⑨-04-193
⑨-04-193
菊池君とマヌイと俺は魔法のレベル上げに費やした。
死体から装備を取り収納袋に死体と枷と共に入れる。
残った1人をサーヤ君と野営地に運んだ。
焚火に当たっている女性に声を掛ける。
「食事は喉を通ったかな」
「えぇ。ありがとう」
「気分はどうかな。話、出来るかい?明日にする?」
「いや、大丈夫。ありがとう」
「私はルンバキア公国国境騎士団所属の騎士、ケセラと言う」
「私の隊、20人で国境付近の警備の為、巡回して野営をしようとしていた所で同僚が私を・・・」
『・・・』
「何故襲われたか、身に覚えは?」
「・・・日頃から好奇の目で見られていた事は気付いていた」
「ふむ」
「その、私の・・・体が・・・」
「ケセラさん胸大きいもんね。マーラ君より大きいよ」
「ちょ、先輩!」
「マコ兄ぃ!」
「マコルさん!やっぱり!」
「・・・うぅ」
「それだけ?」
「・・・剣が」
「剣?」
「騎士として、剣の腕が私が1番だったのだ」
「なるほど、嫉妬か」
「・・・恐らく」
「あぁ。あいつ等も言ってたよ。剣が1番で生意気だって。男を差し置いて、って」
「ぐうぅぅ」
「一応隊長は生かしてあるけど、どうする?」
「・・・?どうする・・・とは」
「名誉回復に・・・」
「・・・!?」
「しかし、騎士の私が・・・」
「これからどうするの?騎士団に戻るの?」
「・・・あ、あぁ。そのつもりだが」
「報告は?19人に襲われて返り討ちにしました、かい?」
「う、うーむ」
「勿論、僕等が証人になっても良いけど・・・信じるのかい?君の隊は」
「・・・」
「あのクソ共と同じ連中なら、なんやかや理由付けて同じ目に合わせようとするんじゃない?」
「!?・・・くっ」
「君、エルフだよね」
「あ、あぁ」
「エルフが騎士って珍しくない?」
「珍しいが居る事は居るぞ」
「そうなんだ」
「それも襲われた理由でもあると思うんだけど」
「・・・」
「1つ提案をしたい」
「・・・聞こう」
「20人全員行方不明、って事で逃げちゃえば?」
「!逃げる!?私が?」
「あぁ」
「しかし!何の落ち度も無い!有るのは「そう、あいつらだ」!」
「しかしそれが通じる世の中じゃない、分かってるだろ。だから悩んでるんだろ」
「ぐっ」
「逃げるのは騎士道に反する、か?」
「・・・」
「下らん」
「なっ、何!?」
「先輩」
「マコ兄ぃ」
「マコルさん」
「騎士道の為に所属に戻って辱められるのかい?」
「まだ辱められるとは決まって・・・」
「あいつらはあの後どうしたと思う?」
「あの後・・・」
「君を殺してそのまま何事も無かったかの様に帰って行方不明届を出して終わりさ」
「うぅ」
「恐らく上もそれ以上追及はしないんじゃないのかな?どうだい?」
「・・・」
「君の忠誠は報われたのか」
「見返りを求めては・・・」
「ホントかね」
「・・・」
「騎士に任命してもらったから忠誠を尽くしていた。任命されなかったら?」
「う・・・」
「このまま所属に戻ったらどうなるかよく考えてごらん」
「・・・」
「僕等は冒険者だ。旅をしている。君を国外に逃がす事も出来る」
「・・・国外」
「まぁ、茶でも飲んでゆっくり考えると良い」
「・・・あぁ、すまん。頂こう」
「家族は居るのかな?」
「いや」
「1人身か。一緒だな」
「え?」
「僕達全員1人身だ」
「そうなのか」
「あぁ」
「1人身なら出奔しても大丈夫な訳だ」
「・・・」
「20人全員行方不明なら確実にバレないだろう。それとも今回のは計画的だったのかな。騎士団に他に計画を知ってた人間がいるとか」
「うーむ。分からない」
「まぁ、そうだったとしても全員行方不明じゃぁ魔物にでもやられたと思うだろう」
「・・・そう・・・かな・・・」
「まだ時間の猶予はあるだろう。今日はしっかり休むと良い」
「・・・そ・・・zzz」
「あれ、寝ちゃった」
「カズヒコさん」
「先輩・・・まさか」
