⑧-10-176
⑧-10-176
「君達の協力に感謝する」
「いえ、契約を履行したにすぎません」
「うむ。そう言ってくれると助かる。それで報酬の件だが」
「はい」
「素材はどうするね」
「どうすると言うと?」
「買い取るか、持って帰るか」
「素材・・・というと何かの材料に?」
「あぁ。武器防具や道具、錬金術なんかに使われる」
「れっ、錬金術!?」
「あぁ。しかし素材として活用するには素材として使えるようにしなければならない」
「?」
「うむ。悪魔の体はそのまま使うと人体に有害なのだ」
『!?』
「それで人体に使えるようする」
「なるほど。どうやって?」
「有害な理由、悪魔の体は呪われているからだ」
「呪いですって!?」
「あぁ。回復魔法による解除が必要になる」
「回復魔法!そうなんですか」
「そうなのだ」
「てっきり呪いの解除には光属性だと・・・」
「解除には光?」
(前世の常識に縛られていたよ)
(確かに前世だと呪いは闇、解呪は光ってイメージですね)
「つまり、回復魔法使いが必要になると」
「そういう事だ」
「へぇー」
「それで、どうするね」
「悪魔の素材かぁ~」
3人を見るとフルフルと首を振っている。
「はっはっは。まぁ女性には気持ち的に難しかろうな」
「一部、一部だけいただきたいです」
「勿論だ。君達の物なのだからね。ではそれ以外は売ってくれるのかな」
「はい。お売りいたします」
「うむ。ありがとう」
「それで、この街に回復魔法使いが居るんですか?」
「いや。この街にはいない。なので公都から呼び寄せる」
「公都からわざわざ!?」
「悪魔に限らず魔物の素材の権利は基本的に持ち込まれた街にあるんだ。公都と言えども寄越せとは言えない。公都に持って行っても良いがこの街で捌きたい」
「ほほー」
「更に公国直々に討伐命令をかけた魔物だ。多少の便宜が図られる」
「なるほど」
「それで、一部とはどの部分を言っているのかな」
「鰓。首にある鰓みたいなのが欲しいです」
『!?』
「ほぉー」
「「「うえー」」」
「何だよ」
「気持ち悪いわよ」
「うん」
「はい」
「珍しいね」
「えっ、そうなんですか?」
「大概は鋭い爪や牙、羽なんかが人気だな」
「彼女達は嫌がってますし、そんなに必要有りませんからね」
「魔石は持ってるのだろう?」
「はい」
「どうする?」
「売りますよ」
「特別な魔石ではなかったかい?」
『!?』
「特別な・・・魔石?」
「あぁ。魔物には偶に特別な魔石を持つ者がいる。上位種になるほどその確率は高い。悪魔になると更に高まる」
「見てもらいましょうか。マーラ君」
「はい」
口の広いボンサック型の収納袋を入れたバッグから魔石が出て来る。
「あぁ。残念だが普通の魔石だね」
「そうですか」
「ちなみに特別な魔石ってどういう・・・」
「うん。悪魔が使う属性魔法が凝縮したような魔石になるらしい」
「魔法が凝縮?」
「つまり魔力を流すとその属性の効果が現れると言う」
『な、なんだってー!?』
「はっはっは。そうだ、そうなるわな。なので価値が高いんだよ」
「効果・・・と言うと?」
「火の魔石なら炎が現れるらしい」
「ひー」
「ふ、普通の魔石は燃料として使われますよね」
「炎が出て来るんなら危なくて使えないねぇ」
「うむ。普通の魔石はランタンなんかの魔導具の燃料に使うと小さくなっていって失われる」
「はい」
「しかし特別な魔石、結晶魔石は失われない、どころか普通の魔石の魔力を吸収して自身の魔力を補填するという」
「えっ、それって・・・」
「あぁ。結晶魔石自体が魔導具なんだよ」
「それは・・・価値も高くなりますね」
「そうなんだ」
「売ってるんですか?」
「うーん。難しいんじゃなかろうか、希少価値が高いからね」
「うーん」
「取り敢えず売却の話を進めましょうよ」
「・・・そうだったね。じゃぁ鰓以外は売却でお願いします」
「分かった。先ずは回復魔導師を呼び寄せなければならない。そして呪いを解除した後、鰓と売却代金を渡そう。いいかな」
「結構です」
「うむ。先ずは討伐報酬を用意しよう。君、頼む」
「はい」
受付嬢が部屋から出て行く。
「ちなみに素材を受け取るまでに大体何日ぐらいかかります?」
「そうだね・・・先ず伝書鳩を飛ばし」
「伝書鳩!?」
「ん?あぁ。国の依頼だからね」
「冒険者ギルドにも!?」
「あー、魔導師ギルドか。彼らだけではないよ」
「そうなんですね」
「あぁ。鳩で公都に2日。公都からここまで大体7日。10日を見ておいてくれればいいかな」
「割と早いですね」
