①-12
①-12
「娼館で働く!?」
「あぁ!今言っただろっ!」
「今会ったばかりの人にそんなこと言われても混乱するだけです!説明してください!」
「ごちゃごちゃうるせーな!おめーは素直に付いてくりゃいいんだよ!
「ちょっと待ってください!あなたは何者なんですかっ!」
「あん?なんだてめーは」
「僕は彼女の幼馴染です」
「かんけーねぇ!すっこんでろっ!」
バンッ!
顔面を殴られて吹っ飛んでしまった。
「先輩!」
先輩じゃなくお兄ちゃんです、今は。
それにしてもいきなり殴るかね。
こいつは話が通じないタイプだな。
雷魔法使うか?
いや、最悪死んでしまうかもしれない。
殺人の刑罰はどんなもんだろう。
死刑・・・縛り首か。
正当防衛っても前世と違い今世は認められないかもしれない。
魔法は使えんな・・・となると。
「エルドさん・・・」
「おぉ、大丈夫か。何がどうした」
「全く何が何だか。いきなり現れて『娼館で働け』ですから」
「あいつを知らねーのか?」
「初対面ですね」
「あいつは娼館を含めたこの街の裏社会を取り仕切ってるバティストってやつだ」
「裏社会?」
「賭場や金貸しなんかをまとめてる」
なんてこった、暴力団とかマフィアとかか。
なんでまたそんなのに絡まれた?
しかしまずはこの場を収めねば。
「エルドさん、頼みがあります」
「な、なんだ?」
「門番のガルトさんを知っていますか?」
「あ、あぁ知ってるぜ」
「呼んで来てもらえませんか」
「よし分かった。ただ俺の店だからここを離れられん、娘に行かせよう」
「すいません、お願いします」
エルザちゃんにガルトさんを呼びに行ってもらった。
「ほら、早くこっちに来い!」
「ちょっと痛い!」
「おい!止めないか!」
「またおめーか、すっこんでろっ!」
右パンチを避けて強引に菊池君を掴んでる手を振りほどいた。
「てめぇ!」
また大振りで殴ってくる。
避けて間合いを取った。ガルトさんが来るまで時間を稼がねば。
この時間まだ門番をやってるはず・・・だよね。
「あんたらとは初対面だろう!訳を言え!訳を!」
「おめーにゃ関係ねーだろうがっ!」
「殴られてるのに関係なくはないだろう!」
「んだとぅ!」
「訴えるぞ!」
「はっ!こっちはちゃんと契約を交わしてるんだよっ!」
「契約?」
「契約なんて交わしてません!今初めて会ったのに!」
「これが契約書だ!」
「何の契約書だ!」
「その女とあと4人の女の娼婦として働く契約書だ!」
「あと4人!?」
「あぁ、ちょうどそこに4人いやがるな。そいつらまとめて連れて行くんだよ」
「「「「えー!?」」」」
「君達、契約交わしたのか?」
ブルブルと顔を横に振っている。
いったいどうなってるんだ。
「おら!そこを退きやがれ!」
「雇用主はあんただな!?」
「あぁ、そうだよ」
「被雇用者、契約者は誰だ!」
「あぁ、契約者?」
「あんたと契約したやつだ」
「××だ!」
「な・・・何!?」
「そいつがな、俺んとこの娼館でさんざん遊んで借金こさえやがったのよ。その取り立てでそいつと契約を交わしたんだ」
「何でそいつの借金をこの子たちが返さなきゃならん!?」
「××が事業主としてハケンさせるんだとよ」
「ハケン・・・派遣!?」
「あぁ、新しい働き方だとか言ってたぜ」
「馬鹿な、それはこの子たちと××とが事業契約を結んでいないと-」
「あー、ごちゃごちゃうるせー。おめぇらやっちまえ!」
「「へい!」」
3人に囲まれ捕まってしまった。
袋叩きにあっていると戸が開いてガルトさんが入ってきた。
「こらっ!貴様ら何をやっている!」
「あん!何だガルト!おめーに用なんてねーんだよ!」
「そうはいかん!無抵抗の者を多数で暴行とは、先ずは何があったか話してもらおう!」
ガルトさんは仲間を数人引き連れて来てくれていた。
