⑥-30-124
⑥-30-124
食事を終えた頃は夜。
軍の物資からアイテムを拝借してきた。
鉤をロープに結んで投げて壁に引っ掛け登っていく道具。
鉤縄だ。
《隠蔽》で拠点から出て行く3つの影。
じきに砦の近くにやって来た。
砦を正面から見て左に回る。
「なるほど足場が悪い。大勢だと進めんな」
「ですね」
「暗いと余計に危ないですわ」
砦の左右の足場は石や切り株やらが有って歩きづらい。
先ずは俺1人で砦の壁へ向かって歩き出す。
南に月が出ていて真っ暗な訳ではない。
しかし月が2つあるからそれだけ明るい訳でも無かった。
前世に居た頃の月よりも遥かに大きな月が1つ。
その奥に前世くらいの月が1つ。
2つの月が辺りを照らす。
極めてゆっくりと進んだ。
急いで進めば光と影のコントラストで認識され易いだろう。
カメレオンの様にゆっくりと。
ようやく《魔力感知》が壁上を知覚出来る所まで来た。
こちら、西側の壁上には見張りが南西の角に1人居るだけだった。
砦の中央に多数の魔力反応が有る。
どうやらこの砦は四方を壁に囲まれた真ん中に建物が有るらしい。
多数居るのは住居施設か何かだろう。
更に進むと《魔力感知》は壁上に3つの魔力を捉えた。
1つは南西の角、1つは南東の角。もう1つは正面扉の真上だ。
誰も居ない北西角に鉤縄を仕掛けたい。
前世だと相当無理をしなければ鉤縄を20mの高さに放れないだろう。
しかしステータスと《頑健》さんのお陰で1発で届いた。
カチッ
少し音が鳴ってしまったが構わず登ってゆく。
もし気付いて様子を見に来るのなら、登りきる直前で待ち構えよう。
恐らく壁に掛かってる鉤爪を見て警戒するだろう。
鉤爪の先を覗こうとするかも知れない。
その隙を殺す。
結構あれこれ考えていたのに誰も来ることは無かった。
と、
正面扉の魔力が移動し始めた。
南西に向かっている。
菊池君達が見つかったのか!?
いや、慌てた様子は無い。
ゆっくりの移動。
巡回しているのだろうか。
壁上の角は、ある程度のスペースが有った。
恐らく4つの角全てにスペースが有るのだろう。
もしここまで来るようならこのスペースに隠れていよう。
巡回を始めた賊は南西の角で少し仲間と言葉を交わしたらしき後、
こっちに歩いてくる。
解体ナイフを抜いて背後に隠す。
月の灯りで反射させないためだ。
西の壁上を1歩、また1歩とこちらに近づいて来る。
どうやら殺らなきゃいけないようだ。
南西の賊はそのまま動かない。
奴1人、数mの距離だ。
直接見なくても良い。
この距離なら《魔力検知》で壁を透過して賊の魔力が見える。
賊はスペースの壁際に《隠蔽》で潜んでいた俺に気付かず過ぎて行く。
外の地面を気にしているからだろう。
通り過ぎた直後、賊の背中に忍び寄り背後から左手で口を塞ぎ右手で喉を掻き切る。
「ぐむっ」
そのままスペースに引き摺り倒し頭を打ち付け、目を突き刺す。
革鎧で心臓は突き刺せそうになかった。
絶命後南西の方を見ても慌てた様子は無い。
気付かれずに済んだようだ。
しかしこいつ1人で巡回していたって事はこいつが《気配察知》持ちか?
ロープを使って賊の死体を外に降ろす。
南西の奴に見られないようにしながらロープを降ろしていく。
感触が軽くなった、地面に着いたようだ。
南西の様子を見ながら2人を呼び寄せる。
(こいつを持って帰ろう)
((了解))
2人は死体を持って西の森へ去った。
このまま俺も帰ろうかと思ったが、もう少し様子を見ることにした。
砦内に降りて正面扉に向かう。
見張り以外、全員建物内だ。
正面扉に着き閂を確認する。
試しに1人で外してみる。
ギギィ
いけそうだ。
閂を元に戻して侵入した所から戻ろうかと思ったが、賊を確認した方が良いか。
今魔力反応は全部で44人だ。
《魔力検知》は近距離用なので建物に近づく。
うーむ。
中心に多いな。だがまだ視えない。
中に入ろう。
建物の中に入って人が居る中心に近づく。
なるほど。
4人は女だ。
攫われたのだろう、パーティの最中だった。
建物を出て北西に戻り壁に上がって鉤爪を壁の奥ではなく上部に掛けて降りる。
こうすれば外す手間が少なく回収し易い。
俺は2人と合流して拠点に帰った。
「ウルマン卿!」
「どうした」
「閣下に面会したいという者が参っております」
「こんな遅くにか」
「はい。エチルとか申す冒険者です。いかが致しましょう」
「・・・会おう」
「はっ」
「エチル。こんな夜分遅くにどうした」
「申し訳ありません。ファーダネ様に申し上げたいことが有ります」
「ファーダネ様に?先ずは私に話してくれないか」
「急用です。出来ればクルト様も一緒に」
「・・・分かった。ここで待て」
「はい」
程なく僕達3人はファーダネさんのテントに呼ばれた。
いつもの3人が待っている。
「エチル君。急用だと聞いたがどんな案件かね」
「はい。先ずはこれをご覧ください。ターニャ君」
「はい」
袋から首を取りだす。
「うお!」
「何!」
「・・・!?」
「クルト様、《覗き見》は死後でも短時間ならステータスは見られるとスキル大全に載っていました」
「・・・その通りだ。こいつを見ろと」
「はい」
「・・・うむ・・・こいつ!」
「どうしたクルト」
「・・・《気配察知》持ちです!」
「何!」
「エチル!どこでこいつを?」
「先ほど砦に潜入いたしました。その折に」
「何だと!?」
「・・・潜入出来たのか!?」
「はい。砦には全部で44人がいますが賊は40名です」
「後の4人は?」
「女です」
「・・・・・・そうか」
「あいつら!」
「閣下」
「何だ、エチル君」
「勝手な事をして申し訳ありません」
「うーむ」
「今の調子で戦い続ければ勝てるでしょうが味方の被害も多くなるでしょう」
「・・・・・・うむ」
「明日、再度攻撃を仕掛けてください。僕達が潜入して内側から正面扉を開けます」
「・・・・・・出来るのかい?」
「閂は1人でも開けられます。確かめました」
「な、何!?確かめた?」
「しかしそれだと扉が開く前に君達が狙われるだろう」
「魔法使いは全員正面の壁上にいます。僕には魔法を使えません」
「なるほど。しかし他の賊は?」
「マイン君とターニャ君の援護で大丈夫です」
「うーむ。しかし・・・」
「今女性は生きていますが今後どうなるかは分かりません」
「・・・・・・」
「敗戦が目前に迫ったら殺すでしょう」
「・・・・・・クルト?」
「・・・賊は人数的に壁上にほぼ全ての戦力を集めるでしょう。可能性は有ります」
「うーむ。分かった。君達に依頼を出そう。正面扉を開けてくれ」
「畏まりました。閣下に勝利を」
「うむ。よろしく頼む」
「閣下!あれでよろしかったのですか!?」
「彼らがやると言うのだやらせるのがよかろう」
「しかし!」
「・・・もう決まった事だウルマン隊長」
「うぐぅ」
「しかし連日の戦になる。明日早朝軍議を開く。段取りを頼む」
「・・・は」
「ウルマンもその積りでな」
「は!」
「漏らすなよ?」
「だ、大丈夫であります!」