⑥-06-100
⑥-06-100
翌朝。
討伐隊本部に出頭した。
隊長の部屋には昨日と同じメンバーがいた。
「おはようございます」
「うむ。おはよう。宿はどうだったかな」
「素晴らしいです」
「そうか。それは良かった」
「・・・早速で悪いが依頼書を作って来た。確かめてくれ」
「うちのクルトは仕事が早くてね」
「承知しました」
「 依頼:盗賊討伐
報酬:別紙参照。
特別報酬:滞在中の費用の半額負担。
期間は今回の盗賊討伐計画まで?」
「今回の盗賊討伐計画までとは?」
「うむ。今回大々的な討伐計画を作成して、それに向けて今準備中なのだ」
「なるほど。その作戦終了までという事ですね?」
「そうだ」
「・・・契約はどうかな?」
「問題ありません。サインいたします」
「よろしい。ではそこのテーブルを使ってくれ」
「はい」
横にあるソファーに座り3人のサインを書いた。
「え~と。エチル君、マイン君、ターニャ君・・・でいいのかな?」
「「「はい」」」
「・・・結構」
「・・・・・・時に君達は支援系だと言っていたが」
「はい」
「・・・・・・具体的にどんな行動かね?作戦でどのように扱うか考えないといけないのでね」
「僕達は奇襲が得意です」
「奇襲?はっはっは!そうか」
「はっ!正々堂々と勝負出来ないとは」
「正々堂々と勝負出来ないから奇襲するんですよ」
「全く!盗賊と同じだな」
「その盗賊に手を焼いておられるようで」
「なっ、なんだとっ!」
「やめろ、レネオーラ!」
「し、しかし」
「やめてくださいレネオラさん」
「貴様が私の名前を呼ぶな!」
「やめてくださいお姉さん」
「きっ、貴様」
「レネ!」
「ぐぅぅ・・・」
「昨日からどうしました?昔の恋人にでも似てますか?」
「貴様!もー許さん!決闘だ!」
「レネ!」
「いーえ!聞けません!こいつに騎士たるものの何たるかを叩き込んでやります!」
「全く。君もだぞ、エチル君。からかい過ぎだ」
「妙に突っかかって来るので。貴族様はやはり怖いですね。直ぐに権力を振りかざす」
「なんだと!いつ私が権力を振りかざした!」
「決闘なんて貴族の流儀でしょ。僕達下級市民には関係ありませんよ」
「むぅ~」
「ではどうだろう。模擬試合というのは」
「「模擬試合?」」
「真剣ではなく模擬武器で戦うのだ」
「そっ、それです!流石ファーダネ様!」
「受けるメリットは?」
「勝敗に関わらず報酬を払おう」
「それによるそちらのメリットは?」
「試合により君の実力が分かる」
「条件が有ります」
「じょ、条件だとっ!」
「ではお受けしません」
「わ、分かった!言ってみろ!」
「あー、怖い怖い。言葉が突き刺さるぅ~」
「くぅぅ。いっ、言ってみてくれ」
「魔法は無しでお願いします」
「良いだろう!」
「ほう。レネが魔法使いだと知っていたのかい?」
「はい。有名ですよ。レネお姉さんは」
「・・・確かに。ファーダネ様を守る炎の剣士。フランベルジュと言われておりますからな」
「あと、怪我をしたら・・・」
「貴様なんぞに怪我など負うかっ!」
「おー、怖い怖い。勿論私めがでございますよ。レネお姉さま」
「きっさまー!」
「大丈夫!大丈夫だ。我が軍の軍医、回復魔術士を待機させる。安心してくれ」
「「「回復魔法!?」」」
「そうだ。初めてか?」
「はい。回復魔法も目にしたことはございません」
「ふん!田舎者め」
「なるほどー!田舎を救いに来られた貴族様が田舎者を馬鹿になさると」
「むぐっ!」
「この地のご領主様はどう思われるでしょうかね?」
「待ってくれ!今のは失言だ!忘れてくれ。すまない」
「ふぁ、ファーダネ様・・・」
