⑦-35-165
⑦-35-165
宿で収納袋を囲んで4人で話し合う。
「どうする?」
「どうします?」
「どうしましょう」
「何が?」
「「うーん」」
「サーヤ姉、2人は何を悩んでいるの?」
「お2人の当面の目標だったのが数年の内に収納袋を手に入れる事だったのよ」
「へー。あっ、もう手に入れてこれからどうしようって事?」
「いや、それはもう決まっている」
「え?」
「収納袋を手に入れたら世界を行商するってね」
「そっかー。だって馬車5台分だもんね」
「うん。悩んでるのは差し当たって何を入れるかだ」
「行商ならネムリマイタケを入れていけば?」
「・・・いや。ここのネムリマイタケは全部タリルコルさんに卸す」
「・・・そう、だね。ありがと」
「生き物は入らないのよね?」
「あぁ。僕が入ろうとしたが無理だった」
「ちょ、止めてよねー!危ないでしょ!」
「ちなみにバッグの口より大きい物も入らない」
「そこは魔法で入んないんだ」
「あぁ」
「まぁ巾着のように間口を縛るボンサックみたいなものだから、かなりの大きさの物も入るし今後の旅は大分楽になるわ」
「試作品の連射式とハンマーは持って行くか」
「そうですね。折角高いお金払って作ったんだし。予備として、ね」
「予備!予備を持てるんですよ!僕達!」
「出世したわねー」
「ホントですねー」
「やったねー。あっ」
「どしたー?」
「じゃぁ、バックパックは要らない?」
「いや、バッグが無いと収納袋持ってるってバレるだろ」
「あっ、そっかー」
「みんなそれぞれバッグは持つ。サーヤ君のバッグの中身はスカスカにしてな」
「えっ?」
「《頑健》Lv7だからな。《魔力検知》《魔力操作》が育つまで持つ必要無いだろう」
「でも!私荷物持ちです!」
「勿論持ってもらうよ」
「ホントですか!」
「あぁ。収納袋を持ってもらう」
「収納袋・・・でも!」
「重いのは僕達が持つ。いいね」
「・・・はい」
「ディッキーディアの防胸盤はどうする?」
「うーん。サーヤ君とマヌイの上着に細工して胸と背中に入れるのはどうだろう」
「なるほど防弾ベストみたいな」
「僕と菊池君は《魔力感知》があるから不意を突かれる恐れはないから必要無いが」
「サーヤとマヌイは持って無いからね」
「うん。じゃぁ皮革職人に胸の形に作ってもらわないと。特にサーヤ姉ぇは」
「そうだな。そういった意味では菊池君は作り直す必要は無いな」
「マヌイ、そこのハンマー取って頂戴」
「どっちぃ、軽い方?重い方?」
「今なら重いのイケると思う」
「こらこら、収納袋が壊れたらどうするんだ。全くもう」
「魔導具図鑑も買っていこう」
「そうね。本は嵩張るんだけど、その問題も解決だしね」
「魔法図鑑、魔物図鑑、スキル大全。これだけでも結構な容積と重さだからね」
「テントも入れましょう。バックパックには移動中必要になりそうなものをいれましょ」
「そうですね。夜しか使わないのに持ってても仕方ありませんものね」
「じゃぁ、武器とかポーションとか?」
「ポーションは割れるかもしれないから収納袋が良いかしらね」
「んー。もしはぐれた場合を考えると持っていた方が安心かな」
「そっか」
「お洒落しても良いんじゃないか?」
「「「え?」」」
「服とかさ。休日とか宿に居る時とかさ」
「服かー」
「旅をしてると嵩張るから買ってなかったけど・・・」
「買っちゃいなよ」
「・・・いっすか?」
「女3人のパーティだ。お洒落も息抜きになるだろうし」
「そうね。お金も入ったし。マヌイ、サーヤ!服を買いに行くわよ!」
「うん!」
「あ、私は別に・・・」
「サーヤ君。新しい自分を見つけて来い」
「は、はい!」
