⑦-04-134
⑦-04-134
「これで契約は1ヶ月の更新だ。宜しく頼む」
「承知いたしました」
「それでオークの件だが。ここから南に1日の距離に村を作ったらしい。そこで詳しい話を聞いてもらいたい」
「南ですか。ではネムリマイタケを狩りつつ、という訳には行きませんね」
「あぁ。ネムリマイタケは頻度を落としてもらって構わない。人々の安全が最優先だ」
「分かりました。村までの案内は」
「うむ。護衛に案内させる」
「ではまだ午前中ですし、これから行ってみますか」
「いいのかね」
「準備に時間が必要ですが。とりあえず行ってみないことには」
「そうしてくれれば助かる」
契約の更新も終わって旅の準備を整え、南の森にある村に向かった。
案内は護衛の1人だけだ。
僕達が居るからそんなに人数は必要ない。
居過ぎたら僕等が警戒してしまう。
夕方には村に着いた。
木柵で囲まれ、浅いが堀も廻らされている。
木柵扉には門番が居た。
護衛が彼らと話をする。
中に入れてもらった。
平屋が多い。
というか平屋しかない。
櫓もないし、まぁ、周りは森だから必要が無いのかも知れない。
しかし建物の数はかなりのものだ。
100人以上は居るんじゃないだろうか。
村長の家に案内された。
「ようこそ。タリルコル様からの手紙を読みました。オークを退治してくれるとか」
「まだ決まってませんがね。どんなもんか様子を見に」
「いやいやそれだけでも助かります。ギルドには頼れんでな」
「早速ですがオークの情報を教えていただけますか」
「えぇ」
村長の家でオークの情報や村の周辺の地理を聞いていたところ、
何やら騒がしい声が近づいて来る。
「村長!」
若い男を先頭にした一団がいきなり入って来た。
「オーク討伐に冒険者を雇うとか!」
「マコルか。客人の前じゃ、失礼じゃぞ」
「客人?招かれざる客だ」
「マコル!」
「冒険者なんぞ金の為に働く業突く張りだ!」
「君は金の為には働かないんだね」
「なんだと!?」
「あれ、獣人はヒトより耳が大きい分耳が良いと思ってたが誤解だったか」
「なんだと!」
「じゃぁ、もう1度言うからそのでっかい耳かっぽじって良く聞いてくれ。君は、お金の為に、働かないのか?」
「てんめぇ!」
「金が無くなったからこの村を作ったと聞いたが、違うのか」
「いや、そん通りじゃ」
「村長!」
「しかしオークの出現で村にも被害が出ておる」
「だからと言って冒険者なんぞに!」
「こちらはタリルコル様からの紹介じゃ」
「え!?」
「ギルドから派遣された冒険者ではない」
「し、しかし!それでも冒険者には変わりない」
「あの。必要無いようでしたら帰りますが」
「待って下され」
「あぁ!帰れ帰れ!俺達に冒険者なんて必要ねぇ!俺達にはマヌイヤヌイがいる!」
『そうだそうだ!』
「まぬいやぬい?」
「続けて発音するんじゃねー!マヌイとヤヌイだ!」
一団の中から2人の女性が出て来る。
「魔法使いのマヌイとヤヌイの姉妹ですじゃ」
「魔法使い!」
「そーだ!恐れ入ったか!」
「それで君はどんな魔法を使うんだい?」
「え、お、俺?」
「あぁ。さっきから凄く声がデカいからさぞや凄い魔法を使うんだろうね」
「お、おおお俺は使えない・・・」
「は、声が小さくて聞こえなかったよ。さっきと同じ様な大きさで喋ってくれないか?」
「お、俺は、魔法は・・・使えない」
「魔法は使えないのに、偉そうに大声で喚いていたのか」
「喚いてなんていねぇ!」
「お嬢さん達が魔法を?」
「えぇ、そうよ。私はヤヌイ。火と風の魔法を使えるわ」
「私はマヌイ。水と風の魔法を使えるわ」
「「「な、なんだってー!?」」」
「どーだ!すげぇだろ!」
「あぁ。君は狐の獣人だろ」
「そ、そうだ。何で分かった?」
「僕達の故郷に虎の威を借る狐って諺があってね」