「あぁ。茶に眠り毒を盛った」
「えー!」
「このままだと考えすぎて寝られないだろう。今日の事もある」
「・・・そうね」
「悪いが1人用のテントで今日は寝てもらおう」
「運びましょう」
「予備用の寝袋に頼む。これから風呂に入ろうか、戦闘の後だし」
「そうだね。流石に汗掻いたよ」
女性を1人用のテントに予備の寝袋に入れて寝かせていた。
風呂からも上がってテント内に入って今日はもう休む事にする。
「・・・カズ兄ぃ」
「うん?」
「ごめんなさい」
「なんだ?どうした?」
「今日・・・あたしまた・・・」
「戦う前の事か?」
「・・・はい」
「あれは正しいって言っただろ。気にすんな」
「でも」
「お前は正しいんだ。俺の命令でとどまってたろ」
「・・・うん」
「前は我を忘れていた。しかし今日は踏み止まれたんだ、成長してる」
「・・・そう、かな」
「ケセラを助けようとしたのは間違いじゃない。正しい事だ」
「うん」
「赤ん坊を見捨てたのは俺の命令だ。お前のせいじゃない」
「・・・」
「俺の命令の責任は俺にある。お前が背負うんじゃない。俺のもんだ」
「・・・でもパーティだし」
「リーダーは俺だ。責任は俺にある。誰にもやらん」
「・・・」
「お前は踏み止まれた。成長してるんだ。自信を持て」
「うん」
「プレートメイルがあったろ」
「うん」
「着ていたら矢は通用しなかっただろう」
「あっ、そうだね!」
「踏み止まっていなかったら、危なかっただろうな」
「・・・うん」
「ヒトは少しずづでしか成長出来ないんだ・・・獣人もな」
「うん」
「2日で3つもスキル習得した人が言うセリフじゃないけど」
「えぇ!?2日で!?」
「ちょ、菊池君、今言うべきじゃないだろ」
「マヌイも、私達と出会った頃よりずっと強くなってるわ」
「そうですよ」
「そう・・・かな」
「俺が、俺達がフォローしてやる。生きたいように生きろ、マヌイ」
「うん」
「ところでさっき言ってたけどプレートメイル着てたらどうしてたの?」
「僕の《罠》が大活躍だったろうな」
「掛かった所を撃つんだね」
「あぁ。1対1なら相手はレネ嬢に及びもしない。対処出来る」
「対多なら?」
「サーヤ君と共闘だな」
「どうやって?」
「僕は受けに徹する。流した所をサーヤ君がハンマーで体の一部を潰して戦闘不能にする」
「私達は2人が囲まれないように威嚇するのね」
「あぁ。隠れながらな」
「あたしとミキ姉ぇの所に来たら?」
「《火炎流》で暖めてやれ」
「なるほど」
「森の中は重い金属鎧には動き辛い。機動力では負けん。確実に数を減らしていけばいい」
「うん、分かった!」
「そういえばプレートアーマーが手に入りましたよね?ハンマーの試し撃ち致します?」
「音が出るからな。寝てるケセラに悪い。別れてからでもいいだろう」
「そうですね」
「ケセラさんはどうするんだろう」
「こればっかりは本人が決める事だ。僕達が口を出す事じゃない」
「うん、そうだね」
「ただ、戻っても良い事は無い、それは断言出来るな」
「どうして?」
「20人いたのに1人だけ戻ったら、見捨てたとか、言われるだろう」
「あぁ、そっか」
「正直に襲われたと報告しても1人で19人を相手・・・」
「にわかには信じられないわね」
「私達が証人になっても?」
「騎士団にこの件の仲間が居た場合を考えるとな」
「私達も被害を被るかもね」
「うーん」
「信じられたとしてもその後の生活は・・・な」
「騎士・・・辞めた方が良いね」
「ただ、あの娘、騎士にプライド持ってるようね」
「あぁ。まぁ貴族ってのはそんなもんだろう」
「他の国の騎士になれば良いんじゃない?」
「そうだ、そういう意味で言えば冒険者は良いよな」
「旅をしながら色んな国を周れるからね」
「気に入った国や街が有ればそこに住み着けばよろしいですものね」
「そうだ。その辺、彼女が納得すれば未来は拓けると思うが」
「貴族は頭固そうだからね」




