうしてくれ」
「分かった」
裸の19体を収納袋から放り出す。
「ゾンビにならんように首を切断しておこう」
「「「「了解」」」」
出発する。
ケセラが振り向いて野営地を肩越しに見る。
「お別れを言うかい?」
「・・・いや。いい」
ケセラは寂しげな表情で顔を戻した。
明確な国境線というものはない。
森が深く広いこの世界、更に魔物の脅威により街壁に囲まれた街を中心とした点同士の繋がりが国なのだ。
実質ここが、彼女の国境となった。