三途リバーで捕まえて
拝啓──
お前を置いて先へ行ってしまった事、今でも怒っているかい?
悪いクセなのは分かってはいるが、先に言い訳を聞いてくれないか?
あれは私にもどうしようもなかった事なんだ。言うなれば不可抗力ってやつさ。それがまさか先に行ってしまう事になるなんて、あの時は思ってもみなかったんだ。
ああ、まるで夢のような景色が広がっている。お前よりも先にこれを見てしまった…………出来ることなら一緒に手を繋いで、この景色を見たかったものだ。
この景色が一望出来る、この木の下で、お前を待っていよう。そしてお前が来たら驚かせよう。そしたら、笑って許してくれないか? お願いだ。
──敬具
「嗚呼……本当に良い景色だ…………」
「ちょっとあなた!! そんな所でウ〇コしないでよ!!」
妻が怒り狂った顔で、此方へとやってきた。
「急に私を置いて走りだしたと思ったら、こんな所で脱糞たれるなんて信じられないわ!!!! トイレならそう言えば良いじゃない!! この先にトイレがあるんだから、そこまで我慢してよ!!」
「……悪いクセなのは分かってはいるが、先に言い訳を聞いてくれないか?」
「…………なによ」
「トイレまでは後1kmある。そこまで間に合うかどうかはやってみないと分からない。ならば、この美しい景色の中で、ウ〇コを漏らすのも、アリなんじゃあないかな?」
「ナシよ!! 大ナシ!!!! ちょっと頭おかしいんじゃないの!?」
「ならば問おう」
「その前にズボン履きなさいよ」
──スッ
「……拭いたの?」
「恐らく彼岸花でお尻を拭いたのは、私が世界で初めてだろう…………」
「やだ、汚いわね…………で、何よ」
「お前は漏れると分かった瞬間、目の前に綺麗な海と汚いゴミの山があったら、どっちで漏らしたい?」
「そりゃあ……綺麗な海ね」
「だろ? ならば俺の気持ちが分かるはずだ」
「…………まぁ、確かに一理あるわね」
「ならば俺がココでウ〇ンコを漏らす気持ち……御理解頂けたかな?」
「よーく…………分かるかボケェェェェ!!!!」
二人だけの秘密の広場。彼岸花の隅っこで、今年も君とこうやってけんか出来る事に、幸せを感じたい。




