①-13
①-13
翌日、大事を取って休むことにした。
ただ《頑健》さんが効いているのか、思ったより悪くない。
明日には戻れるだろう。
同僚たちにも××の事を話し、見つけ次第連行しようってことになった。
特に女性陣は怒り心頭だ。
自分の意志ではなく娼館で働かされそうになったのだから当然だろう。
しかし宿には××だけでなく、△△の姿も見えないのは些か心配だ。
まさか2人・・・。
××の身柄は案外あっさり確保された。
バティストの事務所に捕まっていたのだ。
バティストが事情聴取から解放されて自分の事務所に戻り、××に怒りの矛先を向けた騒動が近所に聞こえて衛兵を呼ばれ、その御蔭で××は助かったらしい。
「案の定、契約書なんて作ってなかったぜ」
ガルトさんは××の聴取を終えて僕らを呼んで事情を話してくれた。
「なんでも△△と2人で娼館通いをしてて、△△はハケンなる・・・一種の奴隷契約だな・・・それを事業として考えていたらしい。それを聞いていた××は借金帳消しの為に提案したと、そういうことらしい」
「奴隷契約なんですか?」
「ハケンなんて雇用形態初めて聞くから詳しいことは分からねーが、本人の許可なく売り飛ばそうとしたんだから奴隷法違反だな。厳罰だぞ」
「厳罰ってどんな・・・?」
「××は金もねーから罰金も払えねーし、被害者に慰謝料も無理だ。となると懲役で払うしかねー。まー、最低でも10年以上は食らうだろう」
「「10年以上!!」」
「ガルトさん。今回は同郷の者がすいませんでした」
「おめーが謝ることはねーよ。特におめーは袋にされたんじゃねーか」
「とは言え、同郷の者がこの街に迷惑をかけたのは事実ですし、
他の同郷の者も同じ犯罪者のように見られてしまっては・・・うう」
「大丈夫だ!心配すんな。俺が周りには言っといてやるから」
「うう、ありがとうございます。××は昔からあんな感じだったんで、俺らが街に働きに行くってのも勝手に付いて来てしまって」
「そうだったのか、そういや一緒に街に来なかったもんな」
「はい。昔っからあーいう性格でして、人の手柄は取るわ、上の者に告げ口するわ、仕事の予算ピンハネするわで敬遠してたんですが、明日から本気出すっていうんで同郷っていうのもあり皆で一緒にがんばっていこうって話してたのに・・・ううっ」
「許せねー野郎だなっ!」
「今回はお上の法律を犯しての同郷売り、僕らとしてもこれを機に真人間になってもらいたい。ガルトさん!厳しく!ガルトさんの力で真人間になれるように厳しく更生させてください!」
「こんな友達思いを売りやがって・・・分かった!上には厳しくするよう言っといてやる!任せろ!おめーらの思いがアイツに届くようキッチリ手続きしとくからな!」
事情聴取からの帰る道すがら。
「魔法の実験台になる前に捕まったのは残念だったな」
「全くです。この怒りどこにぶつければいいんですかね」
「まー、最低でも10年以上は確定らしいから」
「犯罪奴隷ってやつですか」
「多分な。街壁工事でもいるらしいから」
「同じ職場にはいないんですよね」
「流石に堅気とは一緒にしないだろう。問題が起こったら工事遅れるわけだし」
「そうですね」
「まー、あいつが働いてるとこ見て笑ってやろーぜ」
「それで手を打ちますか」
「今世の受刑者の待遇って悪そうだしな、掘られるんじゃね」
「もう!そういうこと私の前で言わないで下さいよ!」
「ざまぁ、ってなんない?」
「なります」
「なるんかい」
「あと・・・菊池君」
「はい?」
「実は・・・」
「はい・・・」
「さっき《隠蔽》を習得したみたいだ」
「は?」
「スキルの《隠蔽》を習得したみたいなんだ」
「ええっ!さっきって、ガルトさんとの会話でですか?」
「うむ」
「あれだけで?」
「いや、多分普段の生活でも経験値は貯まってたんじゃないかな?それがさっきので一気に貯まったと。そういう感じだと思う」
「どんだけー!」
俺はポケットの銅貨を掴んた。
「《隠蔽》!菊池君、掌の貨幣が見えるかい?」
「はい。銅貨3枚、見えますよ」
「なに・・・そういったスキルではないのか」
「Lvが足りないのかもしれませんし」
「会話で習得したから嘘を見破れなくするスキルなのかな」
「だったら《嘘》とか《詐欺》とかだと思いますけどね」
「そうだね。ま、おいおい検証していこう」
「つか△△も一枚噛んでたのな、共犯ではないけど」
「元々のアイデアは彼みたいですね」
「仕事せず風俗通って、事業もねーよな」
「絶っっっっっ対、援助はしないですよ!」
「そーだなー。はー、あーゆーのに関わると碌なことにならんな」
「手持ちも無くなるでしょうし、宿から居なくなるから清々しますよ」
「ここ数日2人揃って見なかったから部屋は片付けられてるぞ。日払いだったみたいだし」
「あっ、そうだったんですね。枕を高くして寝られますわ」
カズ「最低でも10年以上は確定らしい」
男A「10年!?終わったな」
男B「奴隷法ってそんなに厳しいんだ」
男C「ま~、他人の人生をメチャメチャにするんだもんな」
女A「そうよ!まだ足りないくらいだわっ!」
男D「でもこの時代にしては奴隷法とか被害者に賠償とか整い過ぎじゃね?」
女B「そうよね。前世の歴史と比べるとその辺は進んでるような」
カズ「奴隷戦争以来良くなったんじゃねーかな。あと復讐法もあるだろうな」
女C「復讐法?」
カズ「あぁ、ある程度被害者の気が済まなきゃ暴動なり起こりそうだから」
ミキ「魔法とかで街中でドンパチは結構な被害出ますよね」
女D「ってゆーか、△△はどうなったのよ?見つかってないんでしょ?」
ミキ「えぇ、まだ見つかってないわ。っていうか逮捕されるのかしら?」
カズ「一応参考人でしょっぴくって言ってたな。共犯かどうかまだ確定してないし」
男A「この宿の部屋も取れてないってことは金無いんだろう。風俗に通ってたみたいだし。どこで何をしているのやら」
カズ「俺と菊池君は一切援助しないってことになってるから」
女A~D「私もー!」
男B「まー、当然だな」
男D「でも金無くなったらマジ死ぬんじゃね?この世界だと」
男C「まー、そーだよなー」
カズ「泣きついてきたら街壁工事は紹介してやるか。金は渡さねーが」
ミキ「紹介くらいなら・・・いいですかね」
男A「そうだな。これに懲りて真っ当になってくれりゃいいが」
カズ「まぁ、まだ刑とか確定してないし、とりあえず各々身辺気を付けよーぜ」
男A「そうだな」