⑥-36-130
⑥-36-130
何度かのトライアンドエラーの末に面ファスナーが完成した。
「良いんじゃないかしら」
「これ凄いです!合わせるだけでくっ付いて離れません!」
「なかなか良いんじゃないか」
「何故か引っ付けて剥がすのが楽しいです!」
「ポーションとか包帯とか矢とか、直ぐ使いそうな物のポケットやベルトに使おう」
「そうですね。これを新しく買った上着やバッグに縫い付けましょう」
「そうだな」
ピタ、バリッ、ピタ、バリッ、ピタ、バリッ、ピタ、バリッ、ピタ、バリッ、
「・・・サーヤ君はプチプチとか延々潰す性格だろうな」
「・・・そうですね。真面目な顔でやってるとちょっと怖いです」
面ファスナーも完成し冬用品も買っていよいよ街を旅立つ準備を整えた。
それに合わせサーヤ君の訓練も終了だ。
ファーダネさんに会って報酬を貰うとしよう。
ファーダネさんの部屋にはいつもの3人が居た。
「そうか。旅立つのか」
「はい。閣下はこれからどうなさるのですか」
「我々はしばらく残務処理だ。頭は失ったが爪先が少し残っていてね。それに周辺の安定化の為に兵を巡回させねばならないし。それに」
「始まりの街ですか」
「うむ。例の幹部がスポンサーと立ち上げた盗賊団の母体、クランを作った街も調べようと思う。しばらく王都には帰れんな」
「討伐隊は討伐だけじゃないんですね」
「有能過ぎるのも困ったものだ」
「街の人達にとってはあのような貴族達に居座られるより歓迎でしょう」
「はっはっは。確かにな。盗賊の身内だった訳だからな」
「・・・それらも有っての残務処理なのだ」
「無論、秘密だぞ」
「心得てご座います」
「うむ。では報酬を渡そう。潜入任務と5人の幹部の討伐、各種の情報提供の報酬を合わせて200万エナを用意した。受け取ってくれ」
「有難くお受けいたします」
「うむ。これで君達との契約は終了となる。良くやってくれた、礼を言う」
「光栄で御座います」
「どうだエチル!我が軍に入らんか?3人なら即戦力だ!」
「申し訳ありませんがレネお姉さま・・・」
「おねっ、エチル!」
「はっはっは。エチル君達はそういうのが嫌だから冒険者になったんだろうよ」
「そういうの?」
「上下関係の五月蠅ささ。貴族やら騎士やらのね」
「あぁ・・・」
「実力は申し分ないが・・・窮屈だろうさ」
「人を相手にするより魔物の方が良いです。魔物は素直ですから」
「そうだな。人間が1番のモンスターという訳だ」
「・・・何処に行くのだ?」
「北に・・・行こうかと思ってます」
「おぉ!北か!丁度良い!始まりの街の方向だ!」
「やっぱり北西にしようかな」
「エチル!」
「はっはっは。それは我々の仕事だからな。冒険者の仕事ではないよ」
「そ、そうですね」
「そうだ。エチル君。もう1つ報酬を渡そう」
「?」
「この指輪だ」
「指輪?」
「閣下!それは!?」
「?」
「これは私がソルスキア王国魔術師ギルドの幹部を証明する指輪なのだ」
「魔術師ギルドに所属なさっていたのですか!?」
「あぁ。因みにレネも会員だ」
「魔法剣士ですか。憧れますねー」
「ふっふっふ!」
「その指輪が?」
「あぁ。この指輪が有れば魔術師ギルドに顔が効く。私の関係者だと言えるだろう」
「そんな物を!?」
「もし君達がこの王国で困ったことが有れば魔術師ギルドへ行くと良い。ギルドには伝書鳩が有る。君達の危機を私に知らせてくれれば便宜を図れるだろう」
「伝書鳩!?」
「あぁ。山を越える場合などは馬よりも早いぞ」
「「凄い!」」
「しかしそんな物を頂いては・・・」
「君達を信用している、悪用したりは・・・しないだろう?」
「も、勿論ですよ、ははは」
「エチル?」
「この指輪使って綺麗なおねーさん紹介してもらおうとか思ってませんよ。やだなー、ははは」
「くぉらぁ!」
「ぐふぅ」
「はっはっは。それくらいなら構わんのではないか」
「閣下!」
「それでは有難く頂戴いたします」
「うむ」
「それでは僕達はこれで失礼いたします」
「うむ。本当に良くやってくれた。また会おう」
「何時でも来い!待ってるぞ!」
「・・・珍しい魔物の生態が分かったら知らせてくれ」
「畏まりました。それでは失礼します」
「さらばだ」
ファーダネさん達と別れたその日に領都ロムスコを出た。
乗合馬車は身体が痛くなるから徒歩の旅だ。
グリフォンに跨った騎士に見下ろされ門を出る。
もうすぐ10月だ。
日中はまだ良いが夜は野宿には少し寒い。
「1ヶ月で収支+140万くらいか。良いんじゃないか?」
「収支はね。結構危なかったですよ」
「それもそうだな」
「ゴブリン集落殲滅、別動隊討伐、潜入任務。色々やりましたね」
「あぁ。良い経験になったよ」
「それは確かにね」
「騎士の戦い方も経験出来たし、何より魔法使い戦も体験出来た」
「転生者にも会えたしね」
「中身は何処にでもいるクズだよ。特別なのは転生者ってだけだな」