「ビキニアーマーもよろしくな」
「買うかヴォケ!」
「保存食も余分に買っておいて良いんじゃないか?」
「そうね。フォセンみたいな事もあるし」
「フォセン?」
「アンデッド騒動で街に入るのに手間だったのよ」
「へー」
「あっ」
「何?」
「リュート買っていこう」
「そうね!」
「良いですね!」
「笛だけじゃなくなるね!」
「あっ」
「今度は何?」
「組み立て式の桶を作るっていうのはどうだろう」
「「「組み立て式の桶?」」」
「野営で組み立てます」
「「「うん」」」
「防水シートを敷きます」
「「「うん」」」
「沸かしたお湯をいれます」
「「「うん」」」
「お風呂の完成です」
「「「天才か!」」」
「野宿でお風呂に入れるわ!」
「作ろうよ!」
「作りましょう!」
「でも桶は良いとして防水シートは?」
「水袋を皮革職人に大きく広げて作って貰えばいいんじゃないか?」
「それでいきましょう!」
「そういう意味では大きな水袋も有りだな」
「水は私が出せるよ!」
「火も点けられるな」
「うん!」
「野宿でお風呂か~」
「冬では最高だね」
「ホントですね」
「あっ」
「もう、何!?」
「組み立て式のベッドを作るか」
「「「天才か!」」」
「もう村に泊まらなくて良いんじゃない?」
「お金かかるだけですしね」
「ベッドというよりマットレスだな」
「そうね!でもテントに入る細いの売ってないからオーダーメイドね」
「テントも買い換えたらどうでしょう」
「そうだな!軍用のにしたらどうだ?丈夫で風にも強い」
「4人入れるし、良いわね」
「いや、俺は1人でいいよ。女だけで楽しんでくれ」
「えぇ!?」
「お互い気を使うだろ」
「そうね。そうしましょうか」
「そ、そうです・・・か」
ビグレット商会に色々発注してネムリマイタケの狩りを再開する。
サーヤ君とマヌイは解体している。
「戦闘直後は頭から湯気が出るな」
「穴が開いてるからね」
「少し冷える」
「風邪引いちゃうかもね」
「蒸れないから良いとは思うが」
「寒過ぎたら暖か帽子の方が良いかもね」
「収納袋貰ったんだし、ネムリマイタケは2匹でいいの?」
「資源の管理は大事だよ」
「そうね。マヌイと帰ってきた時に絶滅してたら何で稼ぐのって話だし」
「ネムリマイタケ2匹の後でお風呂の使い心地をレビューしてくれないか」
「そうしましょうか。テントは軍用として使われてるから必要無いしね。分かったわ」
「マットレスは宿で寝てみればいいし」
「えぇ。冬の野宿で試作品をいきなり使うのもね」
「冬か。森はまだ風が弱いから助かる」
「もう直ぐ年を越すわ」
「今年も無事に越せそうだね」
「なんとかね」
「折角だからタリルコルさんと年越しさせてやろう」
「うん」
ヤヌイの遺体が軍から帰って来た。
ファーダネさんが気を使ってくれ、教会で遺体と対面出来た。
普通は即火葬なんだろう。
マヌイは泣いていた。
菊池君も。
サーヤ君も。
タリルコルさんも。
泣いていなかったのは俺だけだ。
悲しさよりも無力感の方が大きい。
最初、ヤヌイの顔を見るのは躊躇われた。
後ろめたさがあった。
しかしこれからマヌイを旅に連れて行く。
その責任、その覚悟の為に、ヤヌイを見た。
無表情だ。
瞼の裏の顔とは違う。
実際の顔を見る事でいくらか重荷が減った気がする。
この寝顔を一生覚えていこう。
俺が救われるために。
すまないな、ヤヌイ。
お前を救えなかった俺が、お前の寝顔で救われるかもしれない。
その代わりマヌイは任せてくれ。
マヌイは菊池君とサーヤ君が守ってくれるだろう。
俺はパーティを守る。
冷たい男だって?
ふふ。
君の方が冷たい女だろう?
 




