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HappyHunting♡  作者: 六郎
第9章 轍 (公都ムルキア:マルコ、ジーナ、ルーラ、アヤ)
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⑨-05-194

⑨-05-194




食事を作っていた。

昼の、だ。

眠り毒が効いてるらしい。


「あっ、なっ、何だ!?」

「寝袋に戸惑ってるようだ、助けてやってくれ」

「「「はーい」」」


ケセラがテントから出て来た。


「おはよう」

「お、おはよう」

「よく眠れたようだね」

「むぅ、こんな状況でよく眠れたものだと自分でも驚いてるくらいだ」

「若いって事さ、気にするな」

「うーむ」

「飯を食おう、座ってくれ」

「・・・すまない。馳走になる」


「今日はここでもう1泊しようと思ってる」

「えっ」

「ゆっくり考えると良い」

「・・・すまない」

「国境騎士団の基地へは今日戻る予定だったのかい?」

「いや。まだ大丈夫だ」

「そうか、ならいい」

「あぁ」

「馬が有るようだが」

「そ、そうだ」

「荷物は僕等が貰って行くが」

「そ、そうだな。その方が良いだろう」

「良い天気だ」

「そ、そうか?」


昨日と同じ様にどんよりと曇っている。


「雲の動きがね、面白い。次どうなるんだろうって」

「そ、そうか」

「雨は嫌いかな?」

「好きではないな」

「僕は好きだ」

「へぇ」

「水が無ければ生きていけないだろう?恵みの雨だ」

「まぁ、な」

「たまに嵐になって大変な時もあるが」

「旅をしていたらそうだろうな」

「嵐から逃げれば良いだけだ。というか逃げるしかない、自然相手ではどうしようもないからね」

「・・・」

「どうしようもないから逃げる、当然の事だな」

「自然相手ではそうだろう」

「人間相手でもさ。そうやってここまで生き延びて来た」

「・・・」

「死んでも守るべきものがある、守るべき道がある。そういう生き方もあるってのは知ってるつもりだよ」

「・・・」

「しかし、生きていれば恩人に感謝を伝える機会が、仇に復讐を遂げる機会が、幸せになる機会が、訪れるのを待つっていう生き方もある」

「・・・」

「おかわりは?」

「・・・いや、いい」

「食べておけって、若いんだろ?」

「いや、君に言われてもな」

「・・・まぁな」


「食べたら横になると良い。寝袋の使い方は彼女達に聞いてくれ」

「あぁ、ありがとう」

「雨降らなきゃいいけどな」

「好きって言ったばっかじゃない」

「野営中は勘弁して欲しい」

「我儘ね」

「人間だからね」




夕方になった。

あれからケセラはテントに籠ったままだ。

馬は木に繋がれたままだったので水をやっておいた。

馬を目当てに魔物が寄って来るかもしれんな、近くまで移動させた方が良いだろう。

獣人のマヌイとサーヤ君とで移動させる。


「こえー」

「カズ兄ぃ、馬が怖いの?」

「自分より大きい物はみんな怖いな」

「そうなんだー」

「特に目がね」

「目?優しそうな目じゃん」

「瞳孔が横長になってるだろう、怖いわ」

「まぁ、でも近くで見なけりゃ分かんないし」

「今近いんですけど」

「慣れだよ慣れ」

「馬の膝ってここだと思うだろ?」

「「うん」」

「そこ足首なんだぜ」

「「えー!?」」

「えっ、じゃぁこの先は?」

「指なんだよ」

「うっそだー!」

「マジで」

「ホントですか」

「お腹の下あたりに関節が有るだろう?」

「「うん」」

「それが膝」

「「ええー!」」

「お尻付近に股関節が有るの。じゃないとお尻から動かないはずだろ」

「それはそっか。でもなー」

「解体すれば分かるんだけどね」

「駄目だよー!」

「ブルルルッ」

