⑥-28-122
⑥-28-122
総攻撃予定の朝。
捕虜が死んだらしい。
大騒ぎしていた。
なんでもリンチ、私刑だと。
にしても警備していた奴とか居たろうに。
「まさか先輩!?」
「いやいやいや、まだやってませんよ!」
「まだ!?」
「えぇ、はい。まだです。意志は有りましたが」
「・・・口を塞ぐのが目的ね」
「内通者が・・・」
「そういうことね」
「あからさま過ぎて返って墓穴掘ったんじゃねーかな」
「でしょうね、でも情報はまだだったんでしょう?」
「最中って言ってたから、まだだろうね」
「何ともはや、幸先悪いわね」
盗賊団が根城にしている廃棄された古の砦は拠点から見える位置にある。
奴らがちょっかい出してくるなら返って好都合というものだ。
むしろ籠られる方が厄介だから。
昼。
時間となり兵士が先発する。
僕達冒険者第3小隊はレネ嬢の小隊麾下にある。
いつもの2小隊だ。
「攻撃開始!」
大隊隊長の合図に銅鑼が鳴る。
ドオォォォン!
先発の兵士が砦に近づくが遠巻きに矢を射かけるのみだ。
レネ嬢に尋ねる。
「何をやっているんですか?」
「先ずは様子見だ。その内近づけば火魔法が飛んで来る」
「相手に矢の補充をしてるようにしか見えないんですけど」
「む!」
「行くなら一気に行かないと」
「うむ。しかし中隊長が命じないとな・・・」
「中隊長は?・・・」
「あそこにいる貴族達だ」
「貴族かっ」
「むぅ。昨日あれだけ総攻撃を唱えておきながら、何故攻撃しない!?」
「あの方達が強硬派ですか?」
「うむ。最初は持久戦を言っておきながら急に方針転換してな」
「なるほどねー」
「?」
「やる気は見れないですねー」
「むぅ」
「ぼ、冒険者共に突撃させたらよかろう!」
「な、なるほど!妙案ですな」
「しかし先陣は王国軍が務めませんと・・・」
「であれば貴君が務めればよろしかろう!」
「私は中隊隊長ですぞ!先陣を務めてどうするんですか!」
「えぇい!五月蠅い!誰か突撃せよ!」
「それは上が命じるのです!」
「何ですか、あれ」
「う、うむ。その・・・」
「ファーダネ閣下のご苦労が偲ばれますね」
「そ、そうか!分かってくれるか!」
「とりあえず《ファイアーボール》より弓の方が射程がありますよね」
「そうだ!」
「《ファイアーボール》の射程外、弓の射程内に進みますか」
「よし!我が隊は前に進むぞ!盾隊前へ!」
『おう!』
《ファイアーボール》で抉れていない地面の境界付近まで進む。
矢が飛んで来るが盾隊が弾く。
僕達だけが突出していた。
「これからどうする!?」
「矢を消費させましょうか!」
「分かった!」
《魔力感知》の感知範囲に砦の壁の上がギリギリ入っている。
なるほど、あの2人が火魔法使いだな。
中央の扉の上に居た。
あれが土か。ということは《捕手》持ちか。
なるほど、火魔法使いの近くにいる。
火魔法使いへの矢はこいつが無効化すると。
あいつが風で、あいつが水か。
僕達の方にも矢が飛んで来るが距離がある。
十分《見切れ》る距離だ、《受け流し》て弾く。
《弓術》持ちは少ないのだろう、今の矢にも魔力は殆ど感じられない。
「マイン君!ターニャ君!狙えるか?」
「「はい!」」
「あの男が《捕手》だ!あいつから離れた位置にいる奴を狙ってくれ!」
「「了解!」」
「君達への攻撃は僕が防ぐ!」
「「了解!」」
「呼吸を合わせて同時に撃ってくれ!」
「「了解!」」
突出しているのは僕達だけなので矢が集中している。
「「せーの!」」
ヒヒュン
「ぐあっ!」
「ぐぅ」
1人の頭に、1人の喉に命中した。
2人は油断していたのだろう、壁際の近くに居たところを撃たれ壁下に落下した。
「ナイスショット!」
「ターニャ君!あの距離よく当てたな!」
「はい!風が無いのが幸いでした!」
「よーし!次も狙ってくれ!」
「「了解!」」
「「せーの!」」
ヒヒョン
「ぐぅ!」
「あっつ!」
1人は頭に当たり、1人は肩に当たった。
「ナイスショット!」
