⑥-17-111
⑥-17-111
「おっ、お前たち!無事だったか!」
「見ての通りですよ」
「ゴブリンを殲滅したと聞いたが!?」
「あっちに死体がありますよ。見に行ってください」
「わ、分かった。行くぞ!」
『はっ』
・
・
・
『うわー!』
「・・・もしかしたら腹掻っ捌いたロブを見たのかもな」
「「あー」」
・
・
・
「た、確かに確認した!」
「どーも」
「たった3人であれだけの数を!?」
「お陰でスタミナポーション使いましたよ」
「いや、それにしても!」
「契約書どこいったかな?」
「分かった!・・・そうか、貴様達が・・・」
「そちらは大丈夫でしたか?」
「・・・我々は2人を失い、重傷2名、1人の冒険者が意識不明だ」
「あらまぁー」
「しかし逃げている途中でゴブリン共が引き返していかなかったら更に危なかった」
「あぁ。相手したロブが《呼寄せ》使ってましたからね」
「《呼寄せ》を!?そうか、それで・・・すまなかった、助かった」
「いえいえ。それでこれからどーすんです?僕等はここでキャンプしますけど」
「そ、そうだな。もう夕方だ。我々もここで野営する!」
『はっ』
「あっ、そうそう。死んだ2人の騎士そこにいますよ」
『!?』
「き、貴様ぁー!騎士の亡骸を放っといて野営の準備をしていたのかっ!」
「よせっ!」
「しかしウルマン様!」
「あ?騎士の亡骸を放って逃げたのはどこの誰でしたっけ?」
「なっ、き、貴様!」
「ゴブリンの集落殲滅の任務を放棄して逃げたのはどこの誰かって聞いてんですよ騎士様ぁ!あ?」
「き、き、きさっ」
「貴族様お得意の決闘か?受けて立つぜ。ロブ3匹、ゴブリン50匹殺した後で疲れてるけど・・・うん、いけそうだ」
「うぅ」
「待ってくれ!済まなかった!」
「いやいやいや、ウルマン様に謝られても!決闘を申し込んだのはこいつですからー」
「違う!決闘ではない!」
「それを決めるのはウルマン様ではないですよー。こいつですー」
「ほら!謝らんか!」
「し、しかしウルマン様!」
「我々が逃げたのは事実だ」
「そうだぞ、お前」
「そうだ。こいつのお陰で任務は達成出来たのだ」
「うむ。エチル。済まないこの通りだ。仲間を失って気が立っていたのだ。汲んでやって欲しい」
「本来は上の者が下の者を汲むものでしょう」
「そ、その通りだ。申し訳ない」
「うーん。ウルマン様の謝罪は受け取りましょう」
「そ、そうか。済まない」
「しかしこいつは許してないですからね。謝ってないし」
「今はそれで構わない。頭を冷やしたら詫びさせる」
「・・・そうですか、では」
「うむ。済まないな」
騎士達は離れていく。
「エチル」
「ダナ。無事で何よりだ」
「えぇ、ありがと。あの、エチル。ポーション持ってないかしら」
「あるけど」
「くれない?」
「君達荷物は?」
「逃げる時拾えなくて・・・」
「えー!?」
「そう言えば冒険者が1人意識不明って・・・」
「えぇ。ジャックなの」
ダナの見つめる方にジャックが横になっている。
「あれー、カイル君。僕達の重装備を馬鹿にしてたけど君は軽そうだねー」
「ぐぅぅ・・・」
「先輩!今はそんな場合じゃないでしょ!はい、ポーション」
「ありがとう!恩に着るわ!後日返すから!」
「ちぇっ、もうちょっとカイルで遊べたのに」
「もう!ほら!食事の用意をしましょ!」
「はい」
「へいへい」
もう日暮れだ。
夜の帳が辺りを覆う。
食事を作る炎がそれに反射していた。
「しかしダナは水魔法使いなんだがな。傷を治せると思うんだが」
「「えっ!?」」
「使っても駄目だったのかしら?」
「うーん。他の騎士も手当てを受けてる所を見ると・・・」
「ジャックだけ治せなかった?」
「かなぁ、って」
「貴族優先ですか」
「魔力ポーションも渡すか」
「そうしましょう」
「ダナ」
「エチル」
「魔力ポーションだ。使ってくれ」
「えっ、あ、ありがとう!」
「いや。ジャックの具合は?」
「ポーションでなんとか。でも魔力ポーションでまた回復出来るわ。ホントにありがとう!」
「お互い様だ。じゃぁね」
「うん。ありがと・・・」
