⑥-22-116
⑥-22-116
起こされたのは陽もすっかり落ちて辺りは松明で照らされた夜だった。
疲れていたので『魔力感知』の範囲を縮小してテントの周囲に入るもの以外は感知しないようにしていた。
起こされて連れていかれると騎士小隊が集合していた。
テントとは言え結構広い。
作戦に従事した2小隊が揃う。
「皆の者ご苦労であった!」
『は!』
「諸君らの奮闘のお陰でゴブリン集落は殲滅したと聞いている。これで我々は挟撃の恐れも無く盗賊に集中出来る。本当に良くやってくれた」
『ありがとうございます!』
「ウルマン隊長、犠牲が出ながら良く隊を率いて戻って来た」
「は!ありがとうございます」
「ジャック班も、リーダーを怪我で欠く中良く戻って来た」
「はい!ありがとうございます」
「エチル班、君等の奮戦なくば作戦の成功は無かったと聞いている良くやってくれた」
「ありがとうございます」
「因ってここに報酬を与えたいと思うがウルマンの小隊には後日、軍法に基づき褒賞が授与される」
「は!ありがとうございます」
「それで第3小隊には・・・どうした?」
「はい、あ、あの」
「君は・・・」
「ダナです。ジャックのパーティの」
「うむ。それでダナ。どうした?」
「今回の報酬は全てエチルに譲ることにしまして」
「む」
「はい。ファーダネ様。私が証人として聞いておりました」
「エチル君。君もそれでいいのかな?」
「はい。貰えるものは全部貰います」
「そうか。ではそうしよう」
「ウルマン様に報酬は弾むようお頼みしていたのですが・・・」
「あっ!」
「はっはっは。忘れていたようだな」
「も、申し訳・・・」
「僕に!僕に謝って欲しいですね!」
「はっはっは。心配しなくて良い。報酬は弾もう。先ずゴブリン集落の殲滅の成功報酬、更にロブ・ゴブリン3匹を含む62匹の討伐報酬と合わせて、150万エナを払おう」
『150万エナ!』
「恐縮ですがもう1つよろしいですか?」
「む?」
「エ、エチル!」
「何だ、言ってみたまえ」
「はい。僕達は目立ちたくないのです」
「あぁ。タルバ殿からもそう聞いている」
「ですので以前僕達と閣下と秘密を結びました。僕達をあまり目立たせない事と」
「うむ。そうだったな。心配せずともその約束は守るぞ」
「はい。それで今回のもう1つの報酬ですが、今回の作戦に僕達が関わったことを秘密にしていただきたいのです」
「む。公式記録に残さないと、そういう訳かな」
「はい」
「うーむ。クルト?」
「・・・どうにかしましょう」
「だ、そうだ。安心してくれ」
「ありがとうございます」
「それだけかな?」
「はい」
「では150万エナを」
「いえ、それは受け取れません」
「な、何?」
「僕達は作戦に関わっていませんので受け取る訳にはいきません」
「そ、それは・・・しかしだな、そうすると」
「ジャックのパーティに渡してください」
『!?』
「エチル!?」
「僕達は作戦に参加していない。受け取る権利はない」
「でも!」
「それに報酬はもう受け取った。秘密だけどね」
「でも!」
「荷物を失って財産無いんだろ?報酬で持ち直せよ」
「エチル!」
「ジャックを良い病院に入れてやれ」
「・・・・・・」
「ふふふ。それで良いんだな、エチル君」
「えぇ。貰えるものは貰いましたから」
「はっはっは。そうだったな。では、ダナだったな。150万エナを報酬として与える。受け取るがよい」
「あ、あり・・・がとうごじゃいます」
「ジャックは明日病院に送る。野戦病院に入れる予定だったが良い病院を紹介しよう」
「は、はい・・・エチルぅ」
「敵の顔に水魔法ぶっかけろとは言ったが自分に掛けろとは言ってないぞ、ダナ」
「水魔法じゃないよぉ」
「すまねぇ、エチル」
「僕達は作戦に参加してないってことで頼むぜ」
「・・・・・・あぁ、分かった」
「エチル君、1つ教えて貰いたいのだが、いいかな?」
「何でしょう?」
「魔犬を倒したと聞いたのだが・・・」
「えぇ。その通りです」
「そうか。スキルを使って倒したのかな?」
「?いえ、特に」
「素のステータスで倒したと」
「えぇ。まぁ」
「なるほど」
「それが、何か」
「いや、速過ぎたと聞いてね」
「速過ぎた?」
「あぁ」
「しかし速いのはウルマン様もそうでしたが」
「あれはスキルを使ってのだ。君のは素なのだろう?」
「・・・・・・僕は速かったんでしょうか?」
「あぁ。速過ぎだぜ」
「エチルぅ、私も速過ぎだと思うよぉ」
「エチル。速いと言うより止まらないと言う方が正しいと思う」
「うーん。ちょっと待ってください」
(どういうことだ?)
