⑦-20-150
⑦-20-150
討伐隊のバレンダル支部を領軍の敷地に構える準備をしているのを窓から眼下に見ながらハグデル伯爵はレネ嬢と会談していた。
「勅命の討伐隊だから勿論協力は吝かではないが、急な事でこちらとしても些か困っているのだよ」
「はっ。ハグデル伯爵様にはご迷惑を掛けると隊長、ファーダネ閣下から言付かっております」
「大盗賊団は壊滅したと聞いていたが」
「はい。しかし隣の領でまだ賊が跋扈してるとの事」
「大盗賊団とは関係無いただの賊であろう」
「それも調べる為に出張って来る由に御座います」
「隊長殿がわざわざかね?」
「上に立つ方のお考えなど私共には分かろうはずも無く」
「・・・まぁいい。しかし私の領で勝手な真似は止めてくれ給えよ」
「はっ。勿論です」
「宜しい、下がり給え」
「はっ。失礼致します」
バタン
「何故奴らがこんな所まで?まさか嗅ぎつけられたのか?盗賊からの連絡も無い。一体どうなっている。一応証拠は隠した方が良さそうだ」
コンコン
「旦那様、奥様で御座います」
「うむ、通せ」
「失礼致します」
「あなた」
「お前か、どうした」
「どうしたって、何故我が領地に討伐隊が?」
「隣の領の盗賊の為だそうだ」
「まぁ、この領ではありませんの?」
「うむ。安心しなさい。娘は?」
「突然の軍で怯えています」
「そうか。支えてやってくれ。私は仕事が有る」
「分かりました、では」
「ううむ。大きな動きは出来んな」
俺達はビグレット商会館に来ていた。
「おぉ!マヌイ!」
「タリルコル様!」
「よくぞ無事でいてくれた」
「うぅぅ、ヤヌイがぁ」
「あぁ、可哀そうな事をした。すまない、私に力が無いばかりに」
「いいえ、タリルコル様が謝る事じゃありません。でも、私は・・・」
「マヌイ・・・」
「私がマコル達を・・・」
「ヤヌイを助ける為だった。マコル達も分かってくれる。これからはマヌイが幸せになることがヤヌイとマコル達への供養になる。生きておくれ、生きて幸せになっておくれな」
「うあぁぁあ!」
「行こうか」
「えぇ」
「はい」
僕達は席を外して商会の人に以前泊った宿に口添えしてもらい泊めてもらった。
「ひっっっっっさしぶりの宿だな」
「ホントね」
「ネムリマイタケを狩りに出て以来ですから2週間くらいですか」
「風呂入って寝るわ」
「私も」
「私もです」
一緒の部屋だった2人は爆睡している。
バレンダルに昼過ぎに戻って来て今は昼前だ、丸1日か、結構寝てるな。
よっぽど疲れたんだろう。
何か胃に入れておこう。
2週間まともな物を食べていなかったから、宿の食事に涙が出そうになる。
食べた後風呂に入ってまたベッドに入った。
そして夕方に2人も起きてきた。
「ずーるーいー!」
「ずるいです。カズヒコさん」
「いや、ぐっすり寝てたから起こすの悪いなと思ってね」
「私も食べたかったー」
「私もですー」
「食べてくれば良いじゃない」
「皆で乾杯みたいなことしたかったじゃない」
「したかったです」
「これから夕飯食べるからその時にでも」
「先輩はもう2週間ぶりの食事をしたんでしょ?」
「めっちゃ美味かった」
「ずーるーいー!」
「ずるいです。カズヒコさん」
「じゃぁ食べるの無し?」
「食べるわよ!何言ってんの!?」
「食べます!」
「乾杯って言っても数日後にはファーダネさんが来る、仕上げはこれからだよ」
「それはまたその時にすればいいでしょ」
「なるほど」
「これからどうします?」
「食って寝よう」
「そうね」
「そうしましょう」
夕飯を食べている最中にタリルコルさんからの使いが来た。
夕飯が終わったら来て欲しいそうだ。
2週間ぶりのまともな食事に感動した2人の為にゆっくりと時間を取る。
食後の足でビグレット商会館へ向かった。
部屋に入るとマヌイも同席するようだ。
「呼びつけられるのは好きじゃないんですがね」