「どうでした?」
「ポーションでなんとか持ち直したようだ。魔力ポーションで回復してこれから良くなるだろう」
「そう、良かった」
「ん?騎士様達が見えないな」
「荷物を探しに行くって」
「・・・嫌な予感がするぞ」
「・・・私もです」
「・・・量を増やしとくか」
「・・・そうですね」
「エチル・・・実は・・・」
「分かってますよ。食事でしょ」
「う、うむ」
「ダナ!」
「どうしたの?」
「君等も食事摂れてないんだろ?」
「え、えぇ」
「みんなで食おう」
「い、いいの?」
「あぁ。本番はこれからだ。盗賊退治に役立ってもらわないとな」
「ありがとう」
「あぁ」
「そ、そうだな。我々はこれからが本番なのだ」
「器が無いので食事は交互に摂ります。騎士様優先じゃなく」
「な、なんだと!」
「よせ!」
「嫌なら食うなよ」
「ぐっ」
「決闘ならいつでも受けるぜ?」
「いや、済まない。それで構わない」
「ムカついてる奴の飯なんか食うんじゃねーよ」
「うぅ」
「我々は盗賊討伐に来ているのだ」
「ぐぅ、とか。うぅ、とかしか言えねーのかよ?人間様に分かる言葉喋れよ、あぁ?」
騎士は涙ぐんでいた。
「その辺にしときましょ」
「はぁ―――――――――――――――――――――――――――――――――」
「溜息なっが」
「申し訳ない」
結局ジャック以外全員食べた。
辺りは真っ暗で火の灯りだけが頼りだ。普通なら。
皆で火を囲んで一息ついている。
「済まない。馳走になった」
「私達も。ありがとう」
「いーえー」
「少し残っているようだが?」
「あー、先輩の分です」
「あっ、そう言えばまだ食べていなかったか!済まない事をした」
「いえ、お気になさらず」
「そう言えばエチルは何処行ったの?」
「食べ物探してるんだと思う」
「この暗さの中をか!?」
「さっき『ゴブリンって食えるのかな』って言ってたし」
「・・・ゴブリンは流石に人は食わんな。家畜は食うが」
「・・・エチルって喋ってると怖いね」
「・・・」
「それはちょっと違うのよ」
「違う?」
「あの人は鏡」
「鏡?」
「えぇ。相手がバカにして来たら馬鹿にして返し、ナメてきたら舐め返し、殺しに来たら返り討ちにする。そして相手が礼を持って接すれば礼を持って返すわ」
「・・・」
「私達は何度も冒険者に殺されかけた」
「えっ?」
「ターニャと女2人のパーティだからね。ナメられやすいのよ」
「・・・」
「全部返り討ちにしてくれたわ」
「・・・」
「ナメられたらどんどん踏み込んでくる。最初が肝心なのよ」
「・・・」
「大熊の時もそう。1人で対峙して・・・私達が居るから逃げようともしないで・・・腕に大怪我して」
「今回もそう。私達は隠れて弓を撃ってろって。1人でロブゴブリン3匹を仕留めたわ」
『1人で!?』
「えぇ。そして今も皆の為に食料を探してる。自分は1番最後にして。目的は盗賊の退治だからよ」
「・・・」
「口が悪いのは知ってる。でも私達には言わないわ。私達にはいつも軽口や冗談やせいぜい減らず口を叩くだけ。戦ってる最中も言ってるわ。私達を緊張させないように、私達を心配させないように」
「・・・」
「あの人は私達を守る為に行動してるだけ。喋るのが怖いって言うのは私達を攻撃してるからよ」
「私は・・・別に・・・」
「そうかしら。最初に会った時そうだっけ」
「・・・」
「勿論冒険者だから警戒するのは分かるけど、警戒するのと攻撃的なのは違うわ」
「・・・そうね」
「1度相手をそうと認識したらその認識を変えるのは難しいわ」
「・・・そうね」
「今回の盗賊の依頼も。ファーダネ様じゃなきゃ受けなかったでしょうね」
「・・・そうだな。あのお方はエチルに真摯に向き合われていた」
「女を襲う、私達を襲った冒険者みたいな盗賊に憤って受けたのもあるけど、ファーダネ様じゃなきゃ受けなかったでしょうね」
「・・・そうだな」
「・・・あの人は鏡」
「・・・鏡」
「恩を受ければ恩を返し、信頼を寄せれば頼ってくれ、ご飯を分ければ美味しい店に連れて行ってくれるわ」
「ふふふ」
「・・・あの人は鏡。そして私達2人だけの騎士」




