⑦-10-140
⑦-10-140
ヤヌイ達と別れた翌日の夜、タリルコルさんに呼ばれた。
「な、何だって!?」
「ヤヌイが盗賊に攫われた!?」
「ブフー!そうだ。昨日街を出て村への道中襲われたらしい」
「マコルは!?」
「マコルは重傷を負ったが村に辿り着いた。他のメンバーは皆殺された」
「何だって!」
「ヤヌイは殺されてないのね!?」
「ブフー!攫ったということは恐らく」
「くっ!豚族か」
「ブフー!」
「でも盗賊は隣の領じゃなかったの!?」
「そうだ。東隣に出没していたんだが」
「・・・ということはこの領と東の領の境辺りがねぐらか」
「かもしれん」
「何故だ」
「何が!?」
「隊商でもないのに何故襲った」
「・・・豚族だから?」
「遠くからじゃ分からんだろう」
「・・・他の獣人と区別出来るの耳くらいだもんね」
「ヒトの顔とは違って出っ張ってるから獣人っていうのは分かるだろうが」
「たまたま近くで遭ってしまったか」
「うーむ。その可能性もあるが」
「そんな事より救出しないと!」
「領主には頼れないな」
「ブフー!その通りだ」
「衛兵は動かないだろう。となると俺達で動くしかない」
「護衛も動員しよう」
「賊は何人でした?」
「10人程だったらしい」
「10人?」
「どうしたの?」
「10人ならヤヌイの魔法で何とかなりそうだが」
「賊にも魔法使いが居たらしい」
「何だって!?」
「幹部がまだ居たの!?」
「ブフー!しかも光魔法の《バリア》持ちだ」
「それでか」
「魔法が弾かれたのね!」
「分からん」
「何が!?」
「俺なら狙うならタリルコルさんの隊商を狙う」
「ブフー!空ぶった・・・のか」
「南東方面にも交易してるんですよね」
「あぁ。盗賊討伐隊の本部が近くにあるからな。景気は良くなってるらしい」
「たまたま狙われたんだったらどうなるの?」
「凌辱された後、殺されて捨てられる可能性が高いな」
『!?』
「ねぐらまで連れて帰るか。隊商が来るまで待つか」
「隊商が来るまで待つのなら殺される、と」
「早くしないと!」
「とりあえず村まで行こう」
「護衛を集めろ!」
「タリルコルさん。地図で言うとどの辺で襲われたんでしょう」
「分からん。村に行ってマコルに聞いてくれ」
「分かりました」
「あの」
「どうしたカーラ君」
「街門って開くのでしょうか」
『あっ』
「くそう!」
「タリルコルさんの力で何とかならない?」
「無理だ。領主に目をつけられている。要求は通るまい」
「俺達はこのまま街壁を超えて村に向かいます。護衛は明日朝1番に村に向かわせてください」
「ブフー!街壁を超える!?出来るのか?」
「えぇ!頼みましたよ!」
「分かった!よろしく頼む!」
「いくぞ!」
「「はい!」」
俺達は夜陰に紛れ人気の無い地域の街壁に近づく。
《魔力感知》で付近に衛兵は居ないのを確認する。
以前に潜入した盗賊団の砦よりもかなり低い。
鉤縄を使って街壁を超えた。
村に急ぐ。
途中で雨が降り始めた。
雨が服を濡らし重く感じる。
着いたのは明け方近くだった。
「村長!」
「おぉ!アルゴさん!マリンさんもカーラさんも!」
「タリルコルさんから聞きました!マコルは?」
「こちらに!」
村長に案内されてマコルの居る家に向かう。
家の中ではマコルが横になっていた。
側でマヌイが看病している。
「容体は?」
「マヌイの水魔法の治癒で命に別状はありません」
「そうか」
「アルゴ!」
「マヌイ!」
「ヤヌイが!ヤヌイが!」
「あぁ、聞いた。先ずはマコルから話を聞きたい。起きたら呼んでくれ」
「うん」
「その必要はねーぜ」
「マコル!」
「大丈夫か!?」
「あぁ。マヌイのお陰だ」
「この地図のどの辺で襲われた!?」
「・・・多分ここだ」
「街からやや南西の村への最短距離の道中だな。やはりおかしい」
「何が!?」
「村へは勿論道などない。狙いが隊商なら街道沿いで張るだろう」
「どういう事!?」
「何故わざわざ森に居たのか」
「たまたまかも知れないでしょ!?」
「勿論その線も無きにしも非ずだが」
「はっきり言ってよ!」