「たまーにベアボアに飲み込まれてる顔思い出すわ」
「マジかよ。僕は飯ウマだよ」
「どーゆー神経!?」
「飯ウマです!」
「サーヤまで!」
「でも何で北西に?南でも良かったんじゃ?」
「まぁ、いずれ北に行くんなら・・・ね」
「お優しい事で」
「危ない橋は渡らないよ?情報が有れば知らせるだけさ」
「ファーダネさん綺麗だったもんねー」
「えっ」
「っても僕より年下だからね。ありっちゃーありだろ」
「えっ」
「逆玉ですか」
「どうする、貴族の僕。想像出来るかい」
「えっ」
「・・・ぷふー」
「ふっ、似合わんな」
「全くね」
「あ、あの。年下って・・・」
「あぁ、言ってなかったかしら?先輩今年42才よ」
「えぇ!?」
「思えば遠くへ来たもんだ」
「年上だったんですか!?」
「ん?」
「あ、わ、私より年上だったんですか!?」
「あぁ。転生する時に肉体は20才になったんだよ」
「えぇ!?」
「そうなのよねー」
「菊池君はさん「おらぁ!」じゅふぅ」
「そうだったんですね・・・」
「そうだったのよ」
「年上だと思ってました」
「ぐふっ、いや、年上だろ」
「あ、いや、私の方が・・・」
「あぁ、そーゆーことか。まぁそんな訳だから年下や同年代と思って気遣ってたんなら不要だからね。そのつもりで」
「はい!」
「何か嬉しそうね」
「・・・いえ」
「そう言えば《槌術》レベル上がったしね」
「は、はい!」
「この戦争でも他のスキルぽつぽつ上がってたわよね」
「確認するか」
加藤一彦
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病気耐性Lv2、殺菌Lv4、カウンターLv6、罠Lv4
雷魔法Lv3
頑健Lv3←UP
隠蔽Lv6←UP
魔力感知Lv7←UP
魔力検知Lv7←UP
魔力操作Lv6←UP
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キクチ・ミキ
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病気耐性Lv2、掃除好きLv3、解体Lv3、魔力検知Lv1、魔力操作Lv1
風魔法Lv4
頑健Lv3←UP
弓術Lv5←UP
魔力感知Lv4←UP
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サーヤ
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頑健Lv7、病気耐性Lv7、吸精Lv7
解体Lv2←UP
魔力検知Lv5←UP
魔力操作Lv4←UP
弓術Lv3←UP
槌術Lv2←UP
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「LvMAXになってるじゃないですか!?」
「はっはっは。才能が怖い」
「これはもう《魔力検知》の影響は有ると言っていいんじゃないですかね」
「だな。《魔力検知》で敵を見ながら戦ってるから相手の魔法やスキルの発動も分かるしな」
「サーヤはやっぱり魔族だからですかね」
「多分ね」
「そうなんでしょうか」
「転生して約1年半でLvMAXかぁ~。速いですよね」
「そうなの?」
「速いですわ」
「《魔力感知》Lv7ってことは・・・」
「えぇ。半径128mだと思いますよ」
「いいなー!」
「《魔力検知》はどうやら《魔力感知》の10分の1の射程みたいだ」
「射程が伸びたってことですか?」
「あぁ」
「いいなぁー!」
「益々森の戦いに特化してきたな」
「相手より早く見つけられるから有利ですね」
「そうだサーヤ君。僕が見つけて君達が撃つ。相手は死ぬ。安全に狩りが出来る。言うこと無いな」
「はい!」
「でも肝心の魔法が上がってませんね」
「あぁ。戦争で周りの目が有ったからな、仕方が無いだろう」
「道中の魔物で上げましょうか」
「そうだね。街に着いたら魔物を殺していくか」
「でもランクが低いと経験値も低いでしょ」
「かと言って、わざわざランクの高い危ない魔物を狙う必要もないだろう?」
「う~ん。悩ましいですね」
「あの盗賊の幹部で経験値稼いでも良かったが・・・まぁ気持ちはスッキリしたし、あれはあれで良かったと思ってる」
「顔が浮かぶんですよ」
「おかわり出来るよ」
「はい!おかわり出来ます!」
短いようで長かった1ヶ月が終わった。
この世界よりも文明度が高い前世から来た転生者でも盗賊に堕ちた。
前世では未成年だったとは言え、人間性というものに境界は無いのだろうか。
大盗賊団が出たけどもファーダネさんがいるこの国は将来永住の土地の候補にしても良いかもしれない。
知己を得られたし指輪も貰った。
まぁ、まだ見ぬ国もあるし急いで決める必要もない。
「思えば遠くへ来たもんだ」海援隊
第6章終了