⑦-13-143
⑦-13-143
《魔力感知》で村が見えてきた。
魔力の様子に異常はない。
強いて言えば起きている人間が多数いる事だ。
夜番をしているのだろう。
「村は無事のようだ」
「「ほっ」」
村に入り村長と会う。
「おぉ。ご無事でしたか。他の者達は」
「マヌイが囚われ他の者は恐らく死にました」
「な、何ですと・・・」
「申し訳ない」
俺は顛末を語った。
「そうですか。30人以上が」
「えぇ。村には来てませんよね」
「はい」
「これから休息を取ってから捕えた賊に案内させてねぐらを襲い、マヌイヤヌイを救出しに行きます」
「・・・私達も同行しましょう」
「いや。相手はただの賊ではありませんでした。特に頭と幹部は」
「私達には無理だと」
「えぇ。頭は《バリア》持ちだ。マヌイの魔法も弾いてた。素人には無理ですよ」
「・・・分かりました」
「何か食べさせてください」
「分かりました。直ぐ用意させます」
「捕えた賊の監視は頼みます」
「はい。任せて下され」
「猿轡をかまして何も喋らせないようにしてください。尋問もしないで」
「分かりました」
洞窟の中は冷えていたが一定の温度があった。
風も無い。
ただ床が冷たかった。
「ヤヌイはどこよ!」
「はっはっは。元気な子ブタだ」
「領主にやるのが惜しいですな」
「りょ、領主?」
「団長。そろそろこの洞窟から移った方がいいのでは?」
「そうだな」
「女を追った連中も戻って来てませんし」
「お楽しみなのか、そうでないのか」
「そうでないなら・・・」
「まぁそんなに急ぐ事も無いだろう。一仕事終えたんだ、役得役得」
「しかしもし移るのなら金庫等を移す準備をしなければなりませんし」
「楽しんでからでも遅くはない」
「団長・・・」
「妹は何処よ!」
「おい。連れて来てやれ」
「・・・団長も人が悪いですな」
「いや、優しいだろう」
傷だらけの女が部屋に連れて来られた。
「いやぁ!ヤヌイ!」
「マ・・・ヌ」
「おおーっと。そっちの言う事を聞いてやったんだ。今度はこっちの言うことを聞く番だろ」
「治療させて!」
「だから俺の言う事を聞く番だって言ってんだよ」
「何でも言うこと聞くから・・・お願い。治療させて」
「だから、今度は俺の言う事を聞く番だって言ってんだよ」
洞窟に女の悲鳴が響き渡る。
相当疲れていたのだろう、昼近くまで寝てしまった。
雨は上がっていた。
起きて朝食を摂るがまだ疲れは抜けていない。
しかしマヌイヤヌイが心配だ。
殺されていないとは思うが。
20人以上だったか、大丈夫だろうか。
先ずは場所を特定してからだな。
僕達は準備を終え村長と会った。
「誰か帰って来ましたか?」
「・・・いいえ」
「そうですか」
「はい」
「もし3日経って僕等が戻らない場合この手紙をタリルコルさんに渡してください」
「承知しました」
「賊を1人置いていきますが猿轡は取らないように。水だけ与えて下さい」
「はい」
「では行ってきます」
「ご武運を」
僕達は捕えた賊の1人に案内させてねぐらに向かう。
「手紙って?」
「ファーダネさんに宛てたものだ」
「あぁ。賊を1人残したのもその為ね」
「あぁ」
「作戦は?」
「んー。先ずは見てからだな」
「そうね」
「ねぐらはどんな所だ?」
「あ、あぁ。洞窟だ」
「洞窟か。出入口は1つか」
「そうだ」
「うーむ。失敗したかな」
「どうして?」
「村人多数で出入口固めて持久戦でも良かったかなぁって」
「相手も決死で突破して来たら被害が出るでしょう」
「・・・そうだな。村人だからな」
道中、洞窟の間取りや幹部の部屋の位置を聞き出す。
夕方には洞窟の入り口近くに着いた。
森の中の丘の斜面にある洞窟だった。
入り口付近も木々が生えて陰になっている。
丘の斜面を見上げながら様子を探る。
「見張りは居ないのかしら」
