⑥-16-110
⑥-16-110
マチェーテは射程が短い。
ゴブリンの持つ棍棒や錆びた剣なんかと同じくらいだ。
斬りつけに行って万が一にも傷つけられでもしたらここまでの苦労が泡となる。
しかしロブが狂乱状態の内に少しでも数を減らしたい。
何とかならんか。
魔法は《カウンター》に集中している現状、詠唱は難しい。
《殺菌》は遅効性、論外だ。
《罠》も今からなんて無理。
・・・・・・《カウンター》しかない。
直接攻撃方法が受け身の《カウンター》って・・・
相手の攻撃を待つしかないのか。
いや待てよ。
相手の攻撃に合わせるんじゃなく、
相手の防御に合わせるのは?
こちらからワザと攻撃し防御を誘う。
その防御にマチェーテを合わせて《受け流し》てそのまま攻撃。
これだ!
とりあえずやってみよう。
手近にいたゴブリンに標的を合わせる。
俺はマチェーテを大きく振りかぶった。
《見切れ》ば、ゴブリンは錆びた剣でそれを受けようとした。
そこに振り下ろすマチェーテ。
武器同士がぶつかり合った瞬間《受け流し》発動!
手首を返して巻き込むように錆びた剣を《受け流す》。
《受け流さ》れて手首を持って行かれたゴブリンは万歳の姿勢になった。
呆気にとられるゴブリン。
そのままマチェーテを振り下ろし首を斬り裂かれるゴブリン。
そのまま倒れて行った。
いける!
なるべく減らす。
今の内に。
次の標的に狙いをつけ駆ける。
左袈裟斬りを仕掛けようとする。
《見切る》とやはりそれを防ごうと錆びた剣を構えるゴブリン。
ゴブリンの頭上で音を出し合った剣同士は、
俺の手首の返しで一方はあらぬ方向へ飛んでいった。
無防備になって何が起きたか分からないでいるゴブリンの頭部は、
横薙ぎの一振りでこれまたあらぬ方向へ落ちていった。
この調子でゴブリンの数を減らしていこう。
「カウンターとは!?」
今まで防御的に使っていた。
反撃だ。
相手の攻撃に合わせて反撃する。
相手の攻撃直後の隙を突く。
しかしこちらの攻撃にもそれは言える。
こちらの攻撃直後に隙は生まれる。
相手はそれに反撃しようとする。
攻撃を受ける防御が反撃の初撃となる。
つまり防御が攻撃な訳だ。
それに反撃、カウンターする。
良いじゃないか!
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《カウンター》がLv6になりました。
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・・・・・・
何か知らんが上がったようだ。
よし!
とにかく数を減らすんだ!
ロブが落ち着いて肩で息をする頃には残りのゴブリンは10匹以下になっていた。
数が減ったゴブリンは遠巻きに俺を見ている。
今だ。
ロブに向かって大きく振りかぶり左袈裟斬りに構える。
《見切れ》ば分かる、棍棒を立てて受けようとするロブ。
マチェーテと棍棒が音を立ててクロスする。
ロブと目が合う。
《受け流し》て手首を返す。
内側に回転する棍棒。
その先は自身の足の甲。
バキャッ
「グアァァァ!」
足の甲が潰れて森の木々の葉を見上げて呻くロブ。
横薙ぎの一閃。
首から血と空気が流れ出る。
周りのゴブリンが我に返り襲ってくるが《カウンター》で手首を落としていく。
周りのゴブリンが頭に矢が刺さって倒れていく。
残りのゴブリンを殺すのにそんなに時間は掛からなかった。
「ぐはぁぁぁ。ぜぇぜぇ。もう・・・だい・・・丈夫だ」
「先輩!」
「カズヒコ様!」
2人が駆けて来る。
少しお嬢さん走りが残ってるな。
今度練習しよう。
「大丈夫ですか!?」
「ぜぇぜぇ・・・なんとかな」
「カズヒコ様」
サーヤ君の目が潤んでいる。
やりきって感動しているようだ。
「2人共ぜぇぜぇ無ぜぇか?」
「何を言ってるのか分かりませんが何を言おうとしてるのかは分かりました。えぇ、無事です」
「俺を見てくれ。怪我してないか確認してくれ」
「・・・えぇ。どこも怪我はないです」
「凄いです!カズヒコ様!」
「皆無事かぜぇぜぇ良くやったぜぇぜぇ」
