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07 正義神

『テミスと叫んでください。そうすれば私の加護を受け取れます』


 正直、いきなり頭の中に聞こえてきた声を頼っていいのかと疑問に思った。黒い女の策ではないかとすら思った。それでも、俺は数少ない可能性を掴みたい!


「俺に力を貸してくれ、正義神(テミス)!」


 なけなしの力を振り絞って腹の底から声を出した。すると、月桂樹の冠を被った女神が施された神々しい剣が右手に現れ、黄金の天秤が空中に現れる。


『私は正義と秩序の権能を持ちます。あなたは誰にも折られない強き心を持ち、善悪を判断し悪しきものを裁く公平さを得るでしょう』


 凛とした声で宣言する。彼女の声を聞いていると不思議とまだ戦えると己を奮い立たせることができる。


『その力を持って己の正義を体現させなさい!』


「はっ!」


 軽く剣を振るう。ゴブリンエンペラーは避けたものの、ゴブリン達は一撃で胴が真っ二つになり血の花を咲かせる。これが悪を裁く力なのか⁉︎


「!?」


 あいつはとてもびっくりした様子で唖然(あぜん)としている。今起きたことが理解できていないようだ。


「みんなの(かたき)は俺がとる!くらえ、【正義神(テミス)】!」


 そう宣言すると、天秤が傾きだす。あいつの罪の重さを測っているのだろうか。傾ききって動かなくなると、剣が輝きを帯びてくる。そして、その剣を怒りを持って上から下へ振るう。


「ヤ、ヤバ――!」


 そう言い終わる前に体が割れ、どさっと崩れ去る。俺は倒したの、か。どっと疲れが襲ってくる。


『【略奪王 アファールス】がプレイヤー名ユータによって討伐されました。ネームドモンスターが持っていた至宝である【不滅女帝 マリア テレジア】は討伐者へと移譲されます』


 安堵によって気が遠くなりそうになった時、無機質なアナウンスが急に聞こえた。気絶してはいけないと気を引き締める。右手を見ると先程あいつが持っていた腕輪が右手首にある。


「う、あ……」


 血を大量に流しながら倒れているルーカスから微かに声が聞こえた。生きているのか⁉︎助けないと!脚に鞭を打って全速力で駆け寄る。


「ユータ、が倒してくれたんだな……。よ、くやった。」


 左手で俺の頭をポンポンと叩き、優しく抱きしめてきた。


「今助ける!」


「もう、俺は助からないみたいだ。お前と一緒に冒険した日々は楽しかった。最後に頼み、がある」


 血を吐きながらも、澄んだ瞳で俺を真っ直ぐに捉えながら俺に語りかける。


「そんなこと言うなよ!また一緒に冒険しよう!」


 涙をボロボロと流しながら、全力で答える。


「時々でいいからミライのことを気、にしてやってくれ。ミライはお転婆だから何かやらかさないかし、んぱいなんだ。頼んだ親友……」


 優しく包み込むような声色(ころいろ)で囁いた後、俺の頬を一回さすり、その手は地面に落ちる。そして、彼の澄んだ目は輝きを失い、濁っていく。


「ルーカス!!ルーカス……」












 何時間泣いたかわからない。涙が枯れるまで泣いた後、俺はゴブリン達の死体を処理し、みんなの亡骸をアイテムボックスに入れ、王都で埋葬することにした。ハムザ君も遺体で発見された。そのことを両親に伝えるのは辛かった。俺たちが死力を尽くしたことを察してくれたのか泣きながらありがとうと伝えてくれた。


「私はこのことをギルドに報告しに至急王都に戻らなければなりません。息子さんのことを救えず申し訳ありません」


「何をおっしゃいますか。貴方も大事な方を失ったのでしょう。彼の亡骸だけでも見つけてくださり深く感謝します」


 重い足取りで王都へ向かう。












「お、お兄ちゃん……!そんなの嫌だよ……居なくならないで!」


 王都に戻りギルドに報告した後、アミキティアのメンバー達の合同葬儀を行うことになった。ミライさんの声が辛い……


「お兄ちゃんを返してよ、ユータ!」


 声を詰まらせながら俺のお腹当たりを殴る…俺は何か言える資格はない。


「やめなさい、ミライ!ユータくんも必死に戦ったんだ。彼は悪くない!」


 すかさずお父さんが制止に入る。俺はもう誰も悲しませたくない。今度こそこの手で絶対守る!両手をギュッと強く握りしめる。


「俺は正義神(テミス)とともに、この世界の悪を倒す!」


「ええ、私も貴方と共に歩みます。人間は不器用です。ですが、それだからこそ愛おしい。」


 後ろから戦闘中に聞こえた女声が聞こえる。そしてゆっくり抱きしめてくる。


「どうして私がいるのか不思議だと思っていますね。神は加護を与えると、自由に実体化することが出来るのです」


 びくっとして振り返る。そこには小麦畑のように輝いている金髪、シルクのように白くてきめ細やかな肌、そして艶麗(えんれい)としたとても美しい女性がいた。


「貴方は頑張りました。これからのことを考えましょう」


 優しく俺を諭してくれる。その言葉を聞いて、俺の心が底なし沼でもがいている時に差し伸べられた手のように救われる。


「泣いていいんですよ」


「う、うぐ……」











 あれから数日経った。ぼうっとしながらクエストをこなしていると、身なりのよい女性とフルプレートを着た騎士が俺の目の前に現れた。


「あなたがぷれいやーのユータ殿ですか?私たちはエンゲルス王に使える者です。王よりネームドモンスターについてお話が聞きたいのでユータ殿を呼ぶようにと言われました」


「わかりました。王に謁見したいと思います」


「ありがとうございます。では明後日にお手数をかけますが王城へお越しください」


 素直に頷く。明後日だな。


「テミス、俺は明後日までログアウトするよ。またな」


「わかりましたユータさん。待ってますね!」


 彼女のニコッとした笑顔を確認した後、俺はログアウトする。


読んでくださりありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすかったです! [一言] 主人公,ユータの気持ちがよくわかりました!☺️
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