⑦-11-141
⑦-11-141
3日経った。
領境を捜索して何も手掛かりを得られぬまま村を出て3日が経った。
1度補給の為に村に戻ることにする。
「うぅ。ヤヌイィ」
「マヌイ!村に帰って補給を終えたらまた捜索するから!なっ!」
「うぅぅ」
「くそっ!こんな時に雨まで降りやがってよ!」
マコルが雨に毒づいている。
気持ちは分かる。
足跡や痕跡が消えるのだ。
イラつくのも分かる。
領境は広い。
というよりこの世界は何でこんなに森が多いんだ。
植林してる魔物でも居るんじゃないか?
あるいは精霊とか・・・
否定出来ない所が更に沈んだ気持ちに拍車をかける。
村への帰途。
雨で分かりにくいが夕方だ。
村まではまだある。
捜索の空振りの徒労感。
数日の野営による疲労。
雨と初冬の寒さ。
みんな疲れ切っていた。
そこに《魔力感知》に反応が有る。
「東から何か来るぞ!」
『えぇ!?』
「30以上だ!戦闘態勢!」
「「了解!」」
「くそっ!」
「これは!魔物じゃない!人間だ!恐らく盗賊団だ!」
「くそっ!やってやらぁー!」
「駄目だ!逃げるぞ!マコル!」
「捕まえてヤヌイの場所吐かせるんだよ!」
「そうよ!やってやるわ!」
「駄目だ!約束しただろう!10人より多かったら撤退だと!」
「これを逃したらヤヌイは助けられないかもしれないじゃない!」
「むぅ・・・」
「すまねぇが聞けねぇ!お前達だけでも逃げてくれ!」
「んな事言われて・・・くそ!2人共隠れて援護だ!」
「「了解!」」
「兎に角数を減らせ!」
「「了解!」」
「来るぞ!」
武装した人間の男達が俺達と相対する。
「はっはぁー!これはこれは」
「村人だな」
「左様ですな」
「てめぇら!ヤヌイを何処に連れて行きやがった!」
「威勢の良いのがいるな」
「あの時に見た顔です」
「答えろ!」
「ヤヌイ・・・とは?」
「おめぇらが攫って行った女だ!」
「あぁ。俺達の世話をしてくれているよ。夜のな」
『はぁーはっはっは!』
盗賊共が下卑た笑いを吐く。
俺は走って右側、盗賊団の左側に回り込む。
「むっ!」
「ぐっ!」
「うっ!」
矢が2人の頭に突き刺さる。
「貴様やる気か!?」
「ヤル気満々で股間の棍棒オッ立ててる奴が何を今更言ってるんだ?」
「貴様!」
「《エアロエッジ》!」
「むぅ!《バリア!》」
風の刃が見えにくい障壁に阻まれる。
マヌイか、馬鹿な。
《バリア》持ちだって言ってただろ!
先ず雑魚を減らせ雑魚を!
「てめぇ!」
雑魚が1人俺に突っかかって来る。
剣を振り下ろすが余裕で《見切れ》る。
なんならオークの方が速い。
《受け流し》て手首を斬り落とす。
「ぎゃああぁぁ!」
そいつを見て一瞬たじろいだ他の雑魚に襲い掛かる。
「うあっ!」
俺の振り上げたマチェーテに慌てて剣で受け止めようと構えた。
雨の中火花が散った刹那、
《カウンター》が発動し《受け流し》て手首を返し相手の剣を弾く。
相手は大の字に身体を開いた。
何が起きたか分からないのかポカンと口が開いた次の瞬間、
フシュッ
喉を斬り裂かれ血の雨を降らせる。
ビビる雑魚共。
そこに矢が突き刺さる。
「ふ」
「はん」
「くそっ!弓兵が隠れてるぞ!」
「先ずは右側から切り崩せ!」
『うおおぉぉ!』
何だ。
この分析力と判断力。
ホントに盗賊か。
特にプレートメイルを着た《バリア》持ち。
俺の方じゃなくマコル達の素人さを見抜いてそこを突いてくる。
俺達はここ数日の捜索で疲労が溜まってる上にこの雨だ。
マコル達は1人ずつやられていく。
そもそも11人と30人以上だ。
分が悪い、悪すぎる。
「妹を返せぇー!」
「ほう!こいつは良い。良い土産になるな」
「その女は生け捕りだ!」
「おおおぉ!」
駄目だ、マヌイは状況が見えてない。
頼りのマコルも最初は勢いが有ったが今は防戦一方だ。
俺達がこっちを崩すより向こうの味方が崩れるのが速いだろう。
くそう!