「虎の胃?」
「君達姉妹は2つの魔法が使えるのか!?」
「えぇ。だから私達だけでオークなんてへっちゃらよ!」
「魔法が使えるのに何でこんな所に居るんだい?」
「ヒトなんて信用出来ないからよ!」
「しかし任官すれば給金が出るだろう。その金を仕送りすれば良かったんじゃないのか?」
「どうせピンハネされるわ!信用ならないからね!」
「そうだ!ヒトは信用出来ねぇ!」
「なるほど、タリルコルさんも信用出来ないから僕達も信用出来ないと」
「う、い、いや。タリルコル様は別だ」
「それでは帰ってタリルコルさんに報告しますね。マコルに追い出されたって」
「ちょ、ちょーっと待とーか」
「ではこれで失礼しますね」
「ちょ、待ちなよ兄さん」
「退いてくれないか、これでも忙しい身でね」
「待てって」
「君が帰れって言ってたんじゃないか。金の亡者が寄るとゾンビになっちまうって言って」
「そ、そこまで言ってねぇ!」
「アルゴさん。今日はもう暮れた。泊っていきなせぇ」
「そ、そーだ。今日は泊って行けよ」
「分かりました。お言葉に甘えて今日は泊って明日帰りますね」
「ちょーっと待とーか」
「タリルコルさんには明日報告します」
「いや、だからちょっと待てって」
「謝って欲しいな」
「な、なに?」
「タリルコルさんにわざわざ村まで行けって言われて来てこの仕打ちだ。謝ってくれ」
「ぐ、ぐぅ」
「謝る必要なんかないよ!マコル!」
「そうよ。お金の為に来たんでしょ!」
「当然だ。冒険者なんだから」
「私達は助け合って生きているのよ!あんたなんかとは違うわ!」
「街で助け合えば良かったんじゃないの?危険な森ではなく」
「ふん!あんな領主の居る街でなんて暮らせないわ!」
「領主に何かされたのかい?」
「領兵になれって」
「当然だろうな。魔法が使えるし」
「側仕えになれって」
「側仕え・・・つまり」
「えぇ、そうよ!身体を求められたのよ。私達は豚族だからね!」
「豚族?」
「ふん!豚族は初めてかい?」
「あぁ。でも見た感じ他の獣人と変わらないようだが」
「世間知らずのボンボンに世の中ってものは分からないのさ!」
「世間知らずには同意するがボンボンではないよ」
「・・・まぁそうみたいね。こんな村に来るくらいだから」
「ただ謝らないんなら明日帰る」
「ちょ」
「えぇ!帰りなさいよ!」
「ちょっと、ヤヌイ」
「あぁ。そうさせてもらうとも」
「ちょっと待てって!ヤヌイも!謝る、謝るから!この通り!」
「ちょっとマコル!なんでこんな奴なんかに!」
「こいつにじゃねー。タリルコル様にだ」
「あ、僕にじゃないんだ。じゃぁ、明日帰るね」
「すまなかった!この通りだ!」
「仕方ないなぁ。これに懲りて初対面の人に無碍にするんじゃないよ」
「むぐぐ」
マコルの顔の間近で体を斜めにして見上げるように話す。
「僕達が優しいからこれですませてあげるけどね。フ~」
その大きい耳に息を吹きかける。
「ぎょわっ!」
「それでは村長さん。続きは明日に」
「えぇ。そうしましょうかな」
「宿の案内をお願い出来ますか」
「えぇ。分かりました。宿は無いので離れを使って下され。これ、案内差し上げて」
僕達の宿は村長の離れだった。
「いやー、歓迎だねぇ」
「差別って言うのはホントみたいですね」
「ここまでとは思いませんでした」
「まぁ、街を出て村を作るくらいだからねぇ」
「でも魔法使いですよ、魔法使い!」
「そうだ!」
「2人共2つの魔法を使えるなんて!」
「凄いな」
「ホントに私達要らないんじゃないかしら」
「マジでな」
「マヌイとヤヌイでしたっけ」
「あぁ、確かそんな名前だったかな」
「サーヤ、2つの魔法が使える人って珍しいの?」
「はい。大変珍しいです」
「しかも姉妹揃ってか」
