⑥-29-123
⑥-29-123
「エチルぅ。ごめんなさいぃ」
俺はダナの治癒魔法を受けていた。
「火傷は軽いわ。後も残らないと思う」
「ありがとう、ダナ」
「いいえ!こちらこそ。フイネをありがとう!」
「今度飛び出したらあいつらじゃなく俺がぶっ飛ばす!」
「ごめんなさいぃ」
「カイル!おめーもだ!」
「す、すまねぇ!」
「はーはっはっはっは!どーしたぁー!もっと掛かって来いよぉー!」
「何だ?」
前を見ると壁の上で叫ぶ者がいた。
火魔法使いだ。
「揃いもそろって雑魚ばっかだな!」
「この程度で俺達を殺ろーってのが間違いなんだよっ!」
「俺達も1度は殺されたんだ。やり返して何が悪い!」
「そうそう!俺は”甲子園”行くはずだったんだ!それを!」
「おめーら全員ブッ殺してやる!」
「ぎゃはははは!」
菊池君と顔を見合わす。
「「甲子園?」」
「こうしえん、って何ですか?」
「サ、ターニャ君、それは後だ撃ち返したまえ!」
「は、はい!」
ドオオォォン!ドオオォォォン!ドオオォォォン!
「銅鑼の合図だ!撤退だ!」
『了解!』
「味方を援護しましょう!」
「む。そうだ!盾隊は後退する味方の盾になるように!みんな!こっちに走って来い!煙玉を撒けっ!」
レネ嬢達は動いていなかったので《ファイアーボール》は届かない。
矢だけを心配すれば良い。
その矢も煙玉で的が見えない。
撤退する味方を守りつつ僕達も撤退したのだった。
「射手も10人は殺したんじゃないか?」
「然り!」
「この調子で行けば陥落も時間の問題ですな!」
「左様左様。脅威は魔法使いだけですからな!」
「奴らも大盗賊団の幹部!今まで集めた宝もさぞや・・・」
「はーはっはっは!気が早いですな!」
「私の突撃命令で戦況は一変!これが手柄でなく何でしょうな!」
「然ぁぁりぃ!」
会議はこのまま続けば勝利は間違いないとの空気で盛り上がっていた。
それを苦々しく見つめる1人と無表情で見つめる2人。
「菊池君。ちょっといいかな」
「・・・はい」
「サーヤ君はテントで待っていてくれ」
「は、はい」
テントから出て菊池君と相談をする。
「甲子園って・・・転生者ですよね」
「あぁ。恐らく。顔に見覚えは無いが」
「はぁ。同僚以外の転生者に初めて会ったのが盗賊だとは」
「全くだ!しかも大盗賊団?やってくれたな!」
「どうするんです?」
「・・・殺すしかない」
「・・・」
「もし生け捕りにされて尋問され、正体が転生者だと知れたら」
「転生者狩り」
「その通りだ。21才になってもこの世界の一般常識を知らない僕達は真っ先に疑われるぞ」
「はぁ」
「サーヤ君にも事情を話した方が良いだろう」
「ですね」
「サーヤ君が裏切ることはないと思う」
「私もそう思います」
討伐隊長用のテントに3人が集まっていた。
「あいつらは自分の事しか頭に無いんですよ!閣下!」
「うーむ」
「今日射殺した賊も!殆どマインとターニャですよ!」
「・・・」
「10人殺したって言ってますけど、同じくらいこちらも犠牲者が出てます!」
「そうだな」
「自分は参加せず後ろから命令するだけ!その命令も『進め!』しかないですし!」
「うーむ」
「具体的な事を言わないから兵達も進むだけしか出来ず!」
「・・・」
「そのくせ勝った後の事しか考えていません!」
「うーむ」
「こんな戦で部下に犠牲を・・・」
「・・・早急に片を付けませんと」
「うーむ」
「サーヤ君。折り入って話がある」
「は、はい。何でしょう」
「君に僕達の正体を打ち明けようと思う」
「しょ、正体ですか?」
「あぁ。君も菊池君と接して変だなコイツって思ったことが有るだろう」
「・・・えっ、私だけ?」
「い、いや。あの、その」
「君の疑問は正しい。僕達はこの世界の者ではないからだ」
「・・・この・・・世界?」
「世界と言ってもこの時代だと分かりにくいんじゃないですか?」
「そうだな。僕達は別の世界で死んで、この世界に生まれ変わったんだ」
「と言っても去年ね」
「死んだ?」
「そうだ」
「生き返った?」
「ゾンビじゃないぞ」
「勿論ゴーストでもないわ。アンデッドじゃないの」
「だからこの世界の事を何も知らないんだ」
「・・・」
「混乱するのは当然だ。質問は受け付けるよ」
「・・・どうやって死んだんですか?」
「僕達が知らない連中に、狂信者みたいな連中に殺された・・・らしい」
「そいつらに他の大勢の人達も殺されたの」
「・・・はぁ」
「まぁ、突然で混乱するだろうね」
「仕方ないわ」
「だが今重要なのは、僕達の他にもこの世界に転生した者がいると言う事だ」
