⑥-31-125
⑥-31-125
砦近くの森の中で話し合っていた。
「俺は先に潜入しておく。君達は戦いが始まったら北側から潜入してくれ」
「私達も一緒に行くわ」
「はい。一緒です!」
「しかし」
「戦いが始まってからだと森から出る時に見つかるかもしれないじゃないですか」
「うーむ」
「先輩はどこに潜むつもりなの?」
「厩が有ったが馬はいない。使われていないんだろう、そこに潜もうと思う」
「3人は無理なの?」
「・・・いや。砦だからある程度の大きさだった。大丈夫だと思う」
「じゃぁ、そこにしましょ」
「はい」
「いや、しかしだね」
「決定よ」
「決定です!」
「うーむ」
「早くしないと夜が明けるわ、行きましょ!」
「行きましょう!」
「うーん」
先程と同じ様に城壁を登ったが今度は3人でだった。砦内に変わった動きは無い。
問題なく南北の中間距離にある西側の厩に辿り着いた。
使われていないから当然干し草や馬草なんかは無い。
パーティはまだ続いているようだ。
《気配察知》持ちがいなくなって騒ぎになるかと思ったが大丈夫そうだ。
「どうしてかしら」
「パーティに参加してるとか思ってる?」
「あー、かもね」
「あいつらブッ殺しましょう!」
「後でな。とりあえず厩で寝ようぜ」
「そうしましょう」
「はい」
明けて早朝。
「今日も攻撃をする、ですと!?」
「どういう事か説明願いたい!」
「説明も何も。短期決戦で一気にケリをつけると言っていたのは卿らではないか」
「それは、そうだが」
「然・・・り」
「被害が出るのも厭わず、手柄を立てたいと言っていたのは卿らであったと思うが」
「それも、そうだが」
「であれば指揮官として、卿らにその場を提供したのだ」
「いや、ただ連日とは・・・」
「戦争とはそういう物だよ。いつも予定通りにはいかないものさ」
「うむむ」
「どうしても気が進まないと言うのならウルマンに先陣は任せるが」
「そ、それが良うございましょう!」
「うむ!フランベルジュであれば先陣を任せるにこれ以上の適任は居りませぬ!」
「然ぁり!」
「しかし功は先陣が多くなりましょうぞ。よろしいのかな」
「我々は後詰として退路を守って御覧に入れましょう。別動隊がまだ居るやも知れませぬ。心置きなく戦われよ」
「結構。ではウルマン隊にクルトの隊と私の隊も付けよう。ウルマン君任せたぞ」
「はっ!期待に応えるでありましょう!」
「ふあぁ・・・」
「おはよう」
「おはようございます」
「敵地で眠れるものですね」
「あぁ。寝る前の飲み物にネムリマイタケの粉を少し入れといた」
「「えぇ!?」」
「ぐっすり眠れたろ」
「いや、まぁ」
「・・・はい」
「向こうも、ぼちぼち起きだしてる」
「緊張感がありませんね」
「やっぱり逃げ道有るって事じゃねーかな」
「まぁ、その時は先輩が《魔力感知》で追いかけるでしょ」
「あぁ。逃がしはせんよ」
「それでこれからのプランは?」
「戦闘が始まるまでここで待機だ」
「始まったら?」
「僕が正面扉を開ける」
「私達は?」
「僕が見つかったら援護だ。見つかるまで手は出さないこと」
「「了解」」
「でも昨日の戦い、人数は圧倒的に多いのに苦戦しましたね」
「あぁ。騎士って野戦向きの兵種だね」
「そうですね。馬に乗って、ってイメージですね」
「だから攻城戦とかあまり強みを活かせられないし、その為のスキルも無いんだろう」
「普通の兵士と変わりませんでしたね」
「盾が役立ってましたわ」
「そうだね、別動隊の時もそうだったし」
「魔法使いと言えども攻城戦は難しいって事も分かったわね」
「魔法が届かないんじゃどう仕様も有りませんわね」
「魔法は中距離、弓は遠距離で住み分け出来てるわね」
「しかし弓は結構な場面で役立つな」
「やっぱり射程がね!」
「はい!」
「逆に僕達が砦に籠ったら、引きつけて魔法使いを狙い撃ちだな」
「そうね」
「お」
「どうしました?」
「何人かが地下に行くな」
「地下?脱出路?」
「いや、女もいる」
「どうするのかしら・・・」
「女4人を置いて、男は戻っていくな。砦だから恐らく地下牢か」
「なるほど。逃げないように入れるのか」
「助けますか?」
「いや、むしろ牢に入っていた方が安全かも知れん。鍵の在り処も分からんし」
〈来た!王国軍のやつらまた来やがったー!〉
〈お頭に知らせろー!〉
〈分かったー!〉
