⑦-28-158
⑦-28-158
俺が安眠を貪ってる間に新作武器のテストをやってくれていたらしい。
今日もテストだ。
サーヤ君とマヌイは少し離れてテストしている。
マヌイは魔法だ。
「それで?」
「ん?」
「ヤヌイとマコルは今どうなの?」
「あぁ。苦笑いしてるよ」
「味方に《隠蔽》するような人だからね。そりゃそうよ」
両手で顔を挟まれる。
「もうやってないようね」
「あぃ。やってまひぇん」
「よろしい」
「何やってんのー?」
「《隠蔽》疑われてさ」
「仕方ないよー」
「そうですわ」
「そうよ」
「テ、テストはどうだった」
「武器は先日の点だけでよろしいかと」
「私は魔法をどんどん使っていくだけだから」
「うーん」
「カズヒコ?」
「そろそろかな」
「?」
「じゃぁ、1度街に戻って武器を作るか」
「「「了解」」」
街に戻り鍛冶屋に発注した時に思い出した。
「あー!!」
「「「?」」」
「どーしたの!?」
「どうしました?」
「アルゴ?」
「思い出した!」
「何を!?」
「いやー、やっぱり寝不足って駄目だな。脳の働きが極端に低下する」
「だから何が!?」
「トロール忘れてた」
「「「あっ」」」
「サーヤ君、幹部が言ってた例の、ティラミルティの」
「えぇ・・・あっ!」
「「?」」
「この国だけじゃなくて別の国にも同じ諜報員がいるんだって言ってたんだよ」
「「えー!」」
「ファーダネさんに報告しよう」
「急ぎましょう」
「怒られるなこりゃ」
「でも仕方ありませんよ、寝てなかったんだし」
「言い訳だがね」
ファーダネさんに面会を求めて領軍宿舎に訪れた。
ハグデル伯一家はすでに王都に護送したらしい。
いつもの3人はバレンダルで残務処理だ。
「アルゴ君。すまないな、報酬はもう少し待ってくれないか。仕事が片付かんのだ」
「いえ、報酬の件で来たのではありません」
「ん?」
「閣下に謝罪をしなければいけない事が有りまして」
「うむ。聞こう」
「重要な報告を一部忘れていた事に気付きまして」
「うむ」
「洞窟でティラミルティ帝国の諜報員を拷問した時に重要な情報を吐きました」
「もう拷問したのを隠そうとしないのだな」
「同じような諜報員が他の国にも居ると言ったのです」
「何だって!?」
俺はその国と諜報員の名前を話した。
「エチル!何でこんな重要な事を忘れるんだ!」
「申し訳ありません」
「仕方ないんです!」
「カーラ君」
「過労と寝不足で倒れて3日間も寝ていたんです!」
『・・・』
「そうか、すまなかったな」
「すまないエチル」
「いえ。気になさらないで下さい。それともう1つ有りまして」
「うむ」
「30人を超える盗賊に襲われた件ですが」
「うむ」
「途中でトロールが出現したのです」
『なんだと!』
「・・・トロールだと!」
「はい。僕達は初めて見たんですが盗賊達も叫んでいました、トロールだと」
「食べられてましたね」
「うえー」
「傷つけられても直ぐに治ってました」
「・・・うむ。トロールのスキル《自然再生》だ」
「《自然再生》?治癒ではなく?」
「・・・うむ。再生する。腕を斬り落としても時間をかけて生えてくる」
「すっげぇ!」
「首を刎ねても?」
「・・・いや。頭を潰したり失くせば死ぬ。もっとも、首はそもそも無いがな」
「急に現れたのです。岩に擬態してたのですが・・・完全に擬態してました。あれは岩でした」
「・・・そうだ。トロールは夜行性、日中は岩になっている」
「日の光に浴びると死ぬとか?」
「・・・いや、アンデッドではないから死にはしない。岩になるだけだ」
「見つけるの難しいですね」
「・・・そうだ。戦闘もそうだが日中は完全な岩で見破る事は難しい。だから捜索は夜、危険な夜に森を捜索しなければならんのだ」
「クルト様、もしかしてトロールもティラミルティが?」
「・・・いや、レネ。3mを超す巨漢にその重さ。輸送は難しい、違うだろう」
