⑦-09-139
⑦-09-139
ようやく《魔力感知》による魔力反応は無くなった。
「カーラ君。ご苦労さん、終わったぞ」
「はい」
「おーい!終わったぞー!出て来て大丈夫だ!」
菊池君を先頭に4人が出て来た。
菊池君は分かっているから堂々としたものだが、3人は恐る恐るといった体だ。
「ほ、ホントに全員倒したの?」
「あぁ。今夜はここで野営して確認は明日の朝にしようか」
「ここで寝るの!?」
「・・・離れた所で野営するか?」
ブンブンブン
3人が勢いよく首を縦に振る。
翌朝。
1匹1匹、討伐証明部位の右手親指を切断し、魔石を取りだしていく。
もはやここに居る必要もない。
死体は他の魔物がキレイにしてくれるだろう。
集落を出て村に向かう。
「いやー、ホントに全員倒すとはねー」
「もう作業だったな、カーラ君」
「はい」
「こういう戦い方も有るのね」
「僕達はこういうのばっかりだよ」
「なるべく無傷でお金を稼ぐのよ」
「無傷でねぇ」
「体をボロボロにして勝っても治療費で報酬が飛んだら意味無いだろう」
「確かに」
「目ン玉が飛び出るような高額報酬を夢見て危険を承知で冒険するのも有りっちゃ有りなんだろうがねぇ」
「私達は生きて楽しみたいのよね」
「楽しむ?」
「美味しいご飯や、行ったことも無い場所の綺麗な景色」
「旅・・・かぁ」
「そうだ、今は笛も作ってるのよ」
「笛?」
「今首にしてるのはホイッスルって言って緊急用なんだけど」
「へー」
「村に残してるバッグに縦笛もあるわ」
「聞いてみたいな」
「いいわよ」
「ホント?」
「でも上手くないわよ」
「ううん。音楽って獣人には出来る人も滅多に居ないし楽器も無いし聞けないのよ」
「そう。音楽も旅で集めてるのよ」
「へー。旅ねぇ」
「旅は楽しい時もあれば苦しい時もあるけど、それって街に居ても一緒だしね」
「・・・そうね」
「そろそろ村に着くぞ」
村長に報告に行く。
「いやぁー!ほんにありがてぇこって!」
「仕事ですから」
「いやいや!まさかですわ!」
「いや、そう言われると期待されてなかったっていうのは十分分かりましたので」
「あー!いやいやいや、そーゆーことじゃありませんよ!」
「はぁ」
「ただただ驚いとるんですわ。気にせんでください」
「はぁ」
「今日は泊って行きなさるんでしょう?」
「えぇ。明日街に戻ります」
「今日は宴にしましょう。たっぷり食べてください」
「お言葉に甘えます」
「えぇえぇ。3人は邪魔にはなりませんでしたか」
「ヤヌイがあの年でオネショするなんてね」
「ちょ、ちょっと!?」
「一生懸命、風魔法で乾かしてましたけど」
「フガー!ば、馬鹿!」
「今回の討伐数は61匹とプラスα。マコル達3人の取り分は3万エナだ」
『えぇ!?』
「どうした」
「今回俺達何もしてねぇぜ!」
「だから端数は僕達が貰う」
「いや、でも」
「ほら、受け取れ」
「しかし」
「冒険者は分割が相場だ」
「私達冒険者じゃないわ」
「僕達の助手をやったんだ、権利はある」
「私達お腹が空いてるの。この後宴も有るそうだし、早く受け取ってよね」
「う、うん。ありがと」
この後3人も加えて食事をした。
笛の演奏も披露する。
少しは上手くなっていたようだ。
評判は良い。
「レパートリーを増やしたいですね」
「というと・・・ピ~ヒャラピ~ヒャラ的な?」
「う~ん。確かに祭囃子は宴には合いそうだけど、何か駄目な気がする」
「というと、パッパパラパ~的な?」
「それ絶対ダメなヤツ」
その夜は久しぶりにぐっすり寝た。
ここ最近は転々と野営したりしてたからな。
翌朝は村人に見送られながら村を後にする。
「街までよろしくね!」
「ヤヌイも街に行くのか」
「えぇ。タリルコルさんと話をしようかと思って」
「そうか。マコル達は護衛か」
「あぁ。マヌイは村の防衛で残ってる。オークも居なくなったし1人でも大丈夫だって言ってた」
「じゃぁ、今晩はタリルコルさんの所に泊まるんだな」
「えぇ、そのつもり」
「オネショすんなよ」
「してねーし!ホントやめてよね!」
「あんたらには世話になった」
「どうしたマコル!」
「れ、礼ぐらい言えらぁ!」
「成長にびっくりだよ」
「ホントにありがとう」
「まだ領主の問題が残ってる。油断はしないようにしろよ。むしろこっからが本番だぞ」
「うん。でも皆でがんばっていこうって。昨日の夜にも話し合ったんだ」
「そうか」
「ありがとね」
「先ずはオネショを治そうな」
「フゴー!だからっ!」
街に着いてビグレット商会に向かう。
マコル達と応接室に通されタリルコルさんに報告した。
村長の証明書を渡した。
「216匹とは・・・良くやってくれた!」
「とりあえず1度狩るつもりがそのままずるずると」
