⑥-34-128
⑥-34-128
「あれはベア・ボアの子供ですね」
「・・・何?」
「成長したらあの倍くらいにはなるらしいです」
「・・・何?」
「あれよりも大きくなるんですか」
「えぇ。そうよ」
「川こえーな!」
ベア・ボアは転生者を飲み込むと川に戻って去って行った。
「餌はまだあるのに行っちまったな」
「えぇ」
「野生の動物が腹いっぱいになって動けなくなったら今度は自分が餌だからな」
「でも偶に大き過ぎるの飲み込んで動けない蛇を見ますね」
「いるな。お茶目なヤツが」
「あっ!討伐証明どうします!?」
「「あっ!」」
「しまった。ウォーターリーパーで死んだ奴は首持って帰りゃいいかと思ってたが・・・」
「丸飲みされたからね」
「とりあえず2人分の首は確保するぞ。もう死んでんだろ」
「はい!」
「わ、私パスで」
周囲のウォーターリーパーを蹴飛ばしながらサーヤ君と2人で首を切断して持って帰る。
「服はある。これを一応証明に出来ないか」
「まぁ。一応持って帰りましょう」
「はい」
僕達は血生臭い荷物を抱え拠点へと帰る。
途中植物の何かが服に貼り付いているのに気付いた。
「ひっつきむしか」
「くっつきむしね」
「地方で違うのかね」
「そうね。サーヤ、こっちでは何て言うの?」
「オナモミです」
「一緒だな」
「前世もこっちも、植物や動物は同じようなのが多いですね」
「人間も見た目同じだし、栄養も同じだろうから構成も似たようになるのかもね」
「ふーん」
「もうすぐ冬だな」
「この辺寒くなりそうですね」
「あぁ」
「サーヤの冬用帽子も買わないと」
「そうだな、服も買おう。俺のも焼けちゃったし。ついでにゴーグルも作るか」
「風除けに良いですね」
「野営も終わりだ。温かい風呂に入ってベッドで寝たいねぇ」
「「さーんせーい!」」
拠点に帰る前に砦に寄ってみると兵士達は忙しそうに動いていた。
戦闘の後にも関わらず顔から緊張感が抜けているのは討伐が終わったという事なのだろう。
「ファーダネ閣下は居られますか?」
「隊長は拠点に戻られている。用が有るならそちらに出向くように」
「分かりました」
砦の門衛に聞くと拠点にいるらしい。
向かうことにした。
拠点に着くころには夕方になっていた。
拠点に入るとやはり人は少ない。
砦の方に割かれてるのだろう。
ファーダネさんの執務テントに向かう。
「ファーダネ閣下は居られますか?」
「隊長は今忙しいのだ!冒険者は後にしろ!」
「はぁ」
「どうします?」
「疲れたし寝るか」
「そうですね」
「寝て起きたら夕食時かな」
「そうしますか」
寝て起きたら夕食時間を過ぎていた。
辺りは暗くなっていた。
「「寝過ごしたぁー!」」
「はぁ~」
「お腹減りましたね」
「あぁ。移動中に食べた物しか今日は食ってないからな」
「保存食を食べますか」
「先ずは報告を済ませてからにしよう」
「そうですね」
再びテントに向かう。
「ファーダネ閣下に面会を・・・」
「貴様昼にも来た奴だな!何度言えば分かる!隊長は冒険者如きが早々会えるお方では無いのだ!」
「はぁ」
「立ち去れ!」
「はぁ」
「何の騒ぎだ!」
「あっ!ウルマン様」
「何をして・・・あ、エチル!探していたんだぞ!」
「はぁ」
「はぁ・・・ではない!今までどこで何をしていたのだ!急にいなくなって!」
「報告に来ました」
「今頃か!」
「昼にも来たんですがこの番兵さんに断られまして」
「何!?」
「あ、いえ、その・・・」
「冒険者如きが隊長に会えるなんて100年早いわ、って言われて追い返されました」
「何だと!?」
「ちょ、そんな・・・」
「冒険者なんて金で動く卑しい奴らだって、追い返されまして」
「お前!冒険者の助けが有ったからこそ今回の勝ち戦が有ったのだぞ!」
「いえ、私は・・・」
「エチル君。もうその辺で勘弁してやってくれないか」
「ファーダネ様!」
奥からファーダネさんが顔を出した。
クルトさんもいる。
「彼は真面目な兵士なのだ、からかうのはその辺で勘弁してやってくれ」
「はぁ。でも昼に来たしなぁ」
「も、申し訳ありませんでしたぁ!」
「まぁ。以後気を付けるよーに!」
「は、はい!」
「お前は兵士ではなかろーがっ!」
「はっはっは。さぁお入り」
「はい」
「エチル君。君達のお陰で砦を落とせた。改めて礼を言わせておくれ。ありがとう」
「いえ。これも依頼ですから」
「報酬に関しては少し待っておくれ。砦は今少し混乱していてね」
「混乱?」