「入って直ぐに2人居るよ」
「な、何故分かる?」
「スキルでね。さて、もう用無しだな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。殺さないって言ったろ?」
「言ったか?」
「言ったよ!」
「まぁ、僕は殺さないよ」
「ホントか!?」
「あぁ。僕はな。カーラ君」
「はい」
サーヤ君が賊の後ろから延髄を突き刺して脳を破壊する。
倒れ込む賊を《隠蔽》で隠す。
「サーヤ、先輩に似てきたよー」
「うふふ」
「息の合ったパーティじゃないか。なぁ」
「はい!」
「それで、これからどうします?」
「よし。あいつ等が寝るまで待とう」
「そうね。後20人じゃぁ村は襲わないだろうし、夜に移動もしないだろうしね」
「ちょっと迂回して丘の上で視て来る」
「どうするの?」
「俺の《魔力感知》の感知範囲は球体状だ。丘の上で感知すれば奴らの動きも分かるだろう」
「なるほど」
「それまで《隠蔽》をかけるから休んでてくれ」
「「了解」」
陽が沈んでしばらく経った。
賊共の動きも緩慢になり出入口の見張りも交代した。
2人の元に戻る。
「見張りが交代した」
「と言うと?」
「恐らく飯食って寝るんだろう」
「じゃぁ、いよいよ?」
「あぁ。仕掛けるぞ」
「どうします」
「先ず見張りを殺す」
「はい」
「僕が誘き寄せるから始末してくれ」
「入り口に行くんですか?」
「あぁ。ギリースーツだ」
「ギリースーツ?」
「落ち葉なんかを集めてそれを纏う。そして《隠蔽》で完璧だ」
「大丈夫かな」
「カズヒコ様、手が・・・」
「あぁ。武者震いだ、気にしないでくれ」
「・・・はい」
「落ち葉や草を集めてくれ」
「「了解」」
服の上に落ち葉を被せ匍匐で距離を詰めて行く。
「確かに・・・一度視線を外すと分からないわね」
「ホントですね。私達はそこに居るって知ってるからまだ分かりますけど」
「暗いし、これは分からないわね」
「はい」
俺は入り口近くまで来ていた。
付近に《罠》を仕掛ける。
石を投げて木に当てる。
カンコン
「何だ?」
「なんか音がしたな?」
「見て来いよ」
「ちっ、また俺かよ」
1人が出て来て《罠》に引っ掛かって俺の元にこける。
ズザッ
すかさずナイフで刺す。
「ぐむっ」
「どうした?」
「コケちまったよ」
「何やってんだ」
「助けてくれー」
「ちっ、しょーがねーな」
男が出て来る。
バシュッ
男の頭に矢が突き刺さる。
そのまま倒れ込んだ。
俺は立ち上がって手招きする。
2人が駆け上がって来る。
3人で俺の枝や葉っぱを取っ払う。
「よし、行くぞ」
「「はい」」
「寝てる奴から殺していく」
「「了解」」
洞窟は所々分かれ道が有り、その先が手下の寝床になっているらしい。
「む」
「どうしました」
「ここは食堂らしい、火の跡が有る」
「それが?」
「出入口は1つって言ってたが火を使ったって事は」
「密閉じゃない?」
「うん」
「森だからモグラとかネズミとか穴を開けてるのかも知れませんよ」
「・・・そうだな。ここまで来たんだ最後まで行くぞ」
「「はい」」
最初の寝床のスペースに来た。
通路はランタンが有るが寝床には無い。
好都合だ。
「4人寝てる」
「「了解」」
「オークの時と同じ要領だ」
「「了解」」
「君達は1人ずつ殺せ、俺が2人殺る」
「「了解」」
スペースに滑り込み寝息を立ててる賊に近寄って素早く延髄を掻き切る。
オークで手慣れたものだ。
菊池君は初めてだから大丈夫だろうか。
少し注意して視る。
思いっきりブッ刺している。
大丈夫そうだ。
マヌイヤヌイの事とマコルを殺された事が有ったからだろう。
そうだ。
こいつらは人間なんかじゃない。
モンスターなんだ。
慈悲や情けなんていらない。
何も考えなくていい。
ただ駆除する、それだけだ。