⑧-13-179
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「くっ、首が無い!?」
肩から上が無いそれは、
手で持って手押し車を押していた。
キィキィキィ
『ひえええぇぇぇ!』
「ばあちゃん!」
『えっ!?』
手押し車の真後ろに有った物が動いた。
人間の顔だ。
振り向いたのだ。
首が90度折れ曲がって首が無いように見えたのだった。
下を向きながらどうやって歩いてんだ?
「ばあちゃん!ここで何をしてんだ?」
「あぁ~ブッカかぁ~」
「家で待ってろって言ったろ!危ねぇから!」
「天気がえぇのぉ~ヒェッヒェッヒェ」
ブルブル身体が震えている。
顔がブッカから僕達に向く。
目が爛々と大きくなる。
「おおおぉぉぉ、お客さんかええぇぇ」
「あぁ、そうだよ!」
「そそそそいつはひひひ久しぶりじゃなぁぁぁ」
「あぁ。1ヶ月ぶりぐらいか」
「ちちちちゃんと、んんんもてなさんと、いいいいかんぞねぇぇぇ!」
(怖ぇよ)
「えぇ。おばあちゃん。ブッカさんには大層なおもてなしをいただきましたよ」
「・・・」
「そそそそりゃ、いいいいがったよおぉぉ!」
(怖ぇわ)
「わわわわこぅてぇぇぇ、うらやまぁぁぁしぃぃぃのぉぉぉ!」
「おばあちゃんもお若いですよ」
「ひゃー!!!」
(ひぇぇぇ)
「っはっはっはー!そうかぇそうかぇー!」
「え、えぇ」
「やっぱりじゃぁぁぁ、そうじゃぁぁろぉぉぉのぉぉぉ」
「じゃ、じゃぁ、ばあちゃん!家で大人しくしててくれよな!」
「言う通りじゃったぁぁぁ、ひーひっひっひー」
震えながら去っていく。
「なかなか個性的なおばあさんだな」
「・・・行くぞ」
1人身の女の家に着いた。
家に入る。
この世界は土足が基本だ。
見た感じ異常は無い。
片付けたのだろう。
臭い等も特に無い。
血の跡があったが時間が経ってるようだった。
「間隔は?」
「かんかく?」
「事件の間隔」
「あぁ。行方不明になったのは1か月前。2人目はその1週間後。殺されたのもそれから1週間後。2人目はその5日後。3人目は4日後だ」
「短くなってるな」
「そうですね」
「最後に殺されてから何日経ってる?」
「3日だ」
「起こるとすればそろそろか」
『!?』
「まっ、また誰か殺されるってのか!?」
「そうだとすれば、そろそろだって話だ」
「ぐうぅ・・・」
「1人身以外の犠牲者はどこで見つかってる?」
「森だ。人気の無い場所で1人で行って・・・」
「そうか。取り敢えず村人には1人で外出は控えるよう言ってくれ」
「わ、分かった」
「今日はもう遅い。暗くてこれ以上は無理だ。続きは明日にしよう」
「そ、そうだな」
〈だっ、誰かー!誰か来てくれー!〉
「外だ。行くぞ!」
「「「はい!」」」
陽が地平線に沈む中、
男が村の端から走って来ていた。
「どうした!」
「ペ、ペルト!」
「何があった!」
「むっ、娘が!娘がっ!」
「案内させろ」
「わ、分かった!何処だ!?案内しろ!」
「わわわ分かった!こっちだ!」
小川のほとりで男の娘が仰向けに死んでいた。
辺りをランタンで照らす。
『うぅっ』
10代後半のようだ。
娘は体中を抉られていた。
顔、乳房、臓物、内股・・・
「おえぇっ」
「向こうで吐け。現場を荒らすな」
村人の1人が吐いた。
彼女達3人もまともに見れていない。
遺体を調べる。
「先輩・・・」
「灯りを」
「は、はい」
「ペルト」
「あ、あぁ」
「他の遺体もこんな感じか?」
「あぁ。そうだ」
「ふーむ」
「先輩?」
「先ず目に付くのが顔だな。確かに食われている」
「しかし他の部位。乳房、腹、内股なんかは鋭い切り口だ」
「ペルト」
「あぁ」
「他の遺体もこんな切り口の跡だったか?」
「いや。噛みちぎられた跡だった」
「手口が変わった?」
「あぁ、多分な。死斑が出てるな。押しても消えない。地面に近い位置に多数。死後大分経ってるな。あんた」
娘の父親に聞く。
「娘さんはいつから見なくなった?」
「朝からだ」
「昼飯は?」
「軽い物を持ち歩く。家では食べてない」
「じゃぁ、午前中には?」
「だろうな。幸い遺体も周辺も魔物には荒らされてない。全部犯人の痕跡だ」
「足跡は?」
「ふーむ。消されてるな。掃いた跡がある」
「掃いた・・・」
「掃きながら小川に入って行った・・・血を流す為に・・・か。なるほど」
「な、何か分かったのか!?」
「あぁ。まぁ多分・・・だが」
「教えてくれ!」
「犯人は娘さんを殺害した後、小川に入って血を洗い流した」
「聞いたよ!」
「その際、痕跡を消している」
「聞いた!」
「遺体だが。見てくれ」
「喉の水平の切り口。付近は血だらけ」
『あぁ』
「対して内股はそんなに血が流れていない」
『それが!?』
「内股は死後に切り取られている。つまり喉の切り口が致命傷になった。それから胸、腹と下に向かったんだろう」
『・・・』
「この子の手を見てくれ。指先が綺麗だろう」
「それがどうしたってんだ!」
「抵抗していない」
「先輩・・・それって」
「あぁ」
「何だ!何を言ってる!?」
「魔物に襲われたなら抵抗するはずだ」
『!?』
「小川に入る際に痕跡を消した、知能がある」
「肉は鋭利な物で切り取られている」
「その鋭利な物でこの子は正面から喉を斬り裂かれた」
「その際抵抗はしていない。知った相手だった・・・つまり」
「む、村の人間だと!?」
「そうなるな」
「馬鹿な!」
「有り得ん!」
「そうだ、歯形だ!人間に似ているが牙らしきものも有る!」
「そこなんだ。そこが分からない」
「だったら!」
「それ以外は人間の犯行を示している」
『!?』
「うぅ」
「後ろから喉を掻っ切ったんじゃねーのか!?」
「その可能性もある」
「だったら!」
「尚更人間っぽいな」
「!?」
「魔物なら背面から近づいたらそのまま背面を攻撃するだろうな」
「・・・うぅ」
「だっ、誰だ!誰が娘をこんなにしたってんだっ!」
「今から行くかい?」
『!?』
「わ、分かってるのか?」
「多分・・・だがね」
『・・・』
「どうするね」
「・・・行こう」
「ペルト」
「一刻も早く捕まえなければ・・・村民が犯人だったらの話だが」
言われて俺は肩をすくめる。
「・・・分かった」
「あぁ。ペルトがそう言うんなら」
「それでマコル。何処に行くんだ?」
「ブッカの家だ」
『!?』