⑧-16-182
⑧-16-182
「ブゥッカァ・・・」
「ばあちゃん・・・」
「ごめんねぇ・・・」
「・・・」
「わだっわだっわだっしのせいでぇ・・・」
「ばあちゃん・・・」
「でもぉぉぉわがっわがっわがっくぅなったと思わないぃぃぃ?」
「なんで・・・」
「あんの頃にさぁぁぁ戻りだがったんだぁぁぁ」
「・・・」
「走り回りたいぃぃぃ、空のじだをぉぉぉもう1度走りたがったぁぁぁ」
「ばあちゃん・・・」
「年はぁぁぁ取りだぐねぇなぁぁぁ」
「うああ・・・」
「手ぇがぁぁぁいでぇぇぇ」
「・・・」
「ブゥッカァァァ」
「・・・」
「解いでげれぇぇぇえろえろえろ」
「ばあちゃん・・・」
「だのぶぅぅぅ解いでげれぇぇぇ」
「あぁ。楽にしてやっから・・・」
翌早朝。
村長が家に来た。
「はぁ~。5万かよ~」
「む、村にはこれ以上出せないんだ。すまないが・・・」
「魔女だよ、魔女ぉ~」
「す、すまない」
「そうだ。昨日斬り落とした魔女の手、あれ持って帰って報告するわ」
「む、報告は少し待ってくれないか」
「!?何故」
「・・・」
「お前まさか悪魔の血を手に入れようとしてないよな」
「そっ、そんな訳あるかっ!ブッカの為だ!」
「俺からの報告が遅れればその疑いを持たれるって分かるよな?」
「う」
「ブッカだけじゃなく、殺された被害者の遺族の事も考えろよ」
「い、言われなくても分かってる!」
「どうだか」
「何だと!」
「同年代、幼馴染か」
「う」
「親族はばあさんだけ」
「う」
「自分は妻も子もいてブッカは居ない。少し負い目でも有るのか?」
「うぅ、うるさい!契約は完了したんだ!村から出て行け!」
「あいあい。魔女の手は貰うぜ」
「好きにしろっ!」
ブッカの家に行った。
魔女の手はそのまま落ちていた。
気味悪がって誰も拾わなかったんだろう。
「人体に有害らしいから厳重に包んで収納袋かな」
「そうね」
「あそこまで言わなくても良かったんじゃないかな・・・」
「マヌイ、あいつ何で怒ったんだ?」
「・・・」
「認めたくなかったんだろう。自分がそう思ってたのを」
「指摘されて怒ったのね」
「村長は村のリーダーだ。1人の為に村を危険に晒していいのか」
「・・・」
「村の決定は村長が決める。しかしそれは村長の好きにやっていい事とは違うんだ」
「村長の決定には責任が伴うの」
「マヌイ」
「うん」
「もし・・・お前が悪魔になったら俺が殺してやる」
『!?』
「お前に誰も殺させやしない。俺が責任を持って殺してやる」
「・・・うん」
僕達は出口に向かった。
村の中が騒がしい。
「どうしたのかしら」
「逃げたみたいだな」
『!?』
「ちょ、えっ!?逃げたって・・・魔女が?」
「あぁ」
「どどどどーすんの?」
「正確に言うと魔女じゃなくヤーガばあさんだ」
「どう違うのよ!」
「悪魔の魔力は感じない」
『!?』
「変身してないだけじゃないの!?」
「魔力が弱い。恐らく変身にも魔力が必要なんだろう」
「見張りはどうしたんだろ」
「ブッカは死んだな。反応が無い」
『!?』
「死んだって・・・」
「あぁ。ばあさんに、だろうな」
「どどどどーする!?」
「僕達には関係無い」
『!?』
「いいの!?それで!?」
「村長の決断だ。僕達が出る幕じゃない」
「でも!」
「おまえ達!」
振り返ると村長が数人の村人と共にやってきた。
「何だ?」
「待ってくれ!」
「出て行けと言ったのはあんただぜ」
「むむ」
「じゃあな」
「待ってくれ!頼む」
「どうした」
「・・・魔女が逃げ出した」
「そうか。頑張んなよ、じゃあな」
「頼む!助けてくれ!」
「助け?必要か?」
「魔女を探して欲しい」
「魔女じゃなくヤーガばあさんだがな」
「むぅ・・・」
「お前らでも対処出来るさ。もう魔女に変身できまい」
「そっ、そんな事言ったって」
「1つ聞きたい」
「なっ、何だ!」
「ばあさんの番をしていたのは誰だ?」
「・・・」
「ブッカか?」
「・・・あぁ」
「馬鹿か。肉親に番をさせるとか」
「は、話がしたいと」
「魔女でもあの鉄格子は破れんだろう」
「ブッ、ブッカが!?」
「だろうな」
「くぅぅ」
「依頼を出せ」
「依頼?」
「討伐依頼だ」
「か、金は無い」
「話にならんな」
「!貴様!」
「調査依頼、達成。捕獲依頼、達成。討伐?捕獲したのにか?」