「報酬に色を付けて下されば幾らでも忘れられます」
「うむ。すまんな」
「・・・では模擬試合を受けるということでいいかな?」
「えぇ。結構です」
「よろしい。準備させよう。案内するので待機していてくれ」
「分かりました」
試合会場は領兵が訓練に使っている所を使用することになった。
「せ、先輩!大丈夫なんですか?」
「カズヒコ様・・・」
「まぁ。負けるだろうね」
「「えっ?」」
「まともに人と戦うのは初めてだからね」
「「えっ?」」
「この戦いで対人の経験を積む。しかも死ぬことはない。更に相手は騎士だぞ。こんなチャンス滅多に無い!」
「騎士と命のやり取り無しの場を作るために挑発したんですか」
「そうだ」
「はぁー」
「盗賊討伐。相手は人間だ。いきなり真剣勝負だと流石にな」
「「なるほど」」
「君達もしっかり見ておけよ。騎士の実力は冒険者以上だろうから今後の役に立つだろう。特にサーヤ君!」
「はっ、はい!」
「君は《槌術》で接近戦もこなしていくんだ。彼女の動きは今後の参考になるだろう」
「はっ、はい!」
「僕の事は心配せず試合に集中するんだ。いいね」
「「分かりました」」
「しかし回復魔法か」
「初めてですね」
「あぁ。どんな属性魔力か見ておくチャンスも得たな」
「ポーションなんかより凄いのでしょうか?」
「Lvによるらしいわ」
「Lvに」
「えぇ。魔法図鑑によるとね」
「これは派手に負けるかな」
「負けるの前提なんですね」
「あぁ。勝っても恨みを買うだけだ。ガス抜きさせてやらんとな、若いもんには」
「?」
「まぁ、なるべく長引かせるよ。しっかり見ておくように」
「「はい」」
「準備が出来たぞ。ついて来い」
「分かりました」
案内に連れられ訓練場の一角に進んだ。
正面に鼻息の荒いレネ嬢ちゃんがいる。
少し離れた所にファーダネ卿、クルト・・・だったか?おっさんもいる。
そしてギャラリーもいるな。王国軍兵と冒険者か。
結構な怒声罵声が俺に飛んでいる。
レネちゃん人気者なんだね。
「武器はその辺の物を適当に見繕ってくれ!」
「分かりました!」
「短剣ですか?」
「いや。長時間戦えるように長剣でいこう」
いわゆる木刀を手にする。
「どうです?」
「まっ、いいんじゃないかな?」
「相手はやる気満々ですね」
「フンフン言ってるな」
「怪我しないで、ってするんでしたね」
「あぁ、綺麗に折ってやるさ。しかし見え見えだな」
「見え見え?」
「足元に魔力が集まってる。開始と共に飛び込んで来る気だろう」
「そんなことも分かるんですか!?」
「あくまで予想だが」
木剣を手にレネに対する。
レネも木剣だ。
「審判は私、討伐隊中隊長が務める。殺傷は厳禁。試合は1度きり。私が勝負あったと認めるか降参するか。降参の意思は私に合図をくれ。以上何か質問は?」
「はい」
「なんだね?」
「スキルの使用は?」
「許可しないが」
「有りでお願いします」
「・・・いいのか?騎士のスキルを受けるとタダではすまんぞ」
「構いません。レネお嬢さんは?」
「きっ、きさ・・・いいだろう!受けて立ってやる」
「分かった。ではスキル使用を許可する」
「どう見る?クルト」
「・・・図りかねますな。騎士が使うスキルを知らないのでは?」
「向こうも何かしらスキルがあるのか」
「・・・ステータスでは考えられませんが」
「そうだったな。向こうにとっては勝っても負けても報酬が得られるのだ、本気ではないのかもな」
「・・・えぇ」
「しかし長剣か」
「・・・確か持っていたのは長めの短剣・・・でしたか」
「あぁ。奇襲が得意と言っていたのはホントなんだろう」
「・・・ですな」
「始めっ!!」