「私のスタミナポーション飲んで!」
スタミナポーションを飲んで少し休憩するために座った。
「ロブの魔石と討伐証明部位を回収してくれ」
「分かりました!カズヒコさんはそのまま休んでらして!」
「あぁ。そうさせてもらうよ」
菊池君とサーヤ君でロブとゴブリンの魔石と証明部位を回収してくれている。
「ふぅ。よっこいしょーいち」
「まだ休んでいてください!」
「いや、もう大丈夫だよ」
「でも」
「ゴブリンの数が数だからな、僕も手伝おう」
「全部集めます?」
「いや。ここら辺にいる僕達が殺した奴のと集落の2人の矢が刺さってる分だけでいいだろう」
「そうですね・・・殆ど全部じゃないかしら」
「「・・・」」
「見たまえ。ロブも生殖器がないだろう」
「ホントですね」
「どうやって増えるのでしょう」
「全く謎だ。こいつ等からは産まれない・・・ロブを解体して子宮らしきものが無いか調べる」
「「えー!?」」
ぐっちょぐっちょぐっちょ
「やはり無いな」
「《クリーンアップ》!無いですね」
「ここにあるんですか?」
「あぁ。人型の雌ならな」
「しかし仮に有ったとしても産道が無いから産まれないんじゃ?」
「・・・喰い破って」
「「いやー!」」
「しかしそれだと増えんな」
「ですね」
回収を終えたのは夕日になる前くらいであった。
「戦闘時間より時間掛かったな」
「ですねー」
「これからどうしますか?」
「本来なら上官のレネを追うんだろうが、この時間帯だ。ここにキャンプした方が良いだろう」
「分かりました」
「使えそうな矢は明日に回収するか。流石に疲れたよ」
「そうしましょう。サーヤ、バッグを取りに行きましょ」
「はい!カズヒコさんは休んでてください!」
「あぁ、分かった。バッグを置いた木に目印が有るからね」
テントを張ってキャンプの準備をしていた。
「騎士と猟師が来るな」
「えっ」
「様子を見に戻ってきたようだ」
「無事だったのかしら?」
「2人しか反応は無いね」
「事情を聞くしかないですね」
やがて集落近くの藪まで来て様子を窺っているだろう2人に声を掛けた。
「よぉ!あんたら無事だったのか?」
「「!?」」
「おっ、お前たち!まさかゴーストじゃないだろうな!?」
「こんなカラフルなゴーストいんのかよ」
「ごっ、ゴブリンは!?」
「片付けたよ」
「「!?」」
「全部か!?」
「あぁ。あっちに転がってるぜ」
「ちょ、ちょっと待て!調べる!」
「待ても何も。今からキャンプだっての」
・
・
・
〈うわー!〉
「見つけたようだな」
「分かり易いですね」
「腑抜けですわ!」
・
・
・
「確認した!ウルマン様を呼んで来る!ここで待て!」
「だーかーらー!ここでキャンプだっての!」
「アホですか」
「アホですね」
30分くらい経っただろうか。
レネ一行が姿を現した。
スキル大全
特別考察
統合スキル
統合スキルとはその名の通り、複数のスキルが統合したスキルである。
読者の中には初めて知った方も多いだろう。
それもその筈で、筆者も長い研究人生で片手で数える程しか聞いた事が無いスキルである。
従ってあまり研究も進んでいないのだが、筆者が直接聞いた相手によると同じ様な系統のスキルが統合したらしい。
その相手は《カウンター》というスキルを持っていた。
カウンターは近接攻撃をする者にはポピュラーな攻撃方法だ。
カウンターは文字通り相手の攻撃に合わせて攻撃をする事だが《カウンター》はその攻撃力がアップするらしい。
しかし聞いた話では全く別の系統のスキルでも統合が起きたとも聞く。
更にはプロフェッショナルな者から全くの初心者まで統合が起きたと言う。
捉え所の無いスキルであるがそもそも才能の発露がスキルであるが故に上手い下手が問題なのではなく才能が一番の理由であろう事は予想出来る事だ。
(このページの余白に走り書きが有る)
俺のとは違う。
俺のは受け身だ、この《カウンター》はアクティブだ。
同じスキルでも人によって中身が違うのかもしれない。
人によって使い方が変わるのかもしれないが人に出来るのなら俺にも出来るかもしれない。