「あぁ。扉が開いてウルマンが扉を確保したのを見て後詰の貴族が突撃してね」
「あいつら後詰のくせに手柄を争って我先にとな!」
「その混乱の中、幹部を3人逃してしまった。今森狩りをして探させている所だ」
「その必要はありませんよ」
「む?」
「エチル?」
「ターニャ君」
「はい」
バッグから首を3つ取りだす。
「うお!またか!」
「クルト様、ご確認ください」
「・・・む。分かった」
「・・・確かに幹部の3人です」
「エチルお前どうやって!?」
「そうか。現場でウルマンが君が幹部を2人殺害したのは確認しているがその内の1人は首が有った」
「はい。《捕手》持ちですね」
「そうだ。無かったのは」
「水魔法使いです。それがこいつですね」
「・・・左様です」
「うむ。で後の2つが」
「逃げた3人の内の2つです」
「うむ。では逃げた残りの1人は・・・」
「実は・・・」
「うむ」
「ベア・ボアに食われまして」
「・・・・・・うん?」
「・・・・・・エチル、今なんて?」
「ベアボアに食べられました」
「・・・・・・何が有ったか話してくれるかい?」
「はぁ・・・」
いきさつを話した。
「つまりウォーターリーパーの生態実験に使ってる時にベア・ボアが現れて食べて去って行ったと」
「そ、そうなんですよ。ちゃんと首は持ち帰るつもりだったんですよ!」
「そーゆー事を言ってるんじゃない!エチル!」
「・・・それでウォーターリーパーはどうだった?」
「それがですね」
「クルト様も!今はそんな事を聞いてる時ではありません!」
「・・・む」
「一応逃げた3人の服や身に付けていた物は持ち帰りました」
「む、確かにあの時来ていた服だ!」
「では全員処刑したのかね」
「処刑だなんて、僕等は手を出していないですよ。魔物が・・・」
「手を出したも同然だろうが!」
「・・・苦しんだのか?」
「はい、そりゃーもう。ベアボアには生きたまま飲み込まれましたしね。ひっひっひ」
「ぞわっ」
「そうか。今回の混乱の罰に森狩りをさせてる貴族には明日知らせるか。しばらく罰として森にいてもらおう」
「・・・そうですな」
「つまり今回の幹部6人全員は君達だけで始末した、という事か」
「1人は違いますが。あ、それで奴らをごうも、尋問して情報を引き出しています」
「聞こう」
内通者の名前や盗賊団結成の流れ、スポンサーの存在を伝える。
「なんだと!」
「森狩りさせてる貴族共が内通者だった・・・か」
「・・・やはりと言った所ですか」
「捕まえましょう!あいつらめ!散々勝手な事を!」
「証拠は無いのだ、レネ」
「しかし!」
「砦内にも証拠は無かった」
「・・・その為に突撃したのでしょう」
「恐らくな。証拠等有ったら始末しようと我先に入って行ったのだろう」
「捕虜の幹部を始末したのも内通者の手の者でしょうね」
「そうだな」
「くそっ!エチル!お前が3人を生きたまま連れてくれば!」
「レネ。盗賊の証言など証拠にはならんよ」
「ぐむむ」
「我々が捕らえる事が出来なかった者をエチル達は捕らえた。我が軍のミスだよ」
「ぐむむ」
「兎に角今回の盗賊討伐は終わった。今後はその街やスポンサーを調べる事になるだろうが、ひと先ず区切りだな」
「・・・ウルマン。君は態度に出やすい。貴族達に対するに慎重にな」
「は、はい!」
「ポロリは無しですよ」
「わ、分かっている!」
「それで今後の事だが、領都ロムスコに戻る」
「最寄りの街ではないのですか」
「あぁ。本部を置いてあるからね。そこに戻って事後処理だ。報酬もその時で良いかな?」
「結構です」
「結構」
「あ、1つ。いや2つ程お願いが」
「何だね?」
「ロムスコの縫製や皮革の職人を紹介して欲しいのですが」
「あぁ、紹介状を渡そう。もう1つは?」
「ウルマン様の隊もロムスコに?」
「うむ。その予定だ」
「ターニャに《槌術》をお教えいただけないかと思いまして」
「エチルさん?」
「正式な騎士に教わるなんて機会そうそう有るもんじゃないだろ」
「レネ?」
「はい!我が隊に《槌術》持ちがいますので」
「そうか。しかしスキルを獲得するには長い時間が掛かるだろうが」
「いえ、私達は直ぐに街を発つ予定です。その間にでも」
「そんな短時間で良いのかね」
「はい。正式な騎士の腕を見ておきたいので」
「・・・・・・ふ。分かった許そう。ターニャ君、精進したまえよ」
「は、はい!ありがとうございます!」
「うむ」
「ところで囚われていた女性4人は無事でしたか?」
「あぁ。無事に保護したよ、安心してくれ」
「ありがとうございます」




