⑦-02-132
⑦-02-132
宿に帰って話し合う。
「うーん」
「やっぱりトラブルになりましたね」
「タリルコルさんはまぁ、護衛の人が野蛮でしたわ」
「獣人は気が早いねぇ。種族特性か?」
「タリルコルって人も太ってて偉そうでいい気はしなかったですね」
「会長って言ってたな」
「息も荒かったですしね」
「どうするかなぁ」
「街を出ますか?」
「そうだなぁ」
「襲って来たら返り討ちにしちゃえばいいんですよ!」
「サーヤ君、過激だな」
「カズヒコさんに礼がなってませんわ!」
「いや、僕には別にいいんだけどね」
「しばらく様子を見ます?」
「そうだなぁ。荷物は宿の物置にでも《隠蔽》で隠すとして」
「じゃぁ狩りに行きます?」
「そうするか。会談を午前中にセッティングしたから午後は丸々空いてるからな」
「そうしましょう!魔物にでも当たらないと!」
「さ、サーヤ君。冷静にね」
狩りに出かけようと門に向かってる途中で声を掛けられた。
「あ!あんたら!待ってくれ!」
振り返ると気絶した獣人だ。
走りまわっていたのだろうか息も絶え絶えだ。
「頼む!この通りだ!謝るから話を聞いてくれ!」
「うーん」
「先に手を出そうとしたのは俺だ!悪かった!でもタリルコル様は関係無いんだ!」
「あなたの主人でしょう?関係無くは無いですよ」
「あ、あぁ。でも俺が先走ってあんたらが気を悪くしたんだろ!謝る!この通りだから!」
「うーん。どうする?」
「・・・まぁ、もう一度だけならいいかな」
「カーラ?」
「はい。私ももう一度だけなら」
「そうか。という訳で泣きの1回だ」
「す、すまねぇ!」
「ラストチャンスだからな」
「あぁ!分かってるよ」
「僕達は客であってビグレット商会の犬じゃない」
「分かってる」
「金をチラつかせればホイホイ尻尾を振る犬じゃないからな」
「わ、分かってるよ」
「君は犬系の獣人か?」
「そ、そうだ」
僕達はさっきの店の個室に戻った。
「あぁ、すまんね。また話を聞いてもらいたい」
「邪魔が無ければね」
「ブフー。う、うむ」
「どうぞ」
「実は今街は経済的に停滞しているのだ」
「大盗賊団ですか」
「そうだ。この街には直接の被害は無かったのだが周りの街には有った。経済というのは街単体で成り立ってるのではない。分かるかね」
「何となくは」
「加えてハグデル伯爵様は何ら手を打とうとなさらない。このままでは底辺の人間達の生活はおろか命までも危うくなってしまう」
「底辺というのは俺ら獣人だ」
「うむ。この街での歴史の浅い獣人達がまず犠牲になるだろう。既に一部は街を離れて危険な森に暮らし始めている」
「街より森で?」
「食料が手に入り易いからな」
「街で働けば良いのでは?」
「底辺までに回って来ねぇんだよ」
「金が回らないと仕事も回って来ない。故に先ずは経済を回す必要がある」
「ネムリマイタケを貴族相手に売ると」
「ブフー・・・ほう。何故かね」
「少しの薪では大きな炎は作れませんよ」
「その通りだ。しかも普通の商人なら伝手も無いだろうがワシなら可能だ」
「大盗賊団は壊滅したのでは?」
「幹部はな。しかし隣の領ではまだ活動しているとも聞く。仮に全滅していたとしても経済が持ち直すのは当分先だ。それまでに被害が出てはならんのだ」
「しかしそれはあなたの仕事ではなくハグデル伯様の仕事では?」
「・・・あのお方は底辺の者など眼中には無いのだろう」
「そんな事を言ってもいいのですか」
「勿論良くは無い。しかしそれほど切羽詰まっているのだ。遠からず獣人から始まり一般のヒト族、更に我々も困窮するだろう」
「ビグレット商会はこの街1番の商会と聞きました」
「そう自負しておる」
「他の街に移ってもやっていけるのでは」
「私はこの街を愛しておる。生まれた街だ」
「死ぬのも、ですか」
「そうだ」
「分かりませんね。死んだらお終いだ。他の街に移ってやり直せばいい」
「生き方、考え方が違うとしか言えんな」
「・・・ですね」
「どうだろうか」
「護衛の獣人達もそういった理由で雇っていると」
「うむ」
「タリルコル様が雇ってくれなきゃ俺達は家族を養えねぇ!」
「タリルコル様の為なら何だってやってやる!」
「交渉相手に暴行も辞さないと」
「うっ」
「護衛としては落第点だね」
「うぅ」
「金は貰うがそれに見合う価値を払っていないようだが」
「うぅ」
「それぐらいで勘弁してやってくれないかね」
「そちらの事情は分かりました」
「では?」
