05 クルイ村
「でしたら皆様、こちらの依頼はどうでしょうか?内容はクルイ村の周辺調査となります。最近、黒い女が出るとの噂が広がっておりまして……」
俺がアミキティアに加わって1ヶ月ほどたった頃、受付のお姉さんが1つの依頼を紹介してくれた。どうやら黒い女が出ると村で噂になり、村人が心配で念の為ギルドに依頼したらしい。
そういえば、黒い女の噂は聞いたことがある気がする。
「なんか、オカルトっぽくて楽しそうだな。な、ヘレナ!」
「こ、怖いですぅ……でも、ルーカスさんがいるからついて行きます!」
顔を真っ青にしながらもなんとか答えるヘレナを見ると思わず初々しくて微笑んでしまう。
俺と2人っきりで武具の手入れをしていた時、ヘレナが顔を真っ赤にしながら、ルーカスが好きであり、協力して欲しいと言われたことを思い出す。
「決まりだな!みんなもいいか?」
全員頷く。俺も一緒に少し遅れて頷く。
「よし、じゃあ早速行こうぜ!思い立った日が吉日っていうしな」
依頼を受けた日に準備をし旅商人の馬車に料金を払い乗せてもらうこと2日半、目的地のクルイ村に到着した。村人達は質素ながらも幸せに暮らしている印象を受けた。
「冒険者様方、このような辺境の村にお越しいただきありがとうございます」
慇懃な態度で、顔に重さがしがみつき皺がより主張しているかのような顔つきの老人が挨拶をする。
「わざわざ出迎えてくださりありがとうございます。私たちはパーティー、アミキティアであり私はそのリーダーをしているルーカスと申します」
いつものおどけたルーカスじゃないだと⁉︎こんな真面目に対応できるのだと感心する。戦闘以外で初めてこんな真剣な姿を見たな。
「私はこのクルイ村の村長をしております。ボースとお呼びください」
「わかりましたボースさん。私たちはあなた方の依頼を受けてきました。どのような異変が起こっているのか教えてもらえますか?」
そうルーカスが言うと村長は訝しげに、そして慎重な面持ちで口を開く。
「実は1ヶ月半ほど前から、近くにある森に黒いドレスを着た女が出るのです。最初は子供の戯言だと思っていましたが、森に行った狩人も見たと言っておりまして……」
俺とルーカスはお互い不思議だといった顔で見合わせる。
「失礼ですが、幽霊か何かではないのでしょうか?」
今の話を聞くに幽霊としか考えられない。他にどんな可能性があるんだ?
「いや、まてユータ。これは宝具の可能性があるぞ。宝具は自分の存在を様々な方法を使って教える時があるんだ」
そんな習性?があるとは知らなかった。宝具は意思のようなものを持つのだろうか。
「確かに、その可能性もありますな。いやむしろ我々に直接害を与えていないのでそちらの線で良いのかも知れません」
はっと気付いたかのように村長は声を上げる。
「やった〜!おったからおったから〜!」
「おい、うるさいぞアメリア!で、では幽霊である可能性を考慮しつつ、宝具であると仮説を立てて周辺調査をさせていただきます。」
宝具かもしれないという期待にあてられたのか、少し声を浮かせながら真面目にルーカスが答える。アメリアに注意するくせに自分も邪念を隠しきれてないぞ。
「よろしくお願いします。森の奥の方でより多くの目撃情報がございます。ですので奥の方を中心に探索していただくと良いと思います」
「了解しました。では明日から早速開始したいと思います」
「では、今日は空き家をお貸しいたしますのでそちらを使ってください」
そう言って紐がついている錆び付いた鍵を渡してくれる。
「おいハムザ、彼らを案内してあげなさい」
「はーい!」
そうハツラツな声が奥の方から聞こえると泥んこで足を汚している少年が声をかけてきた。
「では皆さん、こちらへどうぞ!」
「それにしても、ゴブリンの数が多くないか?流石にこの量は尋常じゃないぞ!」
クルイ村で一夜明かした後、俺たちは朝早くから近くの目撃情報が1番多い森に入って調査をしていた。先程から何度もゴブリンの集団に遭遇し、何度も退けている。
「みんな体力は大丈夫か?俺が刀で相手を引きつけるからその間にポーション飲んで回復してくれ」
この遭遇率は流石に異常じゃないか?もう午前中だけで4回も遭遇しているぞ。
「絶対何かあるぞユータ。索敵を使って周囲の敵の数や位置をあぶってくれ」
「索敵!」
先日取得した索敵のスキルを使って周りの数を探る。
「やっぱり奥の方に敵が多いみたい!後、拠点のようなものがある!」
「これは報告しないとな。ヘレナの体力はヤバそうだし、エイデンにも疲れが見える。ここは撤退して準備を整えるぞ!」
「……かたじけない」
「すみませんぅ……」
2人とも、自分の不甲斐なさに申し訳なさを覚えているのか弱気に返答した。
「あんたらの命が1番大事でしょ!こんなの想定してなかったから撤退するのは当然よ!」
2人の気持ちがわかったのか、アメリアがすかさずフォローをする。
「帰るぞ!」
「「「おう!」」」
「死ぬかと思いましたぁ!」
空き家でみんなで休んでいると、疲れからかため息と一緒に吐き出すようにヘレナが文句を言う。俺たちは無事に帰ることに成功した。
「中々スリルあっただろ。もう夕暮れだし、明日ギルドに報告しに行こうぜ」
帰った後村長に今日あったことを伝え、明日報告するため一旦王都に帰らせてもらうことになった。
「……死んでいたらどうするんだ」
呆れた言わんばかりに白い目でルーカスを見る。
「今日はボースさんの息子の嫁さんが俺たちにシチュー作ってくれるんだってよ!美味そうだな!」
そう言って口下を手の甲でなぞる。汚いってルーカス。
「めっちゃ美味しそうじゃん!楽しみ!」
「こっちの世界のシチューは食べたことないから楽しみだな!」
何か俺たちの世界と違った種類の乳牛を使っているのだろうか。だとしたら少し違う味になると思うし、想像するだけでルーカスじゃないけどよだれがでそうだ。
「ルーカスさん大変です!助けてください!うちの子が……!」
ドアを乱暴に叩いて、切迫感が詰まった声で外から俺たちに訴えかけてくる。アメリア、ドアを開けるから鍵を貸してくれ。
「どうしたんですか、息子さん。何かありましたか?」
俺がアメリアからもらった鍵でドアを開けると、顔を真っ青にした若い男がなだれ込んでくる。どうやら村長の息子らしい。
「実は、うちのハムザが帰ってこなくて……森の近くにある泥んこ遊びをすると行ったっきり帰ってこなくて。アミキティアの皆さんの情報を先程父から聞いて、これは大変だと……」
ルーカスが俺たち全員に目配りをする。危険かもしれないけど助けにいかなければならないと俺は思う。
「わかりました。みんなどうする?」
「……行くしかあるまい」
「探しましょう!」
「早くしないと大変な事態になるから、急がないと!」
「もちろん、探しに行こう!」
全員頷きながら賛成する。アメリアの言う通りだ。急がないと!
「アミキティアの皆さん本当にありがとうございます!恩にきります。」
泣きながら土下座する。やはり、子供は大事なのだろう。俺も彼の気持ちに答えなければ。
「よしみんな、片付けたところ悪いが準備をしてくれ!早く見つけてあげないとな!」
俺たちはすぐに準備して森へ向かう。だが、この選択が間違っていた。善心に駆られず報告することを優先するべきだったかもしれない。俺は後悔することになる……
次回は主人公にとって大事な話となります。
見てくださりありがとうございます。