「ソルスキアのような大きな国ではないからね」
「失礼します」
受付嬢が帰って来た。
「討伐報酬の200万エナだ。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「それで君達は解呪を待つ間、どうするのかな?」
「んー。どうする?」
「ゆっくりしましょうか」
「そうだねー。悪魔倒して疲れちゃったし」
「そうですね。旅疲れもありますし」
「疲れを取った後で良いんだが、頼みたい依頼が有るんだがね」
『えぇー』
「はっはっは。そう言わずに聞くだけ聞いてもらえないかな」
「ぜってー、碌でもない依頼だよ」
「まぁまぁまぁ。ここから西に2日ほど行った村があってね」
「そんな離れた所に村が!?」
「そうなんだ。結構独立心が強い人達でね」
「独立心だけじゃなさそうですが」
「うむ。多少の魔物にも対処出来るほどだ」
「はぁ~、嫌な予感しかしないよ」
「その村で最近・・・人殺しや行方不明が多発していてね。調査の依頼が来てるんだ」
「調査?」
「そうなんだ。前から依頼を出してるんだが誰も受けなくてね」
「要は犯人探しって事ですか」
「うむ」
「仮にですが」
「あぁ」
「犯人が魔物の場合、討伐も?」
「出来るならそれが望ましい」
「その場合、報酬は?」
「勿論支払われる。討伐証明部位は持ち帰ってくれよ?」
「犯人を突き止めるだけでも良いんですか?」
「あぁ。調査の場合、解決も依頼される場合も有るがそれは現地の依頼人との相談になるね」
「でも解決というか討伐の報酬って納品館での買取額って事ですよね?」
「その通りだ」
「それは討伐依頼の報酬ではないですよね」
「あぁ」
「やり損だな」
「うーむ」
「調査の結果魔物だった場合、別途後日に討伐依頼を出してもらうのなら分かりますがね」
「言いたい事は分かるが」
「調査報酬は?」
「10万エナだ。調査報酬としては良い方だよ」
「仮に犯人が討伐依頼が出されていない魔物だった場合ですが」
「うむ」
「解決込みで10万になった場合、最大でも10万+買取額にしかなりませんよね」
「あぁ」
「つまり討伐報酬を別途出してもらえば前述の額に討伐報酬も加わる訳ですよね」
「うーん」
「あ、あの・・・」
「ん?」
「ぼ、冒険者は街や村の人達の為に働くべきだと・・・高い報酬もその為ですし」
「なるほど。受付嬢さん」
「は、はい」
「調査の結果、もの凄く強い魔物だったとしましょう」
「は、はい」
「調査と討伐込みで10万エナ。しかし戦いで僕は両手を失ってしまった」
「・・・」
「当然冒険者は廃業だ」
「・・・」
「そうなったらその先僕はどうやって生きていけばいいんでしょう?」
「・・・」
「あなたが世話をしてくれたらいい」
「えっ!?」
「僕の両手代わりになってくださいよ」
「えっ!」
「食べる時、身体を洗う時、下の世話。あっ、僕結構頻尿かも。よろしくお願いしますね」
「・・・私・・・関係ありません」
「関係無いのに言ったんですか?冒険者は街や村の為に命を投げ出せと」
「そこまでは」
「関係無いのに僕の命を懸けさせようとしたんですか?」
「・・・」
「解決すれば村はハッピー、ギルドも依頼達成されてハッピー。僕だけが両手を失って人生オワタ。あなたに世話をしてもらっても良いんじゃないですかね」
「・・・」
「高い報酬?・・・ならあなた方がやればいい。勿論討伐報酬無しでね」
「・・・私には出来ません」
「調査くらいは出来るでしょう」
「・・・魔物だったら、調査の段階で襲われるかも」
「それは村の為だ、仕方ないでしょう」
「・・・」
「でも調査して両手を失いつつも魔物を特定すれば調査の報酬は貰える。村人にも感謝される。あなたの言う村の為になれる」
「・・・」
「あっ、村までの移動ですか?護衛依頼を出してくれれば受けますよ、高いですが。なんせ悪魔を倒したんで」
「・・・」
「高い報酬?安かったら誰も受けないからでしょう?現に依頼は前から残っていたそうですし」
「・・・うぅ」
「報酬をもらうのは当然でしょう?高い報酬も命の対価だ、お嬢さん」
「も、申し訳ありません」
「すまなかったね。じゃぁ依頼は受けないかね」
「はぁ~、お嬢ちゃんにここまで言ったからな~」
「もう、スッパリ断っちゃえば良かったのに」
「余計な事言っちゃ駄目だよ」
「お優しいのです」
「受けますよ、ただ調査のみです。犯人の討伐は別途討伐依頼が出ないなら無しで」
「あぁ。それでいいよ。よろしく頼む」
「あ、ありがとうございます」
「はぁ~」