⑨-01-190
⑨-01-190
ルンバキア公国最後の街を出てベルバキア公国に向かう。
その野営中。
「出来たぁー!」
「おっ、出来たか」
「とうとう完成ね」
「はい」
防寒マスクの完成だ。
マヌイとサーヤ君が日々試行錯誤を重ねたものだ。
最初、ムトゥルグのエルフのお姉さんのアドヴァイスを受け作っていた。
エルフのお姉さんは《縫製》持ちでもあった。
コツコツと努力して今日、テントの中で完成した。
「どぉー?」
「良いじゃないか」
「そうね」
「バラクラバだね」
「鼻と口周りは通気性を良くしてそれ以外は保温性を優先させてみました」
「息苦しくない訳だ」
「うん」
「じゃぁ、今日はそれ着て寝てみるんだね」
「ううん。カズ兄ぃに」
「えっ」
「最初のはカズヒコさんにって決めてましたの」
「俺に?」
「ほら。受け取ってあげなさいよ」
「いいのか?」
「うん」
「はい」
「そ、そうか・・・」
「ほら。被ってみなさいよ」
「あ、あぁ」
ささっ
「ちょ、早っ!?」
「ゴーグルも着けてるよ?」
「はー!あったけぇわー!」
「良かったじゃない」
「何でゴーグル着けてるの?」
「年取るとそうなるのよ」
「?」
「今日は早く寝るぞー!」
「えー!今からミキ姉ぇの作るのにー」
「寒いから俺はもう寝る。お休みなさーい」
「はいはい。お休み」
「お休みー」
「お休みさないませ」
「一緒のテントなのに寝られるのかな」
「うふふ。そうね」
明けて翌日。
曇っているせいか少し寒さが和らいでいた。
この辺は国境付近らしい。
「防寒マスク気に入ったのね」
「暖かいよ」
「良かった!」
「何故か濡れてるようだけど・・・?」
「寝てる時によだれがね」
「うふふ。次はもっと早く出来そうですわ」
「用途に合わせて被り方を変えられるのが良いね」
「頭部下半分に防寒マスク被って、上はヘルメット被ってるもんね」
「トロールマスクとゴーグル着ければ、完璧ですよ」
「肌が見えませんわ」
「冬用の靴も買っといて良かったな」
「やっぱり本場の靴は暖かいわ」
「南部に持って行ったら売れるかね?」
「そう言えば行商するんだったわ」
「収納袋もまだ馬車1台分も使ってませんわ」
「北部の名産て何だろう」
「やっぱり毛皮とか羊毛とかみたいだけど」
「ベオグランデは山岳地帯って話だから平野部の・・・食料とか?持って行くか」
「そうね。作物が良いのかな」
「ベルバキアの公都で調べてみようよ」
「だな」
やがて夕方近くになり野営地を探しに街道を外れていく。
『ーーー!』
「待って!」
「どうした?」
「何か聞こえた」
「先輩?」
「いや。《魔力感知》に反応は無い」
「相当遠いわね」
「どこだろ?」
「街道なら見えてるから違うだろう」
「森ね!」
「叫びだったか?」
「うん。多分」
「助けを求める声か。森、魔物か」
「どうしよう」
「しっ」
「・・・」
(カズヒコが考え中よ)
(分かった)
「魔物なら街道近くに出る確率は低いだろう。マヌイは豚族、耳はある程度指向性が有る。恐らく進行方向・・・俺達と同じく野営地を探していて魔物に出会ったか・・・森に入る」
「「「了解」」」
しばらく森を進む。
『くそー!』
「聞こえたわ!」
「私もです!」
「感知した。こっちだ」
「「「了解!」」」
「貴様等ー!」
「へっへっへ。そうそう。暴れてくれよ」
「もっと興奮するってもんだぜ」
「きーっひっひっひ」
「うぐぅ!」
「このデカ乳堪んねぇな!」
「そうか、俺はもっと小さい方が」
「おめぇの趣味なんて聞いてねぇんだよ!」
「ぎゃはははは!」
「くうぅ!」
俺達は藪から様子を窺っていた。
「どうやら魔物に女性が襲われているようだ」
「早く助けなきゃ!」
「落ち着けマヌイ」
「でも!早くしないと!」
「俺の言う事を聞け!」
「・・・うん」
「女性は助ける」
「うん」
「でもお前らの安全が第一だ」
「・・・うん」
「女性を助けたは良いがその代わりに誰か死んだらどうする」
「・・・ごめんなさい」
「謝らなくて良い。お前は正しい。ただ手段を覚えなければ駄目だ」
「はい」
「今魔物は女性を嬲ってる」
「うん」
「その間女性の命は大丈夫だ」
「うん」
「その間に作戦、配置を整える」
「はい」
「いいか、お前は正しいんだ。やり方を覚えろ」
「うん」
「ミキ、サーヤ。いつも通りだ」
「「了解」」
「マヌイ」
「はい」
「相手は19人だ」
「じゅっ!?」
「藪に《罠》を仕掛ける。これは念の為の逃走用だ」
「はい」
「ミキ、マヌイは藪で待機」
「「了解」」
「サーヤは俺と出る」
「はい」
「俺とサーヤで攻撃してる間、ミキとマヌイは援護」
「「了解」」
「俺とサーヤで対処出来なくなったら藪に逃げる。《罠》に掛かった奴に止めを」
「「「了解」」」
「矢に麻痺毒を。なるべく生け捕る」
「「了解」」
「えっ」
「マヌイ」
「はい」
「アルビジェを出た時冒険者に襲われたろ」
「うん」
「何人いた?」
「んーと」
「12人だ」
「そんないたっけ!?」
「あぁ。だから今回も大丈夫だ」
「うん。分かった。カズ兄ぃ」
「何だ?」
「震えてるよ。大丈夫?」
「武者震いだよ」
「・・・うん」
「無理に生け捕らなくていい。死んでも仕方ない気でいけ」
「「「了解」」」
「しかし・・・」
「どうしたの?」
「あいつら順番待ってる間装備脱いでるぜ、下半身も」
「またそんな事言って!」
「見ろ」
「何を」
「プレートメイルだ」
「ホントだ。それが?」
「全員プレートメイルだ」
「「「!?」」」
「えっ、どういう事?」
「付近に馬の魔力反応が有る」
「「「馬?」」」
「あぁ。恐らく騎士団か何かだろう」
「「「騎士団!?」」」
「ちょ、どーするの?」
「変わらない。全員ブッ殺す・・・最終的には」
「はぁ~。分かったわ」
「ブッ殺してやります!」
「うん!」
「いくぞ」
「「「了解!」」」