「いいぞー!その調子だ!」
「「はい!」」
しかし射手は胸壁に隠れてしまった。
しかし飛んで来る矢は少なくなったが皆無ではない。
あの《捕手》の近くから飛んで来る。
しかし膠着状態にあった現状、
相手の犠牲と消沈を目にして元気になったお調子者が居た。
「今だ!我々の威容に恐れ慄いておる!今こそ!我々の武勇を天下に示すのだぁ!かかれー!」
「然ぁぁぁりぃぃぃ!」
「「「えぇぇぇ!?」」」
「・・・すまん」
《うおぉぉぉ!》
兵士が前へ殺到する。
僕達を追い越し丘に殺到するが、
ドオオオォォォン
《ファイアーボール》が2つ飛んで兵士を吹っ飛ばす。
《ファイアーボール》は着弾すると破裂するらしい。
間近で見ると弾の大きさも50cmはありそうだ。
射手も胸壁から身を乗り出し矢を放つ。
「君達は相手の数を減らしてくれ!」
「「了解!」」
「火の玉は2つだ!詠唱時間もある!何で突破出来ない?」
「あいつだ!あの《捕手》です!」
「《捕手》がどうした!?」
「石を投げてます!捕るだけでなく投げる方もスキル持ってるんじゃないですか!?」
「投げるだけでか!?」
「だから、スキルの威力が乗ってるんでしょう!」
「ぬぅ!」
《捕手》に飛び掛かる矢は見えない何かに叩き落とされていた。
「あれが《捕手》か。半径2mってところか」
「しかも《投擲》しながら《捕手》も発動してる、オートだな」
その間も攻撃は続く。
しかしこちらの矢も射手を殺し確実に数を減らしていってるが、被害も大きい。
礫の雨を掻い潜って扉に届いても《エアロエッジ》で斬り裂かれている。
その風魔法も《捕手》で守られている。
「なるほど。礫は魔法じゃないから魔法射程はないから消えない」
「殺す必要はない。礫で十分なんだ」
「動けなくなった奴を弓で狙えば良い」
「梯子を持ってる奴は《ファイアーボール》で破壊すれば良い」
「そして砦に辿り着こうにも先ず台地を登らないといけない」
「登ってる奴はいい的と」
「こりゃ参ったな」
うーんと唸ってると、
「くそぅ!じれってぇ!」
「待って!カイル!」
カイルが飛び出して丘に向かう。
集団心理と言う奴だろうか。
みんなが目指すから自分も目指す。
「戻れ!カイル!」
壁に辿り着いてからどうするのか?
考えがあるのか!
「カイル!」
飛び出したカイルを追ってフイネも飛び出す。
君が追って何になるんだ、全く!
「くそ!レネ様!後ろの2人を頼みます!」
「分かった!任せろ!」
俺も飛び出してフイネを追う。
カイルの近辺に《ファイアーボール》が迫るが透明な壁に四散する。
しかし《バリア》後のフイネにもう1つの《ファイアーボール》が飛んで来る。
「きゃああぁぁ!」
「フイネェ!」
しかしカイルは動けない。
俺がフイネを庇って前に出る。
くそう!
だから短気な奴は嫌いなんだ。
しかも《バリア》を他人に使ったら自分の身はどうやって護るつもりだったんだ。
お前後衛だろ!
《見切り》だ。コースは読める。
後は《受け流し》出来るかどうかだ。
魔法射程を超えて来るってことは実体化してるって事だろう。
魔法を普通の剣で弾けるかは分からんが、
実体化してるんなら弾ける可能性が高い。
受けては駄目だ。
《受け流さ》ないと。
斜に構えてマチェーテの裏腹を左手で支える。
《ファイアーボール》を腹で受け止め、瞬間《受け流し》発動。
《ファイアーボール》を逸らすことに成功し、斜め後ろに着弾する。
ドオオォォォン
「きゃあぁ!」
「カイル!戻れ!」
「あ!あぁ」
「エチルありが・・・きゃぁぁ!」
「うるせぇ!フイネも戻れ!」
「手!エチル!手!」
見ると両手が燃えている。
「あっつ!」
「どどど、どうしよー」
「いいから戻れ!」
「う、うん」
「カイルも行くぞ!」
「わ、分かった!」
上着を脱いで地面に投げ捨て火を消す。
手ではなく服に燃え移っていた。
その間も矢は飛んで来るが《カウンター》で弾く。
「くっそ!折角の迷彩柄が!」
「エチル早く!」
「うるせぇ!お前らが言うな!」