「はっはっは。相変わらずだな、君は」
「用とはなんです?」
「うむ。これからどうなるか聞いておきたくてな」
「恐らく僕達はファーダネ様に呼ばれるでしょう」
「今回の事でかね」
「それもあります」
「なるほど。実はマヌイを同席させてやってはくれないか」
「・・・いいでしょう」
「いいの?」
「当事者だ。知る権利が有る」
「うん」
「しかし知ることによって責任が生じる、その覚悟はあるかい」
「覚悟?」
「それ程の事なのかね」
「えぇ」
「マヌイ・・・」
「はい。知りたいわ」
「いいだろう。呼ばれたら声を掛ける。ここに居てくれ」
「うん。分かった」
「もう、大丈夫そうだね」
「・・・うん」
「明日・・・飯でも一緒にどうかな」
「うん、ありがと」
「タリルコルさんのおごりで」
「はっはっは。勿論構わんよ」
翌日。
早速マヌイを呼んでタリルコルさんの系列店で食事をする。
ヤヌイとの思い出を聞いていく。
悲しい事だがヤヌイを忘れない、
忘れられたくない、
そんな思いなのだろう。
涙も流しながら話していた。
話も食事も一段落して俺は切り出す。
「それでマヌイ」
「うん?」
「ファーダネさんに会う時同席させるという話だが」
「・・・うん。やっぱり駄目?」
「いや。だが条件が有る」
「条件?」
「僕達のパーティに入るんだ」
「え?」
「ファーダネさんの兵士には《覗き見》スキルを持ってる人が居る」
「「あっ」」
「それって他人のステータスを見るってやつ?」
「そうだ」
「・・・」
「君は今2属性持ちかい?」
「・・・んーん」
「安心してくれ。ファーダネさんとの会談が終わったら直ぐに解消するから」
「え?」
「君の能力は誰にも言わない。君も僕達の能力は誰にも言わないでくれ」
「・・・」
「もし君が軍に入りたいのならパーティに入らなくていい」
「・・・」
「このまま会えば即勧誘されるだろう」
「・・・」
「強引にはされないと思うが、君の才能を考えるとどうなるかは分からない」
「・・・」
「だがまだこの先どうするか迷っているのならパーティに入るんだ」
「パーティに入れば勧誘されないの?」
「恐らく・・・だがね」
「どういう事?」
「そういうスキルを持ってる」
「そっか」
「どうするかはファーダネさんが来るまでに決めてくれ」
「入る」
「早いな!」
「ヤヌイとパーティ組んでたんだけど、ステータス画面から消えちゃって寂しかったの」
「・・・そうか」
「アルゴ達ならいいかな」
「そうか」
「うん」
「リングを出して」
「うん」
「登録」
「見ても良い?」
「勿論だ。でも恥ずかしいからじっくり見ないでくれよ」
「ふふ、って、えー!?」
「どした?」
「スキル2つしかないの?」
「まぁね」
「名前も違うし」
「それは用心の為にね」
「みんな名前違うのね」
「そうよ。街ごとに名前変えてるの」
「毎回違う自分になれるんですよ」
「へー」
「勿論名前も秘密にしてくれよ」
「うん。分かった」
「ミ、マリンとカーラは《弓術》かぁ。でもアルゴが何も無いのによく3人だけで200匹のオークを倒したね」
「集落の戦い方を見たろ?」
「あれは夜襲でしょ?その前に昼に140匹くらい倒してたじゃない」
「よく覚えてるね」
「そりゃね」
「マヌイのステータスも見ていいかい?」
「えぇ」
「・・・そうか、ヤヌイが見守ってくれてるんだね」
「・・・うぅ」
「しかし一時的に隠させてもらうよ」
「え?」
「こうする」
「あ、あれ!?火魔法と風魔法が薄くなったけど?」
「こうするとマヌイの火魔法と風魔法は《覗き見》られても隠れて見えないんだ」
「えっ!?じゃぁ、今の私は水魔法しか見えてないって事?」
「えぇ、そうよ。私には水魔法しか見えてないわ」
「私にもですよ」
「・・・つまりアルゴに2つしかスキルが無いのは・・・」
「そういう事だ」
「なるほどね」
「これで一先ず安心だな」