⑥-08-102
⑥-08-102
木剣はもとより左腕も折れていた。
「ま、参った。降参です」
「う、うむ!勝負あり!勝者、ウルマン!」
〈〈〈うおおぉぉぉ!〉〉〉
レネオーラ・ウルマンって言うのね、お嬢ちゃん。
「いてて」
「先輩!」
「カズヒコ様!」
サーヤ君、名前言っちゃってるぅ。
「「大丈夫ですか?」」
「あぁ、綺麗に折れたからね」
「はっ、早く回復魔法を」
「そ、そうですね。あの!回復魔法使いの方は!?」
「う、うむ。おい!頼む!」
「はい!」
回復魔法使いであろう女性が駆け寄って来る。
「・・・この様子ですと綺麗にくっつきますわ」
「そ、そうですか」
「医務室に行きましょう。ここより落ち着いて治療が出来るでしょう」
「よろしくお願いします」
医務室に向かう僕達に怒声罵声が浴びせられる。
レネオーラ・ウルマンちゃん人気だねぇ。
肩越しに背後を見るとレネちゃんは肩で息をしていた。
「・・・・・・どう見る」
「・・・はい。勝ちたいのであれば腕が折れてても反撃したでしょう」
「うむ。レネに次の体力は無かった。故に何故だ」
「・・・勝つつもりは無かった?」
「勝敗に関係無く報酬は貰える。本気ではなかったと思ったが」
「・・・はい。負けることに意味があった・・・とか」
「どんな?」
「・・・さぁ」
「分からんな」
「・・・はい。しかし本物かと」
「あれで支援系だと?笑わせる」
「・・・しかし実戦であればレネには魔法が有ります」
「実践なら魔法を詠唱してる間にやられているわ」
「・・・ですな」
「男は短剣なら女が支援系なのだろう。弓だったしな。女を守りつつ戦って来た。そうやって今まで冒険して来たのだ」
「・・・なるほど」
「ではそれを踏まえて配置を考えてくれ」
「・・・畏まりました」
「それでは回復しますね」
「お願いします」
「~~~~~・・・、《リストア》」
なるほど、これが回復魔法の属性魔力、か。
少し時間は掛かったが腕の骨折や打ち身なんかは回復していった。
「凄いですね!」
「あぁ。あまり痛くない」
「ポーションとも違うんですか?」
「えぇ。ポーションでは痛みは残るでしょう」
「「はい」」
「痛みすら残さないのが回復魔法なの」
「「「へー」」」
「回復魔法は初めてかしら?」
「はい」
「そう。回復魔法は怪我を直すだけじゃないのよ」
「ほう」
「病気も直せるの」
「ポーションでは無理なんですか」
「ポーションは怪我用ね。病気には無理」
「なるほど」
「あと壊れたマジックアイテムも直せるのよ」
「「「なんだってー!?」」」
「あらあら」
「壊れたマジックアイテムを直せる?」
「えぇ」
「生き物じゃないのに?」
「えぇ」
「何故ですか?」
「さぁ。回復魔法だから、としか言えないわね」
「マジックアイテムだけですか?例えばさっきの木剣なんかは?」
「無理ね。マジックアイテムだけ」
「ふーむ」
「因みに水魔法でもマジックアイテムは直せないわよ」
「「「?」」」
「水魔法・・・でも?」
「あらあら。水魔法でも傷は治せるのを知らないの?」
「マイン君。知ってたかね?」
「いえ、まだ魔法図鑑を全部読み切れていないので・・・」
「あら、魔法図鑑買ったの?あなた達魔法使い?」
「に、憧れる者です」
「あらあら、そう。水魔法でも怪我は治せるのよ」
「そうなんですね」
「マジかよ」
「マジなのよ」
「魔術師ギルドに居たおじさんも魔法使いですよね?」
「えぇ。今の方も確か水魔法使いね」
「今の方?」
「魔術師ギルドの店番というか受付というか、持ち回り制なのよ。期間が過ぎたら交代するの」
「な、なんだとっ!?じゃぁあのお姉さんも・・・」
「あのおじさんも水魔法で回復を?」
「えぇ。出来るわ」
「回復魔法とは・・・って感じですね、って先輩?何へこんでるんですか?」
「・・・いや、何。出会いは一期一会だなって」
「ホントにねー。今日のあなたの試合も見れて良かったわ」
「?」
「あのウルマン騎士をあそこまで追い詰めるなんてね」