「マコル」
「あぁ」
「相手に魔法使いが居たと聞いたが」
「あぁ!《バリア》を張ってた!光使いだ。ヤヌイの火を弾いてた」
「数人の村人を襲うのに魔法使いか」
「たまたまだったらそうでしょう?」
「たまたまではないとすると・・・」
「必然って事?」
「その可能性を考えると・・・」
「考えるより早く助けないと!ヤヌイを助けてよ!」
「襲われた場所、タイミング。それらを考えると・・・」
「早く!」
「狙われていた」
「狙われてた?ヤヌイが?」
「ヤヌイだけじゃないかもしれないが」
「つまり?」
「俺達が街に戻った時に盗賊のスパイがヤヌイ達を見つけ、外に報告した。ヤヌイ達が何時帰るか分からないから森で張っていた」
「なるほど。でも何でヤヌイ達が?お金なんて持ってないし。豚族の女を攫う為だけにそんな大掛かりなことするかしら?」
「そこだよ」
「どこよ」
「奴らは豚族の女と知っていたんだ」
「じゃぁやっぱり狙われてたってこと?」
「あぁ」
「何で?」
「それは分からん」
「どうでもいいよ!早く見つけないと!」
「探そうにもどうやって探す?」
「それは!・・・」
「ターゲットはヤヌイだけじゃ無かった」
「え?」
「マヌイもターゲットなのかもな」
「そしてこの村も」
『!?』
「村長。この村は領主には知られて?」
「ないです。秘密にしておりました」
「つまり公式には知られてないが」
「100人を超える獣人達が居なくなってその内の何人かが街に時々やって来ていた」
「街の近くに潜んでいるんではないかと疑われていた」
「そこに魔法使いで有名なヤヌイが街に帰って来た」
「奴らはヤヌイを拷問して村の位置を聞き出す気だな」
「拷問!?」
「は、早く助けねぇと!」
「しかし村の防備も考えないといけない」
「でも!」
「タリルコルさんからの応援が今日の夕方に村に着くわ」
「じゃぁ、私達だけでも探しに行きましょ!」
「うーむ」
「どうしたのよ!?」
「賊が10人だけなら俺達だけでも何とかなるが」
「それ以上居るかも?」
「もしかしたらだが」
「可能性とか、もしかしたらだとか。そんなじゃ何時まで経っても助けらんないよ!」
「尤もな意見だ」
「じゃぁ!」
「分かった。だが賊が10人より多かったら撤退だ。いいね」
「分かったわ!準備する!」
「俺も行くぜ!」
「マコルは寝てろ」
「寝られる訳ねーだろ」
「ネムリマイタケの薬をやろう」
「そーゆー事じゃねーんだよ!」
「言っても聞きそうにないな」
「あぁ!理解が速くて助かるぜ」
「村長」
「は、はい!」
「村長は村の防備を固めてください」
「わ、分かりました!」
「俺達も準備するぞ」
「「了解!」」
「あー、眠てー」
急いで準備を終え、俺達3人を加えた11人で捜索を開始した。
村から東に向かい、街道を越え、東の領との境の森を中心に捜索していた。
一方その頃。
ハグデル領と接する東隣の領境にある、とある洞窟。
洞窟内では女の叫び声が響いていた。
洞窟入口の番をしているらしき男が愚痴を吐く。
「はぁ~、豚族の女かぁ~。俺も抱きてぇなぁ~」
「無理無理。俺達にまで回って来ねぇよ」
「だよなぁ~。幹部だけかよ」
「まぁ、あの女が村の場所吐いたら俺達にも村の女回ってくるっしょ」
「早くしてぇなぁ~」
洞窟の奥。
叫び声の元の一室。
部屋と言っても木材でパーティションを作っただけの粗末なものだ。
「団長。そろそろ吐かせませんと」
「そうだな。やはり噂通り名器ってやつだったが」
「命令も有る事ですし」
「あぁ。女は拷問して吐かせろ」
「死んでしまうかもしれませんよ」
「豚はもう1匹いる。領主にはそれでいいだろ」
「ではこの女は我々だけで」
「あぁ。役得ってやつだ。こんなド田舎までやって来て仕事してるんだ。これくらい罰は当たらんさ」
「ですな。しかし宜しいので?」
「何がだ?」
「この女、魔法使いですよ?しかも2属性持ち」
「連れて帰るか?」
「えぇ」
「確かに。しかし大盗賊団も壊滅したが命令はまだ残ってる。邪魔になるだけだ」
「承知しました」
更に洞窟内に女の叫び声が響き渡る。