①-11
①-11
街壁工事の1ヶ月の見習い期間が過ぎて少しした頃。
工事していてラザールさんに話しかけられた。
「いやぁ、すぐ辞めると思ってたけどな」
「生きていくのに必死ですから、おいそれとは辞められませんよ」
「てぇしたもんだよ。奴隷にも見習わせてぇぜ」
「奴隷!?」
「あぁ?お前は見たことねぇか?まぁ村出身のお前にはそうかもな」
「奴隷ってどういう・・・」
「そんな顔するほどじゃねーぞ。期間が決まってるヤツはその期間が明ければ自由になるし。その途中でも金を払えば自由になれる。待遇もオメエらと大して変わらねぇしな」
「そ、そうなんですね」
「あぁ。懲役奴隷は別だがな。これは犯罪者に対する罰だからな。因みにさっき言った奴隷ってのがこの懲役奴隷だ。工事なんかをやらせてる」
「懲役奴隷・・・」
「あぁ、犯罪者だからな。当然待遇は厳しくなる。オメェもそーなるんじゃねーぞ」
「は、犯罪なんてとんでもない。幼馴染と真面目に働くために来ましたから」
「そうだったな」
「普通の奴隷の待遇って僕らと大差ないんですか?」
「あぁ。金払って買ったのに潰しちまっちゃー意味ねーだろ。奴隷戦争以来、大分マシになったんだよ」
「奴隷戦争!?」
「そっからか?約100年前に起きた戦争だ。まー100年前だから仕方ねーか。俺も生まれちゃいねーんだし。この世界南北に分かれての大戦争だったって聞いてるぜ。勝って南側は奴隷の扱いが良くなったってな」
「負けた北部はどうなったんですか?」
「勝った南部が経済的に豊かになってそれを見て北部の幾つかの国が扱いを良くしていったが、未だに厳しい国もあるって話だ」
「へ~、心情的に北部には行きたくないですね」
「まぁな。この街も豊かってワケじゃねーけど、年寄りなんかは昔よりマシって言ってるし、結果としちゃー良かったんじゃねーかな」
「僕もこうやって働けてますしね」
「あぁ。大分獣人やらが南部に移動して人口が増えたってのが大きいらしい」
「獣人!?」
「見たことねえのか?まぁ、ここと宿との往復だけの1日じゃー、そうかもな。この街にもまぁまぁいるぜ、あとドワーフやエルフも」
「そうなんですね」
「あ、亜人ってのは蔑称だからな、口に出すんじゃねーぞ」
「は、はい、わかりました」
「ドワーフの鍛冶技術やエルフの薬学や魔法、獣人の身体能力で南部が開発されていったんだと」
「獣人って言って良いんですか?」
「あぁ、それは種族の総称らしいから構わないらしい。全部ひっくるめて『人間』な。俺たちはヒト族だ」
「奴隷戦争!?」
「あぁ、南北に分かれて戦争したらしい」
「南北戦争ですか」
「みたいだな。それで獣人やらドワーフやらエルフやらが南に民族大移動したんだって」
「へー、この街でもチラホラ見ましたもんね」
「なにっ?俺は見てないが」
「えー、頭に耳生えてる人とか腰に尻尾とか・・・いましたよ」
「そう・・・なの?」
「先輩が思ってる獣人とは違うんじゃないですか?いわゆる獣っぽい人はいませんでしたよ。私達にケモミミや尻尾があるって感じでしたけど」
「なるほどー。僕達がサルから進歩したとして今の顔になったんなら獣人の中にもサルは居ただろうし・・・でもその場合そのサル獣人は尻尾あるのかね?」
「さ~。私達とは進化の仕方が違ってるんだったら尻尾もアリなんじゃないですか?」
「いや、もしサルだったら顔だけじゃ分からんだろうな。ヒトと見分けがつかんだろう?」
「尻尾見せてくださいって、言えないですよね」
「俺達とは違う進化かぁ~」
「進化とは限らないんじゃないですか?」
「ん?」
「魔法がある世界だから、こう、魔法でヴァ~っと」
「無さそうで有りそう!」
「というか、それが有るんだったら今いる動物や、もしかしたら魔物も人間になる可能性もあるって事じゃないですか?」
「ゴブリンとか・・・人間の出来損ないって感じだな・・・」
「う~ん、人型の魔物は全部そうなっちゃう可能性も・・・」
「宗教チックになってきたな」
「あ~、神が神に似せて人間を作って、人間に似せて人型を作ったって?」
「あぁ、だから人間が生物で一番偉いんだってね」
「やだやだ。宗教には近寄らないようにしましょう。この時代の宗教って嫌な予感しかしませんもん」
「マジでな。そういやこの世界の宗教も調べとくか。近寄りたくはないが近寄らないための知識が必要だから」
「日本人は宗教に忌避感がありますよね」
「君はどうなんだ?君ミックスだろ?」
「はい。でも生まれも育ちも日本でしたし、親は私に強制しませんでしたから。家庭行事的にありましたけど、それは日本の仏教や神道的行事と同じような感じでしたよ」
「う~ん。海外の特に欧米の人達と、特に現代の日本人との宗教観って結構違う感じがするもんなぁ」
「日本人にはバレンタインデーとかハロウィンとかクリスマスとか、エコノミックな・・・一種のファッションって感じですね」
「この世界の人はファッションでは終わらないだろうね」
「下手したら魔女狩りとかあるかもしれませんしね」
「「こわ~」」
「絶対近寄らないでおこう」
「えぇ、そうしましょう」
そう言ってトラブルを避ける生き方を相談していたのだった・・・が。
その日も仕事を終えて宿で菊池君ら同僚たちと夕食を食べ終えてまったりしていたところ。
戸を乱暴に開けて入ってきた音がした。
「おい!ミキってヤツはどいつだっ!」
「えっ!?」
「菊池君何かしたのか?」
「いえ、全然心当たりが・・・あの人も知りませんし」
叫んだ男は背が高くガタイもいい、顔もいかつく雰囲気も暴力的だ。
連れて入ってきた2人の男達も同じような雰囲気だ。
「どいつだって聞いてんだよ!」
「あ、あのミキは私ですが・・・」
「ん、てめぇか。なるほど上玉だな。いい稼ぎになりそうだ」
男達は菊池君を上から下から舐めまわすように眺めて下卑た笑いを浮かべている。
「あの、どういったご用件でしょう?」
「あ~ん!おめぇはこれから娼館で働くことになってんだよっ!」
『えー!!』