「「「!?」」」
「あれ、ウルマンさんは強いんです?」
「そうよ。知らないで戦ったの?」
「いや、強そうとは思ったんですけど」
「ファーダネ隊長のお付きだしね」
「お付きって、護衛騎士よ。この討伐隊の中で2番目の強さよ」
「・・・2番目に強いって。1番目の次に強いってことですか?」
「当ったり前でしょ。フランベルジュって言われてて火の魔法を使う魔法剣士よ。因みに1番はファーダネ卿よ」
医務室に騎士が入って来た。
「おい!今日はもう帰っていいそうだ。良く休んで明朝出頭するようにとの事だ」
「分かりました」
礼を言って回復魔法使いさんと別れた。
今日はもう宿に帰って休むことにした。
部屋で寛ぐ。
「やっちまったんじゃねーか!?」
「うーん」
「カズヒコさん」
「フランベルジュって。確かにそんなことあのおっさんが言ってたような」
「2番目ってマジか」
「その2番目の剣を受け流していましたね!凄いです!」
「いやー、速かったよ!」
「でしょーね!見てても速かったんだもん、至近距離だとどんだけなのよ」
「騎士の太刀筋は《見切れ》たな。自信が付いたよ」
「私には無理ですよ?」
「わ、私も・・・」
「いや、見ることにも意味が有る。特にサーヤ君!君はだ」
「は、はい。でも・・・」
「いきなりあそこまでなれって言ってる訳じゃない。僕みたいに対応出来れば良いんだよ」
「対応?」
「あぁ。例えば今日のが実践だったら、僕が受けてる間に君達が弓で殺すとか」
「「なるほど」」
「サーヤ君も数秒、受けられれば菊池君が弓で射殺してくれる。チームワークだ」
「はい!」
「君が殺す必要はないからね」
「はい!」
「しかし《剣術》スキルの必殺技、《武技》って言うんですか?凄かったですね」
「あぁ。《ソニックブレード》。スキル大全見といて良かったよ。マジ凄かった」
「木剣折れてカズヒコさんの腕も・・・」
「あぁ。風魔法じゃなく真空波に質量を乗せてあの威力だ」
「《エアロエッジ》とは違うのですか?」
「あぁ。《風刃》は斬るだけだが、それに質量、衝撃が乗ってる感じだ」
「それで腕が切れたんじゃなく、折れたのね」
「あぁ。真空波だけだったら木剣と《カウンター》で《受け流し》たんだけど、衝撃は減衰させただけだったね」
「衝撃は《受け流せ》ないの?」
「いや、真空波に《カウンター》エネルギーを全部持ってかれただけで、次なら対応出来ると思う」
「戦うとなると・・・」
「《カウンター》のレベルを上げるか武器防具を高めるか・・・」
「サーペントの防具がない前腕に当たったから、サーペントで防げるか分からないわね」
「それは不味ったな。しかし骨が折れただけだから武器を犠牲にすれば防げるだろう」
「そっか。じゃぁ私達は《ソニックブレード》撃った後を狙えばいいわね」
「そんな。カズヒコさんを囮に」
「いや。それでいいんだ。どうせ撃たれるんなら撃たれた僕を心配するより相手を確実に殺せ」
「わ、分かりました」
「しかし相手も本調子じゃ無かったみたいだね」
「「えっ?」」
「恐らくだが普段盾を装備してるんじゃないかな?」
「盾を?」
「あぁ。普段は盾を構えて片手剣。って感じたよ」
「どこで?」
「構えっていうのかな、左肩を出す仕草がちょいちょい見られた」
「盾を構える?」
「あぁ。癖・・・かな」
「癖ねぇ」
「重心の低さも、距離の詰め方も。地面を飛ぶんじゃなく滑るように飛んで来た。盾で押し込むんだろう」
「シールドバッシュ!」
「まぁ、次は避けられるだろうけどね」
「「え?」」
「避けられる?」
「あぁ」
「真空斬りを?」
「いや、流石に見てから避けるの余裕です、は出来ないよ」
「じゃぁ?」
「目線だね」
「目線?」
「あぁ。目線を《見切る》ことが出来ると思う」
「《カウンター》そんなこと出来るの?」
「あの模擬試合で2つ上がったしな」
「「!?」」
「はぁ?2つも!?」
「あ、あぁ。あと撃つタイミングも何となく見える」
「見える!?どうやって?」