「あぁ、報告は受けていたよ」
「これが魔石です」
「うむ」
「小さいのが混ざっていますが子供のです」
「・・・そうか。良くやってくれた。育つ前に討伐出来たのは良かった」
「はい」
「小さい物も同額で引き取ろう」
「良いのですか?」
「あぁ。勿論だ」
「ありがとうございます」
「あぁ。それで今回の報酬だが30万エナを用意する」
「えっ」
「討伐依頼の達成報酬も込みだ。受け取ってくれ」
「分かりました。重ねてありがとうございます」
「すっごいじゃん!良かったね!」
「あぁ。ありがとう」
「ふふ。私もパーティに入れて貰おうかしら」
「一緒に旅に出る?」
「それも良いわね。今回の始末がついたら」
「あぁ。タリルコルさんとじっくり話すといい」
「うん。そうするわ。タリルコル様、よろしくお願いします」
「あぁ、勿論だとも」
「じゃぁ、僕達は宿で休むよ。タリルコルさん、明日から依頼を再開します」
「ブフー。よろしく頼む」
「はい、では」
「じゃぁね」
「ヤヌイもしっかり休むのよ」
「うん」
「マコル達もまた会おう」
「あぁ、世話になった」
宿に帰って食事を終え、風呂に入った。
村に風呂は無かったからどうしても気持ち的な疲れがあったようだ。
実に気持ち良い。
風呂に浸かりながら考える。
改めてオークを200匹殺したのも、冒険者なりたての時と比べると凄い事だ。
順調にステータスが伸びていってるのだろう。
俺はこれ以上スキルは増えない。
いや、
ステータスの【ランク】を上げればいいんだが。
オジさんのクルトさんでもCだ。
どれだけ経験値が要るんだろう。
いつ上がるかも分からないものにこだわるよりも、ステータスを伸ばす事に注力した方が良いだろう。
それが結果的に経験値の蓄積になり【ランク】も上がるだろうから。
今回もオークで経験値を稼いだだろう。
たしかギルド的にDランクの魔物だったはずだ。
毒マイタケ系と同じと言うのは群れる事や繁殖力も加味しての事なんだろう。
金稼ぎとはいえ、人助けになったのはやはり嬉しい。
俺はおっさんだ。
若い子達が一生懸命がんばってる姿を見てると応援したくなる。
からかって菊池君に突っ込まれるのは・・・減らした方が良いか。
やる気を削ぐ事になるかもしれん。
マヌイとヤヌイはファーダネさんに紹介しようか。
その方がこの国の為になるし、ファーダネさんの陣営も厚くなるだろう。
姉妹も仕送り出来て・・・いや。
村の防衛が薄くなるな。
やはり今回の騒動が終わってからの方が良いだろう。
でもいつ終わるんだ。俺達がそれまでこの街に居るとも限らんし。
そういやヤヌイはパーティに入るとか言ってたな。
2属性魔法使いか。
ありだな。
軍に入っても俺達の方が金は稼げるだろう。
しかしファーダネさんに頑張ってもらわないと、あんな貴族共に老後の住処の予定地を任せられんしな。
ただ金は・・・うーん。
本人に決めさせよう。
何はともあれ、今回の騒動が決着した後の話だ。
マコル、ヤヌイ達はしばらく厄介になると言っていた。
今後についてじっくり話し合うのだろう。
話し終わったらどうするか聞いてみるか。
風呂から上がり歯磨き、《殺菌》を終え、菊池君に殴られる。
ベッドに潜り込んだ。
村のベッドよりも上質だ。
風呂にも入って良いベッドで快適な睡眠、素晴らしい。
もしかしたら4人パーティになるかもな。
そうしたらどうやって戦闘を組み立てるか。
考えている内に寝た。
翌日からいつものルーティーンを始める。
そして数日経ってマコル、ヤヌイ達に会うと村に帰ると言う。
「帰るんだって?」
「えぇ。今後の方針も決まって村の人達に報告するのよ」
「どうするんだい?」
「別の街へ行くのも考えようかって」
「そうか」
「タリルコル様の伝手を伝って。でもまだ経済的に厳しいみたいだからしばらく様子見って所ね」
「ここから南東2つ目の街のロムスコは盗賊討伐隊の本部が有る。そこなら盗賊の被害も無く、軍の逗留で景気も他の街より良い。候補に考えてみてくれ」
「分かったわ。ありがと」
「マヌイによろしくな」
「えぇ。マリンもカーラもまたね」
「またね」
「はい」
「マコルもな」
「あぁ。また会おうぜ」
「僕達は街に居るから。いつでも声を掛けてくれ」
「分かった。じゃあな」
「あぁ」
僕達は笑顔で別れた。
少し前までどうなるか分からない将来に不安で攻撃的だった若者達と笑顔で別れた。
なんで差別されてるかも分からない憤り。
加えて姉妹は豚族と言う歴史的な差別に加えて、性的にも野卑た目で見られる。
そういった陰鬱とした日常から抜け出せる可能性を見出した笑顔だったのだろう。
しかし僕達は彼女の笑顔を2度と見る事は出来なかった。