「王国軍にスカウトされても良いんじゃないの?」
「そう思います」
「しかし気になる言葉も有ったな。豚族」
「世間知らずって言ってたしね」
「・・・はい」
「何か知ってるようだね、サーヤ君」
「転生者だから知らないのも無理はありません」
「・・・ヘヴィな話のようだ」
「ヘヴィな雰囲気ですね」
「奴隷王、覚えておいででしょうか」
「勿論だよ」
「その奴隷王は国を建国後王位に就かれました」
「ふむふむ」
「しかししばらくして暗殺されたのです」
「なるほど。よくある話だ」
「その暗殺したのが部下だった豚族の者らしいと言う話です」
「・・・なるほど」
「つまり奴隷王を暗殺した豚族は世間から蔑まれていると」
「・・・はい」
「魔族と同じだな」
「個人じゃなくなんで種族にまで及ぶんですかね」
「らしいと言うのは」
「はい。はっきりとした事は分かっていないそうです」
「それで蔑まれるのもなぁ」
「ヒト族の個人が悪いことしてもヒト族全体を悪くいう事は無いのにねぇ」
「・・・あの」
「ん?」
「どうしたの?」
「それだけではないんです」
「ん?」
「何がそれだけじゃないの?」
「・・・その」
「「うん」」
「・・・具合が・・・良いと」
「「具合が良い?」」
「はい」
「「具合が良い?」」
「・・・その」
「「うん」」
「・・・女性の・・・具合が」
「「女性の具合が良い・・・はっ!」」
「つまりそーゆー事?サーヤ」
「・・・はい」
「ふむ。ハッキリさせよう」
「いや、別にいいでしょ」
「つまりSEXの具合が良い。そういうことだね?」
「・・・はい」
「もう!」
「なるほど。側仕えの件で目くじらを立てたのは愛人になれと言われただけじゃなく、そういった好色な世間的評判もあっての事だったのか」
「多分そうです」
「世間知らずって言ってもね」
「そう言った評判はどうせクズの口から出てるんだろうからな」
「・・・はい」
「だが興味はある」
「ちょっと!」
「男だし」
「もう!」
「こればっかりはね」
「そ、そうなんですか」
「女に興味が無い男って、男じゃないだろっていう」
「・・・まぁ、う~ん」
「そ、そうなんですか」
「前世では色々な考え方が有ったのよ」
「フォセンの統治官・・・何て言ったっけ」
「あ~オヴィエド!」
「オヴィエド!あーゆー、人民の為だとか尤もらしい事言いながら君達を捕まえようとしてただろ」
「そんな事も有ったわね」
「表では人の為とか言いながら裏では女をモノとしか見てない奴と、堂々と女に興味が有ると言ってる奴と、どっちが健全かね!」
「いや、えらそーに言う程じゃないけどね」
「堂々って言っても勿論今までブッ殺した冒険者みたいなクズじゃなく、オラ嫁っ子探してるだ、とか言ってる村人とか、恋人が欲しい、とか言ってる純朴な青年だ。どっちが健全だろうか!」
「いや、長々と説明する程じゃないけどね」
「堂々としてる方です!」
「サーヤも乗っちゃうの!?」
「そもそもそーゆーのが有るから僕等が生まれたんだろう?」
「それは卑怯でしょ」
「難しい問題だな。性的欲望は子孫を残したいという本能から来ているのか、また違う欲求からなのか」
「いや、無理に哲学的に持って行かなくても」
「前世にボノボというチンパンジーの一種がいた。ボノボは子供を作る以外にもコミュニケーションでSEXをする」
「へ、へー」
「お早うからお休みまでSEXだ」
「へ、へー」
「しかも同性同士でもだ」
「お、おう」
「ただ母と息子はしないらしい」
「それ以外はしちゃうんだ」
「しちゃうんだな」
「しちゃうかー」
「更に正常位は我々人間とボノボ以外確認されていないらしい」
「ふ、ふーん」
「サーヤ君」
「は、はい」
「豚族の男にまつわる噂は何か知っているかい?」
「噂ですか?」
「大きいとか」
「もういいから!」