⑥-19-113
⑥-19-113
「な、何という早業・・・」
カズヒコがナイフを回転させて順手に持ち替え、両手で血を振るう。
「もういいぞ」
「「了解!」」
「魔石と・・・肉も食ってみるか?」
「うーん。最後の手段で持って行きましょうか」
「そうするか。おーい!解体して肉を手に入れる!少し休憩だ!猟師のおっちゃんも手伝ってくれ!」
「は、はいー!」
「しかしウルマン様も速いでしょう」
「今の・・・3匹目の魔犬を殺るまでノンストップで駆け抜けた。全て一連の動きで片付けていた。私も3匹を瞬殺することは出来る。だが止まらずには・・・」
「・・・しかし打ち合いでは」
「あぁ・・・しかしあの試合、奴は剣1本しか持っていなかった」
「た、確かに」
「1本の剣で凌いでいたが2本有れば・・・」
「しかし!盾であれば防げます」
「あぁ。試合ではな。実践、戦争では多対多だ。私が1人に対してる間に奴は突破して背後から来るだろう」
「戦争・・・」
「60匹のゴブリンをやれたのも頷ける」
「試合では本気ではなかったと?」
「私は勝つため、自分の怒りをぶつける為に戦った」
「ウルマン様」
「しかし奴は自分の為に戦ってはいなかったのだ」
「あの女2人の為ですか」
「あぁ。私はあいつらに敵対的な態度を取っていた。奴にはそれが私達討伐隊の騎士に対する評価となったのだろう」
「評価・・・敵だと?」
「いつ敵になっても対応出来るように・・・という事だろう」
「いつ敵になっても・・・」
「試合で奴はスキルを使わせた、私は《ソニックブレード》を撃たされた」
「まさか!」
「あぁ。見ておくためだろう。試合だと死なないからな。事故死はあるが」
「撃たされた・・・わざと負けた?」
「あの試合では奴はスキルを使っていない、使った素振りは無かった・・・全く手の内を見せず私だけが晒してしまった」
「試合に勝つ、相手に勝つ。それが私の目的だった。しかし奴は違った。名誉や周りの罵声など何でもない、どうでも良かったのだ。ただ・・・」
「女を守る為に情報を集めるのが目的だった・・・」
「・・・そうだ。プライドを捨てて、自分を捨ててでも守る。それが奴の騎士道なのだろう」
「自分を捨てる騎士道・・・」
「我々騎士は名誉やプライドが重要、いや命と言っても良い。それが今回の任務では失敗の原因となった。私のつまらない意地で2人の騎士を死なせてしまった・・・」
「つまらない意地を持ったが故に任務を失敗した私。自分を捨ててでも目的を遂行するエチル。騎士道とは・・・どちらが騎士だったのか」
「はっ!」
「ど、どうされました?ウルマン様!」
「済まない、今までの話は忘れてくれ!」
「!?と言いますと?」
「私は奴と契約を交わしている。奴らの秘密を他に話さないと」
「今の話は秘密ではないのでは?」
「奴らがどう受け取るかが問題なのだ」
「なるほど」
「秘密が守られないと奴らは去ってしまうかもしれん。それは盗賊退治に、ファーダネ様の任務に関わる!」
「ファーダネ様の!」
「そうだ!ファーダネ様はこの国に必要なお方なのだ。この任務は必ず成功させねばならん!奴らがいることで成功の可能性が僅かでも上がるのなら私はその努力をせねばならん!」
「はっ!心得ました私は誰にも話しませぬ」
「うむ。頼むぞ」
カズヒコとレネオーラ、2人は勘違いをしていた。
カズヒコは、
スキルを使わなければ警戒はされないだろうという勘違いをした。それでステータスの高さを活かした戦いをしてしまった。
レネオーラは、
殆どのゴブリンを倒したのはカズヒコだと考えたこと。
試合中のカズヒコはスキルを使っていないと考えたこと。
試合中、カズヒコは《魔力検知》を最初から使っていた、だから使った素振りも無かったのである。
カズヒコの《カウンター》は受けるスキル故にほぼオートで発動する。
《身体強化》や《ソニックブレード》のようにアクティブに発動しないが為にその発動を感じるのは難しいのだ。
そしてその勘違いの前提となったのは2つしかスキルを持っていないと思ってしまっていることなのは言うまでもない。
お互いの勘違いがその後どう関わるのか、今はまだ分からない。
休憩を終えて更に奥地に進む。
夕方近くになり野営の準備をする。
寝る準備と食事の準備だけでも結構な時間が掛かる。
日中に殺した魔犬の肉を見つめていた。
「おっちゃん。魔犬の味ってどう?」
「へぇ。旨くもなく不味くもないってところですわ」
「うーん。入れるか」
「まぁね。明日には着くんだし全部入れちゃいましょうよ」
「だな」
「ジャックも意識は回復したしね。精を付ける為にも」
「だな」
「ありがとう」
「ダナ。ジャックが目覚めるまで魔法を使って疲れてるだろ。食うんだぞ」
「うん」
皆で食事を摂っていく。
「エチル」
「なんだ、カイル」