「しかしあくまでそちらの事情。僕等には関係ありません」
「ブフー」
「もしかしたら第一印象が良かったら・・・まぁ、今更ですが」
「うぅ」
「なので通常の契約以上の条件でなければお引き受けは出来かねます」
「おぉ!して条件とは」
「金額を」
「7・・・7500エナ出そう」
「魔石抜きで?」
「うむ」
「僕等が欲しい時、毒袋の優先権は僕等に。勿論、その分の値段は引いてもらって構いません」
「うむ」
「最後に。僕等は目立ちたくないのでネムリマイタケを僕等が狩ってると周囲に知られないように手を回してもらいたいです」
「任せてくれ。それだけかね」
「えぇ」
「・・・ホントにそれだけかね」
「じゃぁ追加しちゃおうかな」
「う、うむ。言ってくれ」
「宿を手配してもらいたい。風呂付の」
「良いだろう。他には」
「無いですね」
「分かった。ではその条件で契約したい」
「期間はどうします」
「いつまでなら大丈夫かね」
「・・・とりあえず1ヶ月」
「とりあえず?」
「1ヶ月更新。で、どうですか」
「うーむ。お互い合致したら契約継続、ということかね」
「はい」
「いいだろう」
「あと毎日狩れる訳ではありませんので悪しからず」
「どれくらいの頻度になるかね」
「多くて週に3日、最低2日。1日2匹狩れます」
「十分だ」
「契約はここで結びますか?」
「質問をしたい」
「どうぞ」
「何故我が館では駄目だったのだ?」
「仮に敵対した場合、その本拠地になりますよね」
「ブフー」
「周りは敵だらけ、逃げる事も難しいでしょう。捕まってマイタケを狩る方法を喋らされれば僕等は用済みです」
「なるほど。用心の為か。得心した」
「どうも」
「では宿はワシの系列ホテルではなく別のホテルにするかね。勿論ホテル代はワシがもつ」
「いえ、系列ホテルで結構です」
「分かった、用意させよう」
「契約は商会館でいいですよ」
「いいのかね」
「えぇ。説明は納得出来るものでしたし、何よりタリルコルさんの人柄に信頼に足る人物だと感激いたしました」
「そ、そうかね」
「貴族よりも下々の暮らしを気に掛ける。人物ですね」
「ブフー」
「商人ならば貴族に阿って当たり前なのに。タリルコルさんがこの街を治めるべきなのでは?」
「ワシは一介の商人だ。途方もない話じゃな」
「この国では一般人は貴族にはなれないのですか?」
「いや、特別な功績を挙げればなれることもあるようだ」
「では経済を回してバレンダルを復活させれば或いは・・・」
「そんな事を気にしてやっている訳ではない。あくまで人々の生活を安定させたいだけだ」
「その助力になれるようがんばります」
「うむ。では本館で契約を締結したい」
「結構です」
その後、ビグレット商会館で契約を結んだ。
とりあえず1ヶ月。
系列のホテルを案内されて部屋で寛ぐ。
「大丈夫ですかね?」
「とりあえず話を聞いた感じはそう思えたけどね」
「だとしたら見かけによらない人ですね」
「外見で損してるな」
「痩せるだけでも違うでしょうに」
「食べる事がストレス解消なんじゃない?」
「あぁ。領都一の商会ですもんね」
「競争激しそうですものね」
「まぁ、まだ完全に安心してる訳じゃない。引き続き用心はするがね」
「越したことはないですからね」
「聞き込みでもするかね」
「そうですね」
「護衛の人だけじゃなく、一般の人達にも聞いてみましょうか」
「そうだね」
「そう言えば経済が回ってないって話だったが」
「そうですね」
「物価はどうなんだろう」
「物が入って来ないとなると高くなりそうですけど」
「消費物はね。宝石類はどうだろうか」
「・・・以前言ってたやつ?」
「あぁ。前世では景気が悪いと金とかは高くなったりしたんだが」
「グローバルだったからね、今世では分からないと」
「そうだ。世界中と取引してる訳じゃないからある意味ブロック経済じゃないかな」
「通貨は一緒でしょう?」
「この世界だと基本的に自給自足だろう。それに国だけじゃなく領主も税金を設定している」
「領州毎のブロックだと」
「加えてこの国では大盗賊団の跋扈があった。人の移動もままならなかっただろう」
「貴族なんかが現金化するために宝石類を売ってるかも知れないと」
「あぁ。それで安くなってるかもな」
「貴族は生活の水準下げれないでしょうしね」
「今度宝石店を覗いてみようか」
「ビグレット商会でやってるんじゃありません?」
「む。それはあるな。聞いてみよう」
「そうね」




