⑦-32-162
⑦-32-162
数日後。
僕等はファーダネさんに呼ばれた。
「よく来てくれた。アルゴ君」
「はい」
「先日のトロールの討伐の報酬を渡そうと思う」
「!ありがとうございます」
「盗賊団と領主の件はまだ待ってくれ。何せ事が事だからな」
「いえ。お気になさらないで下さい」
「ありがとう。では今回の報酬を渡す」
「はっ」
「討伐報酬として200万エナを払うものとする」
「200万エナ!?」
はっとしてマヌイが口を押える。
「す、すいません!」
「はっはっは。構わないよ」
「しかし閣下。私も過剰に思います」
「そうかな?」
「僕達はレネ様やクルト様が削った後にトドメを刺して美味しい所だけ持っていったので」
「ふむ。クルト」
「・・・は。トロールは夜行性。岩に擬態する事も加え故に発見が非常に難しい。その発見の功績も考慮されており、また、トドメと言っても1撃で膝を破壊し、続く1撃で頭部を完全に破壊して倒した。その間の連携も言う事は無く一連の攻撃に因って短時間で討伐出来、我が軍の死者も無く被害を抑え、その後の怪我人への治療に尽力。この金額は妥当である」
「と、言う訳だ。魔物ランクもB。納得頂けたかな」
「過分なる査定。謹んで頂戴いたします」
「あぁ。正直に言えば冒険者ギルドで依頼した場合よりも安いのだ」
「そうなのですか」
「まぁ今回は軍と合同でというのを加味して、という訳だ。遠慮なく受け取ってくれ」
「そういう事であれば」
「うむ。そうしてもらいたい」
「ところでエチル。素材はどうする?」
「素材?」
「お前達が倒したんだ。半分は権利がある」
「いえ。200万エナもいただいたのにこれ以上は」
「アルゴ君。構わないよ。君達の今後の為にもなろう」
「?」
「・・・トロールの素材はマジックアイテムにする事でその特徴を生かした装備が出来る」
「げっ!!」
「はっはっは。その通りだ《自然再生》を活かした装備にね」
「かかか仮にですけど」
「うむ」
「骨で剣を作ると」
「・・・折れても時間が経てばくっ付く」
『えー!?』
「はっはっは。骨だから剣は難しいがね」
「・・・当然だが溶けたり燃えたりといった消失では再生されない。折れたりした場合でもなくなった箇所が有ればその部分は欠けたまま回復する」
「回復魔法みたいなものですか」
「・・・そうだ。欠けた物が近くに有れば自然に集まって回復する」
「それでその素材は皮膚や肉とかも?」
「・・・いや。再生機能に仕上がるのは骨素材だけだ」
「骨だけ。と言う事はクルト様。トロールの再生能力と言うのは」
「・・・うむ。私もそう睨んでいる。骨に秘密が有ると」
「膝を骨ごと吹っ飛ばしたのは結果として正しかった?」
「・・・そうなのだ。この件は今後の王国軍の対トロール戦術として・・・」
「オホン」
「あ」「・・・あ」
「「申し訳ありません」」
「はっはっは。2人は気が合うようだな」
「「ははは」」
「それでどうするね」
「そそそそうだった。どうしよう。骨かぁ~骨かぁ~」
「ふふふ。構わないよ、今直ぐと言わずともね」
「よっ、よろしいのですか!?」
「あぁ。とりあえず君達の分は取り置く。宿に帰ってじっくり悩んでくれ給え」
「ありがとうございます!」
「うむ」
宿に帰ってみんなと相談する。
「どうする~どうする~何に使うぅ~」
「落ち着きなさいよ」
「ふふふ」
「ホントに40才超えてるの?カズ兄ぃ」
「すぐ頭に浮かぶのはやっぱり防具かしら」
「そうですね。壊れても直るっていうのは防具に良さそうですわ」
「悪くないが無理だろうね。所詮骨だ。防具としては、ね」
「そうね。そうすると剣とか武器も駄目ね」
「魔法付与で硬くすれば?」
「聞いたんだけどサーペントの方が硬いんだって」
「再生機能を優先して防御力を疎かにするのはね」
「武器も防具も無理となると・・・どうしましょう」
「いや、マヌイの案は良いかもな」
「硬くする魔法付与?」
「あぁ」
「でもベースが骨でしょ。大丈夫?」
「ヘルメット・・・とか、どうだろうか?」
「ヘルメット?」
「あぁ。つまり兜だね」
「確かに今は冬用の帽子くらいだし、頭を守ると言う意味では良いかもしれないけど」
「だったらもっと硬い兜でも良いんじゃない?」
「マヌイ、硬すぎても駄目なんだ」
「「「?」」」
「極端な事を言うと」
「「「うん」」」
「先日サーヤ君がハンマーで岩を割ったね」
「「「うん」」」
「あれは力が岩の表面のみならず中にまで届いて割れたんだ」
「「「うん」」」
「つまり、岩を頭に例えると・・・」
「「「こわっ」」」
「木にも振るったね」
「うん。めり込んだ」
「でも木は割れてない、死んでない」
「めり込む、変形する事で衝撃を吸収したんだ」
「あー、何となく分かった」