どうする。
そこに新たな魔力反応が現れた。
「な、何だ!?デカいぞ」
馬鹿な。
こんなデカい魔力見逃すはずない!
今までどこに居た。
居たのか?最初から?そんなはずない!こんな強い魔力見逃す訳がない!
盗賊団の右翼から魔力が強くなっていく。
「うわあぁぁ!?」
「な、何だぁ!?」
盗賊の1人が宙に浮いている。
いや、何かに掴まれている。
岩だ。
岩から腕のような物が伸びて盗賊を掴んでいた。
「とっ、トロールだぁぁぁ!」
「ひいぃぃ!」
「ト、トロール!?あれが!」
「ブシュルァアアアアアアアアァァァ!」
岩から魔物に変化して、
いや。
魔物が岩に擬態していたのか。
でっぷりとしたガタイ。
知性を感じさせない顔。
首が無く胴体と一体化した頭部。
3mを優に超えているであろう巨体を立ち上げ右手に掴んだ盗賊を、
ボリンッ
「ひいぃぃぃ!食われたぞぉ!」
「うわあぁぁぁ!」
頭から丸齧りだ。
首が無いから胃まで直通だな。
首が有ってもか。
くっそ怖い!
俺の側じゃなくて良かった。
マコル達も、盗賊達も、突然のトロールに狂乱の体だ。
今しかない。
俺は戻ってマコルに叫ぶ。
「撤退なら今しかない!」
「駄目だ!攻撃するなら今しかない!」
「奴らは村を目指してる!村で迎撃するんだ!」
「ぐうぅ!分かった!マヌイ!」
「妹を返せぇー!」
「くそっ!」
「豚を捕らえろ!トロールは取り囲んで威嚇し続けるんだ!殺そうとしなくて良い!」
『おおう!』
「ブモオオオォォォ!」
トロールはブンブン腕を振り回している。
遠巻きに攻撃する振りをしている盗賊達。
振り回す腕に切り傷も与えているが傷が治ってゆく。
凄い自然治癒力だ。
「きゃあぁぁぁ!」
「マヌイ!」
「豚を捕らえたぞぉ!」
『おおぉ!』
「撤退だ!マコル!」
「ちっきしょー!」
「駄目だ、マコル!戻れ!」
くそっ!
マコル達はもう数人だ。
盗賊はトロールに人を割いているとはいえ十分な戦力だ。
撤退だ。撤退しかない。
しかしこのまま村に逃げても追って来るだろう。
村はタリルコルの応援が来てるはずだ。
俺達が惹きつけて戦力分散される事に懸けるしかない。
「2人共姿を見せてくれ!」
「「了解!」」
2人が《隠蔽》を解いて藪から姿を現す。
「あっ!弓兵ですぜ!」
「女だ!」
「女だぞー!」
「いやっはぁーぶべ!」
矢が頭に突き刺さる。
「あのアマぁ!」
「ブッ殺す!」
8人程がこっちに向かって来る。
「よし!逃げるぞ!」
「「はい!」」
俺達は南に向かって逃げ出した。
「マコル達は大丈夫でしょうか」
「いや。無理だ」
「・・・」
「村に逃げないの?」
「戦力を分散させる。タリルコルの応援でも対処出来るだろう」
「大丈夫かしら」
「最初30人以上居た。俺達で10人程殺して残り20人くらい。俺らを追って8人来てる」
「12人くらいで村か」
「トロールも頑張ってくれるだろう」
「何とかなりそうかな」
「8人殺す。それから村に合流だ」
「「了解!」」