「こっちは契約書まであるんだよ!」
「とりあえず衛兵詰所まで来てもらう!」
「なんだと!」
バティストたち3人はとりあえず殴ったことの取り調べのための同行を納得して連れられて行った。
「おい、カズ!大丈夫か!」
「はい、なんとか・・・ありがとうございますガルトさん」
「いや、まだ詳細なことは分からないからお前にも来てもらいたいんだが」
「はい、勿論です。それでミキの話も一緒に聞いてもらいたいのですが」
「わかった、一緒に連れて行こう。ミキ!大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
衛兵の詰所で応急処置を受けた。
ガルトさんがバティストから聴取した話をまとめると、
・××がバティストの娼館で遊んで金を払えなくなり、借金の代わりにある契約を提案した。
・それはハケンというもので、××は女たちと契約し、××はバティストと契約し、女たちはバティストの所で働く・・・ということだった。
「彼女たちは××と契約を交わしていませんよ」
「確かなんだな?」
「はい。今私もみんなも借金もなく普通に働けているのに娼館で働く理由なんてないですし。契約書も持ってません」
「そうか。契約書は××が持ってるとして・・・まぁ持ってないだろうがな、そいつを捕まえてからだな」
「あの野郎!そういや最近見ないと思ったんですよ」
「もう街を出てるかも?」
「いや、恐らく大丈夫だ。借金作るくらいだから金は持ってないだろう。街を出るのに税を払わにゃならんからな。まだこの街にいるだろう」
「お手数をお掛けします。僕達の方でも探してみます」
「あぁ、だがお前はその身体だ。無理はすんなよ」
「ありがとうございます。ガルトさんも門番してるところ・・門番の仕事大丈夫だったんですか?」
「あぁ、後詰の連中に代わってもらってるからな、問題ない」
「そうですか、ありがとうございました」
「おぅ、今日はもう帰っていいぞ。また話を聞くかもしれんから街から出るなよ」
「分かりました。街を出ようにも他でやっていく金なんてありませんよ」
「それもそうだな。じゃー、今日はしっかり休めよ」
「「はい、ありがとうございました。お世話になりました」」
宿に帰って俺はベッドに寝そべった。
あいてて。
「先輩・・・すいませんでした」
「何で君が謝る」
「でも」
「悪いのは××だ。君が気にする必要はないよ」
「それはそうなんですけど、庇って殴られたり蹴らりたり・・・」
「あ、あぁ。・・・冒険者になったらこういうこともある・・・いや死にそうな目に合うだろうし。いい経験になったと思えば」
「そんなこと・・・」
「ただ××は殺す」
「えぇ、殺しましょう」
「雷魔法を使う時が来たな」
「《風刃》の分も残しておいてくださいね」
「雷だと一撃死してしまうかもしれないから先手は君に譲るよ」
「ありがとうございます。あ、みんなも殺りたいでしょうし、声を掛けときますね」
「そうだな。魔法のフルコースを味わわせてやろう」
「衛兵に捕まる前に私たちが捕まえましょう!」
「ふふふ、ありがとうございました」
「ははは。まー、今日はしっかり休んで、また明日からがんばろう」
「はい。あっ!先輩、明日は仕事行くんですか?」
「起きて状態を確認してから決めようと思ってる」
「分かりました。もし行けないようなら私がラザールさんの所に行って事情を説明しますね」
「助かるよ。ついでに2人でエルドさんにも謝りに行こう」
「そうですね。エルザちゃんにも心配かけちゃったし」
「じゃぁ、そろそろ寝ようか」
「そうしましょうか」
「菊池君・・・」
「はい?」
「実は・・・」
「はい・・・」
「袋にされてる時に《頑健》さんがLv2に上がったよ」
「・・・うふ」
「はは」
「「ははは」」