「泥の中を歩き難いのは地面を蹴った衝撃が泥に吸収されるからだ」
「でも柔らかいと兜として意味無いんじゃないかな」
「その通りだマヌイ。バランスが大事だな」
「バランス」
「2重構造にしよう」
「2重?」
「硬い外殻、外殻の内側に付ける衝撃吸収用のライナーの2重だ」
「「「へー」」」
「外殻の内側にマジックテープを貼る」
「マジックテープ!?魔導具のテープなの!?」
「「「・・・」」」
「い、いや。面ファスナーを貼る」
「「「うん」」」
「それにライナーを貼り付けて個人に合わせて調節する。ライナーは直接頭部に接する。頭部は人それぞれ形が違うから調節させるんだ」
「「「うん」」」
「頭部の採寸は皮革店でするとして、今日は外殻のデザインをみんなで考えよう」
「「「はーい」」」
ヘルメットデザインの発表会である。
「先ずは菊池君のデザインを発表してくれ」
「分かったわ。先ず頭部を守る機能を重視して私の前世のヘルメットデザインを採用したの」
「フルフェイスじゃなくハーフっぽくしたんだね」
「そう。着けながら戦闘するわけだからね」
「視界も確保できて良さそうだ」
「そうですね」
「じゃぁ、サーヤ君」
「はい。私は騎士の兜を模しました。特にカズヒコさんは盾になるのですからやはり全体を覆った方が良いです」
「なるほどね」
「盾だもんね」
「ふむふむ、次、マヌイ」
「うん。私も兜かな。竜騎士みたいなのにしたの」
「「「竜騎士!?」」」
「うん」
「なるほど。それはドラゴンか」
「そう」
「かっこいいわね」
「でも竜騎士だと思われません?」
「あっ、そっか」
「いや、オリジナルデザインの兜を着けるからどうせ目立つしな」
「まぁ、街に入ったら外せばいいしね」
「そうですね」
「うん!」
「じゃぁ僕だな。菊池君と同じく前世のを参考にしたよ。ロードバイクのだ」
「ロードバイクか」
「あぁ。流線型だね」
「もう穴開いちゃってるけど?」
「通気性の為だよ」
「ふーん」
「夏場は暑いからね」
「なるほど!」
「かっこいいわね」
「見たこと無いデザインですね」
「前世のものだからね」
「ドラゴンにも似てる!」
「なるほどな、見ようによっては」
「これが良いんじゃない?」
「そうですね」
「うん!」
「これをベースにみんなの意見を取り込んでいくか」
「そうね」
「ハーフなのは同じとして菊池君とサーヤ君みたいに後頭部も覆うようにしよう」
「そうね」
「安全性が増します」
「流線型をマヌイのドラゴンにしよう」
「やった!」
「角を付ければマヌイの耳も隠せるな」
「豚族っていうのバレずに済むわね」
「良いですわ」
「うん!」
「これに普段使うゴーグルを着けられるようにして、サーヤ君の案をもう1つ取り入れて、マスクをアタッチ出来るようにする」
「「「えー!」」」
「ん?どした?」
「いや、マスクをアタッチメントにするのはいいけど」
「どうして髑髏なの?」
「いや、定番かなと」
「嫌よ!」
「そ、そうか。じゃぁマスクは個人の好きにデザインしよう。フルとハーフの2種類を作ろう」
「そうしましょう」
「楽しそう!」
「マヌイは獣人骨格だからハウンスカルっぽくな」
「ハウンスカル?」
「騎士の兜で、鼻が伸びたような兜があるだろ」
「あー、あれね」
「私のはカズヒコさんが決めてください」
「むー、ホントは自分で決めて欲しいが」
「・・・すいません」
「まぁ、こういうのは好きだから良いでしょう」
「やりました!」
「デザインは完成してから披露しようぜ」
「良いわね!ファッションショー的な」
「楽しみ!」
「楽しみですわ!」
「後、肘膝当てとレガースも作るか」
「なるほどね。でもセットで魔法付与出来るの?」
「大丈夫らしい。あのサーペント装備も上下別れてるだろ?」
「そうね」
「同じ体に装着すれば同じ魔力により効果が発揮されるんだと」
「へー」
「夏にビキニアーマーを凝視しただろ?」
「したのはあなただけだけどね」
「上下に分かれててもセットで認識されてるらしい。ちなみに防御効果の魔法付与だと」
「ビキニなのに、防御!?守る面積無いじゃん!」
「光魔法の《バリア》らしい」
「はー」
「今度みんなに買って効果を検証してみよう」
「ちょっと今マスクのデザイン考えてるから邪魔しないでくれる?」
「うぅ。サーヤ君、次の夏にビキニアーマー買おうな」
「はい!」
「駄目よサーヤ!」
何かを作る事は楽しい事だ。
マヌイは妹を失った。
その悲しみを無くす事は出来ないが一時でも忘れる事が出来るのなら、
一時でも軽くする事が出来るのなら、
いや、
マヌイだけじゃなく俺にとっても必要な時間だ。
くだらない冗談や、みんなとの共同作業。
新たな思い出を作る事が今の俺達には必要なんだ。