「ぐぅ・・・」
「自分の手を汚したくないだけだろう」
「なっ、何を!?」
「ヤーガばあさんを。ブッカのばあさんを自分で殺したくないから冒険者に殺させたいんだろ?」
「ちっ、ちが・・・」
「生け捕りの決断はお前がしたんだ。僕は殺せと昨日言ったよな」
「・・・冒険者め!」
「そうだ、僕達は冒険者。金で動く。金の分の結果は出したはずだが。いや、それ以上か」
「くぅ」
「最初っからの見下した態度に物言い、おまけに無償で荒仕事をやれと。流石に我慢の限界ですねぇ」
「うぅ」
「じゃぁな。あっ、国にはギルドを通じて報告しといてやるから、後日助けが来るだろうぜ」
「くそっ!」
村を離れる。
騒動は収束してないみたいだ。
「良かったのかな。これで」
「良くはないけど、みんな無事だしね」
「そうです。無事なのが1番です」
「ばあさんは村に居たの?」
「あぁ。村長が僕達と話していた時、村長の家に入って行った」
『!?』
「そっ、村長の奥さんと子供は!?」
「助からんだろうな」
「・・・そんな」
「「・・・」」
「助けることも出来たよね」
「村長と話していた時点では無理だ。もっと前に行動を開始してれば、あるいは」
「・・・確かにカズ兄ぃの言う通り、あの人達の態度には腹が立つけど・・・」
「子供には罪が無い・・・?」
「・・・」
「運が無かったな」
「・・・運?」
「馬鹿な父親を持った運、だ」
「どうにもならないじゃない!運なんて!」
「そうだ。どうにもならない。マヌイが豚族に生まれたのもどうにもならない」
「・・・」
「サーヤが魔族に生まれたのもどうにもならない」
「・・・カズヒコ様」
「本人にはどうしようもない。だから周りがその事を理解してやらないといけないんだ」
「だったら!」
「父親は何をしても俺達に助けを求めるべきだったんだ」
「?」
「本人の財産は言うに及ばず、村の財産なんかを犠牲にしてもな」
「でも・・・それじゃぁ村は」
「街へ出稼ぎに出るなり冒険者になるなりあっただろう。自分の子供の為なら村の皆に罵られようと構う事なんてなかったんだ」
「村長だから」
「村長なら、ばあさんを殺すべきだった」
「・・・」
「何も捨てられなかったんだよ、あの男は。男のプライド、村長のプライド。冒険者と蔑んだ俺達に跪いても助けを求める事も出来なかった」
「・・・」
「マヌイ」
「・・・うん」
「俺を嫌っても良い、罵っても構わん。ただ1つだけは信じて欲しい」
「なに?」
「お前を殺すのは俺だ」
「・・・」
「お前が病気になって治る見込みも無い、苦しくて死にたい。そんな時、俺に言え。殺してやる」
「・・・」
「悪魔の血を飲んでしまった、もう元に戻れない、誰も殺したくない。そんな時、俺に言え。殺してやる」
「・・・」
「お前は誰にも殺させない。殺すのは俺だけだ。パーティリーダーの俺だけだ」
「・・・うん」
「・・・村長の奥さんと子供の事は黙ってても良かったんじゃないの?」
「・・・《隠蔽》しないって、言ったからな」
「マヌイ、カズヒコさんは私を助けてくれた時、お金目的で助けてくれたんじゃないわ」
「・・・うん」
「あの村長が必死になって助けを求めたら、カズヒコさんは助けたのよ」
「うん」
「調査の依頼も、生け捕りの依頼も達成したのにあの態度。私達を便利な道具だとでも思っていたのだわ」
「うん」
「私やマヌイは世間からそんな目で見られてきた。そんな目で見る奴を助ける必要があって?」
「・・・子供は」
「俺は間違っていたのか?」
「カズ兄ぃ」
「やりたい事、したい事があればその時に言うんだ」
「?」
「俺1人だと失敗したり間違う事もある。だから君達が意見を言うんだ。みんなが同じ意見とは限らない。だが自分の意見で失敗したからっていつまでもくよくよするなよ。そんな暇はない。悪魔や魔女が出る世の中だからな」
「くよくよして寝不足になってぶっ倒れたけどね」
「年取ると寝るのが楽しみになるな」
「私にはわっかりっませーん」
「マヌイはマヌイの好きな様に生きろ」
「カズ兄ぃ」
「失敗しても俺が助けてやる」
「うん」
「ヤヌイとマコルにも誓ったからな」
「うん」
「ただ・・・」
「うん?」
「好きな人が出来て結婚する事になったら前もって言えよ。いきなり消えるなよ」
「ブヒー!カズ兄ぃ!」