「《魔力検知》で魔力が武器を持つ手に収束していくのが視えた。その魔力で《ソニックブレード》を撃ってたよ。真空波にも魔力が乗ってたように視えたな」
「ちょいちょいちょい!じゃぁスキルを使う時は誰でも見えるんじゃない?」
「多分な」
「あのおっさんの《覗き見》は・・・」
「ずっと《魔力検知》してる訳じゃないからね。それに何のスキルか知らないと何されてるか分からないし」
「そっか。じゃぁ1日中《魔力検知》してたら何されてるか分かるんじゃない?」
「《魔力検知》は魔力消費多いんだよね。とても1日中は無理だな」
「そうかー。えー!やっぱ《魔力検知》凄いじゃん!取りたい!」
「いや、しかしな・・・」
「何?どうしたの?」
「見たくないものまで視えてしまうのもどうかなって・・・」
「見たくないもの?」
「あぁ。例えば」
「例えば?」
「ホテルで隣の部屋に泊まったカップルが夜にナニをしてるかとか」
「「え?」」
「壁も透けて見えるの?」
「壁や無機物なんかは純粋魔力が少ないからね、ホント視えないくらい小さいよ」
「透けて見えると」
「レネちゃんの魔力が視えたって事は服を透けて見えるって事だ」
「「!?」」
「ちょっ、マジで!?」
「いや、誤解しないように言うが、肌が見えるんじゃないからね。肌も透過して中の魔力が視える」
「ほっ」
「肌だけ見えたら今頃街中に繰り出してるぜ」
「させん!」
「だから見えねぇっつーの」
「まぁ。夢が叶って良かったじゃないですか」
「いや、叶ったのは叶った、というか」
「夢?」
「えぇ。先輩の夢は、服が透けて見える魔眼スキルや、透明人間になるスキルで風呂場を覗くという夢なの」
「えぇ!」
「魔眼・・・持てたじゃないですか」
「いやー、これじゃないんですよ!これじゃ!」
「服が透けるんでしょ?叶ったじゃない」
「透けすぎぃ!その手前が良い感じぃ!」
「次は私達の夢の手伝い、お願いしますね!」
「これじゃー無いんだよ。隣の部屋の1人身の男が夜にナニをしてるかなんて見たくねーんだよ」
「「いやー!」」
「ちょっと!やっぱり私も《魔力検知》と《魔力操作》習得する!」
「えっ」
「夜ナニーを見たく「オラァ!」ぶふぉぉ」
「相手が魔法使いか分かるだけでも重要よ」
「そうですね!私にも教えてください!」
「・・・ぐふ。教えるのは構わんが《魔力感知》を混ぜていったからなぁ。サーヤ君には少し難しいと思うが・・・」
「がんばります!」
「・・・そうか。じゃぁ3人でがんばっていこう!」
「「おー!」」
「では菊池君。上半身裸になるんだ」
「え?」
「サーヤ君の時もやったろ。《魔力検知》の習得練習だ」
「いや、サーヤの時は上着だけだったでしょ!」
「覚えてないな」
「腕出すだけでしょ!」
「いや、身体を密着してたような?」
「んなこと忘れる訳ねーだ、ろっ!」ゴスッ
「ぐふぅ」
「ほら!早く腕出して!」
「ふぁい」
「サーヤは脱がなくていいの!」
スキル大全
《剣術》
恐らく最も有名であり最も取得率の高い武器スキルであろう。
それ故に研究も最も進んでいる武器スキルである。
《斧術》や《槌術》、《槍術》などの武器スキルを持つ者が居るが、
先ずは《剣術》を取ってから、というのが多い。
騎士などは先ず《剣術》を取らせ、それから前述の武器スキルを取得するそうだ。
メインウェポンは斧やメイスだが、サブウェポンは剣を持つ、
騎士にはそういうスタイルが多いという。
《武技》も最も多くの種類が有り、その内の幾つかは固有武技だという。
スタンダードなのは《ソニックブレード》だがスタンダード故にシンプルかつ強力な武技である。
風魔法で言うと《エアロエッジ》であるが、《エアロエッジ》よりも強力で重いらしい。
らしいと言うのも受けた事が無いからだが、とても受けてみようとは思わない。
読者も好き好んで受けようなどと思わない事だ。きっと後悔する事になるだろう。
《剣術》に関しては基礎的な武器スキルである為に多くのページを必要とする。
つづく