「む。始まったみたいだな」
「そのようですね」
「いよいよですね」
「合図をしたら北西の階段で城壁に登って射撃用意だ」
「「了解」」
「僕が見つかるまで撃つなよ」
「「はい」」
「扉が開いたら自由射撃」
「「了解」」
「作戦が失敗したら北壁から鉤爪ロープで降りて逃げろ」
「「・・・」」
「ファーダネさんに庇護を求めろ。悪いようにはしないだろう」
「「・・・」」
「グンナーのハリエット商会に行くのも良いだろう」
「「・・・」」
「やめても」
「ここまで来て有り得ない」
「「・・・」」
〈あいつらブッ殺してやるぜ!〉
〈弓は効かねぇかんな!〉
〈火だるまにしてやんよぉ!〉
〈ぎゃははは!〉
「出て来たな、始まるぞ。僕のバッグパックはすまないがサーヤ君、君が持って行ってくれ」
「・・・分かりました」
「サーヤは私のバックパックを持って、先輩のは私が持って行くわ。バッグ2個持ちだとその方が軽いから」
「はい」
やがて衝撃音や破裂音、怒号に喚声が聞こえ始めた。
〈オラァ!死ねぇ!〉
〈ほらぁ!もっと撃って来いよぉ!〉
「始まって結構時間が経ったな。頃合いだろう。仕掛けるぞ」
「「了解!」」
先ず2人が走って北西の城壁の階段を上がっていき北西角のスペースに陣取る。
そこなら矢の攻撃から隠れられる。
西側の敵への射線を確保出来るが、東側への射線は建物があって無理だ。
西側の敵を集中して倒してもらおう。
俺は自分に《隠蔽》を掛け、城壁沿いを小走りに正面扉へと向かう。
昨日の攻撃で人数が減ったことも有り全員城壁に上がっている。
扉の閂に手をかけ、外していく。
重く感じるな。
緊張のせいだろうか。
木製の閂だ。
かなり古い。
この砦が古い物らしいからな。
この閂がささくれてて刺さったらどうしよう。
そんな事を考えてる間に閂が外れた。
後は扉を開けて・・・しまった!
別に俺が開けなくても、閂が外れたら菊池君に火矢でも打ち上げてもらって合図を出せば良かったんじゃないか?
外の連中に開けさせれば良かったんだ。
くっそ!
しまった。
今からでも菊池君の所に行くか。
「あっ!てめぇ!そこで何やってる!」
補給の為だろうか、城壁から降りて来た賊に見つかってしまった。
ヒュン
「ぐあっ!」
賊の頭に矢が突き刺さる。
くそっ!
仕方無い。
予定通り扉を開けよう。
「おい!どうした!?死んでるぞ!しんにゅうしゃへっ」
「あっ!後ろからやられた!?」
「北西に賊がいるぞー!」
賊はおめーらだろうが!
扉を引きながら独り言ちる。
ギイィ・・・
「あっ!扉が、扉が開いていくぞ!てんめぇ!やめろぉ!」
「あいつを殺せ!扉を閉めろ!」
西側から来ようとする賊は菊池君とサーヤ君の矢で数を減らしていく。
東からの賊が矢を撃ってくるが《カウンター》で弾く。
ある程度扉が開いたら観音開きの東側の扉を押していく。
これなら扉が盾となって東側から狙えまい。
一方ウルマン隊は《ファイアーボール》の届かない境界で踏ん張っていた。
昨日よりは少ないとはいえ、矢が飛んで来る。
「見ろ!扉が開いていくぞ!エチルが成功したぞ!」
「エチル!?別の任務でこの攻撃に参加しないって・・・潜入任務だったんですか!?」
「あぁ、そうだダナ!志願してな!皆の者!この機を逃すな!砦に突っ込めぇ!」
『おぉ!』
「フイネ!《バリア》の用意を!」
「は、はい!」
ウルマン中隊は盾隊を前面に前進してゆく。
「城門を確保しろぉ!進め進めぇ!」
『おぉ!』
「見えた!エチルだ!無事だ!」
そこへ《ファイアーボール》が飛んで来た。
「《バリア》!」
ドゴオオォォォ
見えない障壁にぶつかって激しく反応して《ファイアーボール》は消えた。
「今だぁ!進め進めぇ!」
『おぉ!』
上空から激しく矢が浴びせかけられるが盾によって弾かれる。
後方のダナとフイネにはウルマンが付いて剣で弾いていた。
そのまま突っ切り城壁の真下、開かれた扉に到着した。
「エチル無事か!?」
「えぇ、ウルマン様。なんとか!」
「良くやった!後は任せろ!」
「何を仰いますやら!こっからが稼ぎ時ですよ!」
「全く!お前と言う奴は!」
「・・・ウルマン部隊長は扉に辿り着いたようですな」
「うむ!前線を突入させろ!」
「・・・は・・・?」
「あ奴ら!」
「扉が開いたぞ!我に続けー!」
「今こそ賊共を撃ち滅ぼすのだぁー!」
「然りぃ!」