「そうですか」
「どこかから流れて来たと」
「・・・うむ」
「トロールはオークも食べます?」
「・・・うむ。人間も捕食するくらいだからな」
「オークは昼行性でしたね」
「・・・昼行性のオーク、夜行性のトロール。捕食の為現れた、と?」
「「・・・うーむ」」
「アルゴもクルトも考察は後で良い。先ずは討伐だ」
「はい」「・・・は」
「かと言って我々は残務処理で忙しい。そこでアルゴ君」
「来たぁー」
「はっはっは。すまないな、討伐依頼だ。我が軍と共に討伐をして欲しい」
「でも冒険者ギルドの仕事じゃないんですか?」
「大盗賊団の残務処理や周辺地域の盗賊対策で人手不足なのだよ」
「はぁ~。分かりましたよ」
「レネ。頼んだよ」
「はっ!私の炎で焼き尽くして見せます」
「・・・閣下、今回は私も参りましょう」
「む」
「レネの火でも3mのトロール、難しいでしょう。私の能力で」
「そうだな。では2人で頼む」
「「は」」
「ちなみにトロールの魔物ランクって」
「・・・Bだ」
「「「B!?」」」
「大丈夫かな」
「洞窟で盗賊20人を殺した君がか」
「仲間割れですよ」
「はっはっは。そうだったな。では頼んだよ」
「あ、あの」
「うん?マヌイさんか。どうした」
「先日の軍への参加ですが」
「あぁ。返事かね、聞こう」
「やっぱりお断りします」
「ふむ。アルゴ君のパーティに入ったのかな?」
「はい」
「そうか、冒険者になったか」
「はい。すいません」
「いや、正直残念だがアルゴ君なら安心出来る。アルゴ君、任せたよ」
「勿論です。マヌイに手を出す奴は手足をもぎ取りベアボアに生きたまま食わせてやります」
「比喩じゃない所が怖いのだが・・・まぁ大丈夫だろう」
「はい!」
「はっはっは。マヌイさん、いや、マヌイ君。ヤヌイさんの分まで幸せにおなり」
「あ、ありがとうございます!」
「うむ。討伐の準備に時間が掛かる。宿に知らせるから君達も準備をしておいてくれ」
『はい』
準備は3日はかかると言っていた。
その間に僕達の武器も完成した。
「ハンマーは2つ作ったの?」
「そうだ。これから使う用に1つ。ステータスが上がった時用に1つだ」
「ステータス上がった時用が重いですね」
「サーヤ君でもそう感じるか」
「荷物になるでしょ。重いし」
「私が1個持つよ!」
「マヌイが?」
「《頑健》さん習得しなきゃいけないし」
「そうね」
「そうだね」
「でもカズヒコさん、連射式の弾倉がそんなに増えてないような」
「うん。ハンマーとの両手持ちを想定してね」
「「「両手持ち?」」」
「あぁ。連射式の張力もそんなに上げていない。ハンマーを持ちながらでも装填出来るようにね。それに弓の張力を上げるやり方は見て覚えたからこの弓の限界までの張力なら職人に頼まなくても僕等でも上げられるから大丈夫だ」
「ステータスが上がったらまた作るって事ね」
「あぁ。部品と弓を別々に発注するだけだ。組み立ては僕等でやる。問題ない」
「なるほど。連射式とハンマー、それぞれ持つとバランスが取れてます」
「うん。偏らないようにしたよ。連射式弾倉は15発だ」
「ハンマーも形が変わってるわね」
「そうですね」
「平らな面と反対側が尖ってるね」
「そうだ。より1点に力が集中するように尖ってる」
「どう使い分けるんです?」
「潰す時は平らな面で、プレートメイルに穴を開ける時は尖ってる方を」
「なるほど!」
「ちょっと実験したいな」
「盗賊いませんかね」
「ミキ、2人が怖いよー」
「よしよし、目を合わせちゃ駄目よ」
「古い連射式とハンマーはどうするの?」
「うーん。マヌイの装備はまだ時間かかるから宿に置いててもいいかなって」
「そうね。街を出発する時にまとめて処分しましょう」
「あぁ」
「それとマヌイだな」
「ん?」
「いよいよ僕達の秘密の一端を知る時が来たようだ」
「ひ、秘密の一端・・・」