「え?」
「そうなんだよ。いるんだよ、僕達の他にも」
「全員で100人くらい」
「100人!?」
「そうだ。そしてその100人の内の何人かは今戦ってる盗賊団の幹部みたいなんだ」
「えっ!?」
「もし仮に幹部が生け捕りにされた場合、ごうもん・・・尋問で自分達が転生者だと喋ったとする」
「・・・はい」
「転生者狩りよ!」
「転生者狩り!?」
「そうだ。魔女狩りだ。・・・サーヤ君。この世界って魔女居るの?」
「はい。います」
「マジかよ」
「いいから話進めて!」
「世間知らずの僕達なんか真っ先に捕まるってことだ」
「あー!」
「分かってくれた?」
「はい。生き返ったって本当なんですね」
「まぁ、信じられないのも無理はないよ」
「私達も最初は信じられなかったし」
「だから今度は死なないように生きたいんだ」
「戦争に参加しちゃってるけどね」
「わ、分かりました!私は何をすれば!?」
「話が早くて助かる。幹部を皆殺しだ」
「ちょ、言い方がね、もっと・・・オブラートに」
「ブッ殺すんですね?」
「そうだ!」
「最初の予定通りですわ!」
「まぁ、そうなんだが。このまま行くと砦も落ちるだろうが幹部は生け捕りにされる可能性が高いんだよ」
「なるほど!」
「《殺菌》で殺しても良いんだが、その間に吐かれても困る」
「ひじょーに困るのよ」
「はい!」
「何とかしないといけない」
「お手伝いいたします!」
「助かるよ!」
「でも何も考えてないの。これからなのよ」
「そうでしたか・・・」
「先ずは君に打ち明けないとと思ってね」
「私に出来る事でしたら何なりと!」
「助かるよ!」
「それでどうします?」
「うーん。暗殺とか?」
「《気配察知》持ちがいるって言ってましたよね」
「それだが、《隠蔽》より有効だろうか」
「「!?」」
「うーん。今日みたいな集団戦だと味方に合わせて正面から突入しても盗賊の幹部は味方が持っていきそうなんだよなぁ」
「潜入するしかないと?」
「あぁ」
「でも幹部だけ暗殺って無理じゃないですか?」
「それなんだよなぁ。味方と連携しないと無理だな」
「どうやって連携を取るかが難しいわね」
「幹部は城壁に上がって魔法撃ってたろ?」
「えぇ」
「そこに俺が砦に潜入して中央の扉を開けるとあいつら逃げるんじゃないかな?」
「そこを襲うと?」
「あぁ。逃げるにしても正面を破られたんだから正面からは逃げないだろう」
「裏、もしくは・・・」
「あいつ、《捕手》持ち、土属性魔法だろ」
「えぇ」
「はい」
「トンネルとか掘ってねぇかな?」
「「!?」」
「いや!あるかも!それであの人数であの規模の砦に籠ったんですかね?」
「規模から考えると少な過ぎますものね」
「あるとしたら・・・」
「奥か・・・地下ね」
「そうですね」
「まぁ。全ては潜入出来るかどうかだ。今から試しに行ってくる」
「「今から!?」
スキル大全
《魔力検知》
己の魔力を知る為のスキルだと言う。
ただ、それだけの様だ。
このスキルを研究したいのだが他の者にこのスキルを取得して研究させてくれと言っても誰も頷く者は居なかった。
少なくはない謝礼も提示したのだが「それっぽっちで人生を棒に振りたくない」と言う。
誰も協力してくれない、嘆かわしい限りだ。
「スキル抹消オーブをくれるのなら」なんて言う男も居た。
そんな高額な物が手に入るのなら自分で試すだろうに。
だったら自分で試せ?
嫌だから他の者に言っているのじゃないか何を言っているのか。
《魔力操作》
己の魔力を操作出来ると言う。
仮に操作出来たとてそれが何だと言うのであろう。
魔力を操作しなくともスキルは発動出来る。
このスキルが有っても消費魔力は変わらないと言うのは何百年も前にこのスキルを取得した変人が言っていた。
科学の発展の為に犠牲になった奇特な御仁に変人とは無礼であろうがやはり変人と言えるだろう。
そもそも年を経てようやく取得出来るスキルが故に研究もしにくいしそもそも取得している者が居ない。
このスキルを取得出来る頃にはスキル枠は埋まっているだろうし、もし取ろうとしたら女房にドヤされるに違いない。
《魔力検知》と並んで習得は推奨しない。
どちらも攻撃や防御は勿論、《身体強化》のような自己強化や支援にも使えない。
人生で後悔したくないならば習得しない方が良いだろう。
(余白に走り書き)
この世界の人達はスキルにスキル(技術)を見出す。
つまり実用的かそうじゃないかだ。
そうじゃないものは習得されない傾向にある。
それはそうだろう。そのスキルで人生が決まってしまうんだ。