「ちなみに馬はこの指1本だから指4本で立ってるの」

「「えー!?」」

「人間で言うと、両手足の中指だけで立ってるの」

「「えー!」」

「解体すれば分かるんだけどね」

「駄目だよー!」

「ブルルルッ」

「お前凄いんだねー」

「ヒヒーン」




馬を野営地近くに繋いで戻るとケセラがテントから出ていた。

菊池君と話している。


「やぁ、調子はどうかな」

「あぁ、大分良くなった。ありがとう」

「腹減ったろう、飯にしよう」

「すまない、馬の世話もありがとう」

「いいさ。馬とも仲良くなれた」

「噛まれてたけどね」

「なんで噛まれるのよ」

「なんでだろ?」

「怖がらせる事言ったからだよ!」




食事をしつつケセラが語りだした。


「・・・国を・・・抜けようと思う」

「・・・そうか」

「正直未練も有るが、こんな所で終わりたくないという思いの方が強い」

「当然だろう」

「私は平民の孤児だった」

「・・・」

「幼い頃、戦争で村が襲撃された時にある騎士が村に助けにやって来た」

「彼は私達を匿い、敵と戦った」

「その姿を見て、私は騎士になりたいと思った。人々を守る騎士に」

「それから施設に送られ、大きくなって1人立ちをするにあたり、軍に身を投じた」

「血の滲む訓練を経、周りの男共の視線を無視し、勲功を重ねやっと騎士になれた」

「この国では女のエルフが騎士になるのは大変珍しい事だ」

「だからこそ特別に騎士になれたと思われたくない一心で頑張って来た」

「そんな思いを、ここまでの積み重ねを、こんな事で終わらせたくない」

『・・・』

「知って欲しかったのか?」

「!?いや・・・いや、そうだ。知って欲しかった。私の思いを、努力を」

「引き返す事は出来ないよ」

「勿論、分かっている」

「なら今後の事を話そう。食いながら話そうぜ、冷めちまう」

「あ、あぁ」

「当ては有るのかい?」

「・・・いや。正直無い。孤児だったしな」

「僕達には当てが有る」

「ん?」

「ソルスキアの騎士団に当てが有るって話だ」

「ソ、ソルスキア王国か!?大国ではないか!」

「だから絶対大丈夫って訳にはいかないが。まぁ紹介は出来ると思う」

「し、しかし隣国の出奔騎士を抱えるとは思えないが」

「そのお方も女性騎士だ」

「!?」

「事情を話せば何とかしてくれるだろう」

「えぇ。大丈夫だと思うわよ」

「うん。そう思う」

「はい」

「どうする?」

「・・・お願い出来るだろうか」

「出来るから提案したんだよ、遠慮すんな」

「す、すまない。恩に着る」

「じゃぁ、差し当たってだ」

「差し当たって?」

「将来的にソルスキアに行くとして、当面はって事」

「当面」

「君は死んだ事にする」

「そ、そうだな」

「恐らく捜索隊が出るだろう」

「そうだな」

「捜索終了後、全員死亡と結論付けられるだろう」

「そうだろう」

「それまでどうするかだ」

「ソルスキア王国に行くのではないのか?」

「ここから南はルンバキア公国内を移動する事になる。不味いだろう」

「そ、そうか!」

「ここらは国境地帯、1度隣国に身を躱した方が良いと思う」

「なるほど、ベルバキア公国に移動して、ほとぼりが冷めるまで潜伏するという訳か」

「そういう訳だ」

「なるほど!うん、良い案だと思う」

「良さそうかい?」

「あぁ。それでいこう」

「分かった、じゃぁ君達も」

「分かったわ」

「うん」

「はい」

「世話になる」

「気にしないで、ベオグランデに行くついでだし」

「そうだったね」

「えぇ」

「ベオグランデ公国か?何をしに?」

「獣人国家って聞いてね、観光に行こうかと、ついでに行商も」

「行商がついでか」

「どっちかっていうと・・・ついでね」

「だね」

「ですね」


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