⑦-12-142
⑦-12-142
追いかけて来る盗賊達を撒かないように南に逃げる。
しばらく逃げるとそこは谷。
峡谷が広がっていた。
「村長はここの事を言っていたんだな」
「まぁまぁ大きい峡谷ですね」
「ひっひっひ」
「追い詰めたぜ」
「もう逃げらんないよん」
「今までおあずけ食らってたからな。女は殺すなよ」
「あったり前よ!」
「しかし逃げた先が死者の谷とはな」
「丁度いいや」
「死者の谷?」
「はっはっは。知らねぇのか」
「冥途の土産に教えてやる。その谷に落ちて死ぬとな、アンデッドになって蘇るって話だ」
「何だって!?」
「はっはっは。ゾンビになるんだとよ!はーっはっはっは」
「今までも殺した奴らをこの谷に落として始末してたって訳よ」
「まぁゾンビになるのはお前だけだがな」
「女は天国に連れてってやるから安心しな」
「ひーひっひっひ」
「1人は生かして吐かせる」
「「了解」」
「何だぁ」
「へっへっへ。やるってのか」
「イッチョ揉んでやるか」
「終わっても揉んでやるがな」
「ひーっひっひっひ」
「女は弓だ、気を付けろ」
「わーってるって」
俺は真ん中の賊に向かって走った。
何人かランタンを掲げて俺を照らす。
「!?」
「8対3で来るかぁ?普通!」
煙玉を投げる。
「何だ!?」
「ぐおっ!?煙玉だ!」
「くそ!見えぐっ」
雨のせいでそんなに広範囲には撒かれない。
煙の中を《魔力検知》で見ながら突っ込んで1人の喉をすれ違いざま斬り裂く。
「《雷撃》!」
バリッ
喉を斬られた男と魔法を食らった男の2人が時間差で地面に倒れた。
「くっそ!雷魔法だとぅ!」
「魔導士だ!」
「もっと照らせぇ!」
「しかも雷だ!接近戦はやべぇっふ!」
「どうするっく!」
2人の頭に矢が刺さる。
「あっ!くそ、あのアマ!」
俺は1人にマチェーテを振り上げる。
「くそがあぁ!」
刃を交えた瞬間、
ぐるん!
「なっ!?」
大の字になった次の瞬間、賊の首は鮮血を撒き散らしていた。
「か、かひゅ」
雨で煙はすぐに晴れた。
5人の賊が横たわる地面を露わにして。
「これで同じ人数だね」
「い、一瞬で5人だと・・・」
「来なよ。死者の谷だっけ?落とすんだろ?」
「ぐぐぅ」
「来ないなら詠唱しちゃうよん。~~~」
「オラァ!」
「バカ、よせ!」
斬りかかって来た賊は《カウンター》で瞬殺だった。
「あっとふったり」
「ちょ、待て」
「狙いは?」
弓を構えている彼女達に声を掛けた。
「頭です」
「あたまじゃなくタマで良いよ。時間掛けて大丈夫だから」
「「了解!」」
「ま、待ってくれ!降参、降参する!」
「え~。ここまで来て降参?嘘でしょ」
「いや、ホントに。マジで降参する」
「そっちは?」
「お、俺も降参する」
「う~ん。どうしよっかな~」
「た、頼む。何でも言う。ねぐらの場所も言う!」
「何でもぉ?」
「あぁ!何でもだ!」
「う~ん。分かった。2人共、来てくれ」
「「了解」」
「カーラ君。バッグから枷を出してくれ」
「はい」
「よし。お前、腕を後ろに回せ」
「あぁ」
「次、お前。そいつの腕にこの枷を嵌めろ」
「あぁ。嵌めたぜ」
「よし。チェックする。2人は妙な真似したら遠慮なく撃ち込め」
「「喜んで」」
俺は枷が正しく嵌ってるかチェックする。
「よし。次はお前だ。腕を後ろに回せ」
「あ、あぁ」
2人を捕らえて尋問する。
「はぁ~、こんな冬に雨の中尋問かよ」
「早くしないと村が」
「だな。ったく。オイ!」
「は、はい」
「ヤヌイって豚族の女が居るはずだ」
「い、います。ねぐらに居ます」
「生きてるのか」
「た、多分」
「多分?」
「豚族の女は幹部しか抱けないんだ。面も見てねぇ」
「総勢何人居るんだ」
「よ、40人ほど」
「40か」
「今日30くらいで来たから、後20ちょいって所ね」
「頭の情報を言え」
「かしら?」
「あぁ。どういう奴だ」
「さ、さぁ。良くは知らねぇ。貴族みたいに威張っていけすかねぇ奴さ」
「あぁ。だが頭はキレるから皆従ってた。そいつの連れも元々の仲間って感じだったな」
「どうしたんです?」
「あぁ。こいつ等の言う通りキレる奴だった。しかも魔法も使う。なんで盗賊なんてやってるんだろう」
「それは大盗賊団だからじゃない?」
「ほぼ壊滅されただろ。続ける意味が有るんだろうか」
「クズだからよ」
「そうですわ」
「まぁ、そうなんだけどね。もしかしてまた僕達と同じ・・・」
「「あっ」」
「何才くらいだ?」
「30~40くらいだ」
「違ったか」
「そうみたいですね」
「死者の谷。ここに死体を落とすとゾンビになるんだな」
「あぁ。そういう噂だ」
「今まで殺した人達をここに落としてたのか」
「あぁ」
「何故だ。ほっといても魔物に食われるだろう」
「さぁ。頭の命令さ」
「どうしたんです?そんなこと聞いて」
「マリン君、カーラ君」
「「はい」」
「この谷に落ちるとアンデッドになるんだって」
「えぇ。今聞きましたよ」
「この谷は南東に向かってるだろう」
「ん~。そういえば、そうかも」
「南東には何が有ると思う」
「ん~。何?」
「・・・フォセンだ」
「「!?」」
「じゃ、じゃぁ!?」
「まさか!?」
「あぁ。フォセンのアンデッド騒動。あれはこいつらの仕業だったって訳だ」
「こいつ!」
「ま、待て!待ってくれ!知らねぇ!知らなかったんだ!」
「そ、そうだ!ホントに知らなかったんだ!」
「知らなきゃ無実って訳にはいかないわよ!」
「ブッ殺しましょう!」
「ま、待ってくれ!」
「どうします?」
「とりあえず村に戻ろう」
「・・・そうですね」
「村が無事か確認する」
「「はい」」
「無事なら休息をとる」
「休むの?」
「流石にこれから連戦は無理だ」
「・・・そうね」
「もし襲撃中だったら」
「勿論挟み撃ちだ」
「そうね。それが良いわ」
「そうですね。残り10人くらいでしょうし」
「よし。お前ら立て。急いで村に行くぞ」
「わ、分かったよ」
「っと、その前に」
「「?」」
「この死体の首を刎ねておこう。念の為」
「そうね」
「分かりました」