「・・・すまなかった」
「・・・どうした?」
「今まで済まなかった」
「・・・」
「そして、ありがとう。ジャックの事もこの食事の事も。この任務の事全て」
「何があったか分からないが。まぁ、謝罪するなら許そう、これからは気にするな」
「あぁ。ありがとう」
「エチル殿」
「む」
「私の謝罪も受け取って欲しい。今までの無礼を許して貰えないだろうか」
「・・・どうしたんですか?」
「私は今まで自分達の事しか考えていなかった。任務も、全員で達成するのではなく騎士だけでやれると、驕ってしまっていた。彼ら2人を死なせてしまったのは私なのだ。それを認めたくなくて君に当たってしまった。君達が居なかったら任務は達成されなかっただろう。そんな君に嫉妬してしまったんだと思う。これ以上私の騎士道を貶められない。どうか謝罪を受け取って欲しい」
「・・・分かりました。そちらの事情は私に関係ないにせよあなたの謝罪には誠意が感じられます。これから共に盗賊を撃ち滅ぼしましょう」
「おぉ!ありがとう。盗賊討伐もよろしく頼む」
「はい。この国の人達の為にも、なるべく怪我をしないように命を懸けてがんばります」
「そこは怪我をしてでもって言いなさいよ」
「もう痛いのはやだなぁ」
「全くー!」
「エチル。私からも謝罪させてくれ」
「ウルマン様」
「私は冒険者を良く思っていない。金で依頼をこなす胡散臭い奴らだと。騎士とは違って金の為に生きる奴らだと。あの盗賊団にも冒険者崩れがいた。
最初に会った時にファーダネ様への物怖じしない態度に冒険者風情がと思った。
エチルの連れの女2人は良いように利用されてるに違いないと思った。
王国の任務への不真面目な態度に怒りも覚えた。
しかし結果、私は2人の仲間を死なせ、1人の冒険者を重体に、複数を重傷にさせた。
それも君がロブ共を殲滅しなかったらもっと被害が増えてしかも任務も失敗に終わっただろう。
君は仲間の女性2人を無傷で守り任務も達成してくれた。
私は冒険者という者を勘違いしていたのだ。それが目を曇らせ心を乱し間違った判断を下させた。
どうか許して欲しい。この通りだ」
『ウルマン様!』
「・・・顔を上げてください、ウルマン様」
「エチル」
「何か変なものでも食べましたか?」
「ちょ、エチル!シリアスシーンよ!」
「ウルマン様の認識は間違ってはいませんよ」
「え?」
「冒険者は胡散臭い者の集まりです。現に僕達を襲った冒険者もいますしね」
「・・・」
「しかし全員がそうだと思わないでいただきたい」
「そうだな」
「ダナやちょっと頭の悪いカイルのような仲間思いの者もいます」
「エチル」
「エチル!」
「・・・そうだな」
「マインやターニャのような美人でセクシーな者もいます」
「ま、まぁね」
「エチルさん」
「セクシーなのはターニャだけですが」
「オラァ!」ゴスッ
「・・・そうだな」
「え?」
「ぐふっ。僕のような爽やかナイスガイもいます」
「・・・そう・・・だな」
「人それぞれです。初対面の者を警戒するのは構いません。しかし態度に出すのではなく心に思ってるだけにしてください。ファーダネ閣下の様に」
「閣下が!?」
「そうです。あの方は人を信じつつ疑うことも忘れない、人の上に立つべきお方です。信じるだけでは裏切られた時自分だけではなく他人も、国も損害を受ける。疑うだけでは他人からの信頼は得られない。そのバランスをうまく取ってらっしゃる」
「バランス・・・」
「僕は、世の中には100%の善人はおらず、100%の悪人はいると思ってます」
「どういうことだ」
「100%の悪人はこれから討伐するような盗賊たちです。異論はないでしょう」
「あぁ」
「どんな事情があるにせよ、人としてやってはいけない事があると思います」
「あぁ」
「100%の善人はいない。例えばファーダネ閣下が今回の討伐を成功させたとします」
「あぁ」
「100%の善人ですか?」
「当然だろう。国の危機を救った」
「討伐で犠牲になる者が出るでしょう」
「・・・それは」
「犠牲者が妻帯者だったら」
「・・・しかし」
「子供がいたら」
「・・・」
「残された者はファーダネ様を救世主だと思えるでしょうか」
「・・・」
「救世主だと思いたいが夫を父親を死なせた者だと思うかもしれません」
「・・・」
「それを理解した上であの方は命令を下すのです。自分が恨まれようとも沢山の人間の為に」
「閣下」
「だからこそ我々のような冒険者風情にでも協力を募り討伐の成功の可能性を高めているのです」
「か、閣下」
「今回の集落殲滅の任務。2小隊を派遣しましたが疑いも有った。しかし成功を信じなければいけない。その信頼がウルマン様、あなただったと私は思います」
「ぐうぅ・・・閣下」
「一冒険者としての僕への謝罪、確かに受け取りしました」