(いや、確かに速かったですよ)
(はい!カッコ良かったです!)
(えへへ、そうかな、って違ーう!)
(何が問題なんです?)
(僕的にはそんな感じは無かったんだが・・・)
(そうですね。レネ嬢の止まらないって言うのがシックリきますね)
(走る速度はいつも通りかなって、思いますけど)
(それだ。僕達は日々冒険して魔物を殺して経験値を得てるだろ)
((えぇ))
(日々ステータスは育っていたんだ。少しずつ)
(毎日一緒に暮らしてるから変化に気付かなかったと)
(ではないだろうかと)
((なるほど))
-------------------------------------
【名前】:加藤一彦
【ランク】:D
【STR】:D
【VIT】:C
【DEX】:B
【INT】:B
【AGI】:B
-------------------------------------
「どうしたのかな?」
「あ、はい。ちょっと僕達の中でステータスに対する理解が違う所があって」
「ステータスへの理解?」
「ステータスの【STR】とかのランクは所謂能力値じゃないですよね?」
「そうだ。ランクというと【ランク】が他に在るので紛らわしいからステータス値と言っている」
「ステータス値は補正ですよね?」
「正確に言うと成長補正だ」
「・・・・・・成長補正」
「つまりステータス値が低くても鍛えればステータスは成長する、補正値が高ければ成長速度も能力も高くなる」
「お前はそんな事も知らなかったのか?」
「えぇ。冒険者になってようやく1年くらいで」
『1年!?』
「どんな経験をして来たんだ、お前達は」
「つまり、ステータスの具体的な数値なんかは知ることが出来ないですよね?」
「当然な」
「どれだけ強くなれるんです?」
「どれだけ・・・というと漠然として・・・そうだな。ドラゴンを倒せるくらい強くなれるぞ」
「「ど、ドラゴンを!?」」
「あぁ。騎士や冒険者に憧れる子供の夢はドラゴン退治だな」
「ドラゴンを倒せるくらいなら【ランク】も上がってるしな」
「【ランク】が上がるとどうなるんです?」
「・・・本当に知らないのだな」
「えぇ」
「・・・【ランク】が上がるとスキル枠が増える」
「「なんだってー!?」」
「・・・【ランク】が1つ上がればスキル枠も1つ増え、【ランク】が2つ上がればスキル枠は2つ増える」
「ほ、ホントですか!?」
「あぁ。因みに私は【ランク】Bでスキル枠12個だ」
「ファーダネ閣下がB!でもそれ言っちゃっていいんですか?」
「軍人は大体公開するのだ。力の誇示としてな」
「因みに冒険者も公開するわ。その方が高額な報酬の依頼が来るから」
「な、なるほど」
「フランベルジュは・・・?」
「う、わ、私はまだだ」
「薪が足りてませんねー」
「エチルぅ!」
「クルト様は」
「・・・Cだ」
「流石です!」
「くっ!覚えておれ、エチル!」
「【ランク】を上げるにはどうしたらいいのでしょう?」
「単純に経験値を重ねることだ」
「魔物などの?」
「冒険者ならそうだろう。軍人なら模擬試合や訓練。職人や商人ならその道の経験を積むのだ」
「・・・しかし手っ取り早く経験値を得る方法が有る」
「・・・・・・」
「・・・分かっているようだな」
「人殺しですか」
「・・・そうだ」
「技能を持っている職人、商人、魔物を殺した経験値を持ってる冒険者、そういった経験値を積んだ人間を殺すことでも上げることが出来る。そうして強くなったのが大盗賊団だ」
「・・・人を殺して【ランク】を上げていく。そんな世界にする訳にはいかん。奴らは断固として処分しなければならないのだ!」
「・・・・・・正直僕は彼らを捕まえることは出来ないと思います」
「え、エチル!貴様!」
「僕は彼らを前にしたら殺してしまうでしょう。生かして捕らえることは出来ないです」
「む。見せしめとしてなるべく生きたまま捕らえて欲しいのだがね」
「・・・・・・覚えておきますが、いざその時になると忘れるでしょう」
「うーむ。まぁ仕方が無いのかも知れないが、心の隅に置いておいてくれ」
「はい。しかし、正直クルト様は戦闘というより参謀という印象だったのですが」
「・・・直接戦闘だけではなく事務や補給、作戦立案でも勿論経験値は得られる。それ用のスキルが得られる訳だからな」
「なるほど。もう1つ質問してよろしいでしょうか?」
「・・・なんだ?」
「以前、大熊の毛皮を見せると皆さん名前を言ってましたよね」
「・・・あぁ。ドレッドベアとブルータルベアか」
「はい、それです。でも別の人達は大熊って言ってたんですよ。それってつまり・・・」
「・・・ふっ、魔物にステータスは無い、と?」
「はい」
「・・・いや、魔物にもステータスはある」
「えっ!?では大熊は通称みたいなものですか?」
「・・・いや、魔物のステータスはスキルのみなのだ」
「えぇ!?」
「・・・名前も種族もランクも、ステータス値もない。あるのはスキルだけだ」
「スキルだけ」
「・・・そしてステータスを持つのは人間と魔物だけだ」
「!?」
「・・・動物や植物は勿論、水や土などには無い。だが例外的にマジックアイテムが有る」
「人間と魔物だけ、それはつまり」
「・・・人間と魔物は同類だと?」
『!?』
「動物なんかは普段人間を見れば逃げます。魔物は人間を見ると必ず襲い掛かって来る」
「・・・神がそう、定めたように、か」
「・・・・・・えぇ。僕は精霊信仰ですが」
「・・・神ではなく精霊の声が聞こえるのか?」
「慈悲深い神がこんな世界を作りますかね?」
「・・・試練だと、言う者もいる」
「自分に阿る者を選ぶ為の?だとしたら意地悪な神様ですね」
「・・・試練が無ければ盗賊も救ってしまうだろう」
「奴らは人ではないです。モンスターですよ。人の道から外れた、外道です」
「・・・お前が精霊信仰でも構わない。外道でなければな」
「盗賊を捕らえられるのに殺してしまうのは、外道でしょうか」
「・・・神ではないから分からんが・・・人として個人的には理解は出来る。捕らえたとしても結局は裁きを受けた後、殺されるのだから」
「しかし大衆に正義を見せるという意味で死刑は意味が有る。先ほどクルトも言ったが人を殺して【ランク】を上げるような国にする訳にはいかない。人が安心して生きていくには秩序が必要なのだ」
俺達を襲う奴らを殺しても何とも思わない。
俺は盗賊と本質的に変わらないのかも知れない。
菊池君とサーヤ君は躊躇いはあるだろう。
それが人として当然なのだ。
彼女らを守ることがそういった感情のない俺を補完することにもなる。
彼女らを守ることが俺が人として生きる為になるのだ。
・・・パーティを守る為なら外道にもなろう。
俺が外道